ハーフ&ハーフ

黒蝶

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日常篇

抑える方法

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本当のことを言うと、段々限界が近づいてきているのは分かっていた。
「くっ...」
これで何度目だろう。
...トイレに行くと嘘をついて、自分の腕を傷つけたのは。
七海だってきっと気づいていない訳じゃない。
結局気を遣わせてしまっているも同然じゃないかと思うと、胸が苦しくなってくる。
「木葉?」
「ごめん、ちょっとぼうっとしてた。...ここだよ、降りよう?」
「...うん」
どうしても来たかった場所があった。
だからこそ、不安そうにしている七海の手を半ば強引に引いてここまで来たのだ。
「すごい、星が沢山...!」
「前に写真を見せたとき、実際に見てみたいって言ってたでしょ?
だから、今夜なら綺麗に見えるんじゃないかって思ったんだ」
七海は夜空いっぱいに浮かぶ星を、ただただ綺麗な瞳にうつしている。
そんな姿を見ていると、突然眩暈に襲われた。
「木葉...!」
「ごめん。ちょっとだけ...そこに座って休みたい」
本来なら活発に動けるはずの夜。
それが今、体に力が入らない状態になっている。
母の言うとおりになったようだ。
「本当は無理してたんじゃない?」
「そんなことないよ...」
「私には何もできないのかもしれない。
だけどお願い、本当のことを教えて」
「...」
「木葉」
無言で貫き通せるような状況ではない。
働かなくなってきた頭で、言葉を慎重に選びながらゆっくり話す。
「...これ、自傷なんだ」
「自傷...?」
包帯をとると、七海は息を呑んだ。
こんなもの、本当は見せるべきものではない。
だが、彼女に嘘は吐きたくなかった。
どんな小さなことでも、ちゃんと話しておきたい。
「母親に、教えてもらったんだ。...『ハーフのあなたは少し違うのかもしれないけど』って」
ゆっくり母との会話を思い出す。
『私は最初、あなたのお父さんにヴァンパイアだということを隠していたの。嫌われたくなくて...。
だからこそ、こういう方法でお昼にデートすることもあった』
『自傷で食い止められるの?』
『...後で異常な渇きが襲ってくる。それに耐えられなくなりそうなら...その子からすぐ離れて家に閉じ籠ること。
人を傷つけるのが嫌なんでしょう?...分かるのよ、私もそうだったから』
全て話し終えると、だんだん視界が歪んでくる。
もう駄目だと思ったとき、七海が服の袖を捲った。
「七海、どうしたの?」
「...これで木葉が少しでも楽になれるなら、私を噛んで」
「駄目だよ、やめて」
彼女は女神のような笑みを浮かべ、自ら腕を軽く傷つけた。
「私は大丈夫だから」
「待って...」
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