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第7章【金の髪に翡翠の瞳。天使の様な乙女ゲーム主人公オフィーリア】
108#天使の微笑み、オフィーリア嬢。
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鬱蒼とした深い森の中に、突如開けた土地が現れる。
学校の教室程の広さのその地は、そこだけ木々が無くなっており、深く暗い森の中に舞台のスポットライトのように燦々とした日が射し込む。
太陽を遮る枝葉が無い為か、そこだけ色とりどりの花が咲く美しい花畑となっていた。
「ディアーナ様…どうぞ。」
「……どうも。」
お花畑に座り込む、金のフワリとした髪に翡翠の瞳の天使の様な可憐な少女が、自身の作った花の冠を藍色の髪に金の瞳を持つ美しい少女の頭にのせた。
絵面的にはお花畑の中、花の冠を作り戯れる美少女二人。
「よく、お似合いですわ。ディアーナ様…うふふ」
「そりゃ、どうも………って、何なのよ、これは!
ねぇ何したいの?何してくれちゃってんの!?ねぇレオン!!」
頭にお花の冠を乗せたディアーナが花畑の中から立ち上がる。
ディアーナ的に言うと、このお花畑はアホの頭の中の様なお花畑だ。
なんで、こんな深い森の中に降ってわいたように現れたんだ。
なぜ、そこを見つけたなりレオンハルトはオフィーリアの姿に変身してしまったのか。
数時間前
ディアーナとレオンハルトの二人は、この近隣に魔獣が出たとの噂を聞いて、退治と浄化をする為に森の中を探索していた。
あっさり見つけたショボい魔獣を倒し、ショボい瘴気の発生源をあっさり浄化した。
余りにもあっさり仕事が終わったので、では、旅を続けようかと森を突っ切っている途中で、このお花畑に出た。
腹の足しにもならない花畑に興味の無いディアーナは、スルーしようとしたのだが、通り過ぎようとした時に……
後ろから腕を掴まれた。
レオンハルトが急にディアーナを求める事はままある。
キスしたいだの、抱きたくなっただの、愛が欲しいだの何だのと、日常的に。
「んもぉ…レオンたら、なぁに?
イチャイチャするのは、宿をとってからでしょう?
せっかちさんね。」
少し照れ気味に振り向いたディアーナは凍り付いた。
そこにはレオンハルトではなく、オフィーリアがいやがんの。
「……………レオン……。」
「オフィーリアって呼んで下さい…ディアーナ様…。」
ディアーナの額から冷や汗が滲み出し、頬を伝う。
ディアーナは、レオンハルトを愛しているので、レオンハルトの全てを受け入れる心構えがある。
レオンハルトもディアーナを愛しているので、ディアーナを苦しめたり困らせたりする事は極力したくない。
その互いの意見がどうしても合致しないのが、オフィーリアとしてディアーナと愛し合う事。
レオンハルトは、オフィーリアの姿になってでもディアーナと愛し合いたいと言う。
ディアーナは、百歩譲ってレオンハルトがレオンハルト以外の姿になっていても迷わず愛する覚悟はあるのだが、オフィーリアだけは生理的に無理だと言う。
乙女ゲームのヒロインであるオフィーリアは、「可愛い女の子好きだぜ!」なんて言っちゃうディアーナ的には、かなりイケてる美少女だ。
でも何か、なぜか、オフィーリアだけは生理的に無ー理ー!なのだ。
そんなこんなで、ディアーナは恐怖対象のオフィーリアと意味が分からないままお花畑でキャッキャうふふな時間を過ごしていたワケだが……。
我慢ならずに何がしたいのかと質問してしまったのだ。
「嫌ですわ、ディアーナ様…うふふ…何がしたいの?だなんて…。
わたくしがディアーナ様としたい事はひとつ…。」
立ち上がったディアーナの腕を掴んだオフィーリアが、ディアーナを見上げて天使の微笑みをこぼす。
「ナニです。」
「ギャーーー!!!!」
ナニって、エッチな事!?
掴まれた腕から怖気が走る。さぶいぼが立つ。
怖いもの無し、無敵の暴力女神であるディアーナが、オフィーリアの愛にだけは、なぜか恐怖する。
「そんな怖がらないで下さい、ディアーナ様……
女の子同士じゃないですか……うふふ。」
「女の子に見えてるだけでしょう!女の子じゃないじゃん!
見た目だけじゃん!レオンは変身してるワケじゃないじゃないの!!
身体はレオンのままでしょう!レオンに戻りなさいよ!」
ディアーナはオフィーリアが怖すぎて、掴まれた腕を払う事も出来ない。
「そう、わたくし…幻視魔法により女の子に見えてるだけで…身体はレオンハルトのままですわ。
……ですから……ディアーナ様を抱けましてよ?
それはもう…いつもの様に激しく。」
「ギャー!!!!」
オフィーリアに抱かれるとか、想像するだけで怖い!
あの天使の様な可憐な顔をした彼女が、アニマルとか怖いしキモイし、頭の処理が追い付かない!
プリンだと思って食べた茶碗蒸しを「しょっぺぇ!」と、腐ったプリンだと思い込んでしまう程に処理が追い付かない!!
あ、よく味わってみたら茶碗蒸しじゃん!これも大好物じゃん!
まだ、ここまでの悟りを開ける自信が無い!
「やめてやめてやめて!!無理!無理ぃ!」
「最初だけですわ!ディアーナ様!
ちょっと目をつむっていたら、すぐ慣れますわよ!」
花畑でオフィーリアに抱き締められる。
確かに、抱き締められた感じは上背のある程よい筋肉の付いたレオンハルトに抱き締められているのと同じ感触なのだが。
目に映るのは、自分より少し背が低く華奢で可憐な美少女。
「理解出来ん!処理が追い付かない!脳ミソがパンクする!!やめてよぉ!!」
「やめませんわ、ディアーナ様…お慕いしてます…。」
もう、口調まで完全に子爵令嬢オフィーリア。
声だけは鈴が鳴るような愛らしい声に変化させている。
だが…よくよく考えたら、レオンハルトがレオンハルトの姿のままで女言葉を使っているワケで。
オネェみたいで、キモイのだ。
ディアーナは、そんなオフィーリアに花畑の中に押し倒された。
ディアーナは、オフィーリアにだけはなぜか暴力を振るえない。
これがレオンハルトの姿をしているならば、殴ってでも蹴ってでも頭突きをしてでも抵抗出来るのだが…。
「だだだ誰かぁあ!おとん!師匠!たしゅけてぇ!」
パニクり過ぎて噛む。
ジャンセンは現れない。
「うふふ…ディアーナ様、愛し合いましょう?」
「ヤダーーー!!!!」
静かな森の中から、バサバサと鳥が羽ばたいて飛んで行く。
人の気配がした事により、可憐な美少女は苛立ちを隠さないまま押し倒したディアーナの上から身体を起こす。
「誰…ですの?わたくし達の愛の営みを邪魔するのは。」
「愛の営み言うな!!するか!!そんなもん!!」
慌ててディアーナも身体を起き上がらせ、オフィーリアが睨み付ける視線の先を見る。
「…これは、夢でも見ているのだろうか…
君は…フローラではないのか…?」
森と花畑の境界に立つ青年は、驚きを隠せない表情をしてオフィーリアを見ている。
白馬を連れ現れた青年は、銀髪にグリーンの瞳の美しい顔立ちをしており、身に着けた衣装は彼が高貴な家柄の者であるのだと示唆している様だ。
「…わたくしの名はオフィーリア。フローラさんではございません。
人違いですから、痛い目に遭いたくなかったら、とっととアッチ行け。」
腹立たしさからか、オフィーリアが途中からレオンハルト口調になっている。
オフィーリアは手の平を外に向け数回振って、シッシッと追い払う仕草をした。
「待って下さい!レディ!お願いがあります!
どうか僕を…!僕達を助けて下さい!!」
銀髪の青年がオフィーリアに駆け寄り、足元に膝を付いた。
膝を付いた状態でオフィーリアを見上げ、胸に手を当て祈るように懇願する。
こんな時、ディアーナとレオンハルトの父であり、この世界の創造神であるジャンセンならば…全人類の父であるジャンセンならば……
助けを求める声にはこう即答する。
「めんどくせぇ。」
ジャンセンの息子、神の御子であるレオンハルトはヤンキー兄ちゃんではあるが、意外に人情味があるので、いつもの彼ならば困っている人の話し位は聞くのかと思われたが……。
「やなこった。めんどくせぇ。」
オフィーリアが鈴が鳴るような美しい声で言い放った。
いや、親子そっくり!!
今のレオンハルトは大好物を口にする寸前に取り上げられたような状態なので、すこぶる機嫌が悪い。
足元に膝を付く青年に唾を吐きそうな位に不機嫌な顔をしており、今にも青年を足蹴にしそうだ。
「そんなぁ!!神の御告げによってこの場に来たのに!!」
ショックの余り、涙目になる麗しい青年。
ディアーナが青年の言った「神の御告げ」に興味を持ち、二人の間に割って入った。
「レオん…いや、オフィーリアも白馬のお兄さんも、ちょっと落ち着こうよ!一回ちゃんと話し聞こ?ね?」
いつもは誰より先に暴れ出すディアーナなのだが、今回は珍しく慎重な態度。
いきり立つオフィーリアの頭をつるっぱげの頭を磨くかのような勢いで撫で回して無理矢理落ち着かせ、話しを聞く態勢に入らせた。
「も、申し訳ありません…取り乱して…僕はハワード…この国の第二王子です。」
「ほう!まさしく白馬の王子様!へー!」「……ふぅん。」
感心したように声をあげるディアーナに対し、終始「早くどっか行け」オーラを放出し続けるオフィーリア。
ハワード王子との会話に温度差があるディアーナとオフィーリアは、その出で立ち、立ち居振る舞いから、ハワードが王族だろう事をなんとなく分かっていたがな的に視線を互いに向け合う。
「僕には、幼い頃に親によって決められた許嫁がおりまして…
二つ年下で同じ学園に通う彼女が学園を卒業すると共に、婚姻する事となっているのです。」
「……なんだか、どっかで聞いたような内容ね…それ。で?で?」
王子様に、幼い頃に定められた許嫁が居て…ときたらもう!
ディアーナは目を輝かせて話の続きをねだる。
「ですが、僕は…許嫁の居る身で違う女性を愛してしまった。」
「わはははは!ですよね!?ですよね!?」
本来ならば笑い事ではない内容。
だがディアーナは大爆笑してしまった。
かつて、自分が置かれていた王子の許嫁の位置が懐かしくもあり、ディアーナにとってはもう笑い話でしかない。
その時の自分が置かれた状況と同じイベントが起ころうとしている。
何か知らんがウケる。
「……で、助けて下さいって何なのよ。
つまんない頼みだったら、しばき倒すわよ。」
大爆笑するディアーナとは対照的に、ディアーナを襲うのを邪魔されて面白くないと言わんばかりの固い表情をしたオフィーリアがハワード王子を脅す。
「ぼ、僕は、許嫁のロザリンドと婚約破棄をしたいのですが…
そうする為の準備をする時間が欲しいのです。
そして、それまでは僕の行動が怪しまれないように、フローラには普段通りに学園に通っていて貰いたいのですが……
その……フローラは……ロザリンドの嫌がらせにより……」
「イジメにあって傷付いて、引きこもりにでもなったの…?」
「……それもありますが、ストレスから過食気味になりまして……
体重が倍になりまして…。
今は、婚約破棄をするパーティーの日に向けて痩せる努力をしております。」
「わはははは!!断罪イベントね!?
体重が倍?そんな彼女でも見放さない王子サマに敬意を表するわ!!
ねぇオフィーリア!手伝ってあげましょうよ!!」
「……ディアーナ様がそう言うなら……
とは思いますが、ちなみに夢の御告げって…どんなのですの?」
オフィーリアがハワードに訊ねれば、ディアーナも「そう言えば」という顔をする。
「…自分は神だと言う黒髪の青年が夢に現れまして…この場所に来れば、悩み事が良い方向に進むかもね?と言ってました。」
「ほら来た、親父ぃ……!!
いらんイベントぶちこんで来やがった!!」
「ぶひゃひゃひゃ!師匠!師匠サイコー!おとん!サイコー!」
ハワードの答えにオフィーリアが、悔しげに歯噛みする。
ディアーナは花畑の中を転がりながら爆笑していた。
ハワードは目の前の二人の美少女達が、あんまりにもあんまりで、言葉を失い茫然としていた。
愛するフローラそっくりのオフィーリアという少女は…
かなり怖い人の様だ。
本当に、フローラの身代わりを頼んで良いのだろうか……
「ハワード殿下、今、やっぱりやめた!なんて言ったら、今夜夢の中に恐ろしい美形が現れるからね?俺の遊びを邪魔すんなってね!」
「うっ…。そ、そうなんですか…。」
目を輝かせるディアーナと、あからさまに不機嫌なオフィーリアをチラ見したハワードは、腹を括るしかないと決意した。
「お願いします!!」
学校の教室程の広さのその地は、そこだけ木々が無くなっており、深く暗い森の中に舞台のスポットライトのように燦々とした日が射し込む。
太陽を遮る枝葉が無い為か、そこだけ色とりどりの花が咲く美しい花畑となっていた。
「ディアーナ様…どうぞ。」
「……どうも。」
お花畑に座り込む、金のフワリとした髪に翡翠の瞳の天使の様な可憐な少女が、自身の作った花の冠を藍色の髪に金の瞳を持つ美しい少女の頭にのせた。
絵面的にはお花畑の中、花の冠を作り戯れる美少女二人。
「よく、お似合いですわ。ディアーナ様…うふふ」
「そりゃ、どうも………って、何なのよ、これは!
ねぇ何したいの?何してくれちゃってんの!?ねぇレオン!!」
頭にお花の冠を乗せたディアーナが花畑の中から立ち上がる。
ディアーナ的に言うと、このお花畑はアホの頭の中の様なお花畑だ。
なんで、こんな深い森の中に降ってわいたように現れたんだ。
なぜ、そこを見つけたなりレオンハルトはオフィーリアの姿に変身してしまったのか。
数時間前
ディアーナとレオンハルトの二人は、この近隣に魔獣が出たとの噂を聞いて、退治と浄化をする為に森の中を探索していた。
あっさり見つけたショボい魔獣を倒し、ショボい瘴気の発生源をあっさり浄化した。
余りにもあっさり仕事が終わったので、では、旅を続けようかと森を突っ切っている途中で、このお花畑に出た。
腹の足しにもならない花畑に興味の無いディアーナは、スルーしようとしたのだが、通り過ぎようとした時に……
後ろから腕を掴まれた。
レオンハルトが急にディアーナを求める事はままある。
キスしたいだの、抱きたくなっただの、愛が欲しいだの何だのと、日常的に。
「んもぉ…レオンたら、なぁに?
イチャイチャするのは、宿をとってからでしょう?
せっかちさんね。」
少し照れ気味に振り向いたディアーナは凍り付いた。
そこにはレオンハルトではなく、オフィーリアがいやがんの。
「……………レオン……。」
「オフィーリアって呼んで下さい…ディアーナ様…。」
ディアーナの額から冷や汗が滲み出し、頬を伝う。
ディアーナは、レオンハルトを愛しているので、レオンハルトの全てを受け入れる心構えがある。
レオンハルトもディアーナを愛しているので、ディアーナを苦しめたり困らせたりする事は極力したくない。
その互いの意見がどうしても合致しないのが、オフィーリアとしてディアーナと愛し合う事。
レオンハルトは、オフィーリアの姿になってでもディアーナと愛し合いたいと言う。
ディアーナは、百歩譲ってレオンハルトがレオンハルト以外の姿になっていても迷わず愛する覚悟はあるのだが、オフィーリアだけは生理的に無理だと言う。
乙女ゲームのヒロインであるオフィーリアは、「可愛い女の子好きだぜ!」なんて言っちゃうディアーナ的には、かなりイケてる美少女だ。
でも何か、なぜか、オフィーリアだけは生理的に無ー理ー!なのだ。
そんなこんなで、ディアーナは恐怖対象のオフィーリアと意味が分からないままお花畑でキャッキャうふふな時間を過ごしていたワケだが……。
我慢ならずに何がしたいのかと質問してしまったのだ。
「嫌ですわ、ディアーナ様…うふふ…何がしたいの?だなんて…。
わたくしがディアーナ様としたい事はひとつ…。」
立ち上がったディアーナの腕を掴んだオフィーリアが、ディアーナを見上げて天使の微笑みをこぼす。
「ナニです。」
「ギャーーー!!!!」
ナニって、エッチな事!?
掴まれた腕から怖気が走る。さぶいぼが立つ。
怖いもの無し、無敵の暴力女神であるディアーナが、オフィーリアの愛にだけは、なぜか恐怖する。
「そんな怖がらないで下さい、ディアーナ様……
女の子同士じゃないですか……うふふ。」
「女の子に見えてるだけでしょう!女の子じゃないじゃん!
見た目だけじゃん!レオンは変身してるワケじゃないじゃないの!!
身体はレオンのままでしょう!レオンに戻りなさいよ!」
ディアーナはオフィーリアが怖すぎて、掴まれた腕を払う事も出来ない。
「そう、わたくし…幻視魔法により女の子に見えてるだけで…身体はレオンハルトのままですわ。
……ですから……ディアーナ様を抱けましてよ?
それはもう…いつもの様に激しく。」
「ギャー!!!!」
オフィーリアに抱かれるとか、想像するだけで怖い!
あの天使の様な可憐な顔をした彼女が、アニマルとか怖いしキモイし、頭の処理が追い付かない!
プリンだと思って食べた茶碗蒸しを「しょっぺぇ!」と、腐ったプリンだと思い込んでしまう程に処理が追い付かない!!
あ、よく味わってみたら茶碗蒸しじゃん!これも大好物じゃん!
まだ、ここまでの悟りを開ける自信が無い!
「やめてやめてやめて!!無理!無理ぃ!」
「最初だけですわ!ディアーナ様!
ちょっと目をつむっていたら、すぐ慣れますわよ!」
花畑でオフィーリアに抱き締められる。
確かに、抱き締められた感じは上背のある程よい筋肉の付いたレオンハルトに抱き締められているのと同じ感触なのだが。
目に映るのは、自分より少し背が低く華奢で可憐な美少女。
「理解出来ん!処理が追い付かない!脳ミソがパンクする!!やめてよぉ!!」
「やめませんわ、ディアーナ様…お慕いしてます…。」
もう、口調まで完全に子爵令嬢オフィーリア。
声だけは鈴が鳴るような愛らしい声に変化させている。
だが…よくよく考えたら、レオンハルトがレオンハルトの姿のままで女言葉を使っているワケで。
オネェみたいで、キモイのだ。
ディアーナは、そんなオフィーリアに花畑の中に押し倒された。
ディアーナは、オフィーリアにだけはなぜか暴力を振るえない。
これがレオンハルトの姿をしているならば、殴ってでも蹴ってでも頭突きをしてでも抵抗出来るのだが…。
「だだだ誰かぁあ!おとん!師匠!たしゅけてぇ!」
パニクり過ぎて噛む。
ジャンセンは現れない。
「うふふ…ディアーナ様、愛し合いましょう?」
「ヤダーーー!!!!」
静かな森の中から、バサバサと鳥が羽ばたいて飛んで行く。
人の気配がした事により、可憐な美少女は苛立ちを隠さないまま押し倒したディアーナの上から身体を起こす。
「誰…ですの?わたくし達の愛の営みを邪魔するのは。」
「愛の営み言うな!!するか!!そんなもん!!」
慌ててディアーナも身体を起き上がらせ、オフィーリアが睨み付ける視線の先を見る。
「…これは、夢でも見ているのだろうか…
君は…フローラではないのか…?」
森と花畑の境界に立つ青年は、驚きを隠せない表情をしてオフィーリアを見ている。
白馬を連れ現れた青年は、銀髪にグリーンの瞳の美しい顔立ちをしており、身に着けた衣装は彼が高貴な家柄の者であるのだと示唆している様だ。
「…わたくしの名はオフィーリア。フローラさんではございません。
人違いですから、痛い目に遭いたくなかったら、とっととアッチ行け。」
腹立たしさからか、オフィーリアが途中からレオンハルト口調になっている。
オフィーリアは手の平を外に向け数回振って、シッシッと追い払う仕草をした。
「待って下さい!レディ!お願いがあります!
どうか僕を…!僕達を助けて下さい!!」
銀髪の青年がオフィーリアに駆け寄り、足元に膝を付いた。
膝を付いた状態でオフィーリアを見上げ、胸に手を当て祈るように懇願する。
こんな時、ディアーナとレオンハルトの父であり、この世界の創造神であるジャンセンならば…全人類の父であるジャンセンならば……
助けを求める声にはこう即答する。
「めんどくせぇ。」
ジャンセンの息子、神の御子であるレオンハルトはヤンキー兄ちゃんではあるが、意外に人情味があるので、いつもの彼ならば困っている人の話し位は聞くのかと思われたが……。
「やなこった。めんどくせぇ。」
オフィーリアが鈴が鳴るような美しい声で言い放った。
いや、親子そっくり!!
今のレオンハルトは大好物を口にする寸前に取り上げられたような状態なので、すこぶる機嫌が悪い。
足元に膝を付く青年に唾を吐きそうな位に不機嫌な顔をしており、今にも青年を足蹴にしそうだ。
「そんなぁ!!神の御告げによってこの場に来たのに!!」
ショックの余り、涙目になる麗しい青年。
ディアーナが青年の言った「神の御告げ」に興味を持ち、二人の間に割って入った。
「レオん…いや、オフィーリアも白馬のお兄さんも、ちょっと落ち着こうよ!一回ちゃんと話し聞こ?ね?」
いつもは誰より先に暴れ出すディアーナなのだが、今回は珍しく慎重な態度。
いきり立つオフィーリアの頭をつるっぱげの頭を磨くかのような勢いで撫で回して無理矢理落ち着かせ、話しを聞く態勢に入らせた。
「も、申し訳ありません…取り乱して…僕はハワード…この国の第二王子です。」
「ほう!まさしく白馬の王子様!へー!」「……ふぅん。」
感心したように声をあげるディアーナに対し、終始「早くどっか行け」オーラを放出し続けるオフィーリア。
ハワード王子との会話に温度差があるディアーナとオフィーリアは、その出で立ち、立ち居振る舞いから、ハワードが王族だろう事をなんとなく分かっていたがな的に視線を互いに向け合う。
「僕には、幼い頃に親によって決められた許嫁がおりまして…
二つ年下で同じ学園に通う彼女が学園を卒業すると共に、婚姻する事となっているのです。」
「……なんだか、どっかで聞いたような内容ね…それ。で?で?」
王子様に、幼い頃に定められた許嫁が居て…ときたらもう!
ディアーナは目を輝かせて話の続きをねだる。
「ですが、僕は…許嫁の居る身で違う女性を愛してしまった。」
「わはははは!ですよね!?ですよね!?」
本来ならば笑い事ではない内容。
だがディアーナは大爆笑してしまった。
かつて、自分が置かれていた王子の許嫁の位置が懐かしくもあり、ディアーナにとってはもう笑い話でしかない。
その時の自分が置かれた状況と同じイベントが起ころうとしている。
何か知らんがウケる。
「……で、助けて下さいって何なのよ。
つまんない頼みだったら、しばき倒すわよ。」
大爆笑するディアーナとは対照的に、ディアーナを襲うのを邪魔されて面白くないと言わんばかりの固い表情をしたオフィーリアがハワード王子を脅す。
「ぼ、僕は、許嫁のロザリンドと婚約破棄をしたいのですが…
そうする為の準備をする時間が欲しいのです。
そして、それまでは僕の行動が怪しまれないように、フローラには普段通りに学園に通っていて貰いたいのですが……
その……フローラは……ロザリンドの嫌がらせにより……」
「イジメにあって傷付いて、引きこもりにでもなったの…?」
「……それもありますが、ストレスから過食気味になりまして……
体重が倍になりまして…。
今は、婚約破棄をするパーティーの日に向けて痩せる努力をしております。」
「わはははは!!断罪イベントね!?
体重が倍?そんな彼女でも見放さない王子サマに敬意を表するわ!!
ねぇオフィーリア!手伝ってあげましょうよ!!」
「……ディアーナ様がそう言うなら……
とは思いますが、ちなみに夢の御告げって…どんなのですの?」
オフィーリアがハワードに訊ねれば、ディアーナも「そう言えば」という顔をする。
「…自分は神だと言う黒髪の青年が夢に現れまして…この場所に来れば、悩み事が良い方向に進むかもね?と言ってました。」
「ほら来た、親父ぃ……!!
いらんイベントぶちこんで来やがった!!」
「ぶひゃひゃひゃ!師匠!師匠サイコー!おとん!サイコー!」
ハワードの答えにオフィーリアが、悔しげに歯噛みする。
ディアーナは花畑の中を転がりながら爆笑していた。
ハワードは目の前の二人の美少女達が、あんまりにもあんまりで、言葉を失い茫然としていた。
愛するフローラそっくりのオフィーリアという少女は…
かなり怖い人の様だ。
本当に、フローラの身代わりを頼んで良いのだろうか……
「ハワード殿下、今、やっぱりやめた!なんて言ったら、今夜夢の中に恐ろしい美形が現れるからね?俺の遊びを邪魔すんなってね!」
「うっ…。そ、そうなんですか…。」
目を輝かせるディアーナと、あからさまに不機嫌なオフィーリアをチラ見したハワードは、腹を括るしかないと決意した。
「お願いします!!」
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【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
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ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
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