ハーフ&ハーフ

黒蝶

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日常篇

苦手なこととやりたいこと

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「いいな...」
いつの間にか眠っていたらしい僕は、そんな声で目が覚めた。
「お、おはよう...」
「おはよう、木葉。大丈夫?」
「うん。もう動けるよ。迷惑になってないかな...?」
やはり毎回訊かないと、どうしても不安になる。
七海は昨日より元気な様子で、満面の笑みを浮かべてこちらを向く。
「私が引き留めたんだし、木葉がいてくれたおかげですぐに元気になったよ。
...一緒にいてくれてありがとう」
「それならよかった」
隣に座ってテレビを見てみると、そこでは植物園の中にある図書館を紹介していた。
「わあ、すごく楽しそうだね!」
「...うん」
七海が一瞬寂しそうな目をしたような気がして、じっと見つめてみる。
「よかったら行ってみない?」
「え、でも...」
そうか、彼女が顔を曇らせていたのは...
《こちらの植物園は午前10時から...》
きっと行きたくない訳じゃない。
だが、朝となれば僕が起きられるか分からない。
無理をさせてしまうのでは...なんて考えているのだろう。
七海は優しいから、きっとそういうふうに考えてしまっている。
僕も一緒に行きたい。
起きられないというだけで、日光を浴びてはいけない訳でもないのだから...僕の努力次第だ。
「僕なら大丈夫だから。...朝、頑張って起きる。
あと、なんとかできる方法を知ってそうな人がいるから訊いてみる」
「本当にいいの?」
「勿論だよ!」
七海は本当にわくわくした様子で目を輝かせる。
その姿ははしゃぐ子どものようで、少しだけ笑ってしまった。
「木葉...?」
「ごめんごめん。君のそういう純粋なところ、好きだよ」
「い、いきなりそういうことを言うのは狡い...」
彼女を笑顔にできるなら、僕はどんなことでもしよう。
「明後日なら空いてるんだっけ?」
「うん。木葉は予定とか入ってないの?」
「僕は大丈夫だから、一緒に行こう。朝迎えにくるから」
「うん...!」
朝に出掛けたことなんてほとんどなかった。
僕にはできないだろうと諦めている部分も多い。
だが、もしかしたらあの人なら方法を知っているかもしれない...そう思い真っ先に向かったのは、陽がほとんど差さない実家だ。
「あら?木葉、どうしたの?」
「お母さん、あのね...」
事情を説明すると、僕と同い年くらいの見た目の女性は複雑そうな表情でゆっくりと告げた。
「無いこともない、というのが正解かしら?
私がやっていた方法を教えることはできるけれど、おすすめはできないわ」
「お願い、教えて」
「そう...それだけ好きな相手ができたのね」
母はすぐに人のことを見抜いてしまう。
小さい頃からそうだった。
どうして見抜けるのかと訊いても、返ってくるのはいつも年の功という言葉だけなので、もう触れないようにしている。
「その方法というのはね...」
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