満天の星空に願いを。

黒蝶

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本篇・1年目後期

クリスマスに願いを。弥生side

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「弥生...」
「ごめん、起こしちゃった?」
葉月は寝起きで少し惚けているのか、いつもよりふわふわしているような気がする。
「星、綺麗だね」
「そうだね」
「手で掴みとれそうなくらい、近いね」
「きっと届くんじゃないかな?」
そんな話をしながら、二人並んで星を見る。
今日の星も、いつもより輝きを増しているような気がする。
「弥生は子どもの頃、サンタクロースって信じてた?」
「ううん、全然」
残念なことに、私はそんな子どもらしい子どもではなかった。
「...実は私もなんだ」
「ちょっと意外。葉月ってそういうの信じて、真面目に待ってそうなのに...」
「...起きて待ってたら、おじいちゃんがきた」
「成程、それでか」
葉月曰く、サンタクロースを捕まえようと起きていたらしい。
そうしていると、その【正体】に気づいてしまったのだという。
おじいさんのことを思い浮かべているのか、葉月の目はいつになく優しい。
(よく分からないけど、おじいさんのことが大切だってことは分かる)
「少し冷えてきたね。そろそろ寝ちゃおうか」
「うん...」
「すぐ行くから、この前の部屋で待ってて」
葉月はとてとてとゆっくり歩いていく。
(...もう少しだけここにいよう)
『そんなもの、本当にいるわけないでしょ』
そうばっさり言い捨てられたのはいつだったか。
私には、本当に誰もいなかった。
いや、誰もいない。
子どもの夢を刈り取ることはあっても、応援なんてしてもらえたこともなかった。
(...っ、いけない)
つい暗く考えてしまって、ぶんぶんと首をふる。
「葉月...寝てる、よね?」
「ん...」
眠っているところを見て、私は包みを部屋の隅からそっと取り出す。
それから、足音をたてないようにそっと近づいていく。
...なんだか、子どもみたいなことをしているような気がする。
「すう...」
「...よし」
私はそっと、寝ている葉月の枕元にプレゼントを置く。
なんとか無事に置くことができた。
起きた葉月がどんな反応をするのか、とても楽しみだ。
「ん...朝?何、この包み...え、弥生から!?」
どうやら眠気が一気に吹き飛んだらしく、ぱたぱたと足音が近づいてくる。
「弥生、これ...!」
「おはよう。いい子な葉月のところに、サンタクロースがきたんじゃない?」
「そうなのかな?...そうだといいな」
本当に嬉しそうに笑ってくれて、ちゃんと喜んでもらえたんだと分かる。
「はい、朝御飯できてるよ」
「うん!」
二人で食べて、楽しく話す。
そういう時間を過ごして、葉月を駅まで送る...。
「それじゃあ、また授業で」
「うん。...またね」
葉月の背中は少し寂しそうだったけれど、そのまま見送る。
朝陽がいつもより眩しく感じた。
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