満天の星空に願いを。

黒蝶

文字の大きさ
上 下
47 / 150
本篇・1年目後期

夕食に願いを。弥生side

しおりを挟む
「楽しかった...!」
「それならよかった」
気づくともう夕陽が沈みかけていて、空はだんだん紺碧色に変わろうとしていた。
「夕食、これを作りたいと思います!」
葉月が出した材料は高級品が多くて、私はそこにただただ驚愕してしまった。
(見たことないくらい大きいステーキ...。私はスープを作ろうかな)
「葉月、私ポタージュ作るね」
「それじゃあ私はメイン担当で」
それだけでは寂しいから、私は冷蔵庫に残っていた野菜を切り分ける。
付け合わせにできるように、できるだけ食べやすいサイズに切る。
勿論、ただ切るだけでは相性が悪いので温野菜風にするつもりだ。
「弥生、切るの早い...」
「そうかな?ただなれてるだけだと思うよ。...一時期野菜スティックサラダを作るのにはまってたからかもしれないけど」
「自分で作ったの!?ドレッシングも?」
そんな話をしながら、少しずつテーブルの上に完成した料理が並べられていく。
...二人分の料理がテーブルに並ぶのは、初めてかもしれない。
いつも独りで食べていて、時々食事を抜いていた。
(懐かしいことを思い出しちゃったな)
「弥生?」
「ごめん、なんでもない。もうすぐ冷やし終わるよ」
「冷製ポタージュ!?」
葉月の反応がいちいち可愛くて、私は思わず笑ってしまった。
葉月はてきぱきと料理をこなし、もう全ての工程を終えていた。
(よし、そろそろかな)
「はい、どうぞ」
「美味しそう...!いただきます」
「いただきます」
二人で一斉に食べはじめるのだけれど、無言で食べ続ける。
(美味しすぎて何もでてこない...)
「美味しすぎてつい無言になっちゃった」
「...うん。私も」
二人でこのあとどうするかを話しつつ、何を楽しみにするかも決めていく。
(さて、お風呂を沸かさないと)
「ちょっと待っててね」
「うん」
入浴の準備もついでに整えて戻ると、葉月が食器を洗ってくれているのが目にはいる。
「ありがとう。後は私がやるからお風呂先入って?」
「ありがとう。それじゃあお邪魔します」
葉月の後ろ姿を見送りつつ、自分の腕に目をやる。
そこには一生消えない傷があって、それを葉月には見せたくなかった。
きっと心配して、不安に思ってしまうから。
(さて。片づけたら部屋をもっと過ごしやすくしておこうかな)
いつもとは違う過ごし方。
これはこれで楽しいと思ってしまう自分がいる。
葉月も楽しいと思ってくれているだろうか。
そう考えると、少しだけ心配になってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫
ライト文芸
【アルファポリス版】 医師でも看護師でもない。大病院の平和は、ただの事務員が体当たりで守っています。 事務仕事が苦手な下っ端事務員、友利義孝(ともりよしたか)。 ある日、彼が出会ったクロネコは、実は幽霊でした。 ところが、同僚の桐生千颯(きりゅうちはや)に言わせれば、それはクロネコではなく、伝説の初代事務局長とのこと。 彼らが伝えようとしていることは何なのか。 ミステリーテイストの病院の日常の物語。 =表紙イラスト、キャラデザイン= クロ子さん

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...