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第7章【金の髪に翡翠の瞳。天使の様な乙女ゲーム主人公オフィーリア】

121#海賊王を倒して、海賊王に俺はなる!!そしてお前はゴローと命名!

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ディアルはゴロツキのオッサンの後ろ襟を掴んだまま引き摺って、甲板の上を歩き回る。


船客は30人程度、船員らしき者達が20人程度。

地球で見た豪華客船程の規模は全く無いが、それなりに大きな帆船、船客の安全を守る為に腰に剣を携えた護衛らしき者も数人立っている。


「そいつらの手に負えなくなる位に暴れたら出て来るかな、海賊王ドラゴン。」


「海賊王って何ですか!?どっから付けました!?
そんな二つ名!!嫌ですよぉ!呼ばせないで下さいよぉ!!」


ディアルの目が輝いているのを見てしまったオッサンの顔が青ざめ、生気が無くなる。


━━ドラゴンに会いたい?絶対に違う!!

坊っちゃん!!

今のあんたは、暴れたいだけだぁあ!!!━━━


もう逃げ出す事も出来なくなり死人のような土気色の顔をしたオッサンを気にも止めないディアルは、船が大海原を行き進み陸が見えなくなった辺りで大きな声をあげた。


「俺達は海賊だ!!金目のモンを出せぇ!!
抵抗すればぶっ飛ばーす!!」


少女の様に華奢な少年が嬉々とした顔を隠しもせず、船首側の甲板に立ってベッタベタな口上を言う。

船客や船員は一瞬ざわつくが、子供の悪戯位にしか思ってないのか笑い声さえ上がる。


やがて、ガタイの良い護衛の一人がディアルの傍にやって来てディアルの胸ぐらを掴み、コワモテの顔を近付け睨み付けて来た。



「いい年こいて海賊ごっこか?
ガキの遊びに付き合ってる暇はネェんだ、くだらねぇ真似してんじゃねーぞ!」


「はぁい!!抵抗したのでぶっ飛ばぁす!!殺人チョップ!!」


ディアルは自身の胸ぐらを掴んでいた護衛の男の首の両脇を狙って、両手で鎖骨を折るような勢いで手刀をかました。


「カフッ…ん!!」


男は変な声をあげるとディアルの胸ぐらから手を離して、膝からガクリ崩れてそのまま甲板に倒れてしまった。


パタリとディアルの前に倒れて気を失ってしまった男を見てゴロツキのオッサンがオロオロし始めた。



「や、や、や、やっちまったぁあ!!坊っちゃんんー!!
どうすんですか!坊っちゃーん!!ひ、ヒイィ!!」



大きなガタイの男が簡単にノされたのを見た他の護衛達がディアルとゴロツキの回りに集まり始め、逃げ場を無くす様にディアルを取り囲むと、口々にディアルを牽制する言葉を吐く。



「お前は何者だ!!」「他の仲間は何人居る!!」「大人しくしろ!!」「抵抗しても無駄だ!!」「捕らえろ!!」




「………うっせぇ、いっぺんに話しかけんじゃない。
つか、お前は…俺をお前と呼びやがったな?何様だコラ……
ぶっ飛ばす!!」



何者だと尋ねてきた護衛の腹に、ディアルがワンパン叩き込んだ。


「ぼふうっ!!」


華奢な少年のワンパンで床に沈む男。

やっと他の護衛達が、ディアルをただの少年ではないと理解し始め、武器を手にした。



「坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん!!!坊っちゃーん!!」

「うるさいわ!!ゴロー!!黙ってろ!!!」



武器を手にした男達に取り囲まれて泣きわめきながらパニックになるゴロツキのオッサン。

ディアル命名、ゴロツキのゴロー。



「ゴロー!?ゴローって誰なんすかぁぁ!!!」



「お前達だけじゃ、相手にならんわ!!もっと強いヤツを呼べ!!海賊王とか!海賊王とか!
そいつを倒して、海賊王に俺はなる!!!わははは!!」



「坊っちゃん、目的が違うでしょーよぉ!!!やめてぇ!」



殴る、蹴る、何ならプロレス的な技も使う。

全てがほぼたったの一撃で男達がマット……もとい、甲板に沈む。

甲板の上は、メッチャ良い笑顔で暴れ回るディアルの独壇場となった。



船員が慌てて、救援を要する緊急用の狼煙を上げた。










「お嬢様、お顔の色がよろしくありませんわ。」


授業を休み、寮の自室にて窓の外をぼんやりと眺めるロザリンドに、紅茶をカップに注ぎながらジージョとディアルに呼ばれた侍女が声を掛けた。


「……わたくしの……せいかしら……。
わたくしが……大人しく、ハワードとの婚約を受け入れて……
ハワードを好きだと……ハワードに好かれる努力をすれば……もっとアイツにくっついていれば…フローラが、こんな事に……。」


憔悴したように力なく椅子に座ったロザリンドの前のテーブルに、淹れたばかりの熱い紅茶が差し出される。


ハワードを嫌っているロザリンドは、婚約者であるハワードが学園から消えた事にも気付いてなかった。

ハワードを好きだという芝居をする事さえ忘れていた。

それが、フローラを探す手掛かりであるハワードが学園から消えた事にも数日間気付かないという結果となった。


「お嬢様は、デュラン殿下をお慕いしてますでしょう?
ハワード殿下を受け入れるのは、無理ですわ。
それに……私どもテイラー家の使用人の多くは、お嬢様がハワード殿下に輿入れする事に不満をもっています。
……不安……の方が正しいでしょうか。」



悪役令嬢と呼ばれるに相応しく、顔の造りのきついロザリンドの顔が涙で濡れる。

眉を寄せ、目の下を赤く腫らしてキツく上がりぎみの瞳から大粒の涙を溢し続けた。


「デュラン様に…逢いたい……逢いたいの……でも、でも……
フローラが……!わたくしの身代わりになってしまったかも知れない…!わたくしのせいで…!」



「お嬢様、時間は有限ですわよ。
無意味に嘆いている暇は御座いません。ご令嬢の地位を手放してでもデュラン様と添い遂げたいと、フローラ様にも後押し戴いたのならば、お嬢様はそれを全うすべく、そちらに力を注ぐべきですわ。」



不意に部屋の扉がノックされ、ジージョとロザリンドがドアの方に目を向ける。

ジージョがドアに向かい、何事かとドアを開けた。

ドアの外には寮に勤めている女の使用人がおり、ジージョと言葉を交わす。


「寮の中が随分と慌ただしいわね…何か御座いまして?」


「理由はお教え出来ませんが、緊急な所在確認です。
学園で点呼出来なかった者は寮の部屋に居るかどうかの確認の為に来ております。……テイラー様はいらっしゃる様ですわね。」


こんな、所在確認の点呼など今まで無かった事を疑問に思ったロザリンドがドアの方まで来て、使用人に訊ねた。


「何事ですの?体調がよろしくないので休ませて戴いておりましたけど…このような事、初めてですわよ!?
不愉快だわ!!理由を教えられないですって!?
答えなさい!!わたくしを誰だと思ってますの!?」



キツい目付きで睨む様に詰め寄るロザリンドの迫力に、使用人の目が泳ぐ。



「あ、あの…私から聞いたと言わないで下さいませ……
実は、この学園の制服を着た少年が……自身を海賊だと名乗り、船を襲いました…
それで、その少年がこの学園の在学中の生徒か調べる為と…結果、在学中の生徒だったので……
他にも学園の生徒が愚行に参加していないかと……」



━━ディアルだ。この学園で、そんなアホな真似をするのはディアルしか居ない。



ロザリンドと侍女は、無表情になり同時に頷く。



「ディ……その少年には、身内がおりません?
ほ、ほら、この学園って結構、兄弟や親戚同士とか、おりますでしょ?で、ですから……」



何を聞いているんだろうと思いつつ、ディアルのこんな馬鹿な行動を偽フローラは知っているのかと気になった。

いまだ、何の目的で学園に来たのか分からない二人。

ただ、行方不明のフローラの事は気にしてくれていると思っていたのだが……。

フローラを探さずに海賊ごっこ?はぁ?



「……一応……従姉妹にあたる方に尋ねてみましたが……『まぁ!怖い!わたくし、存じませんでしたわ!』と、お答えになり自室に居りましたので…それ以上は…。」



「そ、そうなのね。わたくしも無関係よ?もう下がっていいわ。」



使用人を下がらせてドアを閉めると、ロザリンドが侍女に向かって騒ぎ出す。



「何なの!?海賊を名乗って船を襲いましたって!!
それ絶対ディアルでしょ!?馬鹿なの!?アホなの!?」



「お嬢様、落ち着いて下さい。
偽フローラ様を含めて、あのお二人は馬鹿ですしアホですし変態です。
もう、分かっているじゃないですか。」



「そんな変態馬鹿二人に、大切なフローラの安否を委ねるって何なのよぉお!!」



いきり立つロザリンドを見て侍女が思わず微笑む。

先ほどまで憔悴しきって泣いていたロザリンドが普段の通りに戻った姿を見て。











「…………………坊主、何か言いたい事はあるか?」


大海賊団の船長ドラゴンという男が甲板の木箱に腰を下ろし、その前の床に後ろ手を縛られて座らされたディアルに訊ねた。

ディアルはドラゴンという男の頭の先から足の先までを何度も繰り返し見る。



何か満足したのかほくそ笑みながらウンウン頷く。

そしてウインクしつつ舌を出し。


「つかまっちゃった!!てへぺろ!!」


なんて言っちゃったりした。



「坊っちゃぁーーーん!!!」



隣で同じように縛られて床に転がるゴローの泣き叫ぶ声が船の上にこだました。


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