【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第六章【異世界にて悪役令嬢再び。】

95#レイラとレイリ。

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「恩に着る、リュシー。」


とある国の王城、高い城壁の外回りを警らする男女の騎士が言葉を交わす。


リュシーの名を呼ぶ女騎士は、亜麻色の豊かな髪を持つ美しい子爵令嬢レイラ。

彼女の器量であれば、どのようなドレスでも美しく着こなせてしまうであろう。

だが彼女はドレスよりも騎士服を身に着けている方が多い。



子爵令嬢でありながらレイラは、ドレスを身に付けきらびやかな貴婦人になるより、剣と共に騎士として生きる道を選んだ。



「いえ、警備隊長となられたレイラ様と共に仕事が出来て俺は満足ですよ。」


獣人であるリュシーは、兵士として王城に勤めており、直属の上司になったレイラ嬢の警備隊に配属された。


レイラ嬢は騎士として城に仕えていたが、同じく騎士として仕えていた男が国王陛下の命を狙う輩だと気付き、これを成敗した。



「……フッ……警備隊長か……私は、そんな大役を賜る器では無い…。だから誰も私の元には来ない。……リュシー、お前だけだ。
私を隊長と呼んでくれるのは。」


「隊長は、刺客を倒して陛下の命を守った英雄ですよ。
だから、警備隊長という大任を賜った。」



レイラは遠い目をする。

何処か遠くを、見つめ僅かに目を潤ませる。



「そんな…立派なものではない…私は…後悔だらけだ。
女々しく泣く事はしたくないが、私は……弟を……」









レイラは強い女性であった。

男達に混ざって剣を振るう事も多く、腕力では敵わないものの相手の力を利用して速さで相手を翻弄し、正確に狙った箇所を貫ける、そんな剣士であった。



だから、女でありながら誰もがレイラの実力を認めており、城に勤める騎士や兵士達とも令嬢としてではなく、仲間として楽しげに談話する事も日常的な光景であった。



━━国王陛下の命を狙った輩を、レイラが討つまでは。



刺客としてレイラに倒された男の名はレイリ。



レイリは他国から流れ着いたよそ者だったが、その腕を認められ、身元もしっかりしていた事から剣士として城に勤める事を許されていた。



レイラとレイリ。

名前の似た二人は回りから冷やかされたり、茶化されたりしたが、レイラは悪い気はしていなかった。



レイリは線が細めの美男子だったが、レイラと同じく速さと技を兼ねた剣技を持っており、練習試合では誰にも負ける事がない実力の持ち主。

そんな自分をおごる事も無く、話しやすく人の良いレイリは、他の騎士、兵士ともすぐに打ち解け、誰からも悪い印象を持たれる事はなかった。



レイラもそんなレイリを気に入っており、自身の抱いているものが恋心とは気付かないまま、レイリを常に共に居たい、背を預けられる相手だと思うようになった。



そんな日々を過ごしていたある日。


滅多に城の外に出ない国王陛下が珍しく兵舎の方に来た。


国王陛下のお姿を近くで拝見出来たと、浮足立った兵士達の中からレイリが剣を構えて国王に斬りかかった。



「レイリ!!!」



恋心ゆえか、レイリの姿を常に意識していたレイラだけがレイリの素早い動きに対応した。

国王の前に躍り出たレイラは、レイリの剣を自身の剣で受け止めた。



「レイラ、どけ。でなければ、お前も斬る。
俺は…お前を殺したくない。」



「お前こそ剣を引け!私もお前を殺したくない!
降伏しろ!逃げ切れるハズが無いだろう!!」



「……逃げる気は無い。俺はもう、死んだ方がいい…レイラ、お前になら……俺を殺せ!!」



十字のように重なり合って一歩も引かなかったレイリの剣の刃が、レイラの剣の上を走る。

その軌道に従って流れた剣先はレイラの首に向かった。



「レイリ!!!やめろ!!」



同じく剣先を走らせたレイラは、そのままレイリの身体に自分の身体を預けるようにして懐に潜り込み、彼の胸を、心臓の近くを貫いた。

手にした剣を地面に落としたレイリは、胸に身を寄せるレイラの背に手を回し、両手で緩くレイラを抱き締める。



剣を握るレイラの手が、剣を伝い流れて来たレイリの血で濡れていく。

レイラは剣を離す事も、レイリの懐に入った身体を動かす事も出来ず、緩く抱き締められたまま耳元に吹き掛かるレイリの苦しげな呼吸を聞いていた。



「馬鹿な…!なぜ、陛下を……」



「………ごめん………姉さん………もう、レイラを…姉さんとして見るのが……つらかった……死にたくなる程…つらかった……。」



「………は…何…?……姉さん?…」



「……最初は…姉さんを養子にと連れて行った奴のいる、この国が憎かった……でも今は……そんな事…どうでもいい……姉さんを…レイラを…好きになって…俺は…死にた………いと……」



レイラの見ている前で国王と共に兵舎に来ていた近衛により、レイラと最期の会話の途中だったレイリの首が跳ねられた。



「………………………………レイリ……?」



「よくやったレイラ嬢!さすがは騎士の家系、ベント家子爵令嬢!」



レイリの血を全身に浴びたレイラは、首の無いレイリの骸に抱き締められたまま、その場で気を失った。












「レイリが……私と引き離された弟だなんて気付かなかった……。
自分がベント家の養女だった事も…忘れていた…。
あらゆる物を忘れて…私は何を…していたのだろうな…。」


「貴女は、何も悪くはない…。見知らぬ貴族家に養女として連れて来られた貴女は、ただ必死で養父の期待に応えようとしたのでしょう。」


リュシーは優しい笑みを浮かべ、レイラに語り掛ける。


リュシーが居る時点で、ここは既に現実ではない。
夢と現うつつの境目にあるレイラの記憶から作られた世界。





現実では…

レイリを倒し国王を守ったレイラは、褒賞として警備隊長に任命されたが、壊れ掛けたレイラの心には何も聞こえず、何も届かなかった。



自分が恋心を抱いていた相手が実弟だった事よりも、自分がこんなにもレイリを好きだったのだと、その事に驚いた。

そして、レイリも自分を好きだと言ってくれた。



姉弟で抱いてはいけない感情を持ったから辛いと、死にたいと…
そこまで想われていた事を知った時、レイラ自身もこんなにもレイリを好きだったのだと気付いた。



「私がっ…!私が死ねば良かった!!レイリ…!
こんな事なら…お前と…逝きたかった!」



現実世界でのレイラは憔悴しきって誰とも口をきかなくなり、そして、深く傷付いたレイラは城の近くの森の中に誘われるように赴き、そこで果実を口にして深い眠りに落ちた。









「……レイリが死んで……もう、生きているのも辛いと思っていたのに……リュシーに話を聞いて貰えると、少し……心が穏やかになるんだ……。」



「それは良かった…話を聞く位しか…俺には出来ないから…。」



「……話を聞いてくれるのはリュシーだけだ…他の騎士や兵士達は、レイリを倒して昇進した私を疎ましく思って、傍に寄り付かなくなったからな。」



事実は違う。

騎士や兵士達はレイラの悲しみや苦しみを知って、だが、余りの悲しみ様に、どう慰めて良いか分からずレイラに声を掛けられないでいた。

だが、レイラの記憶と思い込みにより作られたこの世界では、皆がレイラに冷たく、レイラの傍にはリュシーしか居ない。



「レイラ様……」



「ありがとう、リュシー…お前が居てくれて良かった…。」



レイラは力無く、それでも目一杯微笑んだ。

心の傷が、少し癒されたのだと、リュシーに礼を述べた。

微笑んだレイラに、リュシーも微笑み返す。

互いの姿を目に映す。

これを最後に、レイラの目にリュシーが映る事はなかった。







「レイラ。姉さん、なぜ俺が死んだのに笑ってんの?」



「!!!レイリ…!?レイリ!!」



突如、目の前に現れたレイリにレイラが驚愕し、混乱する。



「俺が死んで嬉しいのか?レイラ、俺はあんたを愛していたのに……あんたは、俺が死んで笑えるんだ?
自分で殺しといて、ひどい女だな!」


「ち、違う!!そ、そんな事……!レイリ!」


レイラの目から涙が溢れる。

再び愛しい人に会えた喜びの涙ではなく、贖罪と、悔恨の涙を流す。



「私も貴方を好きだった!弟だと知っても、貴方が好き!!
私が…死ねば良かったと思ってるの!本当にっ……っかは…」



レイラの身体をレイリの剣が貫く。



「だったら死んでくれよ。俺はもう、あんたが嫌いだ。
いや、最初から好きじゃなかった。
だから、死ねよ。姉さん?レイラ?どっちでもいーけどぉ!」



「……れ、レイリ……?」



「お前なんか、好きなワケ無いだろう?……あー!その顔いいな!
何で?って顔!嘘でしょう?って顔!」



「……レイリ……………」



「絶望した美しい顔の女は…最高に美味い………生気が……
あんたも美酒のようだよ……ああ、もう空っぽ…。」



レイラの身体が地面に崩れ落ちる。



レイラが命を失うと同時に、この世界も消える。

暗い闇の中に、レイリの姿をした何者かと、リュシーだけが取り残された。



「……レイラ様……」



「……リュシー、次の女を見付けた……早く喰わせろ」



「……!!その姿…早く解いてくれないかな!レイリさんに失礼だろ!!」



レイラの死を悼む暇さえ与えられず、苛ついたリュシーが声を荒げる。



「会った事もない、とうに死んでしまった男に失礼も無いだろう。
残念だったなリュシー、この女なら俺を倒せるかもと思っていたのだろう?
どんなに剣の腕が立とうが、俺を倒せる者などおらん……クックッ……」



レイリの姿で嗤う、得体の知れない何かにリュシーは憎悪の目を向ける。

だが、リュシーはそれ以上の何かを、そいつにする事が出来ない。



「そう……俺を倒せる人間などおらんのだ…………」



その言葉を残し、それは去った。

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