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44・は?ホモってナニ?
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月曜日の3、4時間目は図工の時間だ。
図工室での席順は教室内とは違っていて、その席順で座ると金森が俺から遠くなり拳が近くなる。
今日は先週下描きをして輪郭を彫り始めたレリーフの仕上げ工程に入る日だ。
先週は和気あいあいと拳と会話をしながらの作業だったが、今日は拳が話しかけて来ないので1人黙々と作業をこなし始めた。
しばらくすると拳の代わりに、男女関係無く他の奴らが俺に話しかけて来るようになり、誰にも話しかけられない拳が俺に話しかけたそうにチラチラとコチラをうかがう様子が見えた。
話しかけたそうにしてる割りには、結局話しかけて来ないんだし。俺から話しかけられるの待ってんのか?
もう、拳のその視線がただただウゼェ。
「御剣、ますます死に掛けたスズメみたいになってんな。」
休み時間に入り、一通り彫り終えた俺の鷹のレリーフを見た金森が言った。
神の鷹をイメージして、頭に天使みたいな輪っかを付けたら死んだスズメと言われたので、頭の輪っかを外したのだが。
スズメはスズメのまま、死んでないけど死に掛けになった。
「そういう金森は何を彫ったんだよ。
竜とかペガサスとか、カッコつけて彫り始めてシマエナガになったクチじゃねーの」
「バーカ、俺のは虎だ。」
金森が自慢げに自分のレリーフを見せてきた。
虎と言うか………フォルムが完全にネコじゃん?
しかもさり気なく上手い。ネコならば。
虎には全く見えないが、トラ猫ならば完璧だ。
「ゆーのの、ネコかわいいー!」
「ウチで飼ってるウリ坊を彫ったの!」
女子の会話が聞こえ、反射的にそちらを見た。
ゆーのは澤田さんのあだ名だ。
その澤田さんの手にあるレリーフには、色も塗り終わった可愛い茶トラの猫が彫られていた。
澤田さんの飼い猫で、名前はなぜかウリ坊ってゆーらしい。
「…………ウリ坊?」
俺はニヤっとほくそ笑み、金森のレリーフを目線で指した。
「ち、ちげぇよ!!虎だっつってんだろ!!」
「うん、分かってる。コレは虎だよな。
ウリ坊って名前の。」
「お、おまっ…!!!」
顔を赤くして今にも俺を殴りそうな金森だが、そんな金森にムカついたりなぞしない。
既にキスの約束までした恋人がいる俺は、初恋に翻弄される若者を生温かく見守る大人なスタンスなつもりだ。
照れずとも良いではないか、恋はイイぞ的な。
休み時間を終え、4時間目に入る頃にはレリーフに色を塗り始めた奴と、塗り終えた奴に別れた。
俺は真弓に、誕生日プレゼントとしてレリーフを渡す約束をしているから、なるべく丁寧に彫り、丁寧に色を塗り始めた。
時間いっぱいで何とかニスを塗って仕上げた。
「作品は、二学期の終わりに返します。」
授業の終わりに先生がそう言った。
二学期終わりって………クリスマス前じゃん!遅ッ!
9月が誕生日の真弓へのプレゼントが、クリスマスプレゼントになっちゃう!
クリスマスにはデートして、ちゃんとクリスマスプレゼントを渡したいのに……
クリスマスか……真弓と初めてのクリスマスデート。
プレゼントを2つ渡すのもアリか?……ふむ。
真弓、喜んでくれるかな…喜ぶ顔が見たい。きっと可愛い。
「それもいいな…早めに色々と準備をしとかなきゃ。」
図工室から教室に戻り、すぐ給食の時間。
俺にからかわれたとムスッとしたままの金森に、お詫びとして給食のデザートを渡した。
「まぁまぁまぁまぁ!機嫌直せ!あはははは!」
「お前、ムカつくなぁ……」
そう言いつつ、金森はデザートをしっかり受け取った。
金森なりの、許してやるって姿勢だ。
こいつのこーゆー所、アッサリしていて助かる。
午後の授業が終わり、下校の時間になり━━
月曜日は少林寺の教室があるので、足早に1人で学校を出た。
早歩きで歩く俺の後ろから、同じ様に早歩きでずっとついて来ている奴がいる。
今日一日、朝からずっとヤツの視線を感じていた。
話しかけたそうに見えて、ずっと話しかけて来ない。
だけど、ずっと俺を見ている。
今日一日、その鬱陶しい視線を無視し続けて我慢していたけど、さすがにイライラが募り過ぎた。
「拳!
何か俺に、話でもあんのかよ!」
自分から声を掛けるのは無しと決めていたが、こらえ切れなかった俺は一定の距離を置いて俺の跡を付ける拳に、苛立ちを込めた声で呼び掛けた。
「………走、気付いてたんだ。」
「気付かないワケねーだろ!バレバレじゃん!」
曲がり角にある塀の脇から拳がひょこっと顔を出した。
気付かれたいってのが見え見えの尾行をしておいて、バレちゃったみたいな顔をされんの、すげぇムカつく!
自分からは声を掛けにくくて、俺から声が掛かるの待ってたんだろ?
あー!イラっとする!
「ハハッ、ごめんごめん。」
拳が微笑みながら俺の側に歩いて来た。
何でコイツ、こんなヘラヘラしてんの?
軽い口調のごめんも謝られた気にはならないし、むしろイラっとする。
━━友達ツラすんなよ。
俺、お前を許したワケじゃないんだけど。━━
そんな言葉が口から出そうになる。
「………で?俺に何か用?」
拳は辺りをチラチラと警戒する様に見回し、誰も居ない事を確認出来ると「よし!」とばかりに頷いた。
その大袈裟な動作も何だか芝居がかって見えてしゃくに障り、俺は溜め息ひとつついて早く帰りたいって態度を見せる。
誰も居ないのが確認出来た拳は俺の間近に来ると、俺の方に顔を寄せ、小声で囁いた。
「走ってさ……ホモなの?」
「…………………………。」
拳の言葉が理解出来ず、俺は無言になってしまった。
ホモって……男の人が男の人を好きになるやつ?
俺が女の人より、男の人を好きなんだろうって事?
そんなワケ無いじゃん。
何で俺の事をホモだなんて思うんだ、コイツ。
「……は?…違うし。」
「ウソー、俺さぁ見ちゃったんだ。
走が、こないだの怖いオジサンのおデコにキスしてるトコ。」
拳が俺に何を聞いているのかが分かった瞬間、俺の頭に浮かんでいた、たくさんのハテナが一斉に無くなった。
コイツは、俺が真弓を好きなんじゃないかと疑ってるんだ。
俺にとって真弓は世界にたった1人の好きな人で、最初は確かに「男だし、しかもオッサンじゃん!」とか思ったけど、今となってはもう真弓の性別なんて全く関係ない。
女の人だったとしても、きっと俺は真弓を好きになってた。
でも真弓は男だし、その真弓に俺がキスしてるトコを見たのなら、男が好きなヤツだと、そう思われて当然かも知れない。
……って!!おい!!
土曜日に、縁側で俺が真弓のおデコにキスしたの見てたのかよ!
クラスの奴らが、俺の彼女を見るの諦めて跡を付ける事が無くなったってのに、コイツだけは俺の跡を付けて来てたって事かよ!
最っあく!!
「なぁ、走ってホモ?あのオジサンの事が好きなんだろ?」
ホモじゃない!俺は、男が好きなワケじゃない!
でも真弓の事はメチャクチャ好き!メチャクチャ愛してる!
だけど、それは真弓に迷惑が掛かるからバレちゃいけない事だし、何より一番最初にカミングアウトする相手が拳とか、ぜってーあり得ない。
「お前……馬鹿じゃねーの?
確かに俺はオッサンの事好きだけどさぁ…お前の言う好きとは全然違うし。
怒ると怖いけど面倒見が良い人だから、人として好きなんだよな。
だから、からかいたくてキスしたフリしただけだ。
つかさ、人んちを覗き見るとか何なのお前。」
いつも嘘ばっかの拳だけど、今のヤツが言ってる事は本当の事だ。
それを俺は、自分と真弓の関係を守るために「お前は、いい加減な事ばかり言ってる」と、拳を嘘付きに仕立てようとしてる。
嫌なヤツだよな、俺は……それでも、拳に俺と真弓の関係を知られる事は絶対に避けなきゃならない。
おしゃべりなコイツが、黙ってられるワケがない。
尾ヒレを付けて、俺と真弓がもっとやましい関係だと吹聴する可能性だってある。
そんなのが先生や大人の耳に入ったら……
もう真弓に会うなって絶対言われるし、真弓にだって俺に近付かないようにとか大人が注意しに行くかも知れないし!
真弓と会えなくなるとか絶対にヤダ!
だから俺が嘘付きの悪者になっても、拳にだけは絶対に知られたくない。
「あっ…あのな、走!覗き見たんじゃないよ、見たのはたまたまで……
それに俺、別に走の事をホモだってからかってるワケじゃないよ?
走と俺の二人だけの秘密って事にすれば……」
「はー……二人だけの秘密ってナニ。
別に困らないし言いたきゃ言えば?
俺とオッサンがお前にムカつくだけだし。
じゃーな。」
話しても平気だと、あえて言ってみる。
実際にコイツが誰かに話すかどうかは分からないけど、俺はそれを、気にする事もない程のくだらない話だという態度を見せた。
だいたいさぁ二人だけの秘密って、俺の弱味を握るって意味だろ。ふざけんな。
拳から離れ、家の方に向かって歩き出した俺の手首を、追って来た拳が掴んだ。
「走…!待ってくれよ!
実は俺さ、走の事が好きなんだ!」
拳の告白を聞いた瞬間、俺は強く拳の腕を振り払い、物凄く強い嫌悪の眼差しを拳に向けた。
これは、拳が本気で俺を好きだなんて告白じゃない。
コイツは、俺にカマを掛けてきたんだ。
俺が拳の言っているホモだって言うのなら、何かそれらしい反応をするんじゃないかと。
仮に男が好きだったとして、男だったら誰でもいいって考え方なのか?
拳の頭にあるホモって、そういうの?
好きになる対象が同性なだけで、そんな偏見持つの?
考えが浅はか過ぎて━━
俺が真弓を想う気持ちまで、ないがしろにされた気がして
拳に対して、ただもう嫌悪しか感じなくなっていた。
俺は、その感情を隠さないまま拳を睨みつける。
「お前さぁ……いつもそうやって、誰も彼もネタみたいに面白半分に見てんのな。
俺をホモだって決めつけて、確認したかったのかよ。
男が好きだから、お前に告られたら喜ぶとでも思った?
……人をおちょくるのも、いい加減にしろよ。」
俺の視線は、拳にはよほどこたえたらしい。
俺が吐き捨てる様に言葉を発してから拳は黙りこくり、歩き始めた俺をもう、追っては来なかった。
拳に対し腹立たしさや苛立ちを越え、俺はもう嫌悪感しか持てなくなった。
拳は、軽い確認のつもりでカマを掛けたんだろうけど……
同性だろうと何だろうと、人が誰かを好きになる気持ちまで馬鹿にされた気がした。
俺は拳に、真弓を好きってのを否定した。
だからアイツは、俺の真弓を好きな気持ちの真剣さなんて知らない。
それでも、何だか俺の恋心までも軽く見られてからかわれた気がして…ただただ悔しくて憎たらしくて。
もうヤツを友達だなんて、僅かでも思いたくなかった。
この時から俺の中で、拳は友達ではなくなった。
図工室での席順は教室内とは違っていて、その席順で座ると金森が俺から遠くなり拳が近くなる。
今日は先週下描きをして輪郭を彫り始めたレリーフの仕上げ工程に入る日だ。
先週は和気あいあいと拳と会話をしながらの作業だったが、今日は拳が話しかけて来ないので1人黙々と作業をこなし始めた。
しばらくすると拳の代わりに、男女関係無く他の奴らが俺に話しかけて来るようになり、誰にも話しかけられない拳が俺に話しかけたそうにチラチラとコチラをうかがう様子が見えた。
話しかけたそうにしてる割りには、結局話しかけて来ないんだし。俺から話しかけられるの待ってんのか?
もう、拳のその視線がただただウゼェ。
「御剣、ますます死に掛けたスズメみたいになってんな。」
休み時間に入り、一通り彫り終えた俺の鷹のレリーフを見た金森が言った。
神の鷹をイメージして、頭に天使みたいな輪っかを付けたら死んだスズメと言われたので、頭の輪っかを外したのだが。
スズメはスズメのまま、死んでないけど死に掛けになった。
「そういう金森は何を彫ったんだよ。
竜とかペガサスとか、カッコつけて彫り始めてシマエナガになったクチじゃねーの」
「バーカ、俺のは虎だ。」
金森が自慢げに自分のレリーフを見せてきた。
虎と言うか………フォルムが完全にネコじゃん?
しかもさり気なく上手い。ネコならば。
虎には全く見えないが、トラ猫ならば完璧だ。
「ゆーのの、ネコかわいいー!」
「ウチで飼ってるウリ坊を彫ったの!」
女子の会話が聞こえ、反射的にそちらを見た。
ゆーのは澤田さんのあだ名だ。
その澤田さんの手にあるレリーフには、色も塗り終わった可愛い茶トラの猫が彫られていた。
澤田さんの飼い猫で、名前はなぜかウリ坊ってゆーらしい。
「…………ウリ坊?」
俺はニヤっとほくそ笑み、金森のレリーフを目線で指した。
「ち、ちげぇよ!!虎だっつってんだろ!!」
「うん、分かってる。コレは虎だよな。
ウリ坊って名前の。」
「お、おまっ…!!!」
顔を赤くして今にも俺を殴りそうな金森だが、そんな金森にムカついたりなぞしない。
既にキスの約束までした恋人がいる俺は、初恋に翻弄される若者を生温かく見守る大人なスタンスなつもりだ。
照れずとも良いではないか、恋はイイぞ的な。
休み時間を終え、4時間目に入る頃にはレリーフに色を塗り始めた奴と、塗り終えた奴に別れた。
俺は真弓に、誕生日プレゼントとしてレリーフを渡す約束をしているから、なるべく丁寧に彫り、丁寧に色を塗り始めた。
時間いっぱいで何とかニスを塗って仕上げた。
「作品は、二学期の終わりに返します。」
授業の終わりに先生がそう言った。
二学期終わりって………クリスマス前じゃん!遅ッ!
9月が誕生日の真弓へのプレゼントが、クリスマスプレゼントになっちゃう!
クリスマスにはデートして、ちゃんとクリスマスプレゼントを渡したいのに……
クリスマスか……真弓と初めてのクリスマスデート。
プレゼントを2つ渡すのもアリか?……ふむ。
真弓、喜んでくれるかな…喜ぶ顔が見たい。きっと可愛い。
「それもいいな…早めに色々と準備をしとかなきゃ。」
図工室から教室に戻り、すぐ給食の時間。
俺にからかわれたとムスッとしたままの金森に、お詫びとして給食のデザートを渡した。
「まぁまぁまぁまぁ!機嫌直せ!あはははは!」
「お前、ムカつくなぁ……」
そう言いつつ、金森はデザートをしっかり受け取った。
金森なりの、許してやるって姿勢だ。
こいつのこーゆー所、アッサリしていて助かる。
午後の授業が終わり、下校の時間になり━━
月曜日は少林寺の教室があるので、足早に1人で学校を出た。
早歩きで歩く俺の後ろから、同じ様に早歩きでずっとついて来ている奴がいる。
今日一日、朝からずっとヤツの視線を感じていた。
話しかけたそうに見えて、ずっと話しかけて来ない。
だけど、ずっと俺を見ている。
今日一日、その鬱陶しい視線を無視し続けて我慢していたけど、さすがにイライラが募り過ぎた。
「拳!
何か俺に、話でもあんのかよ!」
自分から声を掛けるのは無しと決めていたが、こらえ切れなかった俺は一定の距離を置いて俺の跡を付ける拳に、苛立ちを込めた声で呼び掛けた。
「………走、気付いてたんだ。」
「気付かないワケねーだろ!バレバレじゃん!」
曲がり角にある塀の脇から拳がひょこっと顔を出した。
気付かれたいってのが見え見えの尾行をしておいて、バレちゃったみたいな顔をされんの、すげぇムカつく!
自分からは声を掛けにくくて、俺から声が掛かるの待ってたんだろ?
あー!イラっとする!
「ハハッ、ごめんごめん。」
拳が微笑みながら俺の側に歩いて来た。
何でコイツ、こんなヘラヘラしてんの?
軽い口調のごめんも謝られた気にはならないし、むしろイラっとする。
━━友達ツラすんなよ。
俺、お前を許したワケじゃないんだけど。━━
そんな言葉が口から出そうになる。
「………で?俺に何か用?」
拳は辺りをチラチラと警戒する様に見回し、誰も居ない事を確認出来ると「よし!」とばかりに頷いた。
その大袈裟な動作も何だか芝居がかって見えてしゃくに障り、俺は溜め息ひとつついて早く帰りたいって態度を見せる。
誰も居ないのが確認出来た拳は俺の間近に来ると、俺の方に顔を寄せ、小声で囁いた。
「走ってさ……ホモなの?」
「…………………………。」
拳の言葉が理解出来ず、俺は無言になってしまった。
ホモって……男の人が男の人を好きになるやつ?
俺が女の人より、男の人を好きなんだろうって事?
そんなワケ無いじゃん。
何で俺の事をホモだなんて思うんだ、コイツ。
「……は?…違うし。」
「ウソー、俺さぁ見ちゃったんだ。
走が、こないだの怖いオジサンのおデコにキスしてるトコ。」
拳が俺に何を聞いているのかが分かった瞬間、俺の頭に浮かんでいた、たくさんのハテナが一斉に無くなった。
コイツは、俺が真弓を好きなんじゃないかと疑ってるんだ。
俺にとって真弓は世界にたった1人の好きな人で、最初は確かに「男だし、しかもオッサンじゃん!」とか思ったけど、今となってはもう真弓の性別なんて全く関係ない。
女の人だったとしても、きっと俺は真弓を好きになってた。
でも真弓は男だし、その真弓に俺がキスしてるトコを見たのなら、男が好きなヤツだと、そう思われて当然かも知れない。
……って!!おい!!
土曜日に、縁側で俺が真弓のおデコにキスしたの見てたのかよ!
クラスの奴らが、俺の彼女を見るの諦めて跡を付ける事が無くなったってのに、コイツだけは俺の跡を付けて来てたって事かよ!
最っあく!!
「なぁ、走ってホモ?あのオジサンの事が好きなんだろ?」
ホモじゃない!俺は、男が好きなワケじゃない!
でも真弓の事はメチャクチャ好き!メチャクチャ愛してる!
だけど、それは真弓に迷惑が掛かるからバレちゃいけない事だし、何より一番最初にカミングアウトする相手が拳とか、ぜってーあり得ない。
「お前……馬鹿じゃねーの?
確かに俺はオッサンの事好きだけどさぁ…お前の言う好きとは全然違うし。
怒ると怖いけど面倒見が良い人だから、人として好きなんだよな。
だから、からかいたくてキスしたフリしただけだ。
つかさ、人んちを覗き見るとか何なのお前。」
いつも嘘ばっかの拳だけど、今のヤツが言ってる事は本当の事だ。
それを俺は、自分と真弓の関係を守るために「お前は、いい加減な事ばかり言ってる」と、拳を嘘付きに仕立てようとしてる。
嫌なヤツだよな、俺は……それでも、拳に俺と真弓の関係を知られる事は絶対に避けなきゃならない。
おしゃべりなコイツが、黙ってられるワケがない。
尾ヒレを付けて、俺と真弓がもっとやましい関係だと吹聴する可能性だってある。
そんなのが先生や大人の耳に入ったら……
もう真弓に会うなって絶対言われるし、真弓にだって俺に近付かないようにとか大人が注意しに行くかも知れないし!
真弓と会えなくなるとか絶対にヤダ!
だから俺が嘘付きの悪者になっても、拳にだけは絶対に知られたくない。
「あっ…あのな、走!覗き見たんじゃないよ、見たのはたまたまで……
それに俺、別に走の事をホモだってからかってるワケじゃないよ?
走と俺の二人だけの秘密って事にすれば……」
「はー……二人だけの秘密ってナニ。
別に困らないし言いたきゃ言えば?
俺とオッサンがお前にムカつくだけだし。
じゃーな。」
話しても平気だと、あえて言ってみる。
実際にコイツが誰かに話すかどうかは分からないけど、俺はそれを、気にする事もない程のくだらない話だという態度を見せた。
だいたいさぁ二人だけの秘密って、俺の弱味を握るって意味だろ。ふざけんな。
拳から離れ、家の方に向かって歩き出した俺の手首を、追って来た拳が掴んだ。
「走…!待ってくれよ!
実は俺さ、走の事が好きなんだ!」
拳の告白を聞いた瞬間、俺は強く拳の腕を振り払い、物凄く強い嫌悪の眼差しを拳に向けた。
これは、拳が本気で俺を好きだなんて告白じゃない。
コイツは、俺にカマを掛けてきたんだ。
俺が拳の言っているホモだって言うのなら、何かそれらしい反応をするんじゃないかと。
仮に男が好きだったとして、男だったら誰でもいいって考え方なのか?
拳の頭にあるホモって、そういうの?
好きになる対象が同性なだけで、そんな偏見持つの?
考えが浅はか過ぎて━━
俺が真弓を想う気持ちまで、ないがしろにされた気がして
拳に対して、ただもう嫌悪しか感じなくなっていた。
俺は、その感情を隠さないまま拳を睨みつける。
「お前さぁ……いつもそうやって、誰も彼もネタみたいに面白半分に見てんのな。
俺をホモだって決めつけて、確認したかったのかよ。
男が好きだから、お前に告られたら喜ぶとでも思った?
……人をおちょくるのも、いい加減にしろよ。」
俺の視線は、拳にはよほどこたえたらしい。
俺が吐き捨てる様に言葉を発してから拳は黙りこくり、歩き始めた俺をもう、追っては来なかった。
拳に対し腹立たしさや苛立ちを越え、俺はもう嫌悪感しか持てなくなった。
拳は、軽い確認のつもりでカマを掛けたんだろうけど……
同性だろうと何だろうと、人が誰かを好きになる気持ちまで馬鹿にされた気がした。
俺は拳に、真弓を好きってのを否定した。
だからアイツは、俺の真弓を好きな気持ちの真剣さなんて知らない。
それでも、何だか俺の恋心までも軽く見られてからかわれた気がして…ただただ悔しくて憎たらしくて。
もうヤツを友達だなんて、僅かでも思いたくなかった。
この時から俺の中で、拳は友達ではなくなった。
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