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15・神鷹真弓と御剣走、監督に挨拶。

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映画が始まり、俺は真弓の隣で大きなスクリーンに見入った。

大好きなメタトロンの続編、上映されたら絶対に観に来るつもりだった。

とは言え前作が20年も前の作品とあって、客席をぐるり見渡せば子どもはあまりおらず、前作を知っているのだろう、大人の男の人が多い。

俺のお父さんと同じで特撮が好きって人も多いのだろうな。

でも、その人達だって今の真弓を見ても、あの少年時代のラファエル皇子だなんて気付かないだろう。

あの少女のように美しかったラファエル皇子が、今こんな恐ろしい姿のオッサンになってるなんて、誰も思わないよな。

気付いたとしても、声を掛けるのには相当な勇気がいるかと思う。
裏通りに連れて行かれてボコボコにされそうな感じするもんね。



『私は、皇帝ラファエル。
騎士メタトロンを継いだ者だ。』



俺の隣の真弓がピクっと反応した。

前作の主人公って設定でスクリーンに現れた俳優は、メタトロンを演じていた城之内ヤスヒロ本人ではなく、他の特撮ヒーローものによく出演している俺のよく知る29歳の俳優だった。

隣の真弓から、緊張が解けたような小さな溜め息が漏れた。

城之内ヤスヒロはもう40歳越えてるし、俳優を続けてるかも分からないけど、やっぱり一緒に仕事をしていた人が出てると緊張したりするモンなのかな。

真弓が緊張したような態度を見せたのは、その時だけだった。




前作に関連して出て来たのは、皇帝ラファエルだけだった。

特撮としての完成度は高くて見ていて面白かったが、前作との関連が少なくて、メタトロンの続編と言うには少し寂しい気もする。

メタトロンのヒロインがラファエル皇帝の皇妃になっているとか、その二人の子どもが次のメタトロンを継ぐとか…。

そんな展開を少し期待していたんだけどな。



映画が終わり、主人公サンダルフォン役の俳優さんと、ヒロイン役の女優さん。
そして監督さんらがスクリーンの前に立ち、挨拶をした。


真弓は何も映らなくなったスクリーンを見て、少し寂しいような表情をした。

……まさか…自分も映画に出たかったのだろうか。



「ボウズ、面白かったか?」



「う、うん!見たかったんだ、サンダルフォン!
お父さんより先に見れちゃって、自慢出来る。」



不意に話しかけられて、返事を少し詰まらせる。
真弓が目を伏せ、「なら良かった」と小さく呟いた。


挨拶が終わり、お客さんが席を立ち始めてゾロゾロと流れる様に出口に向かう。



「ボウズ、監督に挨拶に行くが、いいか?」



「メタトロンの監督!俺も挨拶したい!!
ファンですって!!」



「スゲーな、監督のファンって。
ボウズは本当に特撮オタクなんだなぁ。」



ほとんど、お父さんの影響なんだけどね。
頭にガシッと手の平を置かれ、グイと一瞬だけ真弓の身体の方に俺の頭が寄せられた。

ほんの一瞬だけど、真弓の胸に抱き締められたような感じになった。
真弓の香りがブワッと鼻孔を通る。

飾り気のない真弓は香水的な物を一切つけておらず、Tシャツに染み込んだ革ジャンのニオイと微かな汗のニオイ、そして柔軟剤かシャンプーなのか、ほのかな良いニオイがブレンドされた真弓の香りをダイレクトに吸ってしまった。

ボワッと顔に熱が集まったから、顔が赤くなったと思う。
明かりがついても館内は薄暗くて、俺の顔色なんて見えなかったと思うけど。

ちょ…ドキドキが止まんないんだけど…!


真弓が俺の手を握った。真弓とおてて繋いでるぅ!

真弓が俺の手を引いてスクリーンの方に向かう。
そして、スタッフらしき人達と話している監督の方に向かって行った。



「監督、ご無沙汰しております。
神鷹です。」



「…………!!神鷹!真弓君か!!いやぁ!いやー!!
分からなかったよ!!20年近くぶりだね!
いやー立派な大人になって!!!」



監督は、一瞬真弓が誰か分からなかった様だった。
小さかった真弓しか知らないなら、今の180センチは越えるであろう真弓の姿は想像出来ないよな。



「その子は…君の子どもかい?」



まぁ言われるだろうとは思ったけど…。



「はじめまして、御剣走です。
監督のデビュー作、天空仮面騎士メタトロンの大ファンです!
神鷹のお兄さんとは、ご近所さんなので連れて来て貰いました。」



真弓の手間を減らすために、とりあえず俺から情報を先に出した。
真弓が少し微笑んで、俺の頭を撫でる。



「コイツの父親がメタトロンのファンで、小さい頃から見せられていたらしいんですよ。
自分が生まれるより前の作品を好きだって言ってくれるなんて嬉しくて…まぁ仲良くなりました。」



「いやー!それは嬉しいね!
あの頃の真弓君を思い出すねー。
いつも城之内君と一緒にいた………彼とは今も?」



俺の頭を撫でたまま、頭の上に置かれた真弓の手が僅かに強張った。



「いえ、僕は18年ほど前にもう役者を辞めてるんで…。
城之内さんとはそれ以来、会ってません。」








映画館から出た真弓は、少し沈んでいる様に見えた。
ニブい俺でも……ううん、真弓を好きな俺だから分かってしまう。
いつも通りを装う真弓の、僅かな表情の差を。



「真弓、俳優の城之内ヤスヒロと…何かあった?」



今思えば、皇帝ラファエルがスクリーンに出た時に真弓が緊張したようにピクっとなったのも、城之内ヤスヒロかもと一瞬思ったからなんだ。



「あーバレバレかぁ。はははは。
まぁ、大した事じゃねぇんだけどよ。昔な…
…………………。」



軽い口調で話そうとした真弓が、言葉を詰まらせた。
大した事じゃないと言ったけれど、真弓にとっては軽い口調で話せるような事ではないのかも知れない。



「話さなくていいよ!
嫌なこと、思い出さなくていいから!
今日は、俺とデートしてるんでしょ?
楽しいままで終わろうよ!」



隣を歩く真弓の顔を見上げ、立ち止まった俺は真弓の手をギュッと握った。
大好きな真弓に、そんな顔をしてほしくない。

ツラい事や悲しい事、そんな話を真弓が自分から俺に聞いて欲しいと思えるような…。
そんな俺になれるよう、俺が頑張るから!



「今でなくていいよ、真弓が俺になら話していいって思える様になったら話して。
俺…真弓に頼られるような大人の男になるから!
必ずなるから!」



手を繋いだ状態で隣の俺を見下ろす真弓が、キョトンとした顔をしている。
俺が言った言葉は、真弓からしたら想定外だったのだろう。



「……んー……あー……なんつーか……」



真弓がゆっくりと視線を俺から離し、ゆっくりと無精ひげの生えた顎を撫でさすりながら、俺に言われた言葉を噛み締める様に数回ゆっくりと頷いた。



「コレは…何だろな…プロポーズされた気分だわ。」



俺は違うとも、そうだとも言わなかった。
真弓に、プロポーズなんてするワケ無いよななんて思われたくなかったし
真弓には、こんな弱味につけ込んだようなのじゃなくて、もっとちゃんと言いたい。
今、本気だと言って信じて貰える筈も無いし。



「今日は俺の初デート記念日だし、真弓と楽しかった事だけ覚えときたいんだ。」



「初デート?初デートの為の予行練習って事にしとけ。
ボウズなら、あと数年で彼女が出来るだろうしな。」



「なんで?」



手を繋いだままでゆっくり二人で街を歩きながら言葉を交わす。
途中で、真弓が俺と手を繋ぎっぱなしだと気がついた。
真弓の手を握ったまま、ニコニコしている俺を見た真弓が、俺と手を離す事を諦めた。



「お前が、見た目も中身もイイ男だからだよ。」



ハハッと笑った真弓は、目尻に笑いシワを浮かべた。
これが、真弓の本物の笑顔なんだなぁ……
若くないなぁオッサンだなぁ…本気で笑うとシワが出るなんて。


これが真弓の素の笑顔なんだ。
可愛すぎて


好きな気持ちが加速する。
大好きだ……真弓が…。


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