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48話◆赤髪の剣士は、女剣士ではないっぽい。
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刻の流れを凍り付かせたかのように、部屋の中に流れる長い沈黙は我々の動きさえ止めてしまった。
わたしはこの、極寒の地にて身体が凍結し始め、動けば身体ごと砕け散り命をも危ぶまれる様な寒々とした空気に身動ぎひとつする事も出来ずに、この静寂と言う無音の空間にて「次」の行動を起こす事が出来ないでいた。
なぜなら、わたしは…顎がシャクレたまま静止してしまい、わたしの胸中に溢れた想いを綴った一枚の紙を手にした彼の人の顔を見る事が出来なくなってしまったのだ。
その彼の人もまた、動きが止まっていたのだが…。
「……奥様……これは……何なのですか……」
沈黙を破ったのは彼の人であった。
彼の人の名前はカチュアと申しまして騎士で剣士で侍女ですがイケメンですけれど何と申しますかカチュアの顔が見れないのでわたしは顔を背けたままダラダラ冷や汗をかいておりますけれども、ええ、それがナニか?無理無理。顔見れん。口開けん。答えられん。いっそ身体ごと砕け散り何処か行きたい。
「奥様、早口でぶつぶつ言ってないで、答えて戴けませんか?
これは一体何なのですか?」
机ドンな状態で、顔を背けたわたしの頬と顎にカチュアの指先が触れ、ゆっくりとカチュアの方を向かされる。
向かされる事に少々抵抗した為に、顔の皮膚が押し上げられ、わたしの唇がタコの様に尖ってしまった。
「……そんな、口付けをねだるような顔をしても誤魔化されませんよ?
それとも…口付けすれば答えて戴けるんですか?」
く、口付け!?ねだってない!ねだってない!!
そんな色気のあるイケメン顔で言わないでぇ!
慌ててカチュアの方に顔を向ける。
とりあえず、タコチューのような唇は解除された。
「答えて下さい……これは一体、何なのですか?メグミン先生。」
わたしの目の前に、わたしがテンションだだ上がりで描いた、男性の身体をしたエロいカチュアの落書きがパラリと広げられる。
「これはね!!カチュアがね!!騎士で剣士じゃない!?イケメンじゃん!?とか思ったらね!!エロカッコいいからね!!別にね!!カチュアの事を、どペチャパイでど貧乳とか思ってなくてね!男性だったら、こうかしら的な!?」
わたしの目玉はぐるぐる渦巻きだったに違いない。
マシンガンの様に早口で弁解するわたしは、まるで機械のようだ。
カチュアを見ていたのに、その映像の記憶が無い。
この時のわたしは、肉体はカチュアを見ていたらしいが、意識と精神と思考と自己防衛本能は脳ミソの中で駆けずり回り、あちこちの引き出しを開けながら、この嵐をやり過ごす道を探し回っていたのだ。
「だからね!!深い意味は無いのよ!!カチュアが好きよ!わたし!だからってね!薔薇の世界に、ご招待とか!大それた事は思ってないわよ!?」
わたしの頬に当てられたカチュアの手が、スイとわたしの頬を撫でた。
「…………やはり…………奥様が、メグミン先生だったのですね。」
え……メグミン先生……?
!!!わたし!!!否定しなかった!!!
しらを切る事もしなかった!!
カチュアにそう呼ばれて、当然のように受け入れていたわ!!
「きゃ、カチュアっ!!」
カチュアに正面から、メチャクチャ強く抱き締められる。
おおお…!中々に素晴らしい身体つき…
胸は程よく膨らみ、腰は細いが背中や腕には盛り上がりは無いが筋肉が付いており、こう、細マッチョと申しますか……
わたしが普段描いていたBL作品の男性陣が、まさしくこんな感じ!
サイモンなんか意外に筋肉付いてて、わたしの描いてたサイモンよりたくましくて……オスでしたからね!!
って、今はそれどころじゃない!
カチュアにメチャクチャ抱き締められてる!
サイモンが見たらブチキレするかも知れないじゃん!
でも、女の子同士のハグ位、前世でもやっていたし!
でもサイモン、女性相手でも嫉妬するじゃん!
いや、わたし!それより、それより!!
「何でメグミンを知ってるのぉ!!!」
抱き締められたまま、やっと疑問を口に出来た。
「………それは、後からお教え致しますが……
奥様が描かれた、この……青年は……私なのですね……嬉しい……。」
カチュアはわたしを解放すると、わたしの描いたエロカチュアの落書きを胸に抱き締めた。
「………嬉しいんだ?………」
「私は……精神的には男なので……
自身の身体は違和感の塊でしかないのですよ。」
…………………は?それ……地球にいた頃に時々聞いた、トランスジェンダーってやつ?
身体の性別と、自分が思う性別が違うみたいな??
「……これが、奥様の見ている男の私……何と素晴らしい……」
この世界には…性同一性障害なんて認識は無いだろうし、もちろん性転換手術もない。
この世界と言うか、こういう時代に生きたそんな人達は大変だったんだろうな…とか思う。
本心を隠したり、自分はおかしいのかと葛藤したり。
「……カチュアはカッコいいからね。描くの楽しかったわ。
誰と絡ませようかとか考えたり……」
カチュアに責められ、「気持ち悪いです。」とか蔑んだ目で見られると思っていたわたしは、そうならなかった事に安堵して、ポロリと余計な言葉を口にした。
「絡ませる?」
わたしは慌てて両手で自分の口を押さえる。
そして、何でもありません!!と首を激しく振った。
「メグミン先生……?絡ませるとはどういう意味なのです?
…言わないと口付けしてしまいますよ?」
ニッコリ笑んだカチュアが、わたしの両手を口から引き剥がし、顔を近付ける。
ああああああ!!誘い受け顔だけど…!だけどだけど!
今のカチュアの顔は完全なるタチの顔だわ!!
わたしみたいなのが相手になると、喰ってやるよ……みたいな顔になるのね!
リバ!素晴らしきリバ!ビバ!リバ!
「わ、わ、わたし!!メグミンは!!薔薇の世界専門作家なので!!絡ませる時は、男女ではなく!男男なのです!!」
「……メグミン先生の言う、絡ませるとは?何を絡ませるのです?
言わないと…唇舐めますよ?」
カチュアに両手を持たれたまま、互いの胸が押し潰される程、密着する。
顔が近い近い!カチュアの息が掛かる!
カチュア、吐く息までいい匂いすんなぁ!ミント?ミントの葉っぱ食った??
「からだでございますぅぅ!!やらしいことをさせまする!
くちづけして!はだかで!だきあって!
なめたりさわったりさせます!!おとこどうしで!!」
わたしはカチュアに敗けた。
仕事用の机に突っ伏してゼェゼェ息をする。
カチュアは、わたしの描いた落書きを何度も何度も見ている。
なんだかこっ恥ずかしい。
「絡ませて下さいますか?この私を。」
カチュアがわたしの落書きを指して言う。
男性化したカチュアを描ける楽しさはあるけど、中身が男のカチュアを絡ませるとなると…。
「カチュア、わたし男同士の専門なのよ。だから、カチュアの好きな人が誰だか知らないけど、女性と絡ませて描くのは無理よ。」
「メイから聞いてないのですね。私の好きな人は男性ですよ。」
……なんだと?
「私は、男として、男性が好きなのです。理解はされないだろうから、想いを伝えたいとは思ってません。」
なんつう、ややこしい!!身体は女性なのに精神は男性で
で、ゲイである。ややこしいわ!!
あ、でも確かに…想いが伝わったとして相手がカチュアを愛してくれても、それは女性としてのカチュアで…
男として愛してくれって、難しいよな!!
カチュア自身は、メチャクチャ美女だもん!!
「……奥様、少し私の昔話を聞いて下さいますか?」
「…い、いいけど……」
カチュアは窓の側に立ち、階下にある演習場に目を向ける。
「学園にいた頃を思い出しますね…。ちなみに初恋の相手はアリエス先生です。抱きたいし、抱かれたいと思ってました。」
リアルにリバ志向すか!!
こりゃ話を聞かねばなるまい!!
わたしはこの、極寒の地にて身体が凍結し始め、動けば身体ごと砕け散り命をも危ぶまれる様な寒々とした空気に身動ぎひとつする事も出来ずに、この静寂と言う無音の空間にて「次」の行動を起こす事が出来ないでいた。
なぜなら、わたしは…顎がシャクレたまま静止してしまい、わたしの胸中に溢れた想いを綴った一枚の紙を手にした彼の人の顔を見る事が出来なくなってしまったのだ。
その彼の人もまた、動きが止まっていたのだが…。
「……奥様……これは……何なのですか……」
沈黙を破ったのは彼の人であった。
彼の人の名前はカチュアと申しまして騎士で剣士で侍女ですがイケメンですけれど何と申しますかカチュアの顔が見れないのでわたしは顔を背けたままダラダラ冷や汗をかいておりますけれども、ええ、それがナニか?無理無理。顔見れん。口開けん。答えられん。いっそ身体ごと砕け散り何処か行きたい。
「奥様、早口でぶつぶつ言ってないで、答えて戴けませんか?
これは一体何なのですか?」
机ドンな状態で、顔を背けたわたしの頬と顎にカチュアの指先が触れ、ゆっくりとカチュアの方を向かされる。
向かされる事に少々抵抗した為に、顔の皮膚が押し上げられ、わたしの唇がタコの様に尖ってしまった。
「……そんな、口付けをねだるような顔をしても誤魔化されませんよ?
それとも…口付けすれば答えて戴けるんですか?」
く、口付け!?ねだってない!ねだってない!!
そんな色気のあるイケメン顔で言わないでぇ!
慌ててカチュアの方に顔を向ける。
とりあえず、タコチューのような唇は解除された。
「答えて下さい……これは一体、何なのですか?メグミン先生。」
わたしの目の前に、わたしがテンションだだ上がりで描いた、男性の身体をしたエロいカチュアの落書きがパラリと広げられる。
「これはね!!カチュアがね!!騎士で剣士じゃない!?イケメンじゃん!?とか思ったらね!!エロカッコいいからね!!別にね!!カチュアの事を、どペチャパイでど貧乳とか思ってなくてね!男性だったら、こうかしら的な!?」
わたしの目玉はぐるぐる渦巻きだったに違いない。
マシンガンの様に早口で弁解するわたしは、まるで機械のようだ。
カチュアを見ていたのに、その映像の記憶が無い。
この時のわたしは、肉体はカチュアを見ていたらしいが、意識と精神と思考と自己防衛本能は脳ミソの中で駆けずり回り、あちこちの引き出しを開けながら、この嵐をやり過ごす道を探し回っていたのだ。
「だからね!!深い意味は無いのよ!!カチュアが好きよ!わたし!だからってね!薔薇の世界に、ご招待とか!大それた事は思ってないわよ!?」
わたしの頬に当てられたカチュアの手が、スイとわたしの頬を撫でた。
「…………やはり…………奥様が、メグミン先生だったのですね。」
え……メグミン先生……?
!!!わたし!!!否定しなかった!!!
しらを切る事もしなかった!!
カチュアにそう呼ばれて、当然のように受け入れていたわ!!
「きゃ、カチュアっ!!」
カチュアに正面から、メチャクチャ強く抱き締められる。
おおお…!中々に素晴らしい身体つき…
胸は程よく膨らみ、腰は細いが背中や腕には盛り上がりは無いが筋肉が付いており、こう、細マッチョと申しますか……
わたしが普段描いていたBL作品の男性陣が、まさしくこんな感じ!
サイモンなんか意外に筋肉付いてて、わたしの描いてたサイモンよりたくましくて……オスでしたからね!!
って、今はそれどころじゃない!
カチュアにメチャクチャ抱き締められてる!
サイモンが見たらブチキレするかも知れないじゃん!
でも、女の子同士のハグ位、前世でもやっていたし!
でもサイモン、女性相手でも嫉妬するじゃん!
いや、わたし!それより、それより!!
「何でメグミンを知ってるのぉ!!!」
抱き締められたまま、やっと疑問を口に出来た。
「………それは、後からお教え致しますが……
奥様が描かれた、この……青年は……私なのですね……嬉しい……。」
カチュアはわたしを解放すると、わたしの描いたエロカチュアの落書きを胸に抱き締めた。
「………嬉しいんだ?………」
「私は……精神的には男なので……
自身の身体は違和感の塊でしかないのですよ。」
…………………は?それ……地球にいた頃に時々聞いた、トランスジェンダーってやつ?
身体の性別と、自分が思う性別が違うみたいな??
「……これが、奥様の見ている男の私……何と素晴らしい……」
この世界には…性同一性障害なんて認識は無いだろうし、もちろん性転換手術もない。
この世界と言うか、こういう時代に生きたそんな人達は大変だったんだろうな…とか思う。
本心を隠したり、自分はおかしいのかと葛藤したり。
「……カチュアはカッコいいからね。描くの楽しかったわ。
誰と絡ませようかとか考えたり……」
カチュアに責められ、「気持ち悪いです。」とか蔑んだ目で見られると思っていたわたしは、そうならなかった事に安堵して、ポロリと余計な言葉を口にした。
「絡ませる?」
わたしは慌てて両手で自分の口を押さえる。
そして、何でもありません!!と首を激しく振った。
「メグミン先生……?絡ませるとはどういう意味なのです?
…言わないと口付けしてしまいますよ?」
ニッコリ笑んだカチュアが、わたしの両手を口から引き剥がし、顔を近付ける。
ああああああ!!誘い受け顔だけど…!だけどだけど!
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わたしみたいなのが相手になると、喰ってやるよ……みたいな顔になるのね!
リバ!素晴らしきリバ!ビバ!リバ!
「わ、わ、わたし!!メグミンは!!薔薇の世界専門作家なので!!絡ませる時は、男女ではなく!男男なのです!!」
「……メグミン先生の言う、絡ませるとは?何を絡ませるのです?
言わないと…唇舐めますよ?」
カチュアに両手を持たれたまま、互いの胸が押し潰される程、密着する。
顔が近い近い!カチュアの息が掛かる!
カチュア、吐く息までいい匂いすんなぁ!ミント?ミントの葉っぱ食った??
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くちづけして!はだかで!だきあって!
なめたりさわったりさせます!!おとこどうしで!!」
わたしはカチュアに敗けた。
仕事用の机に突っ伏してゼェゼェ息をする。
カチュアは、わたしの描いた落書きを何度も何度も見ている。
なんだかこっ恥ずかしい。
「絡ませて下さいますか?この私を。」
カチュアがわたしの落書きを指して言う。
男性化したカチュアを描ける楽しさはあるけど、中身が男のカチュアを絡ませるとなると…。
「カチュア、わたし男同士の専門なのよ。だから、カチュアの好きな人が誰だか知らないけど、女性と絡ませて描くのは無理よ。」
「メイから聞いてないのですね。私の好きな人は男性ですよ。」
……なんだと?
「私は、男として、男性が好きなのです。理解はされないだろうから、想いを伝えたいとは思ってません。」
なんつう、ややこしい!!身体は女性なのに精神は男性で
で、ゲイである。ややこしいわ!!
あ、でも確かに…想いが伝わったとして相手がカチュアを愛してくれても、それは女性としてのカチュアで…
男として愛してくれって、難しいよな!!
カチュア自身は、メチャクチャ美女だもん!!
「……奥様、少し私の昔話を聞いて下さいますか?」
「…い、いいけど……」
カチュアは窓の側に立ち、階下にある演習場に目を向ける。
「学園にいた頃を思い出しますね…。ちなみに初恋の相手はアリエス先生です。抱きたいし、抱かれたいと思ってました。」
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