94 / 150
本篇・1年目前期
1等星に願いを。弥生side
しおりを挟む
今夜はわらび餅を持って待っていよう、そう思ってお店で選んでいた。
「これ、新作ですか?」
「そうですよ。好きなのおまけするから、選んでね」
「ありがとうございます」
わらび餅の他に、いつもの大福を買う。
「それじゃあ、おまけをどうぞ」
「これにします。またきます」
可愛らしいうさぎのべっこう飴をもらう。
なんだか嬉しくなって、なかなか食べられずにいた。
葉月からの連絡に、何と返せばいいのかかなり迷った。
ただ、安心してほしかった。
(あの先生、やっぱり外れだったか)
都会ではどうなのか分からないけれど、定年間近の教師が異動になる理由は二つ。
一つは、主幹や教頭、校長に昇格した場合。
もう一つは...問題をおこして失敗した場合。
なんとなく、勘で後者なのではないかと思っていた。
(あの教師、なんだか信用できない)
一人分のべっこう飴をそっと口に含む。
「...美味しい」
今日は葉月はこないのかもしれない、そう思っていたときだった。
「弥生...」
「葉月、体調は?」
「もう大丈夫だよ」
なんだか元気がない。
頭痛のせいなのか、それとも何かあったのか...。
「何かあった?」
「ううん、何にもないよ」
「...そっか」
ふと空を見あげると、そこには一段と輝く星がうかんでいた。
「葉月、あれ綺麗だね」
「ほんとだ...どうしてあれだけ輝いてるんだろう」
「1等星だからだと思う。この時季って何か星座が見えたような気もする...なんだったかな」
葉月に踏みこまなかった。
踏みこめなかった。
嫌がられるのが怖くて、何も言えなかった。
「食べよう」
「うん!」
それが空元気だということくらい分かっていたのに、こういう日もあると無理矢理納得させた。
「やっぱり大福はいいね」
「うん、すごく美味しい!どうやったらこんなに美味しくなるのかな...」
それから少しして葉月は帰ってしまった。
「...何やってるんだろう」
数年前の出来事を思い出す。
『ずっと友だちだよ!』
『ありがとう...』
私の味方でいてくれた人。
ずっとずっと、私の側にいてくれた人。
けれど、やっぱり私は...。
...どうか、少しでも葉月の気が楽になりますように。
流れ星でもないのに、一等星に願ってしまう。
そのとき、鈍く光ったような気がした。
翌日以降、段々葉月と会う時間が減ってきて...。
「また明日ね!」
けれど、そう言って笑うものだから安心していた。
次の日曜日、葉月は学校にこなかった。
ーーそれから葉月を見かけることはなくなってしまった。
「これ、新作ですか?」
「そうですよ。好きなのおまけするから、選んでね」
「ありがとうございます」
わらび餅の他に、いつもの大福を買う。
「それじゃあ、おまけをどうぞ」
「これにします。またきます」
可愛らしいうさぎのべっこう飴をもらう。
なんだか嬉しくなって、なかなか食べられずにいた。
葉月からの連絡に、何と返せばいいのかかなり迷った。
ただ、安心してほしかった。
(あの先生、やっぱり外れだったか)
都会ではどうなのか分からないけれど、定年間近の教師が異動になる理由は二つ。
一つは、主幹や教頭、校長に昇格した場合。
もう一つは...問題をおこして失敗した場合。
なんとなく、勘で後者なのではないかと思っていた。
(あの教師、なんだか信用できない)
一人分のべっこう飴をそっと口に含む。
「...美味しい」
今日は葉月はこないのかもしれない、そう思っていたときだった。
「弥生...」
「葉月、体調は?」
「もう大丈夫だよ」
なんだか元気がない。
頭痛のせいなのか、それとも何かあったのか...。
「何かあった?」
「ううん、何にもないよ」
「...そっか」
ふと空を見あげると、そこには一段と輝く星がうかんでいた。
「葉月、あれ綺麗だね」
「ほんとだ...どうしてあれだけ輝いてるんだろう」
「1等星だからだと思う。この時季って何か星座が見えたような気もする...なんだったかな」
葉月に踏みこまなかった。
踏みこめなかった。
嫌がられるのが怖くて、何も言えなかった。
「食べよう」
「うん!」
それが空元気だということくらい分かっていたのに、こういう日もあると無理矢理納得させた。
「やっぱり大福はいいね」
「うん、すごく美味しい!どうやったらこんなに美味しくなるのかな...」
それから少しして葉月は帰ってしまった。
「...何やってるんだろう」
数年前の出来事を思い出す。
『ずっと友だちだよ!』
『ありがとう...』
私の味方でいてくれた人。
ずっとずっと、私の側にいてくれた人。
けれど、やっぱり私は...。
...どうか、少しでも葉月の気が楽になりますように。
流れ星でもないのに、一等星に願ってしまう。
そのとき、鈍く光ったような気がした。
翌日以降、段々葉月と会う時間が減ってきて...。
「また明日ね!」
けれど、そう言って笑うものだから安心していた。
次の日曜日、葉月は学校にこなかった。
ーーそれから葉月を見かけることはなくなってしまった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
峽(はざま)
黒蝶
ライト文芸
私には、誰にも言えない秘密がある。
どうなるのかなんて分からない。
そんな私の日常の物語。
※病気に偏見をお持ちの方は読まないでください。
※症状はあくまで一例です。
※『*』の印がある話は若干の吸血表現があります。
※読んだあと体調が悪くなられても責任は負いかねます。
自己責任でお読みください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
夫と愛人が私を殺す計画を立てているのを聞いてしまいました
Kouei
恋愛
結婚してから3か月。
夜会である女性に出会ってから、夫の外出が増えた。
そして夫は、私の物ではないドレスや宝飾の購入していた。
いったい誰のための物?
浮気の現場を押さえるために、クローゼットで夫と愛人と思われる女性の様子を窺っていた私。
すると二人は私を殺す計画を立て始めたのだった。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
怪異・おもらししないと出られない部屋
紫藤百零
大衆娯楽
「怪異・おもらししないと出られない部屋」に閉じ込められた3人の少女。
ギャルのマリン、部活少女湊、知的眼鏡の凪沙。
こんな条件飲めるわけがない! だけど、これ以外に脱出方法は見つからなくて……。
強固なルールに支配された領域で、我慢比べが始まる。
どうぞご勝手になさってくださいまし
志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。
辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。
やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。
アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。
風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。
しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。
ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。
ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。
ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。
果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか……
他サイトでも公開しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACより転載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる