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第7章【金の髪に翡翠の瞳。天使の様な乙女ゲーム主人公オフィーリア】
117#消えたフローラと、それぞれの思惑。
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桜貝のような爪のある細く白い指先で、チョイと摘まむ様に短剣の刃を取ったフローラは、もう片方の手を顎に当て思案中の様子。
思わず短剣から手を離したランドルは、フローラから一歩後退って改めてフローラをじろじろと見る。
「俺……自分の事を俺呼び?
…フローラどころか…女でさえない??」
「あらん、嫌だわランドル!俺はフローラですわよ!
少なくとも、今はな。ほら、返すぞ。」
オフィーリアは刃を摘まんだ状態の短剣をランドルの方に差し出して渡すと、金糸のフワリとした頭を乱暴にガシガシと掻く。
「あークソ…ちょっと色々情報不足だ。
本物のフローラに関しては…まぁ多分無事だと思う。
親父が絡んでるからな。」
「……親父?」
短剣を渡されたランドルは意味が分からず、どう返事をしたら良いか分からない。
「お前の話から推測するに、ロザリンドとフローラは表向きの関係とは逆に、実は仲が良いって事だよな?
……いじめる婚約者と、いじめられる少女、それはハワードに見せる為のポーズか?」
「……ハワード……その名前を出すって事はやはり、兄が君を連れて来たんだな……フローラとして……
では本物のフローラは…。」
オフィーリアはランドルの表情に気付く。
眉を寄せ悔しげに唇を噛むランドルの顔を見て、オフィーリアは思い付いた様にポンと手を打った。
「もしかしてお前、フローラと出来てんの!?」
「フローラと同じ顔で、そんな下世話な言い方すんな!!!」
顔を赤くしたランドルに、オフィーリアが顎を撫でながら、ほうほうとオッサンの様に納得する。
こっちが本命か、と。
二人きりの時は殿下呼びしない位の親しい間柄なんだなと。
て事は、横恋慕しているのはハワードの方の可能性がある。
「…お前、もう暫く俺が偽物だと気付いてないふりをしていろ。
フローラの事は悪い様にはしないが、俺はまだお前も信用していない。
俺の目で見て、決める。じゃ!」
「決める…?何を!?お、おい!!ま、待て!!
待っ………なんつー速さ……化け物か」
茫然とするランドルをその場に置き去りにしたまま、オフィーリアは人間離れした速度でその場を走り去って行った。
━━俺が見て決める。
決めなきゃならんのは多分、この国の先行き。
男女の恋のゴタゴタだけなワケねーわな……
「何とかしろ」って親父が投げ付けて来た課題は。
天使の様に可憐な美少女は、誰も見ていないのをいいことに拳を握って大股を開き少し腰を落とし、空に向かい大きな声をあげた。
「っかー!!めんっどくっせっ!!親父ィ!!」
▼
▼
▼
一方、学園外の港町。
ロザリンドと侍女の取った宿にて、ベッドに座ったディアルが固まっていた。
「……す、すまん…ジージョ……。」
大人しそうに見えていた侍女をブチギレさせてしまい、いつもは傍若無人の限りを尽くすディアーナにも少しばかりの罪悪感が芽生えた。
同様に、どこか高飛車な態度を崩さなかったロザリンドも侍女に対して申し訳なさげに控え目な声を出す。
「…悪かったわ…ごめんなさい…ジージョ…」
「はいぃ!?お嬢様もディアル様の事を言えませんですよね!!
私はジージョじゃありませんし!!何で定着されてんですかね!
その名前!さぁさぁ!時間は有限なんですよ!さっさと話し進めますからね!」
ブチギレしたままのジージョは、話の進行役を買って出てくれたのだが……。
ナニから話して良いのやら。
と、言うか…どこまでなら話して良いのやら。
ディアルは口をつぐんでしまった。
今、ディアルが得た情報を組み立ててみれば、ロザリンドとフローラははとこ同士で、実は仲が良い。
ハワードを好きではないロザリンドは、王妃として相応しくないと婚約破棄されて国外退去とされたい為に、ロザリンドが悪役令嬢となり、フローラをいじめる嫌な女を演じている。
しかも、それを提案したのはフローラらしい。
「そもそもさぁ…どっから令嬢いじめをして国外追放されようなんて案が出たんだよ。
そんな事しなくても、普通に自分は王妃として相応しくありませーん!って辞退すりゃいーじゃん。
他の令嬢がこぞって、あの見てくれだけは抜群の王子に群がるだろ?」
見てくれだけは抜群。ディアルは思わず本音を口にした。
他は何の魅力も無いと、ディアーナの本能が判断した。
「……この国の王太子には、テイラー公爵家に所縁ゆかりのある息女を嫁がせるのが決まりなんです。
公爵家側からの辞退は出来ません。
今のままでは、ロザリンドお嬢様が王妃となるのは覆せない決定事項なのです。」
侍女のジージョが言いにくそうに言いながらロザリンドの顔を見る。
要するに、ハワードとの結婚を避ける為には王族側から婚約破棄を言い渡されるのが必要だと。
それにしても、公爵令嬢の地位を捨てて国外追放だなんて犯罪者じみた身に落とされても良いだなんて…。
「……それ、ロザマンジが居なくなったら……
ハワードの婚約者って……どうなる?」
ディアルの問い掛けに、ロザリンドと侍女は口をつぐんだ。
まさか、何も考えてないのか??と口から出そうになったディアルだが、二人の顔を見て黙った。
部外者で、信用もされていないディアルには話さないだけで、二人には何かしらの思惑がある様子。
よくよく考えればロザマンジの探していた、大事な方とかゆーデュランとやらの存在も謎だ。
「あんた、質問ばっかするけどね!
まずはフローラの無事を確認してからだわ!
わたくしは、まだ、あんたを信用してないから!
ハワードなんかに雇われた、あんた達なんて!!」
ハワードなんか。
互いを好きではない関係とは言え、婚約者であるロザマンジから、随分な嫌われっぷりだな、ハワード…。
何があった。
「……俺も、今はフローラの安否が気になる。
俺のオトンが一枚噛んでるっぽいから、命の危機なんて事は無いだろうけどな。
…ロザマンジ、ひとつだけ教えて欲しいんだが……フローラは悪役令嬢になって婚約破棄、国外追放なんてシナリオを、どうして思い付いたのかな。」
ふんぞり返ってディアルを指差すロザリンドに、ダメ元で尋ねてみる。
普通は思い付かないだろ?こんなの。
ラノベや乙女ゲームじゃあるまいし。
「……何か、遠い国でそんな目にあった令嬢が居たらしいわよ。
ディアーナ嬢とかいう貴族の息女が。
………国を追われた後に、心を通わせる相手と結ばれたと。
そんな話を、街で知り合った黒髪の旅人に聞いたのですって。」
…………ほう、黒髪の旅人とな?
ロザマンジは旅人がフローラに話したという、遠い国の令嬢ディアーナの真似をして国外追放されて、自由な身となり好きな相手と結ばれたいと。
黒髪の旅人て、オトンやないか。
あんた、ナニしたいんだよ。
この、悪役令嬢プロジェクトは、師匠、あんたの仕業かい。
「お嬢様、もうそろそろ学園に戻りませんと……。」
「……分かったわ……続きはまた来週ね……でも、今回来れなかったフローラの身も…心配だわ。」
アニメの次回予告みたいな返事をしてロザリンドが項垂れる。
ゴロツキどもから情報を得ようとしていたデュランとかいう男の事もだが、本来ここに来る筈だったらしいフローラの安否も気になる様子だ。
「……なぁ、フローラの事は此方でも調べるから、マンジは俺がフローラの従兄弟でない事や、フローラが偽物だって気付いてないふりをしていろよ。
……ハワードに少し探り入れてみるから。」
ディアルを見るロザリンドと侍女が「その言葉を信用しろと?」と疑心に似た視線を向けて来る。
「別に信じなくていーが、変にハワードを刺激してフローラの身を危険に晒したくは無い。
……俺もな、ハワードに対してちょっと苛立っている。」
扉が開いたままの部屋に、中年の男が顔を出した。
学園から脱け出すのを手伝い、この宿へと手引きした者だろう。
時間を合わせて学園の中の協力者に裏口の扉を開いて貰い、次は学園にバレずに戻らなくてはならない。
「……今まで通りに振る舞えって事ね……分かったわ。」
ロザリンドの答えを聞いて、ディアルは宿を出た。
自分も学園に戻らなくてはならないが、ディアルは学園を囲む高い塀をいつでも簡単に越えられるので、もう少し街に居る事にした。
そして探す。
探す。
探す。
見つけた…………。
ロザリンド達に絡んで、ディアルがぎったぎたにしたゴロツキども。
「オラァァ!!待てや!テメェらぁあ!!!」
「ヒィィィ!!た、助けてぇ!!」
怖い位の笑顔で男達を捕まえに来たディアルに、ゴロツキどもが恐怖に青ざめ逃げまどう。
ロザリンドお嬢様、貴女がお手本にしようとしている貴族令嬢のディアーナ嬢は、今や、こんな言葉遣いのゴロツキさえ怯えさせる極悪人のようになっておりましてよ。
ごめんあそばせ!オホホホ!
ディアルは散り散りになったゴロツキどもの、一番リーダーらしい男を捕まえ、路地裏の片隅で壁ドン。
「ヒィィィ!!」
「さっきの二人組のにィちゃん達に、何を尋ねられていたんだ?ほら、答えろよ……。」
凶悪な美少年に壁ドンされたゴロツキのリーダーが、涙目で口の端に泡を溜めながら、震え出す。
「ど、ドランって……ドランっていう、おと、男が……2年程前にあ、あ、あ、現れなかったかっ……て!」
「デュランだろ?で、お前何か知ってんの?金を取ろうとしただけ?」
壁ドンしたディアルは、整った美しい顔を男に近付ける。
黒猫の様な金の瞳で睨め付けられながら、フワリと漂う綺麗な香りに鼻孔を擽られ、恐怖が最高潮に達したのか男の脳の何かがプチっと切れた。
「俺が知っているのは…2年程前に現れたドランって海賊です…デュランなんて名前は、この港町で聞いた事無いです。」
いきなり流暢に話し出した男に、ディアルが近付けた顔を離して男の顔を見る。
何だろう…なぜ頬を赤らめてキラキラなお目目で俺を見詰めるのかな………。
「……その、ドランて……どんな奴?」
「年は25前後で色男ですよ。2年程前にいきなり現れ、海賊に狙われ易い高級品を輸出入する船に乗り始め……襲って来た海賊を捩じ伏せて、新しい頭カシラになったとか何とか。」
ロザリンドが探しているデュランが誰なのか分からないが……
そのデュランの目撃情報を得たい時期と、海賊ドランが現れた時期が近い……。
「……そのドランて奴の情報、もっと入手出来ないか?……報酬って言っても、たいした金額はやれないんだが……」
ディアルは壁ドンしたまま、空いた片手でズボンのポケットを探る。
「報酬なんて、とんでもない!!ドランの情報ですね、出来る限り入手しますよ!!坊っちゃんの為に!!」
「……………。そう?助かる……。じゃ、来週…また来る…。」
何だ……ナニが起こった……
俺様の美貌に魅了された男がまた一人………
罪深き美少年だな!俺様!!(ヤケクソ)
思わず短剣から手を離したランドルは、フローラから一歩後退って改めてフローラをじろじろと見る。
「俺……自分の事を俺呼び?
…フローラどころか…女でさえない??」
「あらん、嫌だわランドル!俺はフローラですわよ!
少なくとも、今はな。ほら、返すぞ。」
オフィーリアは刃を摘まんだ状態の短剣をランドルの方に差し出して渡すと、金糸のフワリとした頭を乱暴にガシガシと掻く。
「あークソ…ちょっと色々情報不足だ。
本物のフローラに関しては…まぁ多分無事だと思う。
親父が絡んでるからな。」
「……親父?」
短剣を渡されたランドルは意味が分からず、どう返事をしたら良いか分からない。
「お前の話から推測するに、ロザリンドとフローラは表向きの関係とは逆に、実は仲が良いって事だよな?
……いじめる婚約者と、いじめられる少女、それはハワードに見せる為のポーズか?」
「……ハワード……その名前を出すって事はやはり、兄が君を連れて来たんだな……フローラとして……
では本物のフローラは…。」
オフィーリアはランドルの表情に気付く。
眉を寄せ悔しげに唇を噛むランドルの顔を見て、オフィーリアは思い付いた様にポンと手を打った。
「もしかしてお前、フローラと出来てんの!?」
「フローラと同じ顔で、そんな下世話な言い方すんな!!!」
顔を赤くしたランドルに、オフィーリアが顎を撫でながら、ほうほうとオッサンの様に納得する。
こっちが本命か、と。
二人きりの時は殿下呼びしない位の親しい間柄なんだなと。
て事は、横恋慕しているのはハワードの方の可能性がある。
「…お前、もう暫く俺が偽物だと気付いてないふりをしていろ。
フローラの事は悪い様にはしないが、俺はまだお前も信用していない。
俺の目で見て、決める。じゃ!」
「決める…?何を!?お、おい!!ま、待て!!
待っ………なんつー速さ……化け物か」
茫然とするランドルをその場に置き去りにしたまま、オフィーリアは人間離れした速度でその場を走り去って行った。
━━俺が見て決める。
決めなきゃならんのは多分、この国の先行き。
男女の恋のゴタゴタだけなワケねーわな……
「何とかしろ」って親父が投げ付けて来た課題は。
天使の様に可憐な美少女は、誰も見ていないのをいいことに拳を握って大股を開き少し腰を落とし、空に向かい大きな声をあげた。
「っかー!!めんっどくっせっ!!親父ィ!!」
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一方、学園外の港町。
ロザリンドと侍女の取った宿にて、ベッドに座ったディアルが固まっていた。
「……す、すまん…ジージョ……。」
大人しそうに見えていた侍女をブチギレさせてしまい、いつもは傍若無人の限りを尽くすディアーナにも少しばかりの罪悪感が芽生えた。
同様に、どこか高飛車な態度を崩さなかったロザリンドも侍女に対して申し訳なさげに控え目な声を出す。
「…悪かったわ…ごめんなさい…ジージョ…」
「はいぃ!?お嬢様もディアル様の事を言えませんですよね!!
私はジージョじゃありませんし!!何で定着されてんですかね!
その名前!さぁさぁ!時間は有限なんですよ!さっさと話し進めますからね!」
ブチギレしたままのジージョは、話の進行役を買って出てくれたのだが……。
ナニから話して良いのやら。
と、言うか…どこまでなら話して良いのやら。
ディアルは口をつぐんでしまった。
今、ディアルが得た情報を組み立ててみれば、ロザリンドとフローラははとこ同士で、実は仲が良い。
ハワードを好きではないロザリンドは、王妃として相応しくないと婚約破棄されて国外退去とされたい為に、ロザリンドが悪役令嬢となり、フローラをいじめる嫌な女を演じている。
しかも、それを提案したのはフローラらしい。
「そもそもさぁ…どっから令嬢いじめをして国外追放されようなんて案が出たんだよ。
そんな事しなくても、普通に自分は王妃として相応しくありませーん!って辞退すりゃいーじゃん。
他の令嬢がこぞって、あの見てくれだけは抜群の王子に群がるだろ?」
見てくれだけは抜群。ディアルは思わず本音を口にした。
他は何の魅力も無いと、ディアーナの本能が判断した。
「……この国の王太子には、テイラー公爵家に所縁ゆかりのある息女を嫁がせるのが決まりなんです。
公爵家側からの辞退は出来ません。
今のままでは、ロザリンドお嬢様が王妃となるのは覆せない決定事項なのです。」
侍女のジージョが言いにくそうに言いながらロザリンドの顔を見る。
要するに、ハワードとの結婚を避ける為には王族側から婚約破棄を言い渡されるのが必要だと。
それにしても、公爵令嬢の地位を捨てて国外追放だなんて犯罪者じみた身に落とされても良いだなんて…。
「……それ、ロザマンジが居なくなったら……
ハワードの婚約者って……どうなる?」
ディアルの問い掛けに、ロザリンドと侍女は口をつぐんだ。
まさか、何も考えてないのか??と口から出そうになったディアルだが、二人の顔を見て黙った。
部外者で、信用もされていないディアルには話さないだけで、二人には何かしらの思惑がある様子。
よくよく考えればロザマンジの探していた、大事な方とかゆーデュランとやらの存在も謎だ。
「あんた、質問ばっかするけどね!
まずはフローラの無事を確認してからだわ!
わたくしは、まだ、あんたを信用してないから!
ハワードなんかに雇われた、あんた達なんて!!」
ハワードなんか。
互いを好きではない関係とは言え、婚約者であるロザマンジから、随分な嫌われっぷりだな、ハワード…。
何があった。
「……俺も、今はフローラの安否が気になる。
俺のオトンが一枚噛んでるっぽいから、命の危機なんて事は無いだろうけどな。
…ロザマンジ、ひとつだけ教えて欲しいんだが……フローラは悪役令嬢になって婚約破棄、国外追放なんてシナリオを、どうして思い付いたのかな。」
ふんぞり返ってディアルを指差すロザリンドに、ダメ元で尋ねてみる。
普通は思い付かないだろ?こんなの。
ラノベや乙女ゲームじゃあるまいし。
「……何か、遠い国でそんな目にあった令嬢が居たらしいわよ。
ディアーナ嬢とかいう貴族の息女が。
………国を追われた後に、心を通わせる相手と結ばれたと。
そんな話を、街で知り合った黒髪の旅人に聞いたのですって。」
…………ほう、黒髪の旅人とな?
ロザマンジは旅人がフローラに話したという、遠い国の令嬢ディアーナの真似をして国外追放されて、自由な身となり好きな相手と結ばれたいと。
黒髪の旅人て、オトンやないか。
あんた、ナニしたいんだよ。
この、悪役令嬢プロジェクトは、師匠、あんたの仕業かい。
「お嬢様、もうそろそろ学園に戻りませんと……。」
「……分かったわ……続きはまた来週ね……でも、今回来れなかったフローラの身も…心配だわ。」
アニメの次回予告みたいな返事をしてロザリンドが項垂れる。
ゴロツキどもから情報を得ようとしていたデュランとかいう男の事もだが、本来ここに来る筈だったらしいフローラの安否も気になる様子だ。
「……なぁ、フローラの事は此方でも調べるから、マンジは俺がフローラの従兄弟でない事や、フローラが偽物だって気付いてないふりをしていろよ。
……ハワードに少し探り入れてみるから。」
ディアルを見るロザリンドと侍女が「その言葉を信用しろと?」と疑心に似た視線を向けて来る。
「別に信じなくていーが、変にハワードを刺激してフローラの身を危険に晒したくは無い。
……俺もな、ハワードに対してちょっと苛立っている。」
扉が開いたままの部屋に、中年の男が顔を出した。
学園から脱け出すのを手伝い、この宿へと手引きした者だろう。
時間を合わせて学園の中の協力者に裏口の扉を開いて貰い、次は学園にバレずに戻らなくてはならない。
「……今まで通りに振る舞えって事ね……分かったわ。」
ロザリンドの答えを聞いて、ディアルは宿を出た。
自分も学園に戻らなくてはならないが、ディアルは学園を囲む高い塀をいつでも簡単に越えられるので、もう少し街に居る事にした。
そして探す。
探す。
探す。
見つけた…………。
ロザリンド達に絡んで、ディアルがぎったぎたにしたゴロツキども。
「オラァァ!!待てや!テメェらぁあ!!!」
「ヒィィィ!!た、助けてぇ!!」
怖い位の笑顔で男達を捕まえに来たディアルに、ゴロツキどもが恐怖に青ざめ逃げまどう。
ロザリンドお嬢様、貴女がお手本にしようとしている貴族令嬢のディアーナ嬢は、今や、こんな言葉遣いのゴロツキさえ怯えさせる極悪人のようになっておりましてよ。
ごめんあそばせ!オホホホ!
ディアルは散り散りになったゴロツキどもの、一番リーダーらしい男を捕まえ、路地裏の片隅で壁ドン。
「ヒィィィ!!」
「さっきの二人組のにィちゃん達に、何を尋ねられていたんだ?ほら、答えろよ……。」
凶悪な美少年に壁ドンされたゴロツキのリーダーが、涙目で口の端に泡を溜めながら、震え出す。
「ど、ドランって……ドランっていう、おと、男が……2年程前にあ、あ、あ、現れなかったかっ……て!」
「デュランだろ?で、お前何か知ってんの?金を取ろうとしただけ?」
壁ドンしたディアルは、整った美しい顔を男に近付ける。
黒猫の様な金の瞳で睨め付けられながら、フワリと漂う綺麗な香りに鼻孔を擽られ、恐怖が最高潮に達したのか男の脳の何かがプチっと切れた。
「俺が知っているのは…2年程前に現れたドランって海賊です…デュランなんて名前は、この港町で聞いた事無いです。」
いきなり流暢に話し出した男に、ディアルが近付けた顔を離して男の顔を見る。
何だろう…なぜ頬を赤らめてキラキラなお目目で俺を見詰めるのかな………。
「……その、ドランて……どんな奴?」
「年は25前後で色男ですよ。2年程前にいきなり現れ、海賊に狙われ易い高級品を輸出入する船に乗り始め……襲って来た海賊を捩じ伏せて、新しい頭カシラになったとか何とか。」
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そのデュランの目撃情報を得たい時期と、海賊ドランが現れた時期が近い……。
「……そのドランて奴の情報、もっと入手出来ないか?……報酬って言っても、たいした金額はやれないんだが……」
ディアルは壁ドンしたまま、空いた片手でズボンのポケットを探る。
「報酬なんて、とんでもない!!ドランの情報ですね、出来る限り入手しますよ!!坊っちゃんの為に!!」
「……………。そう?助かる……。じゃ、来週…また来る…。」
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