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144話◆真打ち登場、メイでッす!!
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━━スファイが死んだら…メイは悲しむのかしら。
好きでは無かったとしても、あんなにメイに懐いていたスファイの死はさすがに悲しむわよね、きっと。
ってゆーか…ディアーナは、イベント攻略の成功率に親密度が関わってる的な事言ってたわよね。
誰と誰の親密度を指してるか分からないけど、それ大丈夫なの?━━
メイとスファイの親密度なら0に近いんじゃなかろうか…そんな事を考えながら深刻そうに表情を曇らせたわたしを見たサイモンが、心配そうにわたしを優しく抱き寄せて両腕で包み込んだ。
「大丈夫だ、めぐみ…何があっても俺が君を守り抜く。
そして君を悲しませないよう、スファイを救う事にも尽力しよう。」
サイモンは、わたしが今回の事件に対して恐怖を感じているのだと思ったご様子。
また事件の渦中に巻き込まれるのではないかと不安がっていると思ったみたい。
「ありがとうサイモン、わたしは大丈夫よ。
ただスファイの身が心配で…それとメイの事も心配で」
不安よりはスファイが無事であるかの心配そして、メイのスファイに対する気持ちが冷淡ではないかとの心配。
メイはメイで事件の手掛かりを得るために伝説だかおとぎ話だかの情報を手に入れようとしているってサイモンが言ってたから、それってスファイの事を心配しているんだって思いたい。
でないと何てゆーか余りにもスファイが不憫で…。
2人の親密度とやらが実際はどれくらいなのか分からないけど。
━━コンコン
寝室のドアがノックされた。
わたしとサイモン、カチュアの視線がドアに集まる。
わたしを庇う様に抱き寄せたままのサイモンに促され、カチュアがドアに向かった。
サイモンもカチュアも今の状況では邸内と言えど警戒を怠る事は出来ないと考えているみたいだ。
警戒しながらドアに近付いたカチュアが、ドアの向こうに声を掛ける。
「どなたでいら………ッッ!!」
カチュアが声を掛けたと同時にドアがバンッと勢い良く開いた。
咄嗟にドアから飛び退いたカチュアが小型のナイフを手に身構え、臨戦態勢に入る。
「何者だ!!」
「メイでっっす!ただいま戻りましたぁ!!
あああ!奥様!お会いしたかったぁ!」
町娘の様な衣服のままで、いきなりわたし達夫婦の寝室に飛び込んで来たメイは、今にもわたしに飛び付きそうな勢いでわたしとサイモンのいるベッドまで駆け寄る様に近付いて来た。
怪訝そうな顔をしたサイモンが、わたしをメイから隠す様に抱き締める。
「こちらがドアを開く前に主夫婦の寝室に飛び込んで来る侍女がいるか!このたわけが!」
眉間にシワを寄せて苛立ちをあらわにしたサイモンがメイに強い語調で言い放つが、メイは何処吹く風状態でわたし達のベッドの前まで来て、わたしを見てうっとり頬を赤らめた。
その態度は侍女としてどうなのよって、わたしも思う。
「メイ!馬鹿!なぜ名乗りもせず飛び込んで来たりした!
賊が来たかと思ったじゃないか!
危うく刺す所だったんだぞ!」
カチュアは怒りと苛立ちをあらわにした大声でメイを怒鳴りつけ、メイの後ろ襟を掴んでサイモンとわたしの前から引っ張って離した。
悪びれる様子も無いメイは、カチュアに後ろ襟を掴まれたまま頭を掻いてヘラリと笑う。
「いやぁ一刻も早く奥様のお顔を見たくて我慢出来なくて…
もう可愛い奥様に会いたくて会いたくて。
………抱き着きたくて。」
「抱き着き…お前は…なんと命知らずな奴なんだ…。
いつかサイモン様によって生命を絶たれるぞ。」
溜め息をつきながら呆れ顔になったカチュアは、メイを叱る事を諦めたようだ。
怖いもの知らずなメイの目にサイモンは映ってないし、カチュアの注意も呆れた声も聞こえてない様子。
しばらく会えなかったせいか、わたし好きに拍車が掛かってない?何かヤバい。
その感情を少しでもスファイに向けてやったらどうだろうか。
「………で?何か情報は手に入ったのか?
喜び勇んで飛び込んで来たのだ。
何も無かったでは許さんぞ。」
サイモンがギロリとメイを睨みつける。
もはやサイモンにとっては、男性であるスファイよりもメイの方がわたしに手を出したがる危険人物扱いのようだ。
メイに、さっさと用を済ませて部屋を出て行けと言わんばかりの圧を掛ける。
「はぁー器小さぁ…奥様、こんな男のどこがいいんだろう…。
て言うか、なんでこんな男に惚れてたンかな私。」
メイが小さく呟いた。
サイモンの表情が強張り、わたしとカチュアの顔が青くなる。
いやそれ、めっちゃ聞こえてるって!
ホントに命知らずだな!
「えーっと、今回の件に関係あるかどうかまでは分かりませんけど一応、うちのジジーから『赤と青の宝石』にまつわる伝承らしきモンは聞いて来ました。
ジジーが居た、ロマの民の一部に語り継がれた神の使徒の話をジジーの言葉のまま言いますよ?」
仕切り直すようにメイが話し始めた。
メイのお祖父様が語り部だか吟遊詩人だかとサイモンは言っていたけど、元がロマの民なんだ。
ロマの民…前世でも聞いた事があるけど、少数部族だったかジプシーみたいな人達の事だったっけ…?
メイがスゥっと息を吸い込んだ。
静かなメロディをハミングで口ずさみ、歌う様にメイが言葉を語りだした。
━━この世界を創られた創造神様は
愛娘である女神のために神の力の一端を持つ神の使徒を遊び相手としてお造りになられました。
産まれたばかりの神の使徒が育つまで、創造神様は神殿をお与えになり、使徒は神殿を揺り籠がわりに眠りにつきました。
創造神様の愛娘である女神は成長し遊び相手を欲っさなくなり、神の使徒は忘れ去られた存在となり果てました。
忘れ去られた使徒は深い谷奥の静寂なる神殿にて、新たな主を待つ身となりました。
太陽の赤と月の青の宝石を捧げる事により使徒は目醒めるのです。
そして深い眠りから解き放ち、その名を呼ぶ者を主と認めるでしょう。
使徒の名は炎を操る畏怖の……………━━
「ここで詩は途切れちゃうんですよ。」
メイが途中で歌うのをやめた。
忘れ去られた使徒の名前を語る肝心な部分が語られてないけど、名を呼ばれて主と認めるならば誰もが使徒の名前を知っていたらマズイか。
「…………………。」
サイモンとカチュアが真剣な顔で聞いているから言えないけど………
幼い娘の女神のために遊び相手を創ってあげたみたいな、創造神様は子煩悩な父親ですみたいな話だけど……
愛娘ってディアーナだよね。
ディアーナの遊び相手って、それもうガチバトルの相手って意味じゃないの?
このやっつけ仕事的に作られた伝承って、古い言い伝えってテイにしてるけど、最近出来たモンでしょ。
つか、あれか。
メイのお祖父様って、ゲームで言うトコの話し掛けたらイベントスイッチの入るNPC扱いか。
で、炎を操る畏怖のって…その神の使徒とやらってイフリートじゃないの?
ゲームやマンガでは、ある意味定番じゃん。
ホントに、やっつけ仕事だなぁ。
面倒くさがりのジャンセンさんらしいわ。
「炎を操る神の使徒とやらが悪意ある者を主と認めたら大変な事になる。
谷奥にある女神の使徒が祀られた神殿に行かねば……」
サイモンが真剣な顔で呟いた。
その神殿って砕いた言い回しをすると、ディアーナのガチバトル相手が放置プレイされてる神殿って事なのよね。
カチュアは途中で女神がディアーナだと気付いたようで、複雑な表情をわたしに向けた。
「だがその様な場所に心当たりは無い…………
む?あるな…」
わたしの頭の中に、たった今それらしき場所がポンと浮かんだ。
ゲームで、イベントが発生したらマップ上に急に現れたり、入場不可能だったダンジョンが入場可能になるみたいな感覚。
「サイモン様、私も今思い出しました……
王都の外壁から出て山岳地帯方面の立ち入り禁止区域に確かに、そんな場所がありました。」
カチュアがサイモンに同意して頷いた。
思い出したと言うか、わたし達のイベントスイッチが入ったんだろうな。
同じタイミングで、その場所が頭に浮かんだもの。
「あの谷奥へと続く道は魔獣が多く余りにも危険で、人が容易に近付けるような場所では無いのだが。
それゆえに存在を忘れていた。」
「場所が分かったとは言え、事前の準備も無く簡単に行ける場所ではありませんものね…。」
「ああ、明日の昼には出立出来る様に用意をしよう。
他の行方不明者も居る可能性がある。
敵となる者も居るだろうが道中現れる魔獣も倒さねばならない。
師匠に言って、俺の部隊を動かせないか頼んでみよう。」
何か、サイモンとカチュアが明日、その場に向けて邸を出ると話をしている。
今まで不遜な態度を取っていたメイが、初めて少し慌て出した。
「あのっ!あくまで、伝承ですからね!?
ホントに、今回の誘拐事件と関連があるかなんて保証ないですし!
その場に行っても、スファイの馬鹿が居るとは限らないし…!」
いーや絶対に居るよ。
イベントスイッチ入ったし脳内マップに新規ダンジョン現れたし。
何より、何の確証もないのにサイモンがダンジョンに行く気満々になってる時点でイベントは始まってしまってる。
「ただのおとぎ話であったとしても、他に手掛かりらしき物を得られない我々はそれに縋るしか道が無いだろう。」
「もし全然違う所にいたりするなら…アイツ、どうなっちゃうんです…?
助けに行くのが遅れたら殺されてしまったり…」
メイの口から初めてスファイを心配する様なセリフが聞けたわたしは嬉しくなり、満足げに微笑みを浮かべ思わずテンションが上がってしまった。
「大丈夫よメイ!わたしには分かるの!
スファイはその神殿に居るわ!
わたし達でスファイを助けましょう!
さぁサイモン!明日の出発に向けて準備をしましょ!
わたしも動きやすい衣装を用意しなくては!」
「…いや、なぜ一緒に行くつもりになっているんだ。
君は留守番に決まっているだろう。
身重の君をそんな危険な場所に連れて行けるワケが無い。」
サイモンだけではなくカチュアも、メイですら「奥様は留守番に決まってるでしょ」って顔でわたしを見ている。
そうだった、わたしは妊婦さんかも知れないんだ。
で、でもっでもっっ!!
ゲーム内で回収出来なかったサブクエストの顛末を、この目で見たい!
「ま、まだ、ちゃんと診察してませんし!
赤ちゃん居ると決まったワケじゃないですし!」
「懐妊していなくとも、その様な危険な場所に君を連れて行けるワケが無かろう。
その場所には兵士を連れて俺が行く。
君はカチュアやメイと共に邸に居るんだ。」
ああああ!!サイモンの言う事は、ごもっともなんだけど!
なんだけど……なんだけど!
何だか胸がザワザワと騒がしい。
わたしは今、チャートの分岐に立っているっぽい。
サイモンと一緒に神殿に行く?の先、ハイ、イイエの前に立っている。
この選択で誰かが不幸になる気がする。
わたしが行かずに邸に居れば、わたしとカチュア、メイの身は安全なのだろう。
サイモンにも心配を掛けずに済む……………けどぉ!
そうしたら、わたしのチャートがここで終わってしまって、消化イベントの先のエンディングは絶対に大団円ではない。
「サイモン……わたしを連れてって下さい。
って言うか、連れてってくれなきゃ何かマズイ気がする。」
「めぐみー?」
冷気を纏ったサイモンが優しく微笑みながら、わたしを見た。
めちゃくちゃイラッとしてるじゃん………。
好きでは無かったとしても、あんなにメイに懐いていたスファイの死はさすがに悲しむわよね、きっと。
ってゆーか…ディアーナは、イベント攻略の成功率に親密度が関わってる的な事言ってたわよね。
誰と誰の親密度を指してるか分からないけど、それ大丈夫なの?━━
メイとスファイの親密度なら0に近いんじゃなかろうか…そんな事を考えながら深刻そうに表情を曇らせたわたしを見たサイモンが、心配そうにわたしを優しく抱き寄せて両腕で包み込んだ。
「大丈夫だ、めぐみ…何があっても俺が君を守り抜く。
そして君を悲しませないよう、スファイを救う事にも尽力しよう。」
サイモンは、わたしが今回の事件に対して恐怖を感じているのだと思ったご様子。
また事件の渦中に巻き込まれるのではないかと不安がっていると思ったみたい。
「ありがとうサイモン、わたしは大丈夫よ。
ただスファイの身が心配で…それとメイの事も心配で」
不安よりはスファイが無事であるかの心配そして、メイのスファイに対する気持ちが冷淡ではないかとの心配。
メイはメイで事件の手掛かりを得るために伝説だかおとぎ話だかの情報を手に入れようとしているってサイモンが言ってたから、それってスファイの事を心配しているんだって思いたい。
でないと何てゆーか余りにもスファイが不憫で…。
2人の親密度とやらが実際はどれくらいなのか分からないけど。
━━コンコン
寝室のドアがノックされた。
わたしとサイモン、カチュアの視線がドアに集まる。
わたしを庇う様に抱き寄せたままのサイモンに促され、カチュアがドアに向かった。
サイモンもカチュアも今の状況では邸内と言えど警戒を怠る事は出来ないと考えているみたいだ。
警戒しながらドアに近付いたカチュアが、ドアの向こうに声を掛ける。
「どなたでいら………ッッ!!」
カチュアが声を掛けたと同時にドアがバンッと勢い良く開いた。
咄嗟にドアから飛び退いたカチュアが小型のナイフを手に身構え、臨戦態勢に入る。
「何者だ!!」
「メイでっっす!ただいま戻りましたぁ!!
あああ!奥様!お会いしたかったぁ!」
町娘の様な衣服のままで、いきなりわたし達夫婦の寝室に飛び込んで来たメイは、今にもわたしに飛び付きそうな勢いでわたしとサイモンのいるベッドまで駆け寄る様に近付いて来た。
怪訝そうな顔をしたサイモンが、わたしをメイから隠す様に抱き締める。
「こちらがドアを開く前に主夫婦の寝室に飛び込んで来る侍女がいるか!このたわけが!」
眉間にシワを寄せて苛立ちをあらわにしたサイモンがメイに強い語調で言い放つが、メイは何処吹く風状態でわたし達のベッドの前まで来て、わたしを見てうっとり頬を赤らめた。
その態度は侍女としてどうなのよって、わたしも思う。
「メイ!馬鹿!なぜ名乗りもせず飛び込んで来たりした!
賊が来たかと思ったじゃないか!
危うく刺す所だったんだぞ!」
カチュアは怒りと苛立ちをあらわにした大声でメイを怒鳴りつけ、メイの後ろ襟を掴んでサイモンとわたしの前から引っ張って離した。
悪びれる様子も無いメイは、カチュアに後ろ襟を掴まれたまま頭を掻いてヘラリと笑う。
「いやぁ一刻も早く奥様のお顔を見たくて我慢出来なくて…
もう可愛い奥様に会いたくて会いたくて。
………抱き着きたくて。」
「抱き着き…お前は…なんと命知らずな奴なんだ…。
いつかサイモン様によって生命を絶たれるぞ。」
溜め息をつきながら呆れ顔になったカチュアは、メイを叱る事を諦めたようだ。
怖いもの知らずなメイの目にサイモンは映ってないし、カチュアの注意も呆れた声も聞こえてない様子。
しばらく会えなかったせいか、わたし好きに拍車が掛かってない?何かヤバい。
その感情を少しでもスファイに向けてやったらどうだろうか。
「………で?何か情報は手に入ったのか?
喜び勇んで飛び込んで来たのだ。
何も無かったでは許さんぞ。」
サイモンがギロリとメイを睨みつける。
もはやサイモンにとっては、男性であるスファイよりもメイの方がわたしに手を出したがる危険人物扱いのようだ。
メイに、さっさと用を済ませて部屋を出て行けと言わんばかりの圧を掛ける。
「はぁー器小さぁ…奥様、こんな男のどこがいいんだろう…。
て言うか、なんでこんな男に惚れてたンかな私。」
メイが小さく呟いた。
サイモンの表情が強張り、わたしとカチュアの顔が青くなる。
いやそれ、めっちゃ聞こえてるって!
ホントに命知らずだな!
「えーっと、今回の件に関係あるかどうかまでは分かりませんけど一応、うちのジジーから『赤と青の宝石』にまつわる伝承らしきモンは聞いて来ました。
ジジーが居た、ロマの民の一部に語り継がれた神の使徒の話をジジーの言葉のまま言いますよ?」
仕切り直すようにメイが話し始めた。
メイのお祖父様が語り部だか吟遊詩人だかとサイモンは言っていたけど、元がロマの民なんだ。
ロマの民…前世でも聞いた事があるけど、少数部族だったかジプシーみたいな人達の事だったっけ…?
メイがスゥっと息を吸い込んだ。
静かなメロディをハミングで口ずさみ、歌う様にメイが言葉を語りだした。
━━この世界を創られた創造神様は
愛娘である女神のために神の力の一端を持つ神の使徒を遊び相手としてお造りになられました。
産まれたばかりの神の使徒が育つまで、創造神様は神殿をお与えになり、使徒は神殿を揺り籠がわりに眠りにつきました。
創造神様の愛娘である女神は成長し遊び相手を欲っさなくなり、神の使徒は忘れ去られた存在となり果てました。
忘れ去られた使徒は深い谷奥の静寂なる神殿にて、新たな主を待つ身となりました。
太陽の赤と月の青の宝石を捧げる事により使徒は目醒めるのです。
そして深い眠りから解き放ち、その名を呼ぶ者を主と認めるでしょう。
使徒の名は炎を操る畏怖の……………━━
「ここで詩は途切れちゃうんですよ。」
メイが途中で歌うのをやめた。
忘れ去られた使徒の名前を語る肝心な部分が語られてないけど、名を呼ばれて主と認めるならば誰もが使徒の名前を知っていたらマズイか。
「…………………。」
サイモンとカチュアが真剣な顔で聞いているから言えないけど………
幼い娘の女神のために遊び相手を創ってあげたみたいな、創造神様は子煩悩な父親ですみたいな話だけど……
愛娘ってディアーナだよね。
ディアーナの遊び相手って、それもうガチバトルの相手って意味じゃないの?
このやっつけ仕事的に作られた伝承って、古い言い伝えってテイにしてるけど、最近出来たモンでしょ。
つか、あれか。
メイのお祖父様って、ゲームで言うトコの話し掛けたらイベントスイッチの入るNPC扱いか。
で、炎を操る畏怖のって…その神の使徒とやらってイフリートじゃないの?
ゲームやマンガでは、ある意味定番じゃん。
ホントに、やっつけ仕事だなぁ。
面倒くさがりのジャンセンさんらしいわ。
「炎を操る神の使徒とやらが悪意ある者を主と認めたら大変な事になる。
谷奥にある女神の使徒が祀られた神殿に行かねば……」
サイモンが真剣な顔で呟いた。
その神殿って砕いた言い回しをすると、ディアーナのガチバトル相手が放置プレイされてる神殿って事なのよね。
カチュアは途中で女神がディアーナだと気付いたようで、複雑な表情をわたしに向けた。
「だがその様な場所に心当たりは無い…………
む?あるな…」
わたしの頭の中に、たった今それらしき場所がポンと浮かんだ。
ゲームで、イベントが発生したらマップ上に急に現れたり、入場不可能だったダンジョンが入場可能になるみたいな感覚。
「サイモン様、私も今思い出しました……
王都の外壁から出て山岳地帯方面の立ち入り禁止区域に確かに、そんな場所がありました。」
カチュアがサイモンに同意して頷いた。
思い出したと言うか、わたし達のイベントスイッチが入ったんだろうな。
同じタイミングで、その場所が頭に浮かんだもの。
「あの谷奥へと続く道は魔獣が多く余りにも危険で、人が容易に近付けるような場所では無いのだが。
それゆえに存在を忘れていた。」
「場所が分かったとは言え、事前の準備も無く簡単に行ける場所ではありませんものね…。」
「ああ、明日の昼には出立出来る様に用意をしよう。
他の行方不明者も居る可能性がある。
敵となる者も居るだろうが道中現れる魔獣も倒さねばならない。
師匠に言って、俺の部隊を動かせないか頼んでみよう。」
何か、サイモンとカチュアが明日、その場に向けて邸を出ると話をしている。
今まで不遜な態度を取っていたメイが、初めて少し慌て出した。
「あのっ!あくまで、伝承ですからね!?
ホントに、今回の誘拐事件と関連があるかなんて保証ないですし!
その場に行っても、スファイの馬鹿が居るとは限らないし…!」
いーや絶対に居るよ。
イベントスイッチ入ったし脳内マップに新規ダンジョン現れたし。
何より、何の確証もないのにサイモンがダンジョンに行く気満々になってる時点でイベントは始まってしまってる。
「ただのおとぎ話であったとしても、他に手掛かりらしき物を得られない我々はそれに縋るしか道が無いだろう。」
「もし全然違う所にいたりするなら…アイツ、どうなっちゃうんです…?
助けに行くのが遅れたら殺されてしまったり…」
メイの口から初めてスファイを心配する様なセリフが聞けたわたしは嬉しくなり、満足げに微笑みを浮かべ思わずテンションが上がってしまった。
「大丈夫よメイ!わたしには分かるの!
スファイはその神殿に居るわ!
わたし達でスファイを助けましょう!
さぁサイモン!明日の出発に向けて準備をしましょ!
わたしも動きやすい衣装を用意しなくては!」
「…いや、なぜ一緒に行くつもりになっているんだ。
君は留守番に決まっているだろう。
身重の君をそんな危険な場所に連れて行けるワケが無い。」
サイモンだけではなくカチュアも、メイですら「奥様は留守番に決まってるでしょ」って顔でわたしを見ている。
そうだった、わたしは妊婦さんかも知れないんだ。
で、でもっでもっっ!!
ゲーム内で回収出来なかったサブクエストの顛末を、この目で見たい!
「ま、まだ、ちゃんと診察してませんし!
赤ちゃん居ると決まったワケじゃないですし!」
「懐妊していなくとも、その様な危険な場所に君を連れて行けるワケが無かろう。
その場所には兵士を連れて俺が行く。
君はカチュアやメイと共に邸に居るんだ。」
ああああ!!サイモンの言う事は、ごもっともなんだけど!
なんだけど……なんだけど!
何だか胸がザワザワと騒がしい。
わたしは今、チャートの分岐に立っているっぽい。
サイモンと一緒に神殿に行く?の先、ハイ、イイエの前に立っている。
この選択で誰かが不幸になる気がする。
わたしが行かずに邸に居れば、わたしとカチュア、メイの身は安全なのだろう。
サイモンにも心配を掛けずに済む……………けどぉ!
そうしたら、わたしのチャートがここで終わってしまって、消化イベントの先のエンディングは絶対に大団円ではない。
「サイモン……わたしを連れてって下さい。
って言うか、連れてってくれなきゃ何かマズイ気がする。」
「めぐみー?」
冷気を纏ったサイモンが優しく微笑みながら、わたしを見た。
めちゃくちゃイラッとしてるじゃん………。
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