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第7章【金の髪に翡翠の瞳。天使の様な乙女ゲーム主人公オフィーリア】
111#ロザリンドが気になるディアル。狩り刈りフローラ。
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「ハワード殿下、ちょっと気になるのだけど質問していいかな?」
校舎の中庭、噴水の前に置かれたベンチに距離を取ってディアルとハワードが座っている。
回りから見て全く交流が無いように見せておきたいと、辺りに人が居ない事を確認して尚、二人は距離を置き小声にて会話をする。
「なんでしょう?」
ハワードがディアルの方を見ないで返事をした。
「フローラを好きになったからロザリンドと婚約破棄したいのは分かる。
好きな女を傷付け苦しませたのだから腹が立つのも分かるけど…
幼い頃から婚約者として付き合ってきた女に恥をかかせ、悲しませるのは平気なの?」
多くの人が見ている前での糾弾は、ロザリンドが完全に悪役になる。
事情を知らない者からしても、ロザリンドが悪にしか見えなくなるだろう。
逆にフローラの立場は善として見られ、王子が庇い、擁護した事により、王子の想い人であると公言した形となる。
それは王族からすれば男爵令嬢という低い身分の者ではあっても、王子がロザリンドの替わりにフローラを婚約者としたいという我が儘を後押しする事となる。
ディアーナは、自分がスティーヴン殿下に婚約破棄された過去を思い出す。
自分自身にはスティーヴンの事を婚約者として好きだという感情は一切無かったのだが、断罪イベントの瞬間は、ゲーム設定による激しい嫉妬と憤りと悲しみを味わった。
そしてディアーナは前世の瀧川香月であった時にプレーしていた、この世界を舞台にしたゲームの断罪イベントで、悪役令嬢ディアーナが泣いて暴れて、スティーヴンに縋り付き回りに取り押さえられるシーンを見ている。
ゲームとしてプレーしていた時は、虐げられていた主人公の立場で見ていたので「ザマァ」と思ってしまったが、自身がこちらの世界にディアーナとして立った時に味わった嫉妬、怒り、悲しみ、絶望は、まだ大人になりきれてない少女が味わうにはあまりにも酷な気がする。
「……僕が、彼女を愛しいと思った事は一度もないです。」
そうなんだ?という顔をしてディアルはハワードを見た。
いや…まぁ…でも、好きでないからと言って、多くの人の前で一人の少女を糾弾すんのって、ひどくない?とか思ったりするのだが……。
「彼女も僕を愛してはいない。彼女は僕に興味が無かった。
……ただ、フローラが現れて僕の心が奪われて…
自尊心の強いロザリンドにはそれが許せなかったのでしょう。」
……ん?どゆ事?
ロザリンドは王子の事を好きじゃないけど、取られそうになったから急に「私の王子にナニすんの!」アピールが始まったって事??
「あの……ディアルさん、フローラ……オフィーリアさんは何処に……?」
ハワードの話に頭の中を疑問符だらけにしていたディアルに、ハワードが訊ねて来た。
話をする時は三人で、となっているのだが今日はフローラこと、オフィーリアが居ない。
「ああ、襲われに行ったよ。
ロザリンドの手下…と言うよりは、多分、ハワードの義弟の手の者でないかな?この学園内にも居るんでしょ?」
「ええっ!?襲われにっ…!?」
ハワードがベンチから立ち上がり、ディアルの方を向いて大きな声を出す。
ベンチに腰掛けたままのディアルは唇の前に人差し指を立て「シィっ」と静かにするよう促した。
我々は無関係、を演じろと。
「そんな…フローラでないとは言え、フローラに似た女性が襲われるだなんて…そんなひどい事を……なぜ、止め…」
「何か呼び出し食らってたわよ。ハワード殿下の事で伝えたい事があるだの何だの。
なぜ止めなかったって、面白そうだって喜んで行くヤツを止める必要ある?」
ディアルにオフィーリアを心配する様子は一切無く、ディアルは子分から貰ったとかいうサンドイッチをガツガツと、それはもうガツガツと食べ始めた。
「えー………。」
ハワードが力無く声を出すが、ディアルは無視した。
▼
▼
▼
「おい、底辺女!どんな風に王子をたぶらかした?」
「俺達にも教えてくれよ、いやらしく尻を振ったんだろう?」
「王子よりも、いい思いさせてやるよ!」
学園校舎から少し離れた場所にある、資料倉庫に呼び出されたオフィーリア…いや、フローラははじめ、怯えたふりをしていた。
だが、三人の少年達は悪態はつくが、一向に手を出して来る様子は無い。
あまりに子悪党みたいな台詞を延々言われ続け、よくよく考えたら20年も生きてないガキ相手に怯えたふりをするのも馬鹿馬鹿しくなり、片方の耳に小指を突っ込んでグリグリ耳を掻いていた。
「やかましいわ、黙れ。耳ん中が痒くなる。
はぁあ~。もう、いーか…。」
フローラはめんど臭そうにため息をつきながら、ゴソゴソと、スカートのポケットに手を突っ込んだ。
「何だ、ポケットに手なんか突っ込んで。飴玉でも取り出す……の……か…………」
ポケットに突っ込んだフローラの手の動きを目で追っていた少年が、段々と言葉と声を失っていく。
フローラはポケットの中から、絶対入るハズの無い長い剣をズルズルと取り出した。
「めんどくせぇから、てめぇら全員ボウズな?まるっと刈ってやる。抵抗すれば殺す。」
フローラが長剣を肩に乗せて構える。
「で、あなた方の親分について聞かせて貰いたいのですわ!さあ、さらっと吐きやがれ!!」
小さく華奢な身体で、フローラは長剣を片手で振り回した。
少年達の頭髪、つむじ部分が三人並んだ状態でキレイに刈られる。
「うわ!」「う、嘘だろ!?」「こんな話聞いてねぇ!」
頭のてっぺんだけハゲた、トンスラ、あるいは落武者状態になった少年達の前に、剣を構えたフローラが一瞬で間を詰めて来た。
「わたくしを捕らえたら、お相手して差し上げますわ!
わたくし、ベッドの上ではケダモノになりますわよ!?」
「意味分からん!」「こぇえ!何かこぇえ!」「ちょっと!話が違う!」
資料倉庫の中で、少年達がバラバラになって逃げまどう。
フローラは、ドアに手を掛け資料倉庫から出ようとしている少年の襟を背後から掴み、グイと引き寄せ少年の肩に顎を乗せる。
「うふふ、先輩…まだ話が終わってませんでしょ?
逃げんじゃねーよ、パイセン!」
フローラは少年の髪を刈り上げるように後頭部に剣先を当て、ズルッとうなじから毛を削ぎ落とした。
「ぎゃーっ!!」
「やかましいわ、傷ひとつ付けてねぇだろうが。
あ、逃げたらプチるからな?パイセン。」
股間を濡らしてへなへなとへたり込んだ少年をドアの前に置いて、残り二人を捕まえに行くフローラ。
狩りをして刈りをする。それはもう、楽しげに。
▼
▼
▼
「フローラ…その…オフィーリアさんは大丈夫なのでしょうか…
見知らぬ男達に囲まれて…その…怯えたり…
いくらスケバンと言う女戦士の名前が付いてるとはいえ……。」
ハワードがモジモジと両手の指先を世話しなく動かしている。
オフィーリアに愛するフローラが重なっているのであろう、心配でならない様だ。
「この学園に居る坊っちゃんごときに遅れを取る事は有り得ないわね。
ハワード殿下には言ってなかったけど、オフィーリアってアホみたいに強い剣士よ?」
あえて、世界最強だとか、人間ですらありませんとか、実は男ですとかは言わない。
楽しみは後に取っておく。
ハワードは「まさかぁ」と、半信半疑な顔をした。
「つか、ハワードがロザリンドとの婚約破棄に向け動いているタイミングで、第三王子がしゃしゃり出て来たなんて…
ハワードのしようとしてる事はモロバレしてるんじゃないの?」
ハワードが否定出来ずに渋い顔をする。
「後継者争いに、ハワードを蹴落としたいんでしょ?
本当に命まで狙われてるかは知らないけど、ロザリンドと婚約破棄し、妻に迎えたいフローラが王子に近付けない身になって…
ハワードを孤立させたいのか、フローラの不幸をハワードの責任にしたいのか…。」
今は第二王子のハワードが、次期国王となる王太子となる可能性が高いらしい。
それが面白くないと、第三王子が名乗りをあげたらしいが…
第一王子、どこ行った。
「私、難しい事を考えるのキライなのよね。
考えるなら、見た方が早い。
私は私で自由に行動させて貰うわよ。」
ディアルがベンチから立ち上がり、服を叩いてパンのカスを払う。
「ぼ、僕が命を狙われていたら、どうすれば…!!」
「夢に出て来た黒髪の兄ちゃんが、殿下を死なせないから大丈夫。少し位、怖い目にあっても我慢しなさいよ。
次期国王なんでしょ?」
ディアルはハワードをベンチに残し、その場を去った。
「ロザリンドの違和感がひとつ分かったわ。
ロザリンド…ハワードに全く興味が無い。」
ディアーナでさえ、設定の中ではあったがスティーヴンを好きな気持ちがあった。
その設定に操れてはいたが、スティーヴンの前でだけは甘えたり、好きだという想いは本物だったし、断罪イベントでは身を裂かれるような悲しみと絶望を味わった。
悪役令嬢ディアーナ設定が終了するまでの一瞬だったが。
ハワードと別れて校舎に向かうディアルを、ワルトが迎えに来ていた。
「親分、お疲れ様です!どうぞ!」
ワルトがササッとディアルの手にフルーツタルトらしき物を乗せる。
「親分はやめろ!俺はお前を子分だなんて思ってないし、こんな事されたってなぁ!
………うまいな、コレ。」
文句を言いつつ、ちゃっかり渡された菓子を頬張るディアルに、ほんわかとした笑顔を見せるワルト。
「とにかく親分呼びはやめろ……
あー、ちょっと聞きたい事があるんだが……。」
ディアルが親指に付いたクリームを、チュパッと音を立て指を吸う様に舐めながらワルトに訊ねてみれば、ワルトが頬を赤くしてディアルを見ている。
「俺が知ってる事なら、何でも答えますよ!親分!」
「……親分はやめろって何度言わせ……まぁいいか。
ロザリンド様って、前からあんな風に弱い者イジメするような女だったのか?」
「……親分、ロザリンド様の事を結構、気にしてますよね……
まさか、好きになって……」
ワルトが眉間にシワを寄せ、不愉快そうな顔をする。
その表情は「嫉妬」だと思うのだが……なんでだ……。
なぜ、男の俺ではなくロザリンドに嫉妬している……。
「好きになるワケ無いだろ!!
俺の従姉妹のフローラがイジメにあったんだぞ?
気にして当然だろう!?」
いやいや、なんでソコで安堵の表情を見せる。
なぜ、俺を熱っぽい目で見る。ワルトよ。
俺、女だってバレてないよね?
アレか。お前、薔薇の世界に生きる人か?ゲイか?ホモか?
ディアルがワルトを警戒するように距離をあける。
ワルトは少し考える素振りを見せ、
「俺の個人的な意見ですが…以前のロザリンド様は高飛車でしたが人をイジメるような人じゃなかったっすね。
急にですよ、急に。それに……」
「それに?何だ?」
ワルトは口をつぐんで首を振る。
「俺の勘違いだと思うから、言えません。」
「なんでだよ!!言えよ!!気になるだろうが!」
ディアルがワルトの胸ぐらを掴み、顔を近付ける。
顔を近付けて怒鳴るディアルに、嬉しそうに笑みを溢すワルト。
キモい。
ディアルはワルトの胸ぐらを解放し、一歩後ずさった。
校舎の中庭、噴水の前に置かれたベンチに距離を取ってディアルとハワードが座っている。
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「なんでしょう?」
ハワードがディアルの方を見ないで返事をした。
「フローラを好きになったからロザリンドと婚約破棄したいのは分かる。
好きな女を傷付け苦しませたのだから腹が立つのも分かるけど…
幼い頃から婚約者として付き合ってきた女に恥をかかせ、悲しませるのは平気なの?」
多くの人が見ている前での糾弾は、ロザリンドが完全に悪役になる。
事情を知らない者からしても、ロザリンドが悪にしか見えなくなるだろう。
逆にフローラの立場は善として見られ、王子が庇い、擁護した事により、王子の想い人であると公言した形となる。
それは王族からすれば男爵令嬢という低い身分の者ではあっても、王子がロザリンドの替わりにフローラを婚約者としたいという我が儘を後押しする事となる。
ディアーナは、自分がスティーヴン殿下に婚約破棄された過去を思い出す。
自分自身にはスティーヴンの事を婚約者として好きだという感情は一切無かったのだが、断罪イベントの瞬間は、ゲーム設定による激しい嫉妬と憤りと悲しみを味わった。
そしてディアーナは前世の瀧川香月であった時にプレーしていた、この世界を舞台にしたゲームの断罪イベントで、悪役令嬢ディアーナが泣いて暴れて、スティーヴンに縋り付き回りに取り押さえられるシーンを見ている。
ゲームとしてプレーしていた時は、虐げられていた主人公の立場で見ていたので「ザマァ」と思ってしまったが、自身がこちらの世界にディアーナとして立った時に味わった嫉妬、怒り、悲しみ、絶望は、まだ大人になりきれてない少女が味わうにはあまりにも酷な気がする。
「……僕が、彼女を愛しいと思った事は一度もないです。」
そうなんだ?という顔をしてディアルはハワードを見た。
いや…まぁ…でも、好きでないからと言って、多くの人の前で一人の少女を糾弾すんのって、ひどくない?とか思ったりするのだが……。
「彼女も僕を愛してはいない。彼女は僕に興味が無かった。
……ただ、フローラが現れて僕の心が奪われて…
自尊心の強いロザリンドにはそれが許せなかったのでしょう。」
……ん?どゆ事?
ロザリンドは王子の事を好きじゃないけど、取られそうになったから急に「私の王子にナニすんの!」アピールが始まったって事??
「あの……ディアルさん、フローラ……オフィーリアさんは何処に……?」
ハワードの話に頭の中を疑問符だらけにしていたディアルに、ハワードが訊ねて来た。
話をする時は三人で、となっているのだが今日はフローラこと、オフィーリアが居ない。
「ああ、襲われに行ったよ。
ロザリンドの手下…と言うよりは、多分、ハワードの義弟の手の者でないかな?この学園内にも居るんでしょ?」
「ええっ!?襲われにっ…!?」
ハワードがベンチから立ち上がり、ディアルの方を向いて大きな声を出す。
ベンチに腰掛けたままのディアルは唇の前に人差し指を立て「シィっ」と静かにするよう促した。
我々は無関係、を演じろと。
「そんな…フローラでないとは言え、フローラに似た女性が襲われるだなんて…そんなひどい事を……なぜ、止め…」
「何か呼び出し食らってたわよ。ハワード殿下の事で伝えたい事があるだの何だの。
なぜ止めなかったって、面白そうだって喜んで行くヤツを止める必要ある?」
ディアルにオフィーリアを心配する様子は一切無く、ディアルは子分から貰ったとかいうサンドイッチをガツガツと、それはもうガツガツと食べ始めた。
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だが、三人の少年達は悪態はつくが、一向に手を出して来る様子は無い。
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フローラが長剣を肩に乗せて構える。
「で、あなた方の親分について聞かせて貰いたいのですわ!さあ、さらっと吐きやがれ!!」
小さく華奢な身体で、フローラは長剣を片手で振り回した。
少年達の頭髪、つむじ部分が三人並んだ状態でキレイに刈られる。
「うわ!」「う、嘘だろ!?」「こんな話聞いてねぇ!」
頭のてっぺんだけハゲた、トンスラ、あるいは落武者状態になった少年達の前に、剣を構えたフローラが一瞬で間を詰めて来た。
「わたくしを捕らえたら、お相手して差し上げますわ!
わたくし、ベッドの上ではケダモノになりますわよ!?」
「意味分からん!」「こぇえ!何かこぇえ!」「ちょっと!話が違う!」
資料倉庫の中で、少年達がバラバラになって逃げまどう。
フローラは、ドアに手を掛け資料倉庫から出ようとしている少年の襟を背後から掴み、グイと引き寄せ少年の肩に顎を乗せる。
「うふふ、先輩…まだ話が終わってませんでしょ?
逃げんじゃねーよ、パイセン!」
フローラは少年の髪を刈り上げるように後頭部に剣先を当て、ズルッとうなじから毛を削ぎ落とした。
「ぎゃーっ!!」
「やかましいわ、傷ひとつ付けてねぇだろうが。
あ、逃げたらプチるからな?パイセン。」
股間を濡らしてへなへなとへたり込んだ少年をドアの前に置いて、残り二人を捕まえに行くフローラ。
狩りをして刈りをする。それはもう、楽しげに。
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「フローラ…その…オフィーリアさんは大丈夫なのでしょうか…
見知らぬ男達に囲まれて…その…怯えたり…
いくらスケバンと言う女戦士の名前が付いてるとはいえ……。」
ハワードがモジモジと両手の指先を世話しなく動かしている。
オフィーリアに愛するフローラが重なっているのであろう、心配でならない様だ。
「この学園に居る坊っちゃんごときに遅れを取る事は有り得ないわね。
ハワード殿下には言ってなかったけど、オフィーリアってアホみたいに強い剣士よ?」
あえて、世界最強だとか、人間ですらありませんとか、実は男ですとかは言わない。
楽しみは後に取っておく。
ハワードは「まさかぁ」と、半信半疑な顔をした。
「つか、ハワードがロザリンドとの婚約破棄に向け動いているタイミングで、第三王子がしゃしゃり出て来たなんて…
ハワードのしようとしてる事はモロバレしてるんじゃないの?」
ハワードが否定出来ずに渋い顔をする。
「後継者争いに、ハワードを蹴落としたいんでしょ?
本当に命まで狙われてるかは知らないけど、ロザリンドと婚約破棄し、妻に迎えたいフローラが王子に近付けない身になって…
ハワードを孤立させたいのか、フローラの不幸をハワードの責任にしたいのか…。」
今は第二王子のハワードが、次期国王となる王太子となる可能性が高いらしい。
それが面白くないと、第三王子が名乗りをあげたらしいが…
第一王子、どこ行った。
「私、難しい事を考えるのキライなのよね。
考えるなら、見た方が早い。
私は私で自由に行動させて貰うわよ。」
ディアルがベンチから立ち上がり、服を叩いてパンのカスを払う。
「ぼ、僕が命を狙われていたら、どうすれば…!!」
「夢に出て来た黒髪の兄ちゃんが、殿下を死なせないから大丈夫。少し位、怖い目にあっても我慢しなさいよ。
次期国王なんでしょ?」
ディアルはハワードをベンチに残し、その場を去った。
「ロザリンドの違和感がひとつ分かったわ。
ロザリンド…ハワードに全く興味が無い。」
ディアーナでさえ、設定の中ではあったがスティーヴンを好きな気持ちがあった。
その設定に操れてはいたが、スティーヴンの前でだけは甘えたり、好きだという想いは本物だったし、断罪イベントでは身を裂かれるような悲しみと絶望を味わった。
悪役令嬢ディアーナ設定が終了するまでの一瞬だったが。
ハワードと別れて校舎に向かうディアルを、ワルトが迎えに来ていた。
「親分、お疲れ様です!どうぞ!」
ワルトがササッとディアルの手にフルーツタルトらしき物を乗せる。
「親分はやめろ!俺はお前を子分だなんて思ってないし、こんな事されたってなぁ!
………うまいな、コレ。」
文句を言いつつ、ちゃっかり渡された菓子を頬張るディアルに、ほんわかとした笑顔を見せるワルト。
「とにかく親分呼びはやめろ……
あー、ちょっと聞きたい事があるんだが……。」
ディアルが親指に付いたクリームを、チュパッと音を立て指を吸う様に舐めながらワルトに訊ねてみれば、ワルトが頬を赤くしてディアルを見ている。
「俺が知ってる事なら、何でも答えますよ!親分!」
「……親分はやめろって何度言わせ……まぁいいか。
ロザリンド様って、前からあんな風に弱い者イジメするような女だったのか?」
「……親分、ロザリンド様の事を結構、気にしてますよね……
まさか、好きになって……」
ワルトが眉間にシワを寄せ、不愉快そうな顔をする。
その表情は「嫉妬」だと思うのだが……なんでだ……。
なぜ、男の俺ではなくロザリンドに嫉妬している……。
「好きになるワケ無いだろ!!
俺の従姉妹のフローラがイジメにあったんだぞ?
気にして当然だろう!?」
いやいや、なんでソコで安堵の表情を見せる。
なぜ、俺を熱っぽい目で見る。ワルトよ。
俺、女だってバレてないよね?
アレか。お前、薔薇の世界に生きる人か?ゲイか?ホモか?
ディアルがワルトを警戒するように距離をあける。
ワルトは少し考える素振りを見せ、
「俺の個人的な意見ですが…以前のロザリンド様は高飛車でしたが人をイジメるような人じゃなかったっすね。
急にですよ、急に。それに……」
「それに?何だ?」
ワルトは口をつぐんで首を振る。
「俺の勘違いだと思うから、言えません。」
「なんでだよ!!言えよ!!気になるだろうが!」
ディアルがワルトの胸ぐらを掴み、顔を近付ける。
顔を近付けて怒鳴るディアルに、嬉しそうに笑みを溢すワルト。
キモい。
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