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34・人生終わりの予感。
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今にも殴られそうな拳と、それを見て慌てた様に身を乗り出した金森。
そして、拳に向けてグーパンチをお見舞いしようとしていた俺の3人は、いきなり吠える様な怒鳴り声を浴びせられてハタと動きが止まった。
3人揃って、恐る恐る声の主に目を向ける。
そこには押して歩いて来たのかハンドルを握ってバイクの隣に立つ、険しい顔をした真弓が居た。
見知らぬイカツイ見た目のオッサンの剣幕に拳は、殴り掛かっている俺よりも真弓に萎縮して震え上がってしまった。
金森は真弓との面識はあるが、俺から怖い人だと何度も聞かされていた為か、緊張したように身体を強張らせた。
俺はと言うと━━
真弓の顔を見れた喜びよりも何よりも、真弓が物凄く怒っている事と、その怒りが俺に向けられている事に………
ただただショックを受けていた。
身体が石になった様に動けなくなった俺は、振り上げたこぶしを下げる事も出来ずにいた。
呼吸さえ止めてしまわなきゃならないのかと思えるほど、何か1つ動いただけでも、これ以上に真弓の心象が悪くなる気しかしなくて身動きが取れない。
真弓はバイクを路肩に停め、俺達の方に歩いて来た。
近付いて来た大柄の怖そうな男に、拳は怯えて泣きそうになり、金森は俺と同じく石化状態だ。
「子どもの喧嘩に口を挟みたくないがな、暴力は駄目だ。
特にラン、お前は格闘技を習ってるんだ。
そんなお前が暴力を振るうなんて絶対にしちゃイカンだろ。」
険しい表情の真弓は叱ると言うよりは諭す様な口ぶりで話しながら、俺に近付いて来た。
俺の横に立った真弓は振り上げたままの俺の手を掴み、レバーを下げる様に下に下ろした。
俺の身体を正面に向かせた真弓は、真っ直ぐに立った状態になった俺の両腕をパンパンと叩きながら、俺の顔を見た。
━━違う…違う!俺…俺が悪いんじゃないんだ…!
悪いのは拳で、俺はコイツのせいで大変な目にあってて…
俺は被害者なのに!
なのに真弓が俺に怒ってる…真弓に嫌われる!!━━
真弓のキレイな目がキッと俺を睨む。
見損なったと言われた気がした。
自分の思考に息の根を止められそうになる。
真弓に嫌われる事━━それは、今の俺が考え得る実際に起こったら嫌な事の一番トップだ。
地球滅亡よりも僅差でトップレベル。
「ご……ごめん……ごめんなさい……まゅ……
神鷹のオジさん………」
真弓に嫌われる可能性に恐怖した俺は、言い訳すら言葉に出来ずに小声で震える様に真弓に謝った。
拳と金森には、俺が真弓にひどく怯えた様に見えた事だろう。
その姿を気の毒に思ったのか、金森が俺をフォローする為に石化を振りほどき、拳を指差して真弓に意見した。
「オジさん!!御剣は悪く無い!!
悪いのはコイツ!
コイツが学校で、御剣の変な噂を流したから御剣が怒ってんです!」
「変な噂?」
真弓が俺の両腕に手を掛けた状態で金森の方を向いた。
俺は学校で流れた噂を真弓に知られたくなくて、金森の方に「やめろ、言うな!」とアイコンタクトを送ったのだが、残念な事に金森には気付いて貰えなかった。
「御剣が上級生の女子を好きでキスしたがっているとか!
そんな嘘の噂です!
そんなん流されたら、俺だって殴りたくなる!」
「ランが上級生の女子とキス……そりゃあまた、突飛な噂話だな。
何処から出たんだか……」
真弓がチラッと俺の顔を見た。
俺が学校で、そんな風に思われてしまうような言動をしたのか疑っているのだろうか。
違う、上級生の女子を好きだなんて素振りを俺は一切見せてない!
俺は、噂になったキスの話題が気になったから………
真弓とキス出来ないかなぁとか…
真弓とのキスって、どんなのかとか………
全ては真弓との……真弓の事しか考えてない。
なのに…………
俺……楽しみにしていた週末の真弓とのデート、出来なくてもいい……。
拳の事も許す、学校の噂話だって、なんだって、嫌な事全部我慢する。
だから神様、お願いします。
俺から真弓を取り上げないで━━━━
俺は真弓の革ジャンの裾を指先で摘んだ。
泣きそうな顔をした俺は、無言で真弓の顔を見上げ、「違う」と全身で訴え続けた。
ごめんも言えなくなった俺と目が合った真弓の顔から険しさが消え、少し困った様にフゥっと溜め息を吐いた。
「噂の出どころは拳の嘘です。
コイツ、人の注目を集めたくてすぐ嘘つくんで。」
金森が真弓に答え、離れた場所から拳を小突く仕草をした。
真弓は俺の腕から手を離して金森の方を向いた。
「御剣、普段こんなに怒ったりしないッスよ。
御剣には付き合ってるコが居るらしくて……
そのコに噂を知られたく無いって、拳の事許せなくなったんです。
俺だって好きなヤツ居るから御剣の気持ち分かるし。」
冷静になって考えたら、だからって殴ってもいい理由にはならないのだけれど…
そこは、すぐに手が出る乱暴者の金森らしい正当な理由とやらだ。
「だからって暴力を振るうのは良く無い。
それはランも分かっているよな?」
俺と同じ様な意見を述べた真弓は俺の頭に手を置いて身を屈め、俺と目線を合わせた。
真弓は金森が俺を懸命に庇っているのだと気付いたようで、もう怒ってないと俺に教える様に、少し下げたサングラスの向こう側で目を細めた。
「う…ン………はい、分かって…ます。」
「なら、もうしないな?」
「はい…しません……」
俺は涙目のままで何度も何度も頷き、まだ流れてない涙を手の甲でグシグシとこすった。
真弓は俺の頭に置いた手をポンポンと数回跳ねさせ、「ヨシ」と言って俺から離れた。
「じゃ、この話はオシマイ。ケンカも終わりだ。
寄り道せずに帰れよ、ボウズども。」
俺達から離れて停めたバイクの方に行った真弓は、再びバイクを押しながら、その場を去って行った。
真弓の姿が見えなくなり、緊張が解けた金森と拳はホッとした様に大きな溜め息を吐いた。
俺だけは………ホッとどころか、この世の終わりみたいに生気を無くした顔をして項垂れていた。
真弓は、もう怒ってないって顔をしていた。
でも暴力を振るおうとした所は見られたし、真弓が現れなかったら実際に一発くらいは拳の事、殴っていたと思う。
━━無抵抗の友達に暴力を振るうなんて、最低だな。━━
そう思われたかも知れない。
真弓に嫌われたかも知れない。
「御剣が、そんな泣きそうな表情するなんて……
そんなに怒らせたら怖いオッサンなのか?あの人。
意外と話の分かる感じの人に思えたけど。」
金森は真弓が優しい人なんだと気付いた様だ。
見た目は怖いけど、真弓は本当に優しい人だから………
だから乱暴者の俺は嫌われてもおかしくないかも知れない。
「……すげー怖い人……。
あの人が怒ったら世界が滅亡する……。」
真弓に嫌われたら…俺の世界が終わってしまう。
「はぁ!?そんなに怖い人なのかよ!
おい御剣、大丈夫かよ。
お前、フラフラじゃねーか!」
「走!ごめん!許してくれるよな!?」
俺の消沈した様子に、金森が心配そうに声を掛けた。
そして拳も、今の俺からならすぐに許して貰えそうだと思ってか、金森に便乗する様に声を掛けて来た。
「拳っ!おまっ…!
弱ってる御剣に付け込む様な真似すんじゃねぇよ!」
イラッとした金森の声が耳に入ったが、俺は2人に背を向けたまま緩く頷いた。
何だかもう、どうでもいい…。
俺は、さよならも言わずに2人から離れてフラフラと歩き出した。
「お、おい御剣!
そっちは、お前ン家の方じゃないぞ…!」
金森が何か言ったが聞こえない。
ランドセルが重い。いや、俺の体自体が重い。
ゆっくりトボトボと、足は止まらず動いているけど、どこに向かってるか自分でも分からない。
フラフラになりながら歩き続けた俺は、気が付けば真弓の家の低い垣根の前に立っていた。
そして、拳に向けてグーパンチをお見舞いしようとしていた俺の3人は、いきなり吠える様な怒鳴り声を浴びせられてハタと動きが止まった。
3人揃って、恐る恐る声の主に目を向ける。
そこには押して歩いて来たのかハンドルを握ってバイクの隣に立つ、険しい顔をした真弓が居た。
見知らぬイカツイ見た目のオッサンの剣幕に拳は、殴り掛かっている俺よりも真弓に萎縮して震え上がってしまった。
金森は真弓との面識はあるが、俺から怖い人だと何度も聞かされていた為か、緊張したように身体を強張らせた。
俺はと言うと━━
真弓の顔を見れた喜びよりも何よりも、真弓が物凄く怒っている事と、その怒りが俺に向けられている事に………
ただただショックを受けていた。
身体が石になった様に動けなくなった俺は、振り上げたこぶしを下げる事も出来ずにいた。
呼吸さえ止めてしまわなきゃならないのかと思えるほど、何か1つ動いただけでも、これ以上に真弓の心象が悪くなる気しかしなくて身動きが取れない。
真弓はバイクを路肩に停め、俺達の方に歩いて来た。
近付いて来た大柄の怖そうな男に、拳は怯えて泣きそうになり、金森は俺と同じく石化状態だ。
「子どもの喧嘩に口を挟みたくないがな、暴力は駄目だ。
特にラン、お前は格闘技を習ってるんだ。
そんなお前が暴力を振るうなんて絶対にしちゃイカンだろ。」
険しい表情の真弓は叱ると言うよりは諭す様な口ぶりで話しながら、俺に近付いて来た。
俺の横に立った真弓は振り上げたままの俺の手を掴み、レバーを下げる様に下に下ろした。
俺の身体を正面に向かせた真弓は、真っ直ぐに立った状態になった俺の両腕をパンパンと叩きながら、俺の顔を見た。
━━違う…違う!俺…俺が悪いんじゃないんだ…!
悪いのは拳で、俺はコイツのせいで大変な目にあってて…
俺は被害者なのに!
なのに真弓が俺に怒ってる…真弓に嫌われる!!━━
真弓のキレイな目がキッと俺を睨む。
見損なったと言われた気がした。
自分の思考に息の根を止められそうになる。
真弓に嫌われる事━━それは、今の俺が考え得る実際に起こったら嫌な事の一番トップだ。
地球滅亡よりも僅差でトップレベル。
「ご……ごめん……ごめんなさい……まゅ……
神鷹のオジさん………」
真弓に嫌われる可能性に恐怖した俺は、言い訳すら言葉に出来ずに小声で震える様に真弓に謝った。
拳と金森には、俺が真弓にひどく怯えた様に見えた事だろう。
その姿を気の毒に思ったのか、金森が俺をフォローする為に石化を振りほどき、拳を指差して真弓に意見した。
「オジさん!!御剣は悪く無い!!
悪いのはコイツ!
コイツが学校で、御剣の変な噂を流したから御剣が怒ってんです!」
「変な噂?」
真弓が俺の両腕に手を掛けた状態で金森の方を向いた。
俺は学校で流れた噂を真弓に知られたくなくて、金森の方に「やめろ、言うな!」とアイコンタクトを送ったのだが、残念な事に金森には気付いて貰えなかった。
「御剣が上級生の女子を好きでキスしたがっているとか!
そんな嘘の噂です!
そんなん流されたら、俺だって殴りたくなる!」
「ランが上級生の女子とキス……そりゃあまた、突飛な噂話だな。
何処から出たんだか……」
真弓がチラッと俺の顔を見た。
俺が学校で、そんな風に思われてしまうような言動をしたのか疑っているのだろうか。
違う、上級生の女子を好きだなんて素振りを俺は一切見せてない!
俺は、噂になったキスの話題が気になったから………
真弓とキス出来ないかなぁとか…
真弓とのキスって、どんなのかとか………
全ては真弓との……真弓の事しか考えてない。
なのに…………
俺……楽しみにしていた週末の真弓とのデート、出来なくてもいい……。
拳の事も許す、学校の噂話だって、なんだって、嫌な事全部我慢する。
だから神様、お願いします。
俺から真弓を取り上げないで━━━━
俺は真弓の革ジャンの裾を指先で摘んだ。
泣きそうな顔をした俺は、無言で真弓の顔を見上げ、「違う」と全身で訴え続けた。
ごめんも言えなくなった俺と目が合った真弓の顔から険しさが消え、少し困った様にフゥっと溜め息を吐いた。
「噂の出どころは拳の嘘です。
コイツ、人の注目を集めたくてすぐ嘘つくんで。」
金森が真弓に答え、離れた場所から拳を小突く仕草をした。
真弓は俺の腕から手を離して金森の方を向いた。
「御剣、普段こんなに怒ったりしないッスよ。
御剣には付き合ってるコが居るらしくて……
そのコに噂を知られたく無いって、拳の事許せなくなったんです。
俺だって好きなヤツ居るから御剣の気持ち分かるし。」
冷静になって考えたら、だからって殴ってもいい理由にはならないのだけれど…
そこは、すぐに手が出る乱暴者の金森らしい正当な理由とやらだ。
「だからって暴力を振るうのは良く無い。
それはランも分かっているよな?」
俺と同じ様な意見を述べた真弓は俺の頭に手を置いて身を屈め、俺と目線を合わせた。
真弓は金森が俺を懸命に庇っているのだと気付いたようで、もう怒ってないと俺に教える様に、少し下げたサングラスの向こう側で目を細めた。
「う…ン………はい、分かって…ます。」
「なら、もうしないな?」
「はい…しません……」
俺は涙目のままで何度も何度も頷き、まだ流れてない涙を手の甲でグシグシとこすった。
真弓は俺の頭に置いた手をポンポンと数回跳ねさせ、「ヨシ」と言って俺から離れた。
「じゃ、この話はオシマイ。ケンカも終わりだ。
寄り道せずに帰れよ、ボウズども。」
俺達から離れて停めたバイクの方に行った真弓は、再びバイクを押しながら、その場を去って行った。
真弓の姿が見えなくなり、緊張が解けた金森と拳はホッとした様に大きな溜め息を吐いた。
俺だけは………ホッとどころか、この世の終わりみたいに生気を無くした顔をして項垂れていた。
真弓は、もう怒ってないって顔をしていた。
でも暴力を振るおうとした所は見られたし、真弓が現れなかったら実際に一発くらいは拳の事、殴っていたと思う。
━━無抵抗の友達に暴力を振るうなんて、最低だな。━━
そう思われたかも知れない。
真弓に嫌われたかも知れない。
「御剣が、そんな泣きそうな表情するなんて……
そんなに怒らせたら怖いオッサンなのか?あの人。
意外と話の分かる感じの人に思えたけど。」
金森は真弓が優しい人なんだと気付いた様だ。
見た目は怖いけど、真弓は本当に優しい人だから………
だから乱暴者の俺は嫌われてもおかしくないかも知れない。
「……すげー怖い人……。
あの人が怒ったら世界が滅亡する……。」
真弓に嫌われたら…俺の世界が終わってしまう。
「はぁ!?そんなに怖い人なのかよ!
おい御剣、大丈夫かよ。
お前、フラフラじゃねーか!」
「走!ごめん!許してくれるよな!?」
俺の消沈した様子に、金森が心配そうに声を掛けた。
そして拳も、今の俺からならすぐに許して貰えそうだと思ってか、金森に便乗する様に声を掛けて来た。
「拳っ!おまっ…!
弱ってる御剣に付け込む様な真似すんじゃねぇよ!」
イラッとした金森の声が耳に入ったが、俺は2人に背を向けたまま緩く頷いた。
何だかもう、どうでもいい…。
俺は、さよならも言わずに2人から離れてフラフラと歩き出した。
「お、おい御剣!
そっちは、お前ン家の方じゃないぞ…!」
金森が何か言ったが聞こえない。
ランドセルが重い。いや、俺の体自体が重い。
ゆっくりトボトボと、足は止まらず動いているけど、どこに向かってるか自分でも分からない。
フラフラになりながら歩き続けた俺は、気が付けば真弓の家の低い垣根の前に立っていた。
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