バッドエンド

黒蝶

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怪我をされたら困るとかで、体育の授業は基本座学になる。
別教室に移動していると、前から知らない人が歩いてきた。
「神子だかなんだか知らないけど、ひとりだけ姫待遇かよ」
すれ違いざま、そんな言葉をかけられる。
「ちょっと、そんな言い方──」
「私なら大丈夫です。ありがとうございます」
いつも笑顔で、上品に。
……できるわけない、なんて言える環境ではなかった。
「神子様のお力はこの村には不可欠なもので──」
座学というのは地獄だ。
神子の歴史や能力の使い方、細かい作法までみっちり教えこまれる。
(こんな窮屈な生活がお望みなら変わってあげたくなる)
「…神子様、お客様です」
「承知いたしました」
授業中だろうと呼び出され、いつも中途半端に終わる。
怪我や病気を治して喜んでもらえるのはいいけど、こんな綺麗な話ばかりではない。
「大金を払ってくれる者から順に治せばいいだろう」
「神子様に聞こえたら叱られますよ」
「あの小娘は俺たちの言うことならなんでも聞く。金のなる木だからな」
こんな強欲な男の血が流れていると思うと吐き気がする。
(今なら見張りが甘くなるよね)
昨日見たフードの人。
もしかしたら、今日も山にいるかもしれない。
もっと話してみたくて真夜中山道を走った。


××××


「……今夜はここで野宿しましょうか」
ルナに話しかけて焚き火を囲む。
ふたりでいる時間は本当に楽しい。
だけど、静寂は打ち破られた。
「こんなところで何してるの?」
「……別に」
フードをかぶっておいてよかった。
「どうして街に来ないの?」
まさか祟りを呪いの力で壊すために山を登っています、なんて言うわけにはいかない。
「僕にはここでの仕事がありますから」
「いいなあ、私もやってみたい」
……あんなに愛されて、僕が持っていないものをなんでも持っていて、祝福の加護を受けた人間が?
「お帰りください。ここは危険です」
「もうちょっとここにいさせて。息抜きしたらちゃんと戻るから」
…息抜き?
さっきだって呪いの影の力を使って邪気を喰らった。
村の人間たちとのうのうと暮らしている、世間知らずなお嬢様が来るところじゃない。
少なくとも、息抜きなんてする場所じゃないのに誰も教えていないのかな。
「休憩が必要でしたら別の場所へ行かれてはいかがですか?」
「ここだとあなたしかいないから、休むのに丁度いいんだもん」
ここは命のやりとりをする場所だ。
人間から追い回されたり捨てられたりした動物たちがひっそり暮らしていて、邪気を纏った相手から逃げ隠れしている。
僕は自分の陰で対処できるけど、神子の神聖な力で何ができるんだろう。
「…そろそろ休みたいのです。どうかお願いします」
「分かった、じゃあまた明日」
……明日はもっと奥へ進もう。
もう二度と檻の中の小鳥に会わなくてすむように。





──その日、村人がひとり不審な死を遂げた。
村長たちは事件を隠すことにしたが、不穏な噂が流れはじめる。
…もしかすると、あの穢れた娘が自分たちを呪っているのでは、と。
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