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17話◆美貌の女神は鬼軍曹。
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「うるさいわね!地味で悪かったなぁ!!」
わたしは男の太ももに、思い切り蹴りを入れていた。
と、ほぼ同時にサイモンがわたしから男を離そうとして襟首を掴んで後ろに引っ張り上げた所だった。
首が絞まって苦しげな声を上げた男の太ももに手加減無しのローキック。
サイモンは眉間に深いシワを刻んで、引っ張り上げた男の背後から低い声で男に囁く。
「俺の妻に近寄るな……殺すぞ。」
「は、は、は、はい!!はい!!」
男が太ももを痛がる暇を与えずに、サイモンが脅しをかける。
さすが神の御子のレオンハルトさんと兄弟なだけあるわ。
こっわ。
男は太ももを撫でつつ、怯えて逃げるように去って行った。
サイモンはともかく、わたしにも悪態をつく余裕も無かったようだ。
覚えてろよ!なんて、怖くて言えないよね。
サイモンに覚えていられたら困るの自分だからね。
「それにしても失礼な男だったわ。わたしが地味だから自分に丁度いいみたいな言い方をして…。」
メグミンとしての記憶を思い出す前の、男爵令嬢ミランダとしての、わたしだったら…大人しくて、物静かで、夫には逆らわない、扱い易い女だったかも知れない。
どちらにせよ、わたしを、女というものをバカにしているわ。
「あいつの家にもミランダ嬢との婚約申し込みを取り下げるよう脅しをかけたのだが…本人が納得してなかったのか。」
「………そんな事を、たくさんしていたの?……そりゃ、サイモンの仕事柄、弱味の一つや二つ、握れるでしょうけど……。」
ジャンセンさんと言う、おっかねぇ味方も居るしね。
意外に親バカだし。
「していたな。君を手に入れる為に必死だったからな。」
サイモンは腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべわたしを見る。
わたしは顔を赤くしてサイモンに背を向ける。
わたしを手に入れる為に必死だった……んだ
嬉しくて、照れる。顔がにやける。
そして…サイモンに背を向けたわたしの視線の先に
淡い桃色の長い髪の一部を、三つ編みにし、口元にホクロのある女性かと見紛う程に綺麗な男性が微笑んで立って居た。
「あ!!あ!!」
アリエス先生だ!!生のアリエス先生!
は、初めて見た!!
背が高い!線細い!超美人!!
地球のサイモン×アリエス先生推しの皆様!
わたし、今、生の二人を拝見しております!!
ど、どうしましょう!二人がわたしの目の前で、おっ始めたら!!
「サイモン君、この方が君の細君ですね?可憐なスズランのような方ですね。そして、見事な蹴りでした。」
まぁ!まぁ!おっとり美人!なんて物静かで綺麗な声をなさってるの!?
男だけど、女神のようですわ!
こんな美しい方が鎖で地下に拘束されて、イヤらしいお道具でグッチョグッチョにされてますの!?
まぁぁ!人は見掛けに寄らないものですわね!
「メグミン…アリエス先生をガン見している理由が顔に書いてあるが、それは現実では無いからな?」
そ、そうだった…いかん…。妄想と現実の境目が曖昧に…。
「お初にお目にかかります。サイモンの妻で、ミランダと申します。お見知りおきを。」
「いーえ、こちらこそ。」
ドレスの端を摘まんでカーテシーをする。
アリエス先生も柔らかい笑顔で頭を下げてくれた。
「アリエス先生、妻が先生の授業を見学したいと…」
「ああ、そうでしたね…そんな、見て楽しい授業ではありませんよ?」
ん?わたしが先生の授業を見たがっているって話しになってるの?……別にいいけど。
アリエス先生って何の授業の講師だったかな…。
数時間後。
わたし達は、学園から少し離れた海岸に来ていた。
わたしとサイモンは馬のアンバーの背に乗っている。
海岸には、血ヘドを吐きそうになっている生徒達。
学園から海岸まで、走らされて来たのだ。
苦労を知らない貴族のお坊ちゃん達が。
「オラ!モタモタすんじゃねー!」「お前、俺の事をナメてんのか?ハッ倒すぞコラ!」「こんな基礎も出来ねーのか!母ちゃんの腹ん中から人生やり直せや!」
………。アリエス先生、口わっる。
顔つきもこぇえ。片目だけ細くして、あぁ?って顔してるし。
この世界は……イケメンの大半がヤンキーですか?
まぁ、ジャンセンさんの創った世界ですし……
あの、ディアーナとレオンハルトさんの親の創った世界ですし……
「……アリエス先生……おっとり説が……崩壊…」
「普段は優しい、おっとりした先生だ。
ただ、授業をすると人が変わる。」
そう言えば…アリエス先生って、ゲームの中では授業のシーンが出なかったから忘れていたけど、体術の講師だったわね…。
イメージ沸かなくてスルーしていたわ。
イメージ的には…癒しの魔法とか…植物からの薬学知識だとか、家庭科とか…道徳とか……お花の先生とか……。
そんな先生かと……
まさか、アリエス・ザ・ブートキャンプだったとは。
「……あの先生を、俺程度では組み敷く自信が無い。」
「そうですね…鎖で繋いでも、ウガー!って鎖を引きちぎりそうな雰囲気ですねぇ…」
オスのゴリラみたいに。
妄想の中のアリエス先生と、ご本人は別人でした。
まぁ、それはそれ、これはこれ。
「たくましい…お父さんですねー…子だくさんパパなんですって?」
「ああ、10人のお子さんが居る。」
え!多すぎない?まだ若いのに!
「六つ子と…後は四人の孤児を養子にしている。」
六つ子の名前には松が付く…とかはまぁ、無いだろうが…
孤児を養子にしているんだ…。
その辺、本当に見た目通り、優しい綺麗な女神みたいな人なのかしらね。
「優しい人なんですね。わたしの知っているアリエス先生より、もっと…。」
「ああ、優しいし…強い。俺もかなり鍛えて貰った。」
サイモンは笑っている。
わたしに現実を突き付けて幻滅させた訳ではなく、わたしの好きな世界を認めた上で、わたしに「君の描く彼も良いが、本人も素晴らしい人だよ。」と会わせてくれた。
つくづく…サイモンはわたしにゲロ甘い。
自分をBLネタにしていた女に、よくまぁここまで優しくなれるもんだよね…。
「あんなアリエス先生が相手では、サイモンの方が食われてしまいそうですね…。」
「そうだな。だが、そうなってしまいそうな時は、殺す気で抵抗するな。」
そして、頭から否定せずに真面目に返事をしてくれる。
「アリエス先生は、貴族の子息が騎士になる為の身体作りを任されている。
ああ見えて、アリエス先生は数々の戦地を歩いた猛者だからな。」
「ああ…騎士になるんだ宣言した瞬間、俺は強いんだと勘違いしてる貴族のボンボンに現実を見せてやるんですね。
ザマァミロです。」
そう、そんな甘チャンはアリエス先生みたいな線が細くて儚い女神みたいな人に、ギッタギタにされて現実を知ればいーんですよ。
人間、見た目とちゃうぞ的に。
わたしだって、見た目が地味だから大人しく言う事を聞きそうな女だと思われていた。
わたしはどうも、さっきの男の事がムカついているらしく、貴族の坊っちゃん達がしごかれている姿を見て、いい気味だとほくそ笑む。
「あの半数以上が先生の授業に来なくなる。
殿下もアリエス先生に卒業まで鍛えて貰っていたからな。
殿下でさえ修了したアリエス先生の授業を、途中で辞退するような奴には騎士になれる素質が無い。」
サイモンが馬の手綱を握り、馬上からアリエス先生に会釈をして海岸を離れた。
「さあ、帰ろうか。」
「そうね…今日は楽しかったわ。」
わたしが一部しか知らなかった、この世界を知る事が出来て。
海岸はオレンジ色に染まり、夕陽が眩い。
わたし達は帰路についた。
わたしは男の太ももに、思い切り蹴りを入れていた。
と、ほぼ同時にサイモンがわたしから男を離そうとして襟首を掴んで後ろに引っ張り上げた所だった。
首が絞まって苦しげな声を上げた男の太ももに手加減無しのローキック。
サイモンは眉間に深いシワを刻んで、引っ張り上げた男の背後から低い声で男に囁く。
「俺の妻に近寄るな……殺すぞ。」
「は、は、は、はい!!はい!!」
男が太ももを痛がる暇を与えずに、サイモンが脅しをかける。
さすが神の御子のレオンハルトさんと兄弟なだけあるわ。
こっわ。
男は太ももを撫でつつ、怯えて逃げるように去って行った。
サイモンはともかく、わたしにも悪態をつく余裕も無かったようだ。
覚えてろよ!なんて、怖くて言えないよね。
サイモンに覚えていられたら困るの自分だからね。
「それにしても失礼な男だったわ。わたしが地味だから自分に丁度いいみたいな言い方をして…。」
メグミンとしての記憶を思い出す前の、男爵令嬢ミランダとしての、わたしだったら…大人しくて、物静かで、夫には逆らわない、扱い易い女だったかも知れない。
どちらにせよ、わたしを、女というものをバカにしているわ。
「あいつの家にもミランダ嬢との婚約申し込みを取り下げるよう脅しをかけたのだが…本人が納得してなかったのか。」
「………そんな事を、たくさんしていたの?……そりゃ、サイモンの仕事柄、弱味の一つや二つ、握れるでしょうけど……。」
ジャンセンさんと言う、おっかねぇ味方も居るしね。
意外に親バカだし。
「していたな。君を手に入れる為に必死だったからな。」
サイモンは腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべわたしを見る。
わたしは顔を赤くしてサイモンに背を向ける。
わたしを手に入れる為に必死だった……んだ
嬉しくて、照れる。顔がにやける。
そして…サイモンに背を向けたわたしの視線の先に
淡い桃色の長い髪の一部を、三つ編みにし、口元にホクロのある女性かと見紛う程に綺麗な男性が微笑んで立って居た。
「あ!!あ!!」
アリエス先生だ!!生のアリエス先生!
は、初めて見た!!
背が高い!線細い!超美人!!
地球のサイモン×アリエス先生推しの皆様!
わたし、今、生の二人を拝見しております!!
ど、どうしましょう!二人がわたしの目の前で、おっ始めたら!!
「サイモン君、この方が君の細君ですね?可憐なスズランのような方ですね。そして、見事な蹴りでした。」
まぁ!まぁ!おっとり美人!なんて物静かで綺麗な声をなさってるの!?
男だけど、女神のようですわ!
こんな美しい方が鎖で地下に拘束されて、イヤらしいお道具でグッチョグッチョにされてますの!?
まぁぁ!人は見掛けに寄らないものですわね!
「メグミン…アリエス先生をガン見している理由が顔に書いてあるが、それは現実では無いからな?」
そ、そうだった…いかん…。妄想と現実の境目が曖昧に…。
「お初にお目にかかります。サイモンの妻で、ミランダと申します。お見知りおきを。」
「いーえ、こちらこそ。」
ドレスの端を摘まんでカーテシーをする。
アリエス先生も柔らかい笑顔で頭を下げてくれた。
「アリエス先生、妻が先生の授業を見学したいと…」
「ああ、そうでしたね…そんな、見て楽しい授業ではありませんよ?」
ん?わたしが先生の授業を見たがっているって話しになってるの?……別にいいけど。
アリエス先生って何の授業の講師だったかな…。
数時間後。
わたし達は、学園から少し離れた海岸に来ていた。
わたしとサイモンは馬のアンバーの背に乗っている。
海岸には、血ヘドを吐きそうになっている生徒達。
学園から海岸まで、走らされて来たのだ。
苦労を知らない貴族のお坊ちゃん達が。
「オラ!モタモタすんじゃねー!」「お前、俺の事をナメてんのか?ハッ倒すぞコラ!」「こんな基礎も出来ねーのか!母ちゃんの腹ん中から人生やり直せや!」
………。アリエス先生、口わっる。
顔つきもこぇえ。片目だけ細くして、あぁ?って顔してるし。
この世界は……イケメンの大半がヤンキーですか?
まぁ、ジャンセンさんの創った世界ですし……
あの、ディアーナとレオンハルトさんの親の創った世界ですし……
「……アリエス先生……おっとり説が……崩壊…」
「普段は優しい、おっとりした先生だ。
ただ、授業をすると人が変わる。」
そう言えば…アリエス先生って、ゲームの中では授業のシーンが出なかったから忘れていたけど、体術の講師だったわね…。
イメージ沸かなくてスルーしていたわ。
イメージ的には…癒しの魔法とか…植物からの薬学知識だとか、家庭科とか…道徳とか……お花の先生とか……。
そんな先生かと……
まさか、アリエス・ザ・ブートキャンプだったとは。
「……あの先生を、俺程度では組み敷く自信が無い。」
「そうですね…鎖で繋いでも、ウガー!って鎖を引きちぎりそうな雰囲気ですねぇ…」
オスのゴリラみたいに。
妄想の中のアリエス先生と、ご本人は別人でした。
まぁ、それはそれ、これはこれ。
「たくましい…お父さんですねー…子だくさんパパなんですって?」
「ああ、10人のお子さんが居る。」
え!多すぎない?まだ若いのに!
「六つ子と…後は四人の孤児を養子にしている。」
六つ子の名前には松が付く…とかはまぁ、無いだろうが…
孤児を養子にしているんだ…。
その辺、本当に見た目通り、優しい綺麗な女神みたいな人なのかしらね。
「優しい人なんですね。わたしの知っているアリエス先生より、もっと…。」
「ああ、優しいし…強い。俺もかなり鍛えて貰った。」
サイモンは笑っている。
わたしに現実を突き付けて幻滅させた訳ではなく、わたしの好きな世界を認めた上で、わたしに「君の描く彼も良いが、本人も素晴らしい人だよ。」と会わせてくれた。
つくづく…サイモンはわたしにゲロ甘い。
自分をBLネタにしていた女に、よくまぁここまで優しくなれるもんだよね…。
「あんなアリエス先生が相手では、サイモンの方が食われてしまいそうですね…。」
「そうだな。だが、そうなってしまいそうな時は、殺す気で抵抗するな。」
そして、頭から否定せずに真面目に返事をしてくれる。
「アリエス先生は、貴族の子息が騎士になる為の身体作りを任されている。
ああ見えて、アリエス先生は数々の戦地を歩いた猛者だからな。」
「ああ…騎士になるんだ宣言した瞬間、俺は強いんだと勘違いしてる貴族のボンボンに現実を見せてやるんですね。
ザマァミロです。」
そう、そんな甘チャンはアリエス先生みたいな線が細くて儚い女神みたいな人に、ギッタギタにされて現実を知ればいーんですよ。
人間、見た目とちゃうぞ的に。
わたしだって、見た目が地味だから大人しく言う事を聞きそうな女だと思われていた。
わたしはどうも、さっきの男の事がムカついているらしく、貴族の坊っちゃん達がしごかれている姿を見て、いい気味だとほくそ笑む。
「あの半数以上が先生の授業に来なくなる。
殿下もアリエス先生に卒業まで鍛えて貰っていたからな。
殿下でさえ修了したアリエス先生の授業を、途中で辞退するような奴には騎士になれる素質が無い。」
サイモンが馬の手綱を握り、馬上からアリエス先生に会釈をして海岸を離れた。
「さあ、帰ろうか。」
「そうね…今日は楽しかったわ。」
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