【R18】夜の帳に聖なる契り 『転生後の異世界で、腐女子のわたしがBLネタにしていた推しに喰われる漫画を描く罰ゲーム』

DAKUNちょめ

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98話◆たとえ家族でも。

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「殿下!!!お腹空いた!おやつ!!」



バンッッと厨房の扉が開き、貴族令嬢の様な姿のディアーナが両手に怪しげな風貌の男を二人引き摺って現れた。



「ディアーナ嬢、今日は何して遊んで来たんだい?」



「何か最近、人攫いが出没するって言うから遊んで来た!
こいつら、カシラと副カシラ!

お嬢様のふりしてたら食い付いて来たわ。

あ、下っ端は皆、牢にぶちこんで来たし没収したお宝も全部玉座の間に置いて来たわよ!

………あら?どうしたの?マングース。」



スティーヴンと会話をしていたディアーナが、フリルエプロンのまま床に膝をつくマグスに気付き、見下ろしながら話し掛ける。



「随分と大人しくなっちゃって。どうしたのよ。
私を倒すって言っていた意気込みはドコ行っちゃったの?」



膝をついたままのマグスは、相も変わらず不敵な笑みを浮かべるディアーナの足下に来て、縋る様な眼差しでディアーナを見上げる。



「頼む!この通りだ!戦争は起こさない!頼みますから!!
俺の兄貴を殺さないでくれ!!」



ディアーナが「何の話しじゃそれ!」的な顔をしてマグスをガン見、それからスティーヴンを見る。

ミルクレープの皿を持ち、ニッコリ黒い笑みを浮かべているスティーヴンに、マグスが何を言われてこんなんなっちゃってるのかを察したディアーナが、面倒臭そうに笑った。



「あのクソ女は戦争したがってんでしょ?
あんたんトコの国の名前で世の中に宣戦布告するつもりでしょ?
それ、止められんの?」



「止める!俺が、あのスベタを殴ってでも!!」



スティーヴンの手から受け取ったミルクレープを立ったままでモクモクと食べながらディアーナが唸る。



「うう~ん……どうなの?これ。」



「実はね、まだ神聖国は名前を出して戦争を始めてはいないんだよね。

まぁ正式にはってだけで、既に水面下では始まっていると思っている国々は多いね。

神聖国と、ラジェアベリア、どちらにつくのが自国の利益に繋がるかと、みんな情報を集めているトコかな。」



「我が国は、兵力が乏しく思われがちだそうですからね…うふふ。

スティーヴンは今、仲良く出来そうな国と、そうではない国の線引きをしている所ですの。」



スティーヴンとウィリアが楽しそうに笑う。



「まだ、始めてない!?だったら…!」



「表向きはっつってんじゃん。マングース、お前頭悪いぞ!

神聖国の名を出してないだけで、あの女はもうラジェアベリアに宣戦布告してんだよ。

この城に何人、兵士を送り込んだと思ってんの?

国の名前出したらもう、こちらは受けて立つしかないし。」



呆れ顔で言うディアーナの手には、いつの間にかホールのミルクレープの乗った皿がある。

切り分けたモノでは足りなかったらしい。



「あの女はアホだから、ラジェアベリアを落とした後は戦力拡大して他の国も落としていくつもりよ。多分、大陸全部?」



「……あのスベタ、俺の国を世界の頂点にとか言ってたが……本気で?例え話し位に思ってた……。」



「その例え話しに面白そうって乗った君も、馬鹿だよね。

…いや、今回に限っては正しかったのかな…。

反対していたら、消されていたかも知れないしね。」



ニッコリ笑っているスティーヴンに、マグスが引きつり笑いを浮かべた。



「マジで…?」











神聖国内の一角、郊外の古い城塞に捕らえられたグレイスは、剣を握らされて城塞上部鋸壁のある広い回廊にての二人の兵士と戦わされていた。



「だから!!もう年だから無理って言ってんじゃない!!

何でまた、わざわざ拐いに来たのよ!」



苦戦気味に剣を振るうグレイスの姿に、エリーゼが残念そうに溜息を漏らす。



「一応実力見たかったのよ。でも、ほんとに普通。
普通以下。
銀狼鬼なんて立派な呼び名があるのに、つまんなくなってんのねぇ。」



「当たり前でしょ!平和になってから剣なんて握りやしなかったわよ!何年経ってると思ってんの!

でもね、男二人相手に頑張ってるオバさんも充分凄いでしょ!」



グレイスは兵士二人の剣を弾き飛ばし、ゼェゼェと大きく肩で息をする。



「伝説は伝説のままかぁ……強いキャラクターを集めて蹂躙するのが好きなんだけど……課金も出来ない世界だからねー。

いいわ、サイモン。始末しといて。

私の術も効かなかったし、邪魔にしかならないもの。」



肩で大きく息をするグレイスの首に剣の刃が当てられる。

グレイスの前に立つサイモンは、生気の無い目でグレイスの首に当てた剣の刃を立てた。



「家族を手にかける気なの!?」



サイモンは虚ろな目をしたまま、口元に笑みを浮かべる。



「ああ、面白そうだし…」



血飛沫が激しく飛び散り、グレイスが絶命する。

返り血を浴びたサイモンは剣を鞘に納め、グレイスの遺体を肩に乗せた。

エリーゼがグレイスの死を確認するように近付き、グレイスの髪を持って頭を上げる。



「……もう少しで首が落ちるじゃない。落とせば良かったんじゃないの?」



「運ぶ荷物が2つになります。それはめんどくさい。」



エリーゼが「そうね」と、納得したように頷く。


サイモンはエリーゼの見ている前で、回廊から鋸壁の向こう側にある絶壁の下の川にグレイスを投げ棄てた。

間を置いて、水飛沫の上がる音が聞こえる。



「ろくな兵器も無い世界、一騎当千と呼ばれる様な心躍る程に強い人も居ない。ゲームと現実は違うのかしらね。

大魔導士的な大量殺戮魔法を使えるキャラクターも見た事無いし。」



「……………。」



「命令よサイモン、何か答えなさいよ。」



「…魔物や魔獣を相手にした方がスリリングで楽しいのでは…。」



「私自身は、か弱い乙女だから倒せないもの!
それに、蹂躙されていく人の叫びが好きなの私!
アニメや映像でなく、リアルに見たいと思ってたのよ!
私には絶対に被害の及ばない場所で、それを見たいの!
失敗すれば、逃げればいいだけなんだし。」



エリーゼは遠方諸国から来る者達とも顔を合わせ、それらの者達を自国に帰らせてからその者の場所へ飛び、同じように更に遠くの国の者達とも顔を合わせ、と広く世界へ飛べる逃げ道を確保していた。

見知った顔の者の居場所に飛べる、本来この世界にはない転移魔法を使って。



「神の御子とか、月の聖女、確かに強いし私の術も効かなかったけど、そんなもの守る力にはならないわよ。

敵として立ちはだかる盾役になるなら、ヒットポイントが無くなるまで百人でも千人でもモブキャラ送り込んで一気に叩くだけだわ。

死体だってね、現実ではゲームみたいに消えて無くならないから肉の檻になるのよ。」



「………めんどくさい方ですね……。」



虚ろな目をしたサイモンがポツリと呟いた。













ミランダは神聖国の街中でぼんやりしていた。

街は相変わらず平和だし、街の人達には戦争が始まるといった緊迫感は無い。



「何だか拍子抜けなんだよね。……ううん、平和なのは良い事だと分かってるんだけれど……。

サイモン達が調べに来たけど特に何も無さげ。

だったらさぁ、もうサイモン…ラジェアベリアに帰っても良くない?任務完了って。」



「……そっ!そうですよね!!サイモン様、どうしちゃったのですかね!!」



ミランダの護衛(?)を兼ねて、ミランダの隣に座るメイが不自然な程に焦り出す。

一見平和に見えるこの国で、サイモンが実は敵さんに捕まってますとか言えない。

つか、自分が拐われかけたりした事もスルーしてませんか?と言いたいのに言えないメイがあまりにもキョドり過ぎて、ミランダとメイの前に立つスファイが口元を押さえて笑ってしまう。

キョドるマメシバ可愛いなと。



「お前!!笑い事じゃないだろ!分かってんのか!」



照れ隠しもあったのか、メイが思わず立ち上がってスファイの胸ぐらを掴んでしまう。



「わ、分かってるんだけれど…マメシバが余りにも隠し事が下手過ぎて…!可愛くて…つい。」



メイに胸ぐらを掴まれたスファイが、メイを宥める様に言う。

メイとスファイの言葉のやり取りを何気なく聞いていたミランダが、ふ、と顔を上げた。



「……隠し事ってナニ?わたしに何を隠してるの?」



メイとスファイが「しまった!」とあからさまな表情をし、その顔を見たミランダの表情が一気に青褪める。



「ねえ!!何を隠してるの!?サイモンの事!?
ねえ!教えて!!」



ベンチから立ち上がって、メイとスファイに詰め寄るミランダに、答えを口に出来ない二人が口をつぐむ。



「ねえ!!言って!!」







「サイモン様はエリーゼ様の術にかかり、エリーゼ様の下僕となりましたわ。」



ミランダとメイが立ち上がり誰も座ってなかったベンチに、黒いヴェールで顔を隠して喪服ドレスを着た女が座っていた。



「カチュアのお母様…!?」



「ごきげんよう、皆様。うふふ……。」



喪服ドレスの女は、ベンチに腰掛けたままでミランダの身体を引き寄せ、ミランダの身体を膝に抱く様に乗せる。



「北に二時間馬を走らせた場所に、古い城塞がありますの。
そちらでお待ちしておりますわ。
カテリーナ…いいえ、カチュアにそう、お伝え下さいな。」



表情の見えない黒いヴェールの向こう側で、笑んだ赤い唇だけが見える。

女はミランダを拐い姿を消した。


「はぁ!?奥様また拐われっっっちょっっっ!!
こんなんカチュアとスッチーにぶっ殺されるわ!!!」



「落ち着いて!マメシバ!!」



半狂乱になって騒ぎまくるメイを落ち着かせようと、スファイがメイをギュッと抱き締める。



「余計落ち着かんわ!!離せ!!
早く城塞とやらに向かわないと!!」



ボグッとスファイを殴って少し落ち着きを取り戻したメイが、宿に向かい走り出す。



「ここから南に馬を走らせ二時間!!」



「マメシバ、北だからね!!」













宿から少し離れた空き地にて、鍛練をしていたスチュワートが拍手するように手を叩く。



「やはり貴女は筋が良い。もう、私でも全勝は難しくなってきましたよ。」



「…っはぁ…はぁ……模擬戦の30回に一回がやっとです……
まだまだでしょう……?」



呼吸の乱れも無いスチュワートに対し、カチュアは苦しげな呼吸を続ける。



「模擬戦だからです。命のやり取りとならば、貴女はかなり強くなっていると思います。

まずは自身が生き残らなければ主は護れない。
それを肌で感じれば貴女は充分強い。

……そもそも銀狼鬼って剣士は、国の守護神なんですよ。

ただの殺戮者ではありません。」



「……護るための結果が、殺戮者ですか?」



「そうなりますねぇ。
敵さんから見れば、ただの大量殺戮者だったのでしょう。」



スチュワートが苦笑し、つられてカチュアも笑う。



「笑ってる場合じゃないんだよぉお!!馬を東に三時間!!」



鍛練の場にいきなり現れたメイが、顔面を涙でぐちゃぐちゃにして、意味不明な事をわめき散らす。


メイのただならぬ様子にスチュワートとカチュアが身構える。



「奥様が、喪服のレディに拐われました。

ここから馬を北に走らせ二時間、街の郊外に古い城塞があるそうで、レディがそこに来る様にと!」



「っ……アセレーナ……!!」



カチュアがギリッと唇を噛む、



「一旦宿に向かい馬を出し、すぐに向かいましょう。」



スチュワートが淡々と後片付けをし、宿に向かい歩き始める。



「カチュア、怒りは冷静な判断を鈍らせます。
貴女の最優先事項は敵を倒す事ではありません。

敵から、守る事です。」



スチュワートは手首に巻かれたツル草を見る。



昨日の深夜から一切反応の無くなった妹との繋がりに不安を覚えつつ。



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