【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第六章【異世界にて悪役令嬢再び。】

96#悪食?美食家?食べられるのかディアーナ。

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朝早くに宿を出てから半日程歩いたディアーナとリュシーは、街道から逸れて林の中に入って行った。




ディアーナが

「私の野生の勘が、この先に川があると言ってんのよ!」

と言い出したからだ。



そもそも令嬢に野生の勘など無いのでは?

そうは思ったが、リュシーは藪をつついて蛇を出しそうで、あえて口に出さずにディアーナに従った。





足元の雑木林を踏み進むと、時々蛇やトカゲを見掛ける。

リュシーはディアーナに見つからない内にそれらを足の先で遠くに追いやる。



「食料ですわ!捕まえるわよ!」



そう言われそうで、怖い。

早くお逃げ。どうか、ディアーナ様に見つからないでくれ。

そんな思いを込めてリュシーは足下に細心の注意を払う。



一方、ディアーナは林や藪を平気で躊躇無く突き進んで行く。

虫がいようが、肌が草で傷付こうがお構い無し。

野生児ディアーナは肩掛けカバンからナッツか何かを延々と取り出しては口に運んでいるので、今は大人しいが……いつ、何のスイッチが入るか分からない。

蛇を食うだの、魔獣を食うだの…しまいにゃ虫まで食うとか言うんじゃないだろうな。

リュシーはそんな、変な緊張感の中に居た。



「あ、ディアーナ様、川に着きました。」


「ほらね!私の野生の勘が冴えてるわ!
ああ、いいわね!小さな滝もあるし!
林の奥だから人もあまり来なさそうね。水浴びしましょう!」



水浴びしましょう?………どうやって?服を着たまま?



「……では、俺は人が来ないか離れた所で見張ってますので…お一人ででえええ!!!」



ディアーナはリュシーの見ている前でバッと、ドレスを脱ぎ捨てた。

それはもう、いさぎよく。

色気も素っ気も無く。むしろ男前。



「ギャー!!な、何をなさってるんですかーー!!!」



驚きの余り、リュシーが絶叫に近い大声をあげる。



ディアーナは黒い布をサラシのように胸に巻き、自作なのか、紐パンティという名の黒い下履き姿で堂々と。

それはもう、堂々と立っていた。



「水着ですけど、何か?」



「ミズギ…?は?何が?」



ミズギと言う単語が何を指しているのか分からないリュシーが、呆けた顔をして尋ねる。

……いかん、目を逸らさねば……男の従者が、女の主の裸体を凝視する等……。



「今、着ている服の事よ。水遊びをする時に着るのよ。」



服?服なんて何処にある?俺には見えない透明な服があるのか?

どう見てもディアーナ様は裸で……ほぼほぼ裸で!!

服なんか着てないから!!



「服なんて着てないでしょう!
貴女には、恥じらうとか、羞恥心とか、無いんですか!
お、男の前で!そんな、肌を露にして!!」



「はぁ!?私のナイスボディに意見する気か!?」



リュシーはディアーナに胸ぐらを掴まれ、そのまま川の中に引摺り込まれた。



どこの国の、誰の言葉だろう…。

頭の中に


「河童だ。河童がいやがった。」


と、今の状態を説明する謎の言葉が浮かぶ。

カッパって…何だ…。




「さあ、リュシー!!川の魚を獲るわよ!!」



「……もう、好きにして下さい……。」



川の中に引摺り込まれてずぶ濡れになったリュシーは、半身浴状態で川の中に尻をついたまま、諦めたように項垂れる。



項垂れるリュシーの視界に、自分の斜め後ろに立つ人物の足が入った。



「……!!で、殿下!!!!」



リュシーが川の中に尻をついたまま、慌てて振り返る。

突如現れてリュシーの背後に立つスティーヴン王太子殿下は、本人ではない。

それは、リュシーだけが知っている事実。



水に濡れたリュシーの顔を、冷や汗が水と共に流れ落ちる。



━━早い!まだ、この世界に来て数日しか経ってない!!
何でだ…?もう…我慢出来ないほど、ディアーナ様を喰らいたいのか…?嫌だ…

まだ、まだ俺は…この人と居たい!この人を知りたい!━━





そんなリュシーの思いを無視し、それはディアーナを食いに来た。

スティーヴンの姿をしたそれは、ディアーナを睨み付け、口を開いた。


「………何をしている。ディアーナ嬢。」


突如現れたスティーヴンに驚く様子も無く、ディアーナは水着(?)姿で仁王立ちし、スティーヴンを見ている。



「あら殿下、ご機嫌うるわしゅー。私が何をしているかは見ての通り。花嫁修業ですわ!!」



「ブフォ!!」

リュシーが口を押さえて噴き出した。

噴き出した後に、リュシーの頭の中にたくさんの疑問符が浮かぶ。

「???……」



━━ディアーナ様には、レイラ嬢がレイリを目にした時のような動揺は全く無い。

確かに、先に死んだハズのレイリと違って殿下は生きてるし、急に現れたからと言って…そこまで驚く事ではないのか…?━━



「こんな所で何をしている。ディアーナ!」



スティーヴン王太子は、ディアーナのボケに一切反応しない。

ディアーナは軽く舌打ちをすると、ボソッと呟く。


「チッ、つまんねーやつ。」


「ディアーナ嬢…自分が私にした事を分かっているのか?」


「……だから殿下……何度も言いましたが、それはひどい言い掛かりですわ…。
わたくしが、そのような事するワケ御座いませんわよ?ウフフ」



罪を追及してくるスティーヴンに、ディアーナが少し女性らしく、しなを作り、何かを誤魔化そうとしている。


「あんな事をするのはディアーナ嬢しか居ないだろう!!」


「ウッセェな!!何で私だって決め付けるかな!!
カレー位でガタガタ言うなよ!!ウゼェな!!おかん!!」



リュシーは、ディアーナと偽物スティーヴンのやり取りを……

何だかボンヤリ見ていた。

真剣に見る必要が無い気がしていた。

ディアーナがスティーヴンに対して僅かでも後ろめたく思っている事が、先日の寝言の通り、本当にカレーとやらの鍋の話だけだと改めて理解した。



「ディアーナ嬢!!
お前は、私のオフィーリアを傷付け……ブフー!!!」




スティーヴン王太子の姿をした何者かは、話をしている最中にディアーナの蹴りを顔面の左側から首が折れるんじゃないか位の勢いで叩き込まれ、そのまま数回クルクルと、きりもみ状態に回って滝壺の方に吹っ飛んで行った。



「お前だぁ?誰に向かってモノ言ってんだ、こら。しばくぞ?」



川の中に浸かったまま、体育座りをしているリュシーはボソッと呟く。


「…しばいた後に言うんですね…ひどっ…」



ディアーナは、ザブザブと深さのある滝壺の方に向かう。



「お前こそ誰よ。
殿下がマトモに私の攻撃を受ける程に弱いハズ無いし、殿下は絶対に私達をお前呼ばわりしないわよ。
……それに、私のオフィーリアだぁ?
フザケんな、オフィーリアは私だけのものよ。」



滝壺に向かうディアーナの背中を見ているリュシーは、そのディアーナから立ち上る怒りのオーラに身震いする。

そして、言ってる言葉の内容に困惑する。


オフィーリアさん、ディアーナ様のものなんだ……?


「ちょっと、色々話を聞かせて貰おうかしら?
……ん?どこ行った??」



滝壺に着いたディアーナが、滝壺の中を探すが、そこには誰も居なかった。


「…あの野郎…逃げやがったな……」

「……ディアーナ様……あの……大丈夫……ですか?」


「はぁ?何が。大丈夫……ではないわね……
暴れ足りなくてムカムカしているもの。」



……こっわ!!



ディアーナの元に駆け寄ったリュシーは、いきり立つディアーナをジッと見詰める。



アレに攻撃をした人を初めて見た。

全く怯まず、躊躇せず、容赦なく……。



「……あいつ……この私をお前と呼んだのよ……この、次の手紙!ディアーナ様を!!
……うおぉ!!自分で言って、意味が分からん!!
何だ!次の手紙って!!」



まったく色気を感じさせないが、いやらしい格好をしたディアーナは、暴れ足りない苛立ちから川の水面を激しく殴りまくる。



その拳は速く、水面にいくつも波紋を拡げ大きく振動し、仮死状態になった多くの魚がプカプカと水面に浮いた。



「……おー……見事ですね……火打ち石、持ってるので……焼きましょうか?」



「うん、お願い!!よく焼きで!!」

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