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24・神鷹真弓、混乱ののちに妥協。

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グイグイ顔を押し付けつつ真弓の胸下に抱き着く俺を真弓が見下ろした。
フザけた事を言うな、と不愉快そうな顔をされるのかと思った。
真弓にそんな顔をされたとしても、冗談だなんて言えない。
絶対に引いたりしない、俺の本心を誤魔化したりしたくない。
そんな覚悟をしながら恐る恐る真弓を見上げた。

イヤそうな顔をしているかと思っていた真弓は、キョトンとした子どもみたいな表情をしていた。
不愉快そうな顔ではないけど、どちらにしろ「ナニ言ってんだ?」って顔だよな、これ…。



「………そうか。
分かった、お前の真弓になろう。」



真弓が俺の頭を撫でながら、何かあっさりOKした。
ああ、そうか……。
真弓が考える『俺の真弓』ってのは、俺だけと仲良くしてくれるオジサンって意味なんだろうな。
だけど俺の言ってる「俺の真弓」ってのとは意味が全然違う。
違うけれど、本当の事を言っちゃ…駄目なんだろうな。
真弓に恋をしているから好きだなんて言ったら、きっと真弓に嫌われる。
それでもやっぱり、自分の気持ちを誤魔化したくない。



「真弓が好き……。
俺の、恋人になって…。」



真弓が宝石の様な水色と灰色の混ざった目を大きく開いて驚きの表情を見せた。

真弓からすれば、会って間もない子どもが何を急に言い出してんだなんて思ってるんだろう。
正直なトコ、俺もそう思う。
だけど好きって気持ちはもう止まらないし、俺の気持ちを伝えない間に真弓を他の誰かに取られるのもイヤだ。
そう思ったら言わずにはいられなかった。



「まさかの、そっち………?」



真弓は俺の「恋人になって」に僅かな戸惑いを見せたが、少し考えてから頷いた。



「分かった。いいぞ、恋人になっても。
ただし、ランはまだ子どもだからな。
健全なお付き合いをさせて頂く事とする。」



「恋人にっ…!いいの!?」



意外な返事を返された。
断るのは当然、嫌われるかも知れないし不愉快な思いをさせると思っていたのに。
恋人になってくれるって答えが嬉しくて、その後の真弓の言葉をよく聞いてなかった。
ただもう嬉し過ぎて、抱き着いたまま真弓を見上げて上目遣いで訊ねてみる。



「じゃあキスとか、してもいいの!?」



「はぁ!?していいワケあるか!
話を聞けい!ガキンチョ!」



ペシッとスライドする様に真弓に頭をはたかれた。
両肩に手を置かれ、真弓に抱き着いた身体がベリッといった感じで剥がされる。
切ない顔で見つめる俺を置いたまま、真弓が靴を脱いで先に中に上がった。



「お前もいつまでも玄関に突っ立ってないで一回ウチに入れ。
それから、ちゃんとルールを決めよう。」


ルール…?



茶の間に通された俺は、ちゃぶ台を挟んで真弓と向かい合って座る。
畳に尻をつけて座った俺には、ちゃぶ台が少し高く感じる。
だから居住まいを正すって理由ではなかったのだが、座高を上げる為に俺は真弓の前で正座をした。
それが真弓には、より真剣味を帯びたものとして映った様だ。
真弓は胡座をかいて腕を組み、難しい顔をして正座をする俺を見た。


「恋人って呼び方はともかく、俺は御剣走の大事な人として付き合っていこうと思う。
だが、お前はまだ子どもだ。
お前が成長するまでは大人の様な付き合い方は出来ん。
キスも無し。
成長するまで、それに耐えれるなら付き合ってやる。」



「真弓はアメリカに居た事もあるんだろ。
じゃあ、キスなんて軽い挨拶なんじゃないの。」



「ここは日本だろうが。
それに向こうに居た時も挨拶にキスなんかした事ネェよ。
俺は日本生まれの日本育ち、中身は日本人だからな。」



そう聞いてホッとしている自分が居る。
真弓とキスが出来るかもしれない理由を断たれたものの、アメリカでは挨拶でキスをしまくっていたなんて聞きたくはなかったし。



「あのなぁ…さっきからキスって言葉を何度も言ってるが…
お前が言っているキスは、どこにするキスだよ。」



「…………くちと…くち?」



「たかが挨拶をするのに、口でキスなんかするかい!
欧米人がやたら誰にでもキスしてるとかって考えは間違いだぞ!…つーか………
ナニお前、俺と口でキスするつもりだったのか?」



焦った様に真弓がちゃぶ台をバンっと叩いた。
あ、いけない。引かれてしまう。
これは隠しておくべきだったかも。
でも今更隠して何か意味ある…?



「挨拶とかじゃなく、真弓とは恋人同士がするキスがしたい。」



「はぁ!?ナニ言ってんだー!お前はっっ!!」



真弓が両手で目と額を押さえて苦悩のポーズを取るみたいに上を向いた。

真弓は自分が悪いと思えば俺みたいな子どもにも、ちゃんと謝ってくれるし、誤魔化したり逃げたりせずに、こうやって向き合ってくれる。
「ガキがふざけんな」と言って話を終わらせてしまえない真弓は、なんて不器用なんだろうな。
そんな真弓が大好きだ。
だから俺も、この場を誤魔化したり逃げたりしない。



「…ごめん。でも、俺…。
本気で真弓が好きになっちゃったんだ。」



「あー待て待て…。
いくら元がラファエル皇子のファンだからってな…
いや、それにしても早くないか?
…そもそも、こんなガラの悪いオッサンを?好き?
小学生の男子が?ハー?
いやぁ…ちょっと待て………えぇー…?」



真弓が本格的に悩み出した。
真弓が思いつく、俺が真弓を好きになった理由やきっかけに納得がいかないらしく、ブツブツと口に出してみては軽く首を捻っている。
納得いかないから、やっぱり恋人になるのはやめとこうって言われたら、どうしよう。
俺、マジ泣きするかも。



「………分かった。
さっき約束したからな、俺達は恋人同士という事にしよう。
だが、さっきも言った通り、ランはまだ子どもだから健全なるお付き合いをさせて頂く。当然キスは無しだ。
だが、まぁ…デート位はしてやる。」



真弓が自分の中で、何とか折り合いを付けたみたいだ。
恋人という立場になってはくれるけど、恋人らしく濃厚なイチャイチャはしないという事にしたらしい。



「だったら真弓、俺からもお願い。
俺は確かに子どもだし、真弓の言った通りキスは我慢する。
でも、中学を卒業した時にはキスをさせて。」



「中学を卒業で?……は、早くねぇか?
って言うか……キスをして、でなくて……させて、なんだ。
俺が受け身?それマジか…?それとも言葉のあやか?」



真弓がまた悩み出した。
ちゃぶ台に肘をついて、片手の平で額を押さえている。
俺は正座をしたまま、悩む真弓を黙って見続けた。
真弓が条件を出すなら、俺からも出して良いだろう。
真弓がこの条件を飲むまで、絶対に引かない。



「分かった、じゃあ、そーゆー事にしよう。
あと、俺達が恋人同士って事は誰にも言わない事。
それでいいか?」



「うん、分かった!」



本当なら、真弓は俺の恋人だってみんなに自慢したい。
だけど、言ったら絶対に色んな邪魔が入る。
だから今はまだ言わない事にしとこう。



「はー…悪い、隣の縁側で煙草吸って来る。」



真弓がユラッと立ち上がり、部屋を出て行こうとした。
ちゃぶ台に両手をついて、俺も真弓に合わせて立ち上がる。



「俺も一緒に行く!!……んぁあ!ちょーッッ!」



正座なら慣れているハズなのに、真弓との話で緊張していたせいもあるのか、俺の足が痺れてしまったようだ。
思い切り立ち上がったせいで、そのままビターンと倒れそうなほどハデによろけた。



「わっ、危ねえ!!」



伸ばされた真弓の腕に倒れる前にしがみつき、真弓はしがみついた俺を腕の内側に抱き込んで胸板で俺の身体を支えた。
真弓の腕の中に、すっぽりと収まってしまう俺。

偶然とは言え、真弓の胸に抱きしめられている。
いや、さっきも玄関でこんな感じだった。

真弓と密着する事が嫌なワケじゃない。
だけど、この体格差が恨めしい。
俺は早く大きくなって、俺が真弓を抱き締めたい。



「絶対…。」



「あ?絶対?」



「中学を卒業してキスする頃には、俺の方が真弓を抱き締めるほど大きくなってるから。」



「ぶっ…!」



真弓が俺がしがみついてない方の手で口を押さえて噴き出した。


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