【R18】夜の帳に聖なる契り 『転生後の異世界で、腐女子のわたしがBLネタにしていた推しに喰われる漫画を描く罰ゲーム』

DAKUNちょめ

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94話◆カニと神と破壊された城。

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わたしは…暗い闇の中に独り佇んでいた。


暗い…怖い…わたしの不安が、そのまま景色になったかの様。


「ここは…何処なの?…真っ暗…と言うか、真っ黒…ジャンセンさんが住む神の世界とやらの逆バージョンみたい。」


床と壁と天井の境界が無い位に真っ白な神の世界。そこと真逆。


真っ黒で足下が全く見えないので歩いて良いのか分からないけれど…

わたしは一歩を踏み出した。



これが実は断崖絶壁の端に居たのだったりしたら詰んでる。



だが、普通に歩けた。

暗いから何処に向かっているのか分からないが、遮蔽物等一切無いので、ただ、ただ、歩いて行く。



暗闇の中に、初めて黒以外の色が現れた。



薄ぼんやりと暗闇の中に佇んでいる人……遠目からは全身が銀色に見えたその人物はサイモンだった。



「サイモン!サイモン!どうして此処に!?
……いや、此処どこ?」



サイモンの目にはわたしが映ってない様だ。

サイモンはわたしの言葉に反応せず、ゆっくりとわたしに背を向けて歩き出した。



「えっ?ちょっ…ちょっと!どこ行くの!?ねぇ、待って!」



縋るようにサイモンの腕に手を掛ける。

その手を、うざったいとでも言うかの様に振り払われた。



「……サイモン……?」



今まで一切された事がない、初めてわたしはサイモンに拒絶をされた。

そのショックは計り知れない。

わたしはその場から動けなくなった。



そんなわたしを置き去りにして、スタスタと一定の速度で歩いて行くサイモン。



その冷たい背中に、ジワリと涙が浮かぶ。

こんな時でも、わたしの妄想は止まらなかった。



なぜなの!?わたしを嫌いになったの?と理由を妄想するのではなく、去ってく男の背中、置き去りにされた女。

このシチュエーションに妄想が働く。



「待って!行かないで!」「貴方を愛してるの!」「私を置いて行かないで!」「マイラヴァー!カムバーック!」



妄想したのはベタな恋愛破局シーン。

途中から変になったが。



「サイモン…!ま、待って!!」



妄想の途中から、考えるより先に身体が動いていた。

全速力でサイモンに駆け寄る。そして………





「シカトしてんじゃないわよ!この変態バズーカーが!」



サイモンの太ももに思い切りローキックをかました。

サイモン、僅かにつんのめる。









そして、暗闇から解放されたわたしは、朝日眩しい宿屋の天井を見上げていた。



「や、やだ!朝!?わたし、どんだけ寝てたの!!」



12時間以上は確実に寝てた!

ベッドから身体を起こすと、わたしのベッドの縁に座ったまま寝てしまったらしいメイが、器用に上半身だけベッドの端に倒して眠っていた。



「そっか、昨日わたし…グリーンヤンキーに拐われたんだった…心配してくれていたのね。…………夜襲でもあったの?」



部屋の扉の前に、扉を背にして座り込んだまま寝ているぼろぼろのカチュアが居た。

綺麗な顔が所々傷だらけで、しかも腫れている。

殴られたりもしたようだ。

でもカチュアの寝顔は何だかスッキリとしている。



「何だか、二人とも良い表情してるなぁ。うん。………
ん?わたし、さっきまで何か暗い気持ちだったけど、何だったっけ?」



夢は目が覚めたと同時に、ほぼ忘れる!

それが、どんな笑える夢でも、泣ける夢でも!

ジャンセンさんが出て来る夢以外は!!

あれは、夢じゃないからね。うん。

睡眠時に意識を連れて行かれてるから。



「メイ、カチュア、大丈夫?起きれる?」



ベッドから出たわたしは、二人を起こし始めた。











神聖国より、遠く離れた国ラジェアベリアのヒールナー伯爵邸の温室では、ヒールナー伯爵夫人のグレイスが草木に水をやりながら渋い顔をしていた。



「ねぇグレイス。
君はカチュアを、ゆっくりと騎士に育てると言ってなかったかい。」



温室のテーブルに片肘をついて茶を飲むヒールナー伯爵が妻に尋ねた。



「そのつもりだったのだけれど…相手さんに銀狼鬼が生きてる事がバレちゃったのよね。サイモンから。」



グレイスの言葉を聞いたヒールナー伯爵が、ピクリと眉だけ動かした。



「サイモンが…敵方に囚われたって事かな……
何か意図があって囚われたのなら良いのだけれど、隠し事がバレてる時点で評価はマイナスだよね。
…はぁ…サイモンも、まだまだだねぇ。」


「そうねー。剣の腕や、魔法の腕は中々なんだけど、精神的に何処かチョロいのよねーあの子。うふふ。」



グレイスは水をやったばかりの苺をひと粒もぎ、濡れた苺に口付けてからひと口かじる。



「正体不明、消息不明、死んだと思われていた銀狼鬼が生きているとバレてしまった。

私ももう、若くはないからね。最期の銀狼鬼を作らなきゃなんない。しかも急ぎで仕上げなきゃ。きっと兄さんも…そう思っているわ。」


「サイモンが捕らえられた事、ミランダには伝えない方がいいね。知ったらあの子、大変な事になるよ。
スチュワートは知ってるんだろう?」



グレイスの手から取った、かじりかけの苺をヒールナー伯爵がパクっと口に入れた。


「多分ねー。だから早くカチュアを仕上げなきゃって思ってんでしょうし。
サイモンはほっといても、そう易々と死にはしないからいーわよ。
紅茶のおかわり、飲む?」



「うん、ちょうだい。」



ミランダが聞いたらパニックを起こして大騒ぎしそうな話しを、何処かほのぼのとお茶をしながら話す二人。



ポカポカと暖かい温室の中で、ほのぼのとした時間が過ぎて行った。













黒いサラシ形状の胸当てに、黒いレースの紐パンティ。

セクシーランジェリー姿のディアーナが海岸の砂浜で仁王立ちしていた。



「そりゃねーいつでもって言ったけどねー!
昨日の今日で、人が水遊びしてる所にいきなり現れる!?
しかもお前、私の作った砂のお城を踏んで現れたわよね!!」



現れた瞬間、ワンパンでのされたマグス。

ディアーナの足下の砂の上で完全にのびているマグスの頭に、ディアーナがカニを捕まえては乗せていく。

カニの足やハサミがマグスのポンパドールに絡まって逃げられなくなっている様だ。



「おおお!カニの牢獄だわ。
ライトグリーンの髪に、赤茶けたカニのカラーが映えるわよ!
…そういえば、お前、何で私の居場所に転移して来れたのよ。
お前の魔法の糸って、私には繋げらんないでしょ?
あ、あれは対象者を引っ張る魔法か。」


ディアーナは魔法が使えない上に、魔力もほぼ無い。

だがレオンハルトと繋がっている彼女は強い抗魔体質である。

どんな魔法も、ほぼ効かない。



のびているマグスの首にネックレスとして掛かる見慣れない魔力を放つ石を見付けたディアーナは、それを取り出して奪う。



「これか。何だっけ?
この世界には本来存在しないアイテムで、一度会った事のある人の居る場所に行けるんだっけ?
あのクソ女の作ったアイテムか。

没収~!!かわりに、もう一匹カニを追加してあげる。」



マグスの頭にギチギチにカニを乗せたディアーナは、ドレスを脇に抱えて去って行った。



「……ま、待て……ディアーナ……
頭が……頭がイテェ……頭が重い……

物理的にイテェし重い……」



頭の上に乗せられた大量のカニ達は、その草原から逃げ出そうとカサカサと動き回りマグスの頭皮をチクチク刺していく。



「それに…あれは城じゃなかった……あれはそう……雪国で作られると聞いた、カマクラ……丸いのに穴が空いてるだけじゃねぇか……」

マグスは現れた際に、その砂カマクラを踏んでしまった。

その瞬間、腹にワンパン。

ミランダの前でのパンチの威力を越えたパンチが腹を抉り、気を失ってしまっていた。



「って…あー参った…アホみてぇに強いわ…。

とりあえず、一回帰って……。」



「どうやって?」



砂浜でカニだらけのまま身体を起こしたマグスの前にいつの間にか銀髪の凛々しく美しい青年がニコニコと微笑んで立っている。



「……どうって、邸に……」



邸に居る誰かの顔を思い浮かべれば、アイテムの力により一瞬で邸に帰れる。

マグスは無意識に胸のネックレスに手をやった。



「!!な、無い!無い!」



「うん、だから君は帰るならば馬か徒歩だね。
ちなみに、お金持ってる?」



「そ、そんな物、持ち歩いたりしねぇよ!徒歩で帰れっつーなら徒歩で帰るわ!誰か知らんが俺に構うんじゃねぇ!!」



銀髪の青年はマグスの肩を掴んだ。

その青年は細身であり、マグスより背も低く、一見華奢にすら見える。

だがマグスの足は砂に沈み、身体が全く動かなくなった。



「君の国まで歩いたら2ヶ月位掛かるよ?

君は何も考えずにディアーナ嬢の居る場所に転移してきた様だけど、君は此処がどこか分かっている?」



マグスの肩に置かれた銀髪の青年の手がマグスの身体を上から押さえて行く。



「…っぐっ…!は、離せっ…!」



マグスは抵抗も効かず立っていられず、砂浜に膝をついた。



「ここはラジェアベリア王国。

君たち神聖国が戦争を仕掛けようとしている国だよ。

私はこの国の王太子でスティーヴン。よろしくね、捕虜さん。」



スティーヴンはニッコリと微笑んで、カニを乗せたままのマグスを連れてラジェアベリアの王城に転移した。



王城の貴賓室に転移したスティーヴンは、その部屋でマグスを解放した。



「城の中は自由に動き回っていいし、帰りたいなら帰っていいよ。
何か、見過ごせない悪さをしたらハリセン持ってブッ叩きに行くけど、それ以外は好きにしていいよ。」



マグスは意味が分からない。ハリセンの意味も分からないが、

捕虜だと言って連れて来られたが、着いた先は牢獄ではなく立派な貴賓室。

城の中は自由に動き回って良いと言い、帰りたいなら帰って良いと言う。



「……その大量のカニは君のペットかい?」



「そんなワケねぇだろうが!!!
…自由に動き回っていいって言ったな?
お前が王太子なら、女房が居れば王太子妃殿下ってワケだ。
そいつを人質にして金や馬を奪って行く事も出来るんだぜ!?」


スティーヴンは微笑みを崩さない。


「まぁ、わたくしを人質に…まぁ……」


マグスの後ろでテーブルに茶や菓子の用意をしていた女性が立ち上がる。

身なりは良いが、茶の用意をするなんて侍女だと思って良く見てなかった。

その女が立ち上がってマグスの前に来てカーテシーをした。

マグスの目が一点に注がれる。



ハンパ無く乳がデケェ!!!



「お……おう、あんたを人質に……」



「あらあら、わたくしを人質に?……フッ」



ウィリアに鼻で笑われたマグスは、ウィリアにももう勝てる気がしなかった。

その場に膝から崩れる。



「カニ頭くん、君は強いと思う。

戦争が始まれば、先陣を切って走り多くの敵を…人を屠る事が出来るだろう。

だが、我々は長く魔獣や魔物を倒して来た。

もうね…根本的に君達とは違うんだよ。分かる?」



「……俺の国は……神の国だ……神がついている。

…その国の王子である俺が…」



「それなんだけどさ、この国には神が居座ってるよ?

食っちゃ寝しては時々フラッと遊びに出て、お腹が空いたら帰って来る。」



「殿下!!お腹空いたー!!」



突然貴賓室のドアが開き、砂まみれになった黒ビキニのディアーナが立っていた。



「カニ頭くん、彼女はああ見えて女神の端くれだ。
理不尽な理由で理不尽な暴力を振るうが彼女を倒す事は出来ない。

彼女は神の一員であるがゆえに、不死身だからな。」



マグスはもう、顎が外れたかのように口を開けたまま床に座り、微動だにしなくなった。


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