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第四章【神の御子と月の聖女ディアーナの旅】

67#玉座の間にオールスター。

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時を少し遡る。


王城は厳戒態勢を敷き、王族の守りを固めて不測の事態に備えていた。


謎の黒い魔導師が公の場でスティーヴン王太子の命を狙ったからである。
賊を捕える事が出来なかったラジェアベリア国の近衛兵達がスティーヴン王太子夫妻の護りを固めて迎えた翌朝。


そんな厳戒態勢を嘲笑うかのように、夜が明けると王太子夫妻は自室のベッドの上で二人共に、息絶えていた。


「あ、兄上!兄上ーっ!!あ、義姉上までっ…!」


冷たくなった兄の骸を前に号泣する弟ピエールと、目頭を押さえて震える国王。


「すまぬ…一人にさせてくれ…。」


国王はフラフラと自室に向かい、誰も入れぬよう施錠をしてから笑い出した。


「わはははは!!なまぐさっ!
創造……いや、ジャンセンよ、あれは無いだろう!!
ナニに使われるかも知らずに鮭を用意した私が言うのも何だが!!」









更に時を遡る。



「殿下、ちょっと相談」



「「………………」」



ジャンセンは、深夜のスティーヴン夫妻の寝室にいきなり現れた。


夫妻は今から夫婦の時間を楽しもうと、ベッドに入った所だった。

もう、狙ったとしか思えないタイミングで現れたジャンセンに苛立つスティーヴン。


「分かっていて来ましたよね!?今!これからって!」


「おや、あと一時間位、後の方が良かったですか?
真っ最中の方が困るでしょう?」

シレっと言ってのけるジャンセンに、スティーヴンが唇を噛んで唸る。

「ぐうぅ!一体!一体何の相談なんですか!
あなた、そう言って現れる時はろくな相談じゃないんだから!!
しかも、真っ昼間の国王と謁見中に、いきなり襲い掛かって来ましたよね?何なんですか!」


ジャンセンはニコリと笑って、嬉しそうに言った。


「大したことじゃないんですが、死んでください。」


ベッドの中で、スティーヴンとウィリアが固まる。


「……えぇ?何で?」


説明するのが面倒臭いジャンセンは、首を傾げる。


「殿下が死んで喜ぶヤツが居るから…説明メンドいんで…
そこはもう、悟って下さいよ。」


なんて無茶を言うんだ!悟って死ねと!?
スティーヴンは口を開いたまま言葉を失っていた。


「あのっジャンセン様、死ぬと言うのは仮死状態になってとか、死んだふりですか?
それとも死んだ事にして姿を隠せと言う意味ですか?」


ベッドの中からウィリアがシーツで大きな胸元を押さえながら挙手して質問をする。


「あ、その辺の説明ね!偽物の死体を用意しますよ。
さっき、国王に頼んで来ました。何でもいいから、死んだ身体を二つ用意して下さいと。
それを二人の姿にします。
で、貴方達は創造神界にご招待します。」


スティーヴンとウィリアは黙りこんでしまった。


言いたい事はたくさんある。

そもそも死体なんか用意しなくても、世界を創った貴方なら偽物の死体位、簡単に造れるでしょうよ!とか。

その死体の用意を国王に頼んでしまうとか、どうなの?とか。



その理由の全てが、面倒臭いからですね!?で終わる御仁。

それと…気になるのが、

人の身でありながら、簡単に招待されていいのか?神の世界!



「いいんですよ……最終的には、そこの住人になるんですから…。」



スティーヴンとウィリアには聞こえない位の小声で呟き、ほくそ笑むジャンセンがいた。


「ナニも無いけど、思えば何でも現れるので!
思う存分乳繰り合って下さい!好きなだけ!では、どーぞ!!」


ジャンセンはシーツで身体を巻いた裸の二人を、問答無用で創造神界に送った。



一時間後、誰も居なくなったスティーヴン夫妻の寝室に、大きなシャケを2体抱えて国王が現れた。

神であるジャンセンに死体を二体用意しろと言われた国王は、神が捧げ物を所望かと立派なシャケを用意した。



国王の目の前で、ジャンセンがベッドに横たえたシャケをスティーヴンとウィリアの姿に変えた。
それを見たジャンセンと国王は大爆笑した。


「「なまぐさっ!」」







生臭いスティーヴン夫妻の遺体は王城の魔導師によって凍らせられ、一時的に城内の祈りの間に安置された。


「兄上を…!義姉上を殺した賊を俺は許さん!
見つけ次第、俺の剣の錆にしてやる!!」


ピエールは涙に濡れた顔を怒りに歪ませ、震えながら腰に携えた剣に手を掛ける。


「え?剣のサバ?」


「父上!ふざけてる場合じゃありません!!」


涙目のまま吹き出しそうな口元を隠して、嘆くふりをしている国王は、息子を騙している後ろめたさを感じるものの、創造神が関わっているのだから仕方がないという諦めにも似た開き直りによって、ピエールには暫く悲しみ苦しんでいて貰おうと決めた。


「…いずれ、ピエールにだけは創造神の存在を知らせたいが…許してはくれぬだろうか…。
もう、あんたら出回り過ぎて隠すのしんどいわ。」


この世界の、国々の頂点に立つ者だけが知る創造神と、その御子の存在。そして、御子が妻に迎えた少女の存在。

もう、オープンで良くないか?
国王が本音をぼやき始めた。











王太子夫妻が暗殺された事は、すぐに万民が知るところとなり、第二王子の婚約御披露目を前に国内は大変な騒ぎとなった。


グイザール卿と呼ばれる、グイザール公爵が自身の息の掛かった貴族達を連れて城を訪れるのは思いの外早く、スティーヴンの死去した翌日、まだ王太子殺害の犯人も見つかっていない状態であるにも関わらず、国王に進言した。


「陛下!殿下の死を悲しむお気持ちは分かりますが、悲しみに暮れている暇はございません!
我が国の未来の為です!こうなった以上は、次期国王はピエール殿下だと公言して戴きたい!」


「卿!な、何を言う!!
まだ兄上を殺した賊を見つけてもいないのに!!ふざけてるのか!」


ピエールはグイザール公爵の時と場所をわきまえない発言に顔を赤くして怒り、怒声を発する。


「ピエール殿下、殿下はまだお若い。気が動転しておるのは分かります!
殿下は我々がお支え致します!分からない事があれば何なりと!」


国王は冷めた目でグイザール公爵とピエール王子のやり取りを見ていたが、ふ、と気付いたように貴族達の一番後ろに居る赤茶の髪をした見慣れない青年を指差した。


「そなたは…?素性の分からぬ者を勝手に城に入れたのか?」


「陛下、この者はディングレイ侯爵の嫡男、あのディアーナとかいう、殿下に国外退去を命じられた娘の実の兄に御座います。…正式なディングレイ侯爵家の当主に御座います。」


次期当主では無く、当主と言い切ったグイザール公爵に気味の悪さを感じると共に、スティーヴンが死ぬ事の必要性を理解した国王は小さく「なるほど」と呟いた。


「ディアーナとかいう娘…か。
息子のスティーヴンに国外退去を命じられた…か。卿の中では、そんな立場の娘なのだな…。」


「はぁい、そうなんですよ。俺の妹は。
ムカつくでしょ?プチっとしたくなりますよねぇ?」


プチしたい相手が誰とは言わないが、自身の前髪をクリクリいじくるアホっぽい赤茶の髪をした青年の言動に、国王は口元を隠して笑いそうになるのを押さえる。


「み、御子…ッぷ…!?いや、いや、その者がディングレイ侯爵だったとして、ディアーナ嬢はどうする気だ?
今、この国に帰っているそうだが…。」



国外退去を命じられた者が、国に帰って来ている。

その事を卿はどう、捉えているのか?

犯罪者のような扱いではないと気付いていない程に小さくどうでも良い事。
スティーヴンの死の嬉しさに隠れるほど。



笑いが怒りに変わり、嘲る嗤いに変わる。

神の一族を敵に回した男の末路を思い。



「妹には、邸に帰って貰いますぅ。
今後、王族の方々にご迷惑をお掛けしないよう、俺が邸に閉じ込めてぇ…教育してやりますよ。俺に逆らえないように。
いい女ですからね、気が強そうで俺の好みだし。」


「リジィ……、ディングレイ侯爵、何を言っておるのだ!このような場で!」


リジィンはニタリとイヤらしい笑みを浮かべ、グイザール公爵の顔を見る。


「だって、父さん当主になったら家も娘も好きにしていいって言ったじゃないか。
バカ娘が王太子の怒りを買うような侯爵家なんか、国王もろくに構いやしないから、バカ娘の両親を消して俺が当主に成り代わっても気にされないんじゃない?とか。」


「そ!そこまでは言っておらん!
第一、このような場で父さんなどと呼ぶな!!」


「そこまでは言ってないなら、どこまで言って、どの場でならリジィンが卿を父さんと呼ぶのを許しているのですか?」


銀色の剣がグイザール公爵の首筋に当てられる。


「お答え戴きたいですね、グイザール公爵。
私の大切なディ………従姉妹を軽んじ、側妾のように扱おうとした事…俺は許さない。」



黒い影の装束に身を包んだサイモンは剣を構えたまま、憎しみを込めた瞳でグイザール公爵とリジィンを見ている。


「義兄上!?義兄上じゃないですか!」



気が早いピエールがサイモンを義兄上と呼ぶ。

少し、その場の緊張感が薄れてしまった。



近衛兵がグイザール公爵の連れて来た貴族達を取り囲み、捕らえていく。



「スティーヴン王太子殿下暗殺を企み、ディングレイ侯爵家の乗っ取りをも計画していた事!もう全て把握している!
この罪は重いぞ!それに……!お前のクソ息子がディアーナにしようとした事を…!俺は許さん!」


怒りと憎しみから歯ぎしりをし、グイザール公爵を睨むサイモンに、卿は「息子」と言われ、背後にいるリジィンを振り返る。


背後に居たのはリジィンでは無く、金髪の見知らぬ青年。
先ほどまで居たハズのリジィンが居らず、卿が目を泳がせる。


そして、卿は国王の背後から不意に現れたグラスを持つ藍色の髪の少女に目を向ける。


「はじめまして、グイザール公爵。リジィンお兄様を連れて来ましたわよ。ほら、お父様と御対面~!」


グラスを逆さにすると中から一匹のアリが落ち、少女はそのアリをダンっと思い切り踏み潰した。

ディアーナの足の下で、アリはボロボロになったリジィンに変わり、ディアーナに背中を踏まれた状態になっていた。


「リジィン!!」
「父さぁあん!!いたぁい!助けてくれよぅ!」



ディアーナの足の下で、情けなく泣きじゃくる大の男の余りに悲惨な状態に、サイモンの顔から険が取れた。


「…徹底的…だな…。」


許さんとは言ったが、これ以上リジィンに何かをするのは、あまりにも気の毒ではとサイモンがポツリと言う。


「か弱い少女を毒牙に掛けようとしたのですもの、こんなもの甘い位ですわよ!
ほんとにマジで使い物にならない位に蹴り上げて…!」


「……どこを……」


ディアーナに突っ込むと共に、黒いローブを纏ったジャンセンが国王の背後から現れる。


「黒いローブ!貴様!よくも兄上を…!!」


ピエールが剣を振りかぶり、現れたジャンセンに斬りかかる。


キン、と金属の交わる高い音が響く。


「……やめとけ、敵わないから。
目を付けられたら、お前までオモチャにされるぞ。」


ジャンセンとピエールの間に急に現れたスティーヴンが、ピエールの剣の先を銀のスプーンで受け止めた。


「あ、兄上!?…よくぞご無事で!
…すごく、いい匂いしてますが…。」


「神の世界で華麗を作っている最中だった…
いや、それは置いといて……ああ、やはり貴方でしたか……グイザール卿…。」


白いエプロンを着け、手にはスプーンを持っているが
現れたのは紛れもなくスティーヴン王太子。


グイザール公爵、他貴族達と、国王、近衛兵達の目が信じられないモノを見る目でスティーヴンを注視する。


生きていてビックリより、スパイシーな香りに包まれた上に、そのエプロン姿、ナニ?で。


「あ、義姉上は!!兄上、ウィリア義姉上は…!」


姿の見えないウィリアを心配してピエールが辺りをキョロキョロとウィリアの姿を探し始めた。


「大丈夫だ!遅れて来るだけだ!
い、今…その…エプロンのみ…なので……」


「ウィリア裸エプロンなの!?あのデカイのが!?
やるわね!殿下!見たいじゃないの!」


レオンハルトがディアーナの背後に回り、そっとディアーナの口を塞いでスススーとディアーナを引き摺りながら後ろに下がっていく。


「ここからは、ラジェアベリアの国の問題だからな…
侯爵家の話になるまで、お口にチャックな…。」



ディアーナの踏みつけから解放されたリジィンは、よつん這いのままグイザール公爵の足元に縋り付く。



「証人も揃っている事だし、話を進めていこうか、グイザール公爵。」



スティーヴンはエプロンを外し、強い眼差しを卿を含む貴族達に向けた。



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