満天の星空に願いを。

黒蝶

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本篇・1年目後期

ハンカチに願いを。弥生side

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ハンカチを選びあった翌週、葉月は学校を休んだ。
《今日は行けそうにないかも...。ごめんね》
無理をして体調を崩したわけではないのならいいけれど、気になって仕方がない。
「...」
いつもどおり読書をしてみるのだけれど、なかなか頁が進まない。
「疲れてる?」
「あ、いえ...」
見回りの先生にはそう答えたものの、この気持ちをどう表現すればいいのか分からなかった。
いつもなら葉月が隣にいるのが当たり前で、こうして一日中ずっと独りで過ごすのは久しぶりだったからだ。
(そっか。私...寂しいって思ってたんだ)
久しぶりすぎて忘れていた感覚。
私は内心苦笑した。
今まではそれが当たり前だったのに、いつの間にかそれが当たり前ではなくなっていたのだ。
いつからそうなったのかは分からない。
そもそも、本当にそうだったのかももう分からない。
「今日はマナーの講師の方が講演にきてくれます」
味気ない一日を過ごし、最後の総合の時間になる。
「まず、マナーについてですが...」
つまらない講義になるんだろうなと思っていると、予想外の言葉が飛び出した。
「三つだけ覚えてください」
(くどくど言われるのかと思ったのに、三つだけ...?どういうことだろう)
そう思うと、なんだか気楽に聞くことができた。
感想はすぐ書き終わり、後は無言でただ夢中になって聞いていた。
「お疲れさん」
「...さようなら」
私は話しかけてくれた教頭に挨拶しながら、ポケットのなかにあるハンカチを握りしめる。
(葉月...)
《体調はもう大丈夫そう?無理せずゆっくり休んでね》
それだけメッセージを打って、送信をタップする。
シンプルすぎただろうか。
けれど、長々と打てば体調が悪い葉月からしてみれば邪魔なんじゃないだろうか。
色々考えながら、気づけばいつもの場所に辿り着いていた。
(『独りでは、息をするだけでこんなに辛い。...そんなこと知らなかったよ』...私も知らなかった。独りってやっぱり、寂しいものだね)
本との会話...割りと久しぶりにしたような気がする。
ハンカチを握りしめながら、鞄の中から原稿用紙を取り出す。
「...これ、どうしようかな」
それは、続きが書けずにいたもので...提出期限が迫っているもの。
それが本当なのか嘘なのか、誰にも分からないように書く必要がある。
...だったら、物語を作ってしまえばいい。
この提出課題は、平凡な少女の願い。
そして、私の本当の想いをのせて書いてみよう。
本来なら赦されないこと。
けれど私には、もう迷いがない。
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