【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

文字の大きさ
上 下
68 / 140
第四章【神の御子と月の聖女ディアーナの旅】

68#旅人であった妻の父は…

しおりを挟む
「グイザール公爵、貴方は私が旅に出ている間に色々としてくれたようですね…。
私が信頼している方達を自身の派閥に誘い、断ればその身内に危険が及んだり、身に覚えの無い罪をでっち上げられたり…」


スティーヴンは感情を表に出さずに淡々と言葉を紡いでゆく。


「そんな事は知らん!殿下は勘違いなさっているのだ!」


当然の様にしらばっくれるグイザール卿。

まさに前世、テレビで見た探偵や刑事と、罪を暴かれようとしている犯人のようだ!とディアーナは目を輝かせる。


「まぁ、時期国王となる私に近い者を取り込もうとしたのは、まあ、分かりますよ…ですが…。
卿、貴方はただの馬鹿だと思っていた私が、簡単に操れない者だと知って焦ったんですよね?
だから、私が邪魔になった…消えてしまえばいいと、そう思った。」


「そんな事を思ってはおらん!
いくら、王太子殿下と言えども、陛下に忠誠を誓いこの国を愛する、この私を侮辱するのは許せませんぞ!」


ディアーナはレオンハルトに、急に面白がって飛び出したりしないよう背後から緩く抱き締められながら、スティーヴンとグイザール公爵のやり取りを見ている。


「わぁ、まるで刑事ドラマ…いえ、時代劇ね!
最後は桜のタトゥー的な何かを見せるのかしら?」


「ディアーナ…あれは、テレビの中だけの話だからな?」


グイザール公爵に目を向けると、その足元に縋り付くボロボロのリジィンと目が合った。

ディアーナは、ニッコリ微笑みながらリジィンにウインクする。


「ひ、ヒイイい!!ディアーナぁあ!!」


リジィンのディアーナに対する怯えが尋常じゃないので、事情を知らないピエールや近衛兵達の視線がディアーナに集中した。
『何があったか知りたい!が、知るのが怖い!』と。




「グイザール卿、あなたが私を早く消さなければと思った一番の理由は…
私がスマザードの巫女であるウィリアを連れて来たからですよね…貴方はウィリアを知っていた。彼女が幼い頃から。」

スティーヴンは目の前に居るグイザール卿だけを見ている。

静かに凪いでいた感情に小さな火が灯るように、淡々と紡がれていた声音が少しずつ怒気を孕む。


「貴方はウィリアの母、エイリシアが巫女をしていた時から町の長達と共に、消えたら都合のいい裕福な、あるいはある程度の地位のある者を消していった…
巫女の予言だとか、神託だとか…そんな御託を並べて消した者達の家名ごと奪って……それを自分の庶子に与えてきた…。」


回りがザワザワとざわめき立つ中、意味が分からないディアーナは首を傾げる。


「しょし?」

「奥さんじゃない人との間に出来た子供の事…つまり、ディングレイ侯爵家も庶子であるリジィンに…そうなる所だったんだろう?」


レオンハルトの説明に、やっと意味が分かったディアーナは、背筋が凍りそうな程の恐ろしい笑顔をリジィンに向ける。


「なるほどね…リジィンお兄様…
わたくし、もう少し、お兄様と遊びたぁあい……。」


ニィっと笑んだディアーナの呟きを聞き取ってしまったリジィンは、卿の足元で白目を剥いて気絶した。


「いい加減にしないか!
王太子とは言え、人を動かし、国を動かす事のなんたるかも知らぬような若造が、偉そうに妄言を吐きおってからに!」


足元に転がるリジィンを邪魔だとばかりに足で転がし、スティーヴンに食って掛かるようにグイザール卿がスティーヴンに近付く。


「お前達の不正を調査するためにスマザードに潜入したラジェアベリアの諜報員カイン…
彼の話をスマザードの新しい長から聞いた…。
カインは潜入したスマザードで襲われ掛けていた一人の女を救い、愛し、不幸なその女を幸せにしたいが為に任務を放棄し、女を連れて町を去った。」


スティーヴンは顔を近付けて来たグイザール卿の胸ぐらを掴み、卿の顔に自分の顔を近付けると、激しい怒りを全身から吐き出すように、怒鳴る。



「お前らが、自分達の保身の為に殺した夫婦はウィリアの両親だ!!
カインを生かしておくと都合が悪いと、お前らは幼いウィリアを人質にとり、妻と娘の見ている前でカインを殺したんだ!!!
ウィリアの父親を殺したんだ!!!」


激しい怒りをあらわにしたスティーヴンの目から涙が溢れる。

最愛の妻の幼い日の悲しみや苦しみを慮り、スティーヴンは涙を流す。

ウィリアの両親を殺したスマザードの長達、そして前にスティーヴンが自身で斬り倒したウィリアに手を出そうとしていた男。

その男達の大元になる人物がこの男なのだと、スティーヴンの強い眼差しが言い放つ。




「………ウィリアは…今は私の娘でもある………」



国王が静かに口を開いた。

「そして…そうか…ウィリアはカインの娘だったのか……
カインはな、元々は影として私の護衛をしていたのだ……
あのように強い男が、なぜ成す術もなく殺されたのか……
グイザール…お前はカインを殺し、ウィリアの母を殺し…私の息子夫婦までも殺すつもりだったと…そう言うのだな?」


国王が静かな口調のままグイザール卿に目をやり、無感情な眼差しで問う。

グイザールは王の問いに焦り、この場を打開出来る何かを探して辺りを見渡した。

ふと、王の隣に立つジャンセンの存在に気付く。



「国王!何をおっしゃる!殿下は生きておられるではないか!
殿下を死んだ事にしたのは…!そこの!黒い魔導師!
あやつが、殿下を亡き者にし、偽の遺体を皆に見せ民を惑わし!私にピエール殿下を国王にと進言するようそそのかしたのです!」


グイザール公爵がジャンセンを指差し大声をあげる。


「………グイザールよ…お前は、この方が何者か知らぬから、そのような畏れ多い事を言えるのだ…。この方は………」


国王が言葉を詰まらせる。

正体を明かして良いのだろうかと。


今、この場にはグイザールをはじめ捕らえられた貴族の者達、近衛兵達、ピエールも居る。


「………いいですよ別に……どうせ、他で言いふらした所で、誰も信じやしませんよ。」


フゥとため息をついて言うジャンセンにディアーナが何度も頷く。


「そうね、師匠も厨二病だと思われるだけだわ。」


地球にある日本と言う国を知り、厨二病と言う単語を知っているジャンセンとレオンハルトだけが、複雑な表情を見せた。


「……グイザール卿、そして気絶中だけどリジィン様……
貴方がたが暗殺者として雇っていた私、亡国の魔導師ジャンセンは、実は神なんです。」





シーーーン…………



誰も言葉を発せない。

ナニ言っちゃってんの?こいつ!イタイヤツだ!みたいな雰囲気だ。



「説明、難しいよね…なまじ魔法が存在する世界なばかりに、姿を変えたり宙を飛んだ所で、あんた魔導師だもんねで終わっちゃうんだよな…。」


ジャンセンは腕を組んで首を傾げる。


「まぁ、信じなくてもいっか?
私の大事な娘をオモチャにしようとしたアリンコと、便利なお世話係を殺そうとしたクソをプチっとすれば一瞬で終わる話だし。」


どこまでも底の無い深遠のような黒い漆黒の瞳を細め、口元に笑みを浮かべたジャンセンのローブの袖をディアーナが摘まむ。


「ダメ。おとん…お父様…。
こいつらは、この国の中で裁かれなきゃダメ…。
神罰で一瞬でなんて…ダメなんだから…。」



「………娘にそう言われるとな………」



ジャンセンは目尻に涙を溜め、我慢するような顔をしているディアーナの頭をポンポンと軽く叩く。

ディアーナも悔しいのだと。



「神だと!?自身を神と名乗るなど頭がおかしいヤツだ!」



「グイザール卿…俺ねぇ、雇い主だった貴方たちに最後の奉公致しますよ。ほら。」



ジャンセンは笑顔でグラスを差し出し、グイザール公爵の前でグラスを逆さにした。



グラスから落ちた数多くのアリが、わらわらとグイザールの足元に

集まって行く。


「な、何だ!このアリは!なぜ寄って来る!気持ちが悪い!!」


地団駄を踏むように次々と乱暴にアリを踏み潰してゆくグイザール公爵を見て、ディアーナが笑う。


「リジィンがアリンコだった事、忘れてるのかしら?
それとも只の手品だと思っていたのかしら?
…それにしても、たくさん居るのねぇアリンコ。ふふふ。」


「うわぁあ!お、お前達…!!」


グイザールに踏み潰されたアリがすべて、人間に変わった。

すべて、グイザールには見覚えのある身内の顔に。


「父さん…いてぇ…いきなり踏むなんて…」「父さん…痛いよ…」「父さん…」「父さん、ひどい…」「父さん…」「痛い…」


「な、なんで…!いつの間にどうやって…!」


「神である私には時間も距離も関係無いですからね。
たった今集めて来ました。
せっかくだし父親の最期を息子達に見届けて貰いましょうよ。
息子さんの数だけ、当主が消えたって事になりますね。
もしかしたら、何人かは見届けるに留まらず、父親と一緒に旅立つかも知れませんけどね~。」


楽しそうに笑うジャンセンに促され、スティーヴンは手の甲で涙を拭う。


「グイザール公爵、貴方を捕縛します。
……貴方はもう、助かりません。何をしようとも。」


処刑は決定だと告げ、スティーヴンは皆に背を向け床に落としたエプロンを拾った。


「………華麗を作りに戻ります…。
後は…父上、ピエール…任せます…。」



誰にも顔を見せないまま、スティーヴンは創造神界に戻っていった。



「殿下………ほんとにカレー作ったのね……。」



場違いと思いつつも、思わず本音を呟いたディアーナだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】薔薇の花と君と

ここ
恋愛
公爵令嬢フィランヌは、誤解されやすい女の子。甘やかし放題の家族には何もさせてもらえない。この世のものとは思えぬ美貌とあり余る魔力。 なのに引っ込み思案で大人しい。 家族以外からは誤解されて、ワガママ令嬢だと思われている。 そんな彼女の学園生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...