【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第7章【金の髪に翡翠の瞳。天使の様な乙女ゲーム主人公オフィーリア】

135#祭りの準備は仕込みが大事。

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テオドール王国、国王の私室には疲れ果てた様に椅子に深く腰を落としてうつらうつらとしている国王と、テーブルを挟んで向かい側の席で紅茶を飲む第三王妃が居た。



「陛下、とてもお疲れのご様子ですわね。
建国記念のお祭りは毎年目が回る程、お忙しいですものね。」



第三王妃はランドルの生母である。

デュランの生母の第一王妃、ハワードの生母の第二王妃が亡くなり、今は彼女一人が王妃となった。



三人の王妃は遠縁にあたるが、それぞれがテイラー縁の者であるため顔見知りであり、仲も良かった。



「儂が疲れているのは…そうではない…。
お前には話してないが…今、我が国は……」



言い澱むが言わなければ、と重く口を開いた国王に対し、王妃は笑顔で首を横に振った。



「何も仰有らなくて良いのです。
陛下がお決めになった事ならば、わたくしはどのような事でも従いますわ。例え、我が子と縁を切る事になろうとも。」



国王は、今、王太子の座を巡り王子達が揉めているようだとの認識しか無いが、ランドルが窮地に立たされつつある事を何となく把握していた。

だがそれを母である王妃に伝えていない。

王妃は王妃で夫の言わんとしている事を感じ取りつつ、国王の心労を慮り、あえて聞こうとはしなかった。





「我が国が大変な所悪いのだけれど、ついでに私の言う事も聞いてくれる?」



王妃の声に続いて、部屋には居る筈の無い三人目の声がした。

国王と王妃が慌てて声のした方を向く。



王の私室、扉の前に金髪に翡翠の瞳の少女が立っている。

国王の私室前の廊下には衛兵が立っており、簡単に部屋に入る事は出来ない。

扉の開いた気配も無く、その少女は突然現れて部屋の中に立っていた。



「あら!?フローラじゃない!?どうしたの?久しぶりじゃない!」



王妃の顔がパアッと明るくなる。

ランドルと同じ様に人当たりの良い笑顔を見せた王妃は、警戒心もなくオフィーリアに近付いた。



「その少女は王妃の知り合いか?」



「ええ、ランドルの幼なじみですわよ?
…あら、でもどうやって部屋に…。」



オフィーリアは苦笑して指先で頬を掻く。

この屈託の無い明るさと、見知った顔には警戒心の無いおおらかさはランドルに似ているなと思った。



「私はオフィーリアと申します。
似ておりますが、フローラさんではありませんの。
この国はそれなりに歴史のある国ですから、陛下は私の事をご存知ではないかしら?
私は創造主の御子、世界の修復人とも呼ばれているわ。」



創造主の御子、神の御子、修復人、それらの名とその存在は、代々国の頂点になる者だけに受け継がれて来た神に属する者の名前。

千年以上もの間、世界を回り人の手に負えない様な魔物が現れれば退治したり、その原因となる瘴気を祓い清浄化してゆく。

国境など関係無く世界そのものを維持する存在であるその者に逆らう事は赦されず、その者を国の所有物とする事も許されない。



「は、初めてお目にかかります!
まさか、その様な御方がお出でになるとは…!
この様な姿で申し訳ございません!」



国王が慌てて椅子から立ち上がり、床に膝をつこうとするのをオフィーリアが止めた。



「いや、今回はたまたま遊びに来てるだけだし畏まらなくていい。ただ、せっかくの楽しいお祭りなんで頼みたい事が幾つかあって。」



「御子様のお頼み事でしたら、何なりと。どのような事で御座いましょう。」



国王は膝をつこうとするのを止められた為に立ったまま、それでもオフィーリアに対し畏敬の念を持ち頭を低くする。



「…真面目で堅物なんだな、あんたは。
……まず、来賓にラジェアベリアの王太子殿下夫妻を呼ぶ事。
舞踏会では何が起こっても静観している事。
これは兵士達にもちゃんと言い聞かせといて?
でないと私が、動いた者に片っ端からチョークスリーパーをお見舞いする事になるから。」



国王と王妃が「は?ナニそれ。」と不思議そうな顔をしている。



「では、建国記念日当日の舞踏会にて…何かが起こると……。」



「まぁ、起こるわな。
で、国王の貴方も…何かが起こるだろうてのは分かってんでしょ?だから疲れた顔をしてんのな。
でも、貴方の思った結果にはならないかも知れない。
貴方の望む結果にもならないかも知れない。」



「私の望みなど…国が平和であり、息子達がそれぞれ幸せであるならば…。
だが、今の状況ではそれも、ままなりません…。」


ガックリと肩を落とす国王と、それを慰めるように寄り添う王妃。



「暗い!暗いわ!お祭りなのにな!
まあ、俺達は俺達のしたいようにする。あ、国王!
王太子の事は諦めろ。この国には王太子が居なくなる。」



「はぁ!?居なくなる!?そして、俺!?」



ほぼ100パーセント驚かれるオフィーリアの呼称、俺。

王太子が国から居なくなると言う、国を揺るがす発言と同レベルで驚かれる、オフィーリアの口から出る、俺。



これが不思議な事に、ディアーナが自身を俺と言っても、回りはあまり違和感を抱かない。



「良くも悪くも国をあげての大騒ぎ、楽しみましょう?フフ…」



オフィーリアは現れた時と同様唐突に、忽然とその場から姿を消した。









「ねぇ……ジージョ……ディアル…いえ、ディアーナ様はデュラン様を見付けられたのでしょう?
……なのに、デュラン様の事を何も教えてはくれないのね…。」



ロザリンドは寮の自室にて窓の外を眺め、祭り初日の終わった学園敷地内を見る。



エティロールにそそのかされて夜に出た中庭は真っ暗だったのに、今夜は露店が閉まった後もランタンが下がり、ボンヤリとした灯りの列が出来ている。



「デュラン様ももう、良いお歳ですもの…ご結婚なさっていても可笑しくは無いものね……。」



ロザリンドの弱気な呟きを聞きながら、ジージョは頭の中にフローラの部屋を訪ねた際にオフィーリアに言われた事を思い出していた。



━━━お前さんは貴族家のメイドをやめて、海賊達が居る場所でロザリンドの侍女をする事は大丈夫なのかよ━━━



あの言葉は、貴族籍を剥奪されたロザリンドの行く先が、海賊をしているデュランの元だと言っていたのだとジージョは確信を持っている。



「お嬢様は、明後日には貴族ではなくなりますが…お嫌ですか?
デュラン様と添い遂げられないなら、貴族のままでハワード殿下の元に居た方が良かったとか…考えてしまいます?」



だが、敢えてジージョはそれを言わずに、少しばかり挑発するように意地の悪い言い方をしてロザリンドの気持ちを試してみた。



「そんな事無いわよ!
デュラン様と添い遂げられなくても、わたくしは一人で生きて行くわ!
平民の暮らしだって、大変だろうけど頑張るわよ!
ハワードの元に嫁ぐのだけは絶対イヤよ!」



「では、デュラン様が結婚なさっていたとして、なぜ私を裏切ったの?と、デュラン様を恨んだり致しませんの?」



「しませんわよ!
デュラン様が結婚なさっていたとして、わたくしを裏切った訳ではないわ!
辛い思いをなさったデュラン様が幸せであるなら、わたくしはそれだけでも満足ですわよ?
…それに、わたくしはデュラン様と何度も港町に行き、そこに住まう人達の暮らしを見て来たわ。
……一人でも、あんな暮らしも悪く無いわねって思うのよ。」



クスクスと苦笑するロザリンドに、ジージョも笑う。



「では今、デュラン様の事をアレコレ考えるのは、おやめ下さいませ。
お嬢様は婚約破棄を言い渡されるまではハワード殿下の婚約者であり、悪役令嬢です。
舞台から降ろされて平民の娘になった時は、私もお供致しますわよ。」



「……ジージョ……」



公爵家に勤めるジージョもまた、貴族家の出身である。

そのジージョがロザリンドに付き従い、自身も平民として暮らすと言う。

ロザリンドはジージョの申し出に、思わずホロリと涙を溢した。



「ぎゃぁああ!!!痛い!痛い!何なの!何なのぉ!!」



ロザリンドはいきなり卍固めをキメられていた。

ジージョによって。



「お嬢様!!慣れた私も何ですけど、私ジージョじゃありませんから!アリッサですわよ!?お忘れになってません!?」



「忘れてないわよ!!でも呼びやすいのよ!!
マンジよりマシでしょう!!何で、こんな技を覚えてんのよ!!」



「見よう見真似でなんとなくです!!」


ロザリンドは身を捩り、辛くもジージョの技から逃れた。


ジリジリと距離を取りつつ、ジージョは再び技をかける為の隙を、ロザリンドは反撃に打って出るチャンスを狙う。



「ジージョは足が弱いわ!足をもっとガッツリ引っ掛けるのよ!
つか足りねぇ!お前らにゃぁ覇気が足りねぇ!!
男に襲われて『きゃあ!誰かぁん!』なんて言ってるようじゃ、イカン!
『おら!返り討ちしたるわ!』と、自ら撃退出来る様にならないと!!」



いきなり現れたディアーナが力説しているが、そのディアーナを見て二人は急に熱が冷めた。



「……まぁ、普通は居ないわよ。ここまで野蛮で攻撃的な女性は。」



ボソッと呟いて椅子に座り、冷めた紅茶を飲み干したロザリンドのティーカップにジージョが熱い茶を注ぐ。



「そうですわね。
戦いの場においては勇ましい女騎士や女闘士の方でも普段は女性らしいとの事ですから。
ディアーナ様は常日頃から戦闘狂ですし。普通じゃありませんものね。」



白いドレスを身に着けたディアーナが腰に手を当てふんぞり返る。



「私はいつでも喧嘩上等よ!美しい上に強い!敵無しだわね!って、そんな事を言いに来たんじゃないんだけど。
……うん、心配したけど大丈夫そうね。じゃ!」



ディアーナはロザリンドの部屋の窓から、ヒラリとドレスを翻して出て行った。



「……え?ナニしに来たの?
わたくしがジージョに卍固めをされているのを見に来ただけ?」



窓の外に身を乗り出し、姿を消したディアーナを探しながらロザリンドがジージョの顔を見た。



「もしかしたら…お嬢様が…沈んでないか心配して、慰める為に見に来て下さったのでは?」



「……まぁ……わたくしを心配してわざわざ慰め……
って、沈んでいたら結局卍固めなのでしょ!!
フザケんじゃないわよ!!あの野蛮令嬢!!」



近くにあったクッションに、思わず拳を叩き込んでしまったロザリンドの姿を見てジージョはクスクスと笑い出した。



「ホントに…野蛮で突拍子もない事をして…運命を覆す…
可笑しな女神ですわね、ディアーナ様は…。」



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