【R18】夜の帳に聖なる契り 『転生後の異世界で、腐女子のわたしがBLネタにしていた推しに喰われる漫画を描く罰ゲーム』

DAKUNちょめ

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23話◆夫婦は離れた場所で、それぞれ混乱中。

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サイモンは、結婚の日を含め一週間の休暇を取っていた。



愛しい新妻と共に過ごす時間が欲しいと、要はイチャイチャしたいからと取っていた休暇が終わり、サイモンが王城に顔を出した。



休暇中にも関わらず、急な魔物の襲来により討伐に呼び出された時も、サイモンは愛する妻に早く会いたいが為に一人で魔物を討伐してしまい、事後報告等の処理を仲間に丸投げして早々に邸に帰った。



さぞ、夫婦仲睦まじく、いやらしく、熱い熱い新婚生活を送ったのだろうな!この野郎!詳しく教えろよ!
と、冷やかしたい騎士仲間達の前に現れたサイモンはまるで



生きる屍のようだった。



王城にはサイモンのファンの女性も多い。

見目麗しく、文武両道。優しい男ではないが、クールな雰囲気がまた素敵だとファンは言う。

家柄も良く、王太子からの信頼もあつい。

ファンいわく、もう立ち居振る舞い隙が無い程の美男子。



そんなサイモンが椅子に座ったまま、口から魂をはみ出させて、何だかデロリとした物質になっている。


ファンが見たら「ウソよ!」と言いたくなる程のデロリ。


同僚の誰もが気味が悪くてサイモンに近付けない…
そして、怖くて理由が聞けない…。



「……おや、サイモン。メグミンと何かあったんですね。」



サイモンの上司にあたるジャンセンはもう、疑問ではなく肯定して核心を突いた事を言う。



「師匠……俺は……彼女に何をしたのでしょう……
あんなに…愛し合ったのに……なぜこんな…急に……」



椅子に座ったままサイモンは死んだ魚のような目でジャンセンの方を見る。

ジャンセンは冷めた目で「ハンっ」と笑って、サイモンの前に薄い本を一冊置いた。



「メグミン先生参加の、推しカプ甘々ラブラブ企画漫画本です。
エロは無しですが、他の先生の描いたサイモン×殿下も入ってますよ。」



「…はぁ?…おし…カプ?…ラブラブ?…エロ…?」



この世界では馴染みのない単語に、困惑した顔をしながらサイモンが本を手にする。



「メグミン先生の作品だけ、内容が分かるように翻訳しときました。読んでみなさい。」




『愛のプロポーズを貴方に…〈サイモン×アリエス〉作者メグミン』



『アリエス先生…俺は貴方を愛しています…。』


『サイモン君…いけない……私達は…教師と生徒で…
君は次期、伯爵家の当主だ……君はやがて妻を娶り、ヒールナー伯爵として……ッ…
すまなっ…涙なんて…流すつもりは…』


『俺の妻はアリエス!貴方だけだ!
どうかアリエス…俺の妻になってくれ…
この指輪を、貴方に贈ろう…涙を拭いて…さぁ手を…』


『サイモン…』


『男同士でも構わない、俺は貴方しか愛せないんだ…
ああ、貴方の左手の薬指に、俺の贈った指輪がよく似合う…
貴方は俺のものだ…』


『この指輪は、愛の証…。
サイモン君…私は貴方の…妻になります…。』





━━FIN━━






「…………え?」


「サイモン、え?じゃありませんよ。
ちゃんと作者コメントも読んで下さいね。」



『作者コメントbyメグミン。
こんなプロポーズ憧れちゃうな!なんて思いながら描きました!
わたしも将来、サイモンみたいな素敵な人に、指輪を嵌めて貰ってプロポーズされたいです!(笑)』



「…………え?」



「サイモン……さぁ、心当たりはありませんか?
…何をしでかしたんです…?サイモン…
よぉぉく思い出して下さいよ…?
誰に…何を…いつ、何処で渡したのかを。」



腕を組んで微笑みながらサイモンを見下ろすジャンセンの背後に、ゴゴゴゴと文字が見えそうな勢いで威圧される。



「ま、待って下さい!師匠!
……め、メグミン先生の…描く世界では、指輪にそんな意味が?
そ、そんな事、俺は知らなくて……!」



「そう言い訳すればいいじゃないですか。
知らなかったから、ごめんねーって。
メグミン先生が、「うん、分かったー」って言ってくれたらいいですねぇ。」



サイモンが焦ったように椅子から立ち上がる。



「俺は帰る!今すぐ邸に帰る!
頭が割れるように痛いので、腹痛がひどいから帰ったと伝えといてくれ!」



同僚達がざわざわと騒がしくなる中、ジャンセンがサイモンの肩をむんずと掴んだ。



「何を言ってやがります?しかも混乱しやがって。
仕事はキチンとやって帰りなさいよ……サイモン
……貴方が休暇を取っていた間の仕事が溜まってるんですから。」



サイモンの肩を掴んだジャンセンは、それはそれは美しい…のに



鬼のような笑顔をしていた。









「ねー奥様、近くの通りに珍しい行商が来ているらしいんです!
見に行きませんか?」



邸の寝室に引きこもるわたしに、ノックもせずに部屋に入って来た豆柴のメイが、目を輝かせて言う。



……何だ……お前は……天然か?



昨日、部屋を追い出してから食事も運んで来なくなったくせに。

お陰で、わたしの昨夜のディナーと今朝の朝食はバナナだけだよ。

そいで、ノックも無しにいきなり部屋に突入とか。

何だお前。



「いいわよ…別に…興味無いわ。」



「珍しい果物のお菓子も売ってるみたいですよ。」



な、何と…果物のお菓子だと…?それは…魅力的だわ…。



「近くの通りなんで、サッと行って戻りましょうよ!
お菓子いっぱい買って!」



毒気のない、子犬みたいな笑顔で言われると…それもアリだな!なんて思えてしまう。

そして、籠城する為の食料が手に入るのならば悪くないかも知れない。



「近いのなら、行くわ!10分あれば行ける!?」


「10分あれば買って戻れますよ!ほんとに近いので!」



わたしは貴族らしくない、動き易いドレスにサッと着替え、昨夜温室で貰った手提げを腕に掛ける。

この葉っぱ編み編み手提げならば、菓子が大量に入る!

ちなみに昨夜持って来た大量のバナナは、ほぼ完食した。



「ご案内致します!
今なら、カチュアさんもスチュワートさんも居ませんからね!
脱け出すなら今でーす!」



子どもの、かくれんぼに付き合うような感覚。



思わず、ノリノリで「ガッテンでぃ!」と返したくなる。


メイの後に続き寝室を出て、主に使用人が使うという細い廊下を行けば勝手口らしきドアがあり、簡単に邸の外に出られた。

そして勝手口を出てすぐ、邸を囲む柵の一部が裏通りに出られる小さな門となっている。



そこから裏通りに出て、少し歩く。



「奥様こちらです!ほら、あっちの道…馬車がいるの見えます?
幌馬車みたいなの!」



「おお!あそこにフルーツスイーツが!?」



メイと一緒に小走りで幌馬車に近付く。

幌馬車の前に、にこやかな若いお兄さんが立っていた。



「やあ、いらっしゃい!」


「お兄さん!果物のお菓子を出来るだけたくさん……!」


にこやかなお兄さんは、わたしの前に屈むとわたしの太ももを持つようにして肩に担ぎ上げた。


「またこれか!!わたしは米俵じゃない!!
菓子を買いに来たのに……え?」


ワンテンポ遅れて、自分の置かれた状況に気付く。

男は担ぎ上げたわたしを、幌馬車の荷台に放り込んだ。


「甘いお菓子は奥様ですよぉ。
美味しく食べられちゃって下さい!あは!」


幌馬車の入り口を、手早く板と鎖で塞がれる。


「はあぁぁあ!!有り得んわ!この豆柴!!
何してくれてんだ!豆柴!!」



誘拐!?拉致!?お菓子はどうなるの!?

いやいや、お菓子どころじゃないだろ!わたし!


結婚してから、わたしのイベント多すぎない?

ゲーム並みに。

ゲーム終わってるやん?



「……て、言うか……さりげに、とんでもない事を言っていたよな!!豆柴ぁぁ!!」


美味しく食べられちゃって下さい、の意味を「その、いじられ方、美味しいわー」なんて芸人みたいな事だとは思えない。


言葉通り、見知らぬ男の慰みものに……?

そんな……!そんな……ひどい……あぁ…!



「って、泣くかぁ!!豆柴ぁ!!お前!ぶっ飛ばすぞ!!」


焦りや不安や恐怖より、先にあったのは激しい怒り。


「さっさと果物の菓子をよこしやがれ!!!!」


混乱中の怒りでした。


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