【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第7章【金の髪に翡翠の瞳。天使の様な乙女ゲーム主人公オフィーリア】

139#偽婚約者と、便乗・偽々婚約者。

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ホールに入って来た2代目フローラは、ハワードに近付くとその右腕を抱き締める様にして胸に挟んだ。



「……ッ!かたっ!」



思わず呟いたハワードの台詞に、ランドルとロザリンドの中で、こちらがオフィーリアだと判明。

端から見れば柔らかな胸に腕をムニュと押し付けた絵面になっているが、オフィーリアの触感は細マッチョで筋肉カチカチだ。



「ちょっと待ってちょうだい!!」



大ホールの遥か高い天井、そこにある明かり取りの天窓から声がする。

ランドルとロザリンドとジージョが「あぁ…お祭り好き…」と呟いた。


開かない明かり取りの天窓を、ガコン!と窓枠ごと取っ払ったディアーナが、その場から忍者の様にシュタっとハワードの前に着地した。

人間離れした登場の仕方をした白いドレスの美少女に、ホール内から困惑の空気が流れる。



美少女で、馬鹿力で、人間離れした跳躍力で、天窓から降りて来る常識の無さ。

もう、皆はどこに驚いて良いのか分からない様だ。



「ハワードは、私をお嫁さんにしてくれると、言ったッポイのよ!?」



「い、言ってないよ!!そんな事!!しかもッポイって!?」



さすがに、そこは否定したハワード。

想定外の登場人物達に、思わず焦ってしまった。

だが、シナリオは変わらない。

誰が現れ、誰が邪魔しようと、ハワードの魅了に深く縛られたフローラの心は変わらない。筈だった。



「…………殿下は……おモテになられますのね………。」



ハワードの左側に立っていたフローラがポツリと呟いた。



「ち、ちが……」



「女を馬鹿にしてんじゃないわよ!!!!」



バキッ!!



ハワードが何かを言う前に、初代フローラの右ストレートがハワードの左頬を叩いた。



「ずっと我慢していたけど、もー我慢の限界だわ!!
自分の魅力を磨きもしないで、魔力にたよって人の心を何とかしよぉだなんて!!
あんたに、国の頭になる資格は無い!!」



床に尻をついた状態で、呆然とフローラを見上げたハワードは、思い切りフローラにガンを飛ばされた。



「姉御!!最高です!!」

「お帰りなさい!姉御!!カッコいい!!」



会場の一部からワルト達の声が上がる。



「……え?……ええっ!?ええっ!!?」



驚きの余り声を発せないハワードとは対照的に、ランドルが驚き過ぎて大混乱状態になっている。

同様に、ロザリンドもポカンとしたまま混乱している様だが、ジージョは色々と納得して頷いた。



「オフィーリアさんの言った通り、ワルトさんの言った姉御ってのはフローラ様ご本人だったのですね。

……確かに、ランドル様がご覧になれば驚く姿ですわね……見たくない姿だったかも。」



ジージョは苦笑しながら、再び舞台の中心を見る。



主役がハワードから初代フローラ総長に代わっていた。



「私を甘く見てたわね?私、それなりに魔力あるから魅了なんて掛かりゃしないわよ。

その力を使って、人心を操ろうなんて器が小さい!

あんたこそ、王太子失格よ!!」



ビシッとハワードを指差し言い切った初代フローラに、国王が焦った様に怒鳴る。



「ぶ、無礼者!王太子に暴力を働き、暴言まで吐くとは何事……」



言い掛けた国王の首に背後から腕が回される。

いつの間にか国王の背後を取っていた2代目フローラがボソッと囁く。



「国王~……口を出したらチョークスリーパーだと言った筈だが?

お前、俺が神の御子だと知ってんよな?どっちが無礼者だ?

この状況見て、まだそんな事言うお前も国王の器にネェわ。」



国王の背後で2代目フローラがグフッグフッと不気味な笑い声を上げる。



2代目フローラに首を締め上げられそうになっている国王の隣で、王妃が大きな溜息をついてから声を上げた。



「意識を失った国王陛下に代わり、国王陛下の意思をわたくしが伝えます。

本日を以て、現国王陛下は退位致します。

新しい国王は……ランドル、貴方です。」



「わ、私は意識を失ってなど…ギュェ!」


王妃の言葉を遮ろうとした国王の首を、笑顔の2代目フローラがチョイ強く締め上げる。



「は、母上!!僕が王太子です!
父上が退位したならば、次の国王は僕の筈だ!!」



殴られた左頬を押さえて、床に尻をついたままのハワードが王妃に向かって言う。



「やっぱり、自分の子供が可愛いんですよね!?
僕なんか邪魔だったんでしょう!?だから、こんな…」



「お黙りなさい!!ハワード!!お姉様が…第二王妃が、どれだけ貴方を心配していたと思っているの!!
わたくしに、貴方が立派な大人になれる様、ハワードを甘やかさないでと告げる程に!!」



王族の席から降りた王妃は、ハワードに近付くとハワードの頭にガツンと、おっかさん的なゲンコツを食らわせた。

それからハワードを抱き締める。



「お姉様が亡くなった後の貴方を見るのが辛くて…お姉様の約束を守れないでいたの…

ごめんなさい、ハワード……わたくしが大好きだったお姉様の大切な息子…。」



王妃に抱き締められ、ハワードが涙を流す。

段々と泣き方が激しくなり、幼い子供の様に泣きじゃくり始めたハワードを、王妃がずっと抱き締めて撫でていた。





「………ランドル、前に出なさい。

今宵この場には、この国を動かしている者達が多くいる。

よって、この場を正式な場とし、宣言する。

本日この時を以て私は国王の座から退き、たった今から新国王はランドルとする。

そしてその王妃は、ロジャー家男爵令嬢、フローラとする。」



「ええっ!!」



喉元を撫で擦りながらの国王の発言に、王族の席から前に進み出ていたランドルがおろおろと焦り出す。

事が早く進み過ぎて、思考がついて行けてなかった。

ランドルは、今日この時を愛するフローラを失い、自身が罪人となるかも知れない、と不幸に対する心構えはある程度出来ていたつもりだったが…。



そんなランドルの前にフローラが進み出て、カーテシーをした。



「ランドル国王陛下、わたくしフローラは妻となり王妃として、貴方を支えて行きますわ。
末永く、よろしくお願い致します。」



ランドルの前に立つフローラには、早くも王妃としての風格が漂う。

ランドルはフローラを、ハワードに見せていた様に大人しく、控え目で、苛めを受けても静かに耐え忍ぶ様な少女ではないと知っていたが……。

ロザリンドの姉の様に、頼り甲斐のあるフローラという少女は……

少年達に姉御と呼ばれる、更に頼り甲斐のある想像以上に逞しい女性であったのだと知った。



「うん、俺よりしっかりしてそうだし頼りにしてるよ。
フローラ。」


フローラの手を取り、ランドルが手の甲に口付ける。

思わず涙を溢したランドルの背中をポンと叩くフローラ。



「まだよ!今日から、この国は変わるの!」



フローラがランドルの耳にコソッと耳打ちする。

ランドルが驚いた様な表情をし、それから嬉しそうに微笑んだ。



「本日より、テオドール王国8代目国王となったランドルだ。
よろしく頼む。

私の一番最初の仕事として……我が国の海域に浮かぶ島を新しい領地とし、その島を中心に海域周辺の他の島等を統治してもらう者に辺境伯の爵位を授ける。

デュラン、前へ!!」



ホールの扉が開く。



金色の長い髪を縛り、浅黒い肌に赤い瞳の青年は貴族の正装をし、三人の騎士を連れて現れた。



「デュラン……ッ様っ……!」



ロザリンドは、ランドルが名前を呼んだ時から涙が溢れそうになった。

デュランの姿を見た時には、流れ出る涙を止める事が出来ず、視界が涙で霞むのを止めたくて何度も何度も涙を拭う。



「やだ、やだ…もっと、もっとお姿を見たい…見たいのに…
霞んじゃう…涙が止まらない…!」



デュランはランドルの前に出て、膝をつき頭を下げる。



「拝命いたしました。
つきましては、陛下にお願いしたい事が御座います。」


「聞こう。申してみるがいい。」


互いを微笑んだ状態で見ながらの、茶番の様な台詞のやり取りのさ中に、デュランは人混みの中をかき分け、ロザリンドの前に立った。



「海の色のドレス…とても良く似合う。

待たせた…ロザリー。君をずっと想い続けていた。

王太子妃にはなれないが、俺の妻になってくれるか?」



「デュ………」



涙が溢れて溢れて止まらない。ロザリンドは口を押さえ言葉も出せなくなった。

ただただ、何度も何度も頷いた。

そんなロザリンドをデュランが抱き上げる。



「陛下!!私に、ロザリンド嬢を妻に迎える事をお許し下さい!!」



「許す!!」



ランドルと、ランドルに寄り添うように隣に立つフローラが満面の笑顔を浮かべていた。



そして、その二人の背後の先代国王陛下が、ロザリンドと同じ位に大号泣していた。







貴賓席から立ったスティーヴンがさりげなくハワードに近付く。

そして先代国王妃と抱き合うハワードの隣に腰を下ろしてニコニコ微笑みながら話し掛けた。



「人の幸せを、笑顔を願う器が無いと良い国王にはなれないよ。

君の力では、国民全てを操れないでしょ?………そんな勉強不足の君には……

テオドール王国大使として、我が国に来て貰います。」



「………ええ?」



ポカンとしているハワードに、スティーヴンが楽しげに話し続ける。



「君は世間を知らなさ過ぎ。

国王になりたかったみたいだけど、自分の事ばかりで国民や国の事を見てなさ過ぎ。

そんな君は国を離れて外から自分の国を見て、どうしたら国を良く出来るか考えるべきだ。

そしてラジェアベリアとテオドールの橋渡しをしてくれ。

ちなみに、魔力の豊富な我が国では魅了の魔法、誰にも効かないから。」



「………ええ?」





ホールのあちこちで色んなドラマが繰り広げられていた頃



ハワードを殴るつもりでいたのに初代フローラ総長に見せ場を奪われたディアーナは、誰も居ない食事の置かれたテーブル前に立ち、一人フードファイターをやっていた。



「んー…ま、いっか!マンジもランドセルも楽しそうだし!スティーヴン殿下も黒い笑顔で楽しそうだし!

……そう言えばジージョは……。」



ディアーナが食料がたくさん乗った大皿を片手に乗せ、ヒョイパク状態で食べ歩きながらホール内を練り歩く。

やがて壁際に立つジージョを見つけて近寄った。



「あ、ディアーナ様!ディアーナ様…ありがとうございます…」



「いや、お礼言われる様な事をしてないんだけど……ジージョ、何でツーと一緒に立ってんの?」



ジージョの隣に、デュランの側近のツーが立っており、ツーがディアーナに頭を下げる。



「ディアーナ様、私はジージョでは無くアリッサと申しまして…ディアーナ様がツーと呼びます、デュラン殿下の側近をしておりましたアルフォンスは、私の父です。」



ディアーナが口からプチトマトをブッと噴き出した。



「あははははははっ!!マジか!!ウケるんだけど!!!」



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