【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第四章【神の御子と月の聖女ディアーナの旅】

68#旅人であった妻の父は…

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「グイザール公爵、貴方は私が旅に出ている間に色々としてくれたようですね…。
私が信頼している方達を自身の派閥に誘い、断ればその身内に危険が及んだり、身に覚えの無い罪をでっち上げられたり…」


スティーヴンは感情を表に出さずに淡々と言葉を紡いでゆく。


「そんな事は知らん!殿下は勘違いなさっているのだ!」


当然の様にしらばっくれるグイザール卿。

まさに前世、テレビで見た探偵や刑事と、罪を暴かれようとしている犯人のようだ!とディアーナは目を輝かせる。


「まぁ、時期国王となる私に近い者を取り込もうとしたのは、まあ、分かりますよ…ですが…。
卿、貴方はただの馬鹿だと思っていた私が、簡単に操れない者だと知って焦ったんですよね?
だから、私が邪魔になった…消えてしまえばいいと、そう思った。」


「そんな事を思ってはおらん!
いくら、王太子殿下と言えども、陛下に忠誠を誓いこの国を愛する、この私を侮辱するのは許せませんぞ!」


ディアーナはレオンハルトに、急に面白がって飛び出したりしないよう背後から緩く抱き締められながら、スティーヴンとグイザール公爵のやり取りを見ている。


「わぁ、まるで刑事ドラマ…いえ、時代劇ね!
最後は桜のタトゥー的な何かを見せるのかしら?」


「ディアーナ…あれは、テレビの中だけの話だからな?」


グイザール公爵に目を向けると、その足元に縋り付くボロボロのリジィンと目が合った。

ディアーナは、ニッコリ微笑みながらリジィンにウインクする。


「ひ、ヒイイい!!ディアーナぁあ!!」


リジィンのディアーナに対する怯えが尋常じゃないので、事情を知らないピエールや近衛兵達の視線がディアーナに集中した。
『何があったか知りたい!が、知るのが怖い!』と。




「グイザール卿、あなたが私を早く消さなければと思った一番の理由は…
私がスマザードの巫女であるウィリアを連れて来たからですよね…貴方はウィリアを知っていた。彼女が幼い頃から。」

スティーヴンは目の前に居るグイザール卿だけを見ている。

静かに凪いでいた感情に小さな火が灯るように、淡々と紡がれていた声音が少しずつ怒気を孕む。


「貴方はウィリアの母、エイリシアが巫女をしていた時から町の長達と共に、消えたら都合のいい裕福な、あるいはある程度の地位のある者を消していった…
巫女の予言だとか、神託だとか…そんな御託を並べて消した者達の家名ごと奪って……それを自分の庶子に与えてきた…。」


回りがザワザワとざわめき立つ中、意味が分からないディアーナは首を傾げる。


「しょし?」

「奥さんじゃない人との間に出来た子供の事…つまり、ディングレイ侯爵家も庶子であるリジィンに…そうなる所だったんだろう?」


レオンハルトの説明に、やっと意味が分かったディアーナは、背筋が凍りそうな程の恐ろしい笑顔をリジィンに向ける。


「なるほどね…リジィンお兄様…
わたくし、もう少し、お兄様と遊びたぁあい……。」


ニィっと笑んだディアーナの呟きを聞き取ってしまったリジィンは、卿の足元で白目を剥いて気絶した。


「いい加減にしないか!
王太子とは言え、人を動かし、国を動かす事のなんたるかも知らぬような若造が、偉そうに妄言を吐きおってからに!」


足元に転がるリジィンを邪魔だとばかりに足で転がし、スティーヴンに食って掛かるようにグイザール卿がスティーヴンに近付く。


「お前達の不正を調査するためにスマザードに潜入したラジェアベリアの諜報員カイン…
彼の話をスマザードの新しい長から聞いた…。
カインは潜入したスマザードで襲われ掛けていた一人の女を救い、愛し、不幸なその女を幸せにしたいが為に任務を放棄し、女を連れて町を去った。」


スティーヴンは顔を近付けて来たグイザール卿の胸ぐらを掴み、卿の顔に自分の顔を近付けると、激しい怒りを全身から吐き出すように、怒鳴る。



「お前らが、自分達の保身の為に殺した夫婦はウィリアの両親だ!!
カインを生かしておくと都合が悪いと、お前らは幼いウィリアを人質にとり、妻と娘の見ている前でカインを殺したんだ!!!
ウィリアの父親を殺したんだ!!!」


激しい怒りをあらわにしたスティーヴンの目から涙が溢れる。

最愛の妻の幼い日の悲しみや苦しみを慮り、スティーヴンは涙を流す。

ウィリアの両親を殺したスマザードの長達、そして前にスティーヴンが自身で斬り倒したウィリアに手を出そうとしていた男。

その男達の大元になる人物がこの男なのだと、スティーヴンの強い眼差しが言い放つ。




「………ウィリアは…今は私の娘でもある………」



国王が静かに口を開いた。

「そして…そうか…ウィリアはカインの娘だったのか……
カインはな、元々は影として私の護衛をしていたのだ……
あのように強い男が、なぜ成す術もなく殺されたのか……
グイザール…お前はカインを殺し、ウィリアの母を殺し…私の息子夫婦までも殺すつもりだったと…そう言うのだな?」


国王が静かな口調のままグイザール卿に目をやり、無感情な眼差しで問う。

グイザールは王の問いに焦り、この場を打開出来る何かを探して辺りを見渡した。

ふと、王の隣に立つジャンセンの存在に気付く。



「国王!何をおっしゃる!殿下は生きておられるではないか!
殿下を死んだ事にしたのは…!そこの!黒い魔導師!
あやつが、殿下を亡き者にし、偽の遺体を皆に見せ民を惑わし!私にピエール殿下を国王にと進言するようそそのかしたのです!」


グイザール公爵がジャンセンを指差し大声をあげる。


「………グイザールよ…お前は、この方が何者か知らぬから、そのような畏れ多い事を言えるのだ…。この方は………」


国王が言葉を詰まらせる。

正体を明かして良いのだろうかと。


今、この場にはグイザールをはじめ捕らえられた貴族の者達、近衛兵達、ピエールも居る。


「………いいですよ別に……どうせ、他で言いふらした所で、誰も信じやしませんよ。」


フゥとため息をついて言うジャンセンにディアーナが何度も頷く。


「そうね、師匠も厨二病だと思われるだけだわ。」


地球にある日本と言う国を知り、厨二病と言う単語を知っているジャンセンとレオンハルトだけが、複雑な表情を見せた。


「……グイザール卿、そして気絶中だけどリジィン様……
貴方がたが暗殺者として雇っていた私、亡国の魔導師ジャンセンは、実は神なんです。」





シーーーン…………



誰も言葉を発せない。

ナニ言っちゃってんの?こいつ!イタイヤツだ!みたいな雰囲気だ。



「説明、難しいよね…なまじ魔法が存在する世界なばかりに、姿を変えたり宙を飛んだ所で、あんた魔導師だもんねで終わっちゃうんだよな…。」


ジャンセンは腕を組んで首を傾げる。


「まぁ、信じなくてもいっか?
私の大事な娘をオモチャにしようとしたアリンコと、便利なお世話係を殺そうとしたクソをプチっとすれば一瞬で終わる話だし。」


どこまでも底の無い深遠のような黒い漆黒の瞳を細め、口元に笑みを浮かべたジャンセンのローブの袖をディアーナが摘まむ。


「ダメ。おとん…お父様…。
こいつらは、この国の中で裁かれなきゃダメ…。
神罰で一瞬でなんて…ダメなんだから…。」



「………娘にそう言われるとな………」



ジャンセンは目尻に涙を溜め、我慢するような顔をしているディアーナの頭をポンポンと軽く叩く。

ディアーナも悔しいのだと。



「神だと!?自身を神と名乗るなど頭がおかしいヤツだ!」



「グイザール卿…俺ねぇ、雇い主だった貴方たちに最後の奉公致しますよ。ほら。」



ジャンセンは笑顔でグラスを差し出し、グイザール公爵の前でグラスを逆さにした。



グラスから落ちた数多くのアリが、わらわらとグイザールの足元に

集まって行く。


「な、何だ!このアリは!なぜ寄って来る!気持ちが悪い!!」


地団駄を踏むように次々と乱暴にアリを踏み潰してゆくグイザール公爵を見て、ディアーナが笑う。


「リジィンがアリンコだった事、忘れてるのかしら?
それとも只の手品だと思っていたのかしら?
…それにしても、たくさん居るのねぇアリンコ。ふふふ。」


「うわぁあ!お、お前達…!!」


グイザールに踏み潰されたアリがすべて、人間に変わった。

すべて、グイザールには見覚えのある身内の顔に。


「父さん…いてぇ…いきなり踏むなんて…」「父さん…痛いよ…」「父さん…」「父さん、ひどい…」「父さん…」「痛い…」


「な、なんで…!いつの間にどうやって…!」


「神である私には時間も距離も関係無いですからね。
たった今集めて来ました。
せっかくだし父親の最期を息子達に見届けて貰いましょうよ。
息子さんの数だけ、当主が消えたって事になりますね。
もしかしたら、何人かは見届けるに留まらず、父親と一緒に旅立つかも知れませんけどね~。」


楽しそうに笑うジャンセンに促され、スティーヴンは手の甲で涙を拭う。


「グイザール公爵、貴方を捕縛します。
……貴方はもう、助かりません。何をしようとも。」


処刑は決定だと告げ、スティーヴンは皆に背を向け床に落としたエプロンを拾った。


「………華麗を作りに戻ります…。
後は…父上、ピエール…任せます…。」



誰にも顔を見せないまま、スティーヴンは創造神界に戻っていった。



「殿下………ほんとにカレー作ったのね……。」



場違いと思いつつも、思わず本音を呟いたディアーナだった。

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