【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第六章【異世界にて悪役令嬢再び。】

83#異世界の中の異世界。断罪シーン再び。

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パチン! 指を鳴らされて催眠術から強制的に目覚めさせられたかのように「私」が意識を取り戻す。





━━━ここはどこだろう?…何だか見覚えあるんだけど…えーと…ラジェアベリア国のお城ですか?

何で私、今、お城に居るの?

……私、何をしていたんだっけ?━━━





ディアーナは困惑していた。

自分が今、立たされている場所、状況に見覚えがある事に。

だが、なぜ見覚えがあるのか…が、思い出せない。



「これは…デジャブってやつ?んん?……そもそも私、何でこんな所に居るのかしら?」



「何か申し開きがあるならば、言ってみるがいい。」



不意に声を掛けられ、初めて場所以外に目を向ければ、目の前には王太子のスティーヴンがおり、その傍らにはオフィーリアが居る。

この光景も、見た事がある気がする。



「……申し開き?……申し開き……殿下……殿下は…もっとこう…バイーンと乳のデカイ人と夫婦やってませんでした?」



ディアーナは手の平で自分の胸の前に、大きな膨らみの輪郭を描き「デカイ乳」を表現する。



「なっ!!何を言うんだ!!しかもディアーナ!!君は何と言う、はしたない言葉遣いを…!」



真っ赤になったスティーヴンが、慌てたようにオフィーリアを背に隠す。

聞いてはいけない言葉から守るかのように。



「……あー……?何だろ……おかん?……おかん、うざー……」



ディアーナは辺りを見回し、ここが学園の卒業パーティー会場である王城のダンスホールだと把握した。

把握したが、なぜ今、ここに自分が居るのかが分からない。

ここ最近、学生というものをしていた記憶が無い。

と言うよりは、今、この場に居る以前の記憶自体が無い。



「……なんで卒業……あ!そーいや、ねえ!!ねえ!」



ディアーナはズイズイとスティーヴンに迫り、顔を近付ける。



「な、な、何だ!ちっちかっ!近い!」



顔を近付けて来たディアーナに思わず赤面してしまうスティーヴンを無視して、ディアーナはスティーヴンの肩に顔を乗せる位に近付くと、その背後に居るオフィーリアに話し掛けた。



「あなたは私の事、結婚したい位に好き?」



スティーヴンと、スティーヴンの背後に守られるようにして身を寄せているオフィーリアの二人が、同時に頓狂な声をあげる。



「「はぁ?」」



広いホールの中には夜会用のドレスや礼装で着飾った大勢の人達がおり、異様なやり取りをしている私達の方を遠巻きに見ている。



「な、なぜ…そう思う!?私は、君と婚約を解消したいと…!」



「いや、殿下には聞いて無いわよ?……そこの彼女に聞いてんのよ?私を好きかって。」



地味にショックを受けているスティーヴンと、その背後でアワアワと慌てふためくオフィーリアに、ディアーナが首を傾げる。



「……何か……こう、違うんだよなぁ……前と……前?…前なんてあるわけ無いか……」



ディアーナは怯えるようなオフィーリアに違和感を感じつつ、何がどうおかしいのかが分からない。

スティーヴンが軽く咳払いをし、仕切り直すように声を大にして断罪シーンの続きを行う。



「そ、そなたは侯爵令嬢であり私の婚約者という立場でありながら、オフィーリアを下級貴族の娘だと罵り、酷く虐げていたであろう!貴族令嬢にあるまじき行為だ!そなたは王家の妻として相応しくない!よって、婚約は破棄させてもらう!」



オフィーリアを背後に庇いながら、スティーヴンはディアーナをビシッと指差し台詞を言い切った。



そんなスティーヴンに対し、ディアーナは下顎を出して腕を組み



「あぁ?黙れヘタレ。聞き飽きたわ、ウゼェその台詞。デカパイ好きのクセに。」



と言ってしまった。

スティーヴンだけでなく国王を始め、その場に居た全員がディアーナを凝視する。

スティーヴンに至っては、ショックの余り石化してしまっている。



ディアーナは、自身の姿と今、居る場所と状況を鑑み、珍しく反省した。

「そう言えば…何か黒いのと、白いのに、もっと令嬢らしく振る舞えだのと言われてたわね…。王族の方を前にあの態度は無かったわね。」



ディアーナは、その黒いのと白いのが誰なのか思い出せない。

ただ、ぼんやりと思い出すのが、黒いのと白いの以外に金色のも居て、そいつだけはディアーナがどんな口のきき方をしても、「可愛い」と褒めていたような気がする。



ディアーナは、不本意ではあるが多少は令嬢として振る舞った方が良いかもと自身を納得させた。



「ねえ、オフィーリアさん。貴女、わたくしと結婚したいとか、キスしたいとか、思ったり致しませんの?」



「え、えええ!?」



ディアーナは石化したスティーヴンの背後に居るオフィーリアに近付き、顔を覗き込む。

混乱しているオフィーリアが、真っ直ぐ見詰めるディアーナの金色の瞳にポッと頬を染めた。



「……わ、分かりません……けど……キス…なら…してもいいかも……」

「えええっ!?な、何を言ってるんだ!オフィーリア!」



焦るスティーヴンと恥じらうオフィーリアを尻目に、何だか面倒臭くなったディアーナは大扉に向かい歩き出した。



「何か違う。でも何が違うか分からないー考えるのダルいわぁ…もういーや。国外追放でも何でもしろっつのー。」



「ま、待て!ディアーナ!何処へ行く気だ!」



「……あら、何だか懐かしい気が……お父様?」



父親であったディングレイ侯爵に呼び止められ、足を止めたディアーナが振り返る。

振り返ったディアーナは、面倒な考え事から解放されるならば国外追放位大した事じゃないしね!的な良い笑顔でポワポワと答える。



「殿下に婚約破棄を言い渡されましたわ。まだ、言われておりませんけれど、きっと国外追放となりますので、わたくし気ままに一人旅に出ようかと思っておりますの。」



「な!勝手は許さんぞ!スティーヴン王子が駄目でも、第二王子が居るではないか!お前はその王子の妻に…!」



ポワポワと、小さなお花を頭に咲かせていたディアーナを包む空気が一変する。



「…はぁ?お前だぁ?誰にモノ言ってんだコラ。」



ダンスホールの大扉の前で、父親であるディングレイ侯爵に思い切りガンを飛ばして威圧する。

ディングレイ侯爵が固まって動けなくなったのを無視してディアーナはホールを出た。



「…何で、お父様を懐かしいなんて思うのかしら…同じ邸に住んでるのでしょう?……うーん、この違和感が何なのかが分からん。つか、お前呼びだけは私もあの人も、許せないのよね……?あの人?」



延々と続く違和感。そして消えない既視感。

以前にも同じ経験をしたような気がするのだが「有り得ないよね、そんなの」で完結させようとする意識も働く。

何か未知の力により、考える事を放棄させられている……



いや、ディアーナはいつも、自ら考える事を放棄するので実際には未知の力、関係ないかも知れない。



ディアーナは一人、王城の外に出た。

卒業パーティーの為に用意された、フリルやレースをあしらった華美なドレスも鬱陶しい。

ドレスの裾を持ち上げ、数回ジャンプしてみる。



身体には違和感が無い。今までの自身の身体能力がそのまま有るようだ。



「私、何を確認したのかしら?…何だか、人間離れした動きが出来そうな気がする自分を??……うーん、国外追放か…一旦邸に戻るのも面倒くさいわね…なら、このまま出て行きましょう!!まずは王都を出るわ!」



ディアーナは、ドレス姿のまま夜の街道を闊歩する。

人目を引く、華やかなパーティードレスを身に付けた貴族令嬢が従者の一人も侍らせずに単身、弾丸のような、ものすごい速さで歩く姿はある意味異様なようで、誰も声を掛けて来ないし近付いて来ない。



ヒールを履いた足で、カツカツではなく、カカカカッと速度を落とさず延々と歩くディアーナは、一時間足らずで王都の門に辿り着いた。

夜になり門が閉まっていたので、ディアーナは街を囲う壁の側に生えていた木に登る事にした。



木から距離を取り、助走をつけ木の幹を数歩登った後に幹を蹴り身体を枝の方に跳ばす。

太い枝を掴む事が出来れば、後はその勢いだけで身体を車輪のように回転させバランスを取り、枝に乗るだけ…………なのだが



「……人間離れしてるわね、私。何でそんな事が出来るなんて思ったのかしら。………でも、出来たわね。」



ディアーナは、折れた太い木の枝を手に掴んだまま、木の根本で仰向けになって倒れていた。



「枝が、もっと丈夫だったら大成功だったんだけど、まさか折れるとはね。街の中の木は脆くて駄目ね。」



「ディアーナ様!…良かった、御無事ですか?」

木から落ちた状態で仰向けに寝転ぶディアーナを上から覗き込む様に、ディアーナの横に褐色の肌に赤い髪の青年が立っていた。



誰?この人は見た事無いわ……初めて、見覚えの無い物を見たわね。



「……ええ、大丈夫よ…リュシー。」



リュシー??

自分で呼んでおいて何だけど、聞いた事無い名前だわ…。

褐色の肌なんて、この国では珍しい。

南方の方に行った時は、そんな人達ばかりの国もあったけど。



「……?私、この国を出た事なんて無いハズなのに…なぜ、外国へ訪問した記憶が…?」



「ディアーナ様…もしかして…頭を打ったのですか?…大丈夫…ですか?…失礼致します。」



心配そうにディアーナの傍らにしゃがんだ青年は、仰向けに寝転んだままのディアーナの腕を掴み、ゆっくりと引いて身体を起こすのを手伝う。



「ありがとうリュシー…さすが、長年私の側仕えをしているだけあるわね。」



何が?はぁ?誰よリュシーって。

私の知ってる、黒いのと白いのと金色いのじゃない!!

こんな、チョコレートみたいな奴!知らん!



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