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第六章【異世界にて悪役令嬢再び。】

85#自覚なしの月の聖女、無敵発言。

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「とにかく、私はもう王都を離れるわ。邸に寄るつもりは無いの。」


ディアーナは自身が登ろうとして落ちた木の幹をパンパンと叩く。

もう一度、トライしてみるか!的な意味を込めて。


「しかし…ディアーナ様、それでは何の準備も無く…旅をするための路銀も……。
今夜、お休みになる宿だって…。」


ごく普通に当たり前の事を心配そうに話すリュシーに、受け答えするのも面倒臭いディアーナは思わず本音で返事をしてしまう。



「はぁ?宿だぁ?お金も無いのに宿?
そんな事を言っちゃうのは、どこのお嬢ちゃんだよ!!
……私か!!私じゃん!!そうか、私、めっちゃお嬢ちゃんだわ!!」


「ディアーナ様…?本当に一体どうなさったのです…?」


侯爵令嬢とは言い難いディアーナの立ち居振る舞い、言葉遣いにリュシーが困惑の表情を見せる。


ディアーナ的に言っちゃうと、リュシーにドン引きされている。


リュシーの質問に対しては、今、此所に居るディアーナ自身にはハッキリとした記憶が無いものの、どうすべきか、どうしていたかは何となく理解している。


「リュシー、雨が降らなければ私、どこででも休めるわよ?
それに路銀なんて、作ればいいのよ。まずは、このめんどくさいドレスを売りましょう。
動きやすい服が欲しいのよ。」


そう、野宿だってやった覚えはないけど、何だか慣れている気がする。

旅の路銀だって、何だかんだと作り出していた。

そんな気がする。

だが、リュシーにしてみれば貴族の令嬢が令嬢らしからぬ事を言っている事が納得いかない様子で、思わず食って掛かるように声を張られた。



「な、何を言ってらっしゃるのです!!
そのドレスは、ディアーナ様が一年前から何度も何度も作り直しを命じて、やっと納得いくものが出来たと言っておられた大事なドレスではないですか!!」



「ドレスで腹が膨れるかぁ!!一年も手を加えさせたの!?私!
そりゃごめんね!でもね、こんなステキに作ってくれた人には悪いけど、明日からの私には不必要なものよ!」



リュシーの中の私ってキャラクターが、改めて典型的な悪役令嬢ディアーナだと知る。

もう、それは私ではない。

それゆえに気になるのが……



リュシーはそんな悪役令嬢の私との断罪シーンまでの過去を、この世界で本当に経験していたのか…



悪役令嬢とは、そんなものだからディアーナもこうである、という設定を頭にインプットして行動しているのか



どちらにせよ、いやしねぇよ!

そんな典型的な悪役令嬢ディアーナなんて!



「リュシー、私はね殿下に婚約破棄を言い渡された時点で腹を括ったのよ!
オフィーリアさんが私と一緒に来なかったのは…何だか、アレ?って感じはするんだけど…まぁ、いいわ。」


「……オフィーリア様がディアーナ様と…一緒に王都から出る…?
有り得ないでしょう?」



話が平行線のまま進む。

説明しても理解されないだろうし、ディアーナ自身も記憶が曖昧なので上手く説明出来ない。

だったらもう、今の私を知って貰うしかない。


「よし、王都を出るわよ。もっかい木に登ります!」


「もう一回木に登ります!?まさか、さっき枝を持って寝てらしたのは……転んだのではなく……」


「うん!失敗して高い所から落ちた!」


「う、うわぁぁあ!!お、お嬢様が!!お、お怪我は!」


「ない!うるさい!黙れ!」


ニッコリ笑みながら言うと、ディアーナは再び木から離れ助走をつけ、ドレス姿のまま物凄い速度で木を掛け上がる。

そして、手頃な太い枝を掴み……ボキッ


「またか!脆いな!!」


ディアーナは持った枝が折れた瞬間、他の枝を掴み、また折れたので他の枝を掴み、アワアワとそれを繰り返してうざったくなり


「てんやわんやじゃないの!!
ボキボキ折れるんじゃないわよ!脆いな!!」


もう一度木の幹を蹴り、最終的には王都を囲む高い壁の上に飛び乗った。


「無意味に疲れたわ……あ、リュシー……忘れてた」


木の根元では、そんなディアーナを見上げて茫然としている枝まみれになったリュシーが居る。

令嬢どうこう以前に、人間離れした行動力に驚いているのか、言葉も発せずに立ち尽くしている。


「ごめーん、リュシー、さっきの私みたいに登って来れる?」


「………木登りが得意な人でも、普通の人には無理じゃないですか……?あんなの……」



リュシーは自身の足元に風を起こし、自身の身体を持ち上げフワリとディアーナの居る壁の上に乗って来た。


「風魔法が使えるのね、リュシーは!
しかも、自分の身体を持ち上げるなんて、中々に強い魔法を使えるのね!」


高い壁の上で、ディアーナがリュシーの顔に自分の顔を近付ける。


星が瞬く、月夜の下で見るディアーナは絶世の美女である。

夜空に溶け込むような藍色の髪をなびかせて、金色の瞳を真っ直ぐに向けて来るディアーナに、リュシーが思わず自身の口を手の平で押さえて赤面した。


「ディアーナ様…近いです…。あの…危なかったです…」


「危なかった?へ?」


自身の口を押さえなければ、思わずキスをしたくなっていた。

リュシーはそう、答えられずに口ごもる。


「貴女は……ただ、美しいだけじゃないんですね……」


手の平で隠した口から、ポツリと漏れたリュシーの呟きはディアーナには届かなかった。

リュシーが高い壁に添うように生えた大木の根元に目を向ける。

木の根元には大量の折れた枝が落ちており、人間離れしたディアーナの奮闘ぶりがうかがえる。


「よし、王都の外に行くわよ!」

「外に!?こちら側には木が生えてませんよ?ロープも無いし、どうやって降りるんですか?あ…俺が風魔法で降ろしますの…でええ!!!」


リュシーの答えを最後まで聞かずに、ディアーナは高い壁から身を投げた。

15メートルそこそこ辺りの高さ等、ディアーナにとっては何の障害にもならない。

リュシーの目には、パラシュートが開くように、きらびやかなドレスの花が落下していく。


「人間……だよね!?ディアーナ様って!?ええ!?」


着地したディアーナは、壁の上で一人騒いでいるリュシーに目を向けると、手の平を上に向けた状態で人差し指をクイクイと動かす。「来い」と。


「……俺の知っているディアーナ様では無いって事ですか…
貴女が何者なのか、知りたくなりましたよ……フフッ、旅のお供をさせて頂きましょう。……貴女の命が尽きる時まで……。」


リュシーはディアーナと同じように壁の上から身を投げた。

ディアーナの前に着地したリュシーは、月明かりに照らされた街道に目をやる。


「月明かりがあるので、多少明るいですが…夜は魔獣も出やすいし…やはり危険です。」


「魔獣は私が倒すわよ。でも、私、魔力ゼロなんで、魔物が出た時はトドメを任せるわ。」


「……魔力も武器も無いのに、魔獣を倒すんですか……え、素手?有り得ないでしょう?」


魔獣は元が、この世界の生き物なので物理的に倒せる。

だが、魔物は瘴気から生まれ、実体化した物なのでトドメだけは魔法を使って散らさなければならない。


魔力の全く無いディアーナは、何だか黒いのから渡されたナイフを使っていた。

そのナイフには黒いのの魔力が込められていて、魔力の無いディアーナでもトドメを刺せたのだが。


「どこかで、魔力の付与されたナイフが欲しいわね。
そしたら、ほぼ無敵だわ、私。」


無敵発言をする令嬢。

改めてリュシーが思う。


「俺……か弱い令嬢を護る、護衛ではないんですね…?」


「うん、違う!」

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