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日常篇
紹介
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我ながら変なお願いをしてしまったと、少しだけ後悔する。
もう少し言い方があっただろうに、単刀直入な表現過ぎたせいで誤解を招きかねない。
「悪いが、もう閉店の...お、木葉か」
「こんばんは。今日は彼女の洋服を選びにきたんだけど...」
「こ、こんばんは」
目の前の男性はにやりと笑い、僕ではなく七海に話しかけはじめた。
「お嬢さんが噂の木葉の恋人かな?」
「えっと...一応、そうです」
「大事にしてもらってるか?」
「とても。だけどそれだけじゃなくて、私は彼を大切に想っています。
...誰よりも大切な人だから」
だんだん居たたまれなくなってきて、ふたりの話を止めた。
「七海、そこまでにして...。それから、ラッシュさんもあんまり彼女にちょっかいかけないで」
「悪い悪い、ちゃんと訊いておきたかったもんでな」
ラッシュさんは人間の世界では洋服屋さんを営んでいる。
店員さんは人間ばかりなので、何年かに1度お店を誰かに譲って違う場所で同じようにするらしい。
「で、そのお嬢さんの服だったな。普段使いができるものならこれがいい」
「綺麗な色ですね」
「そう言ってもらえる相手に着てもらえたら、そいつもきっと嬉しいだろうよ」
早速洋服を包装しながら、とても嬉しそうに健康的な笑みを浮かべる。
ラッシュさんは誰にだって対等だ。
それが色んな人間から愛される理由だろうと僕は勝手に思っているが、彼はきっと自分で気づいていない。
「今夜であった記念に是非持っていってくれ。綺麗な心の持ち主は好きだし。
んで、お嬢さん。...そいつのこと、頼むな」
「はい。あの、またきます」
ラッシュさんは手をふってくれていて、僕も七海もふりかえした。
帰り道、手を繋いで歩く。
あと少しで家というところで、彼女は遠慮がちに訊いてきた。
「さっきの人、人間じゃないんだよね?体調を崩したりしないの...?」
「あの人は大丈夫だよ。生粋のヴァンパイアだから、寧ろ夜の方が元気なんだ」
「それならよかった」
七海としばらく一緒にいて分かったことがある。
それは、彼女にはただの人間とそうでないものの区別がはっきりつく能力があることだ。
僕みたいな半端なタイプだと迷うようだが、純血種のラッシュさんのことはちゃんと分かったらしい。
「そういえば、木葉の部屋ってどんなものがあるの?」
「それは入ってからのお楽しみ」
七海の手をぐいぐい引っ張って、そのまま中に入る。
どんな反応が返ってくるのか、少し楽しみだ。
もう少し言い方があっただろうに、単刀直入な表現過ぎたせいで誤解を招きかねない。
「悪いが、もう閉店の...お、木葉か」
「こんばんは。今日は彼女の洋服を選びにきたんだけど...」
「こ、こんばんは」
目の前の男性はにやりと笑い、僕ではなく七海に話しかけはじめた。
「お嬢さんが噂の木葉の恋人かな?」
「えっと...一応、そうです」
「大事にしてもらってるか?」
「とても。だけどそれだけじゃなくて、私は彼を大切に想っています。
...誰よりも大切な人だから」
だんだん居たたまれなくなってきて、ふたりの話を止めた。
「七海、そこまでにして...。それから、ラッシュさんもあんまり彼女にちょっかいかけないで」
「悪い悪い、ちゃんと訊いておきたかったもんでな」
ラッシュさんは人間の世界では洋服屋さんを営んでいる。
店員さんは人間ばかりなので、何年かに1度お店を誰かに譲って違う場所で同じようにするらしい。
「で、そのお嬢さんの服だったな。普段使いができるものならこれがいい」
「綺麗な色ですね」
「そう言ってもらえる相手に着てもらえたら、そいつもきっと嬉しいだろうよ」
早速洋服を包装しながら、とても嬉しそうに健康的な笑みを浮かべる。
ラッシュさんは誰にだって対等だ。
それが色んな人間から愛される理由だろうと僕は勝手に思っているが、彼はきっと自分で気づいていない。
「今夜であった記念に是非持っていってくれ。綺麗な心の持ち主は好きだし。
んで、お嬢さん。...そいつのこと、頼むな」
「はい。あの、またきます」
ラッシュさんは手をふってくれていて、僕も七海もふりかえした。
帰り道、手を繋いで歩く。
あと少しで家というところで、彼女は遠慮がちに訊いてきた。
「さっきの人、人間じゃないんだよね?体調を崩したりしないの...?」
「あの人は大丈夫だよ。生粋のヴァンパイアだから、寧ろ夜の方が元気なんだ」
「それならよかった」
七海としばらく一緒にいて分かったことがある。
それは、彼女にはただの人間とそうでないものの区別がはっきりつく能力があることだ。
僕みたいな半端なタイプだと迷うようだが、純血種のラッシュさんのことはちゃんと分かったらしい。
「そういえば、木葉の部屋ってどんなものがあるの?」
「それは入ってからのお楽しみ」
七海の手をぐいぐい引っ張って、そのまま中に入る。
どんな反応が返ってくるのか、少し楽しみだ。
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