【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

文字の大きさ
上 下
64 / 140
第四章【神の御子と月の聖女ディアーナの旅】

64#過去も役割も断ち切らせる。

しおりを挟む
「ねぇ…レオン…サイモンの事は、もういいの…?なぜかしら…私、貴方の想いを裏切る様な、あんな態度をしてしまって…」


ベッドの上、目を伏せたディアーナが、か細く消え入りそうな声でレオンハルトに尋ねる。


「もう…忘れるから大丈夫だ…。
親父の言った通り、サイモンの中に居る、俺を想ってくれたのだと思えば…。」


「…だと思えば……そうなのね…。」


背後から優しく包み込む様に抱き締めるレオンハルトに頭を預けたディアーナがブツブツと呟き出した。。


「わたくしの、思い込みなのね…そう…それでレオンも、そう思えば諦めがつくかなって自分に言い聞かせてんだ?………そうなの。
……って、納得いくかぁあ!!」


ディアーナが振り向きざまにドーンっと、レオンハルトを突き飛ばす。

驚いた顔をしているレオンハルトの前にスクッと立つディアーナは拳を握りしめてフルフルと震え、こめかみに青筋を立てていた。


まさか怒りに任せて俺を殴る気じゃないだろうな?
レオンハルトが、そんな不安げな顔をする。


「レオンが、無理矢理なぁんか飲み込んだ顔をしているし、気持ち悪いのよね!
師匠、私に何かしたでしょ!
レオンもそれで無理矢理納得した気にさせられてるわよね!
スッキリしてないよね!」


「お、親父が何かしたと言うよりは…むしろ、何かしてしまったのを取り消したとゆーか…。」


「はぁ!?勝手に私の記憶を付けたり消したりするんじゃないわよ!気持ち悪いったら無いわ!」



「記憶と言うよりは、思い込みだから!
無かった過去を、あったと思い込んでいただけで!」



━━は?実際に経験したか、してないかの差って事?

どちらにしろ記憶を改竄されとるやないか!
何で、そんな気持ち悪い事をした!?
私が傷付けてしまったレオンハルトの為?
じゃあ、放置されたサイモンはどうなんの?
一人痛い勘違いをした人のまま?
ああ考えまとまらん!
よくも私の頭ん中をオモチャにしたわね!!

ええい!知らんがな!めんどくせぇ!━━



ディアーナは考えるのを放棄した。


「黙ってろ!うぜぇ!師匠もな!
例え神だろうが、私を創った創造主であろうが!!
この身体はもう、記憶も含めて私の物よ!!
私を好き勝手にイジるのは許さんわ!」


ディアーナはベッドから下りると着替えを始める。


「サイモンとこ行く!
私の中のサイモンは師匠が消したみたいだけど、サイモンの中には私が居るんでしょ。
その私に蹴りを入れて消してやりたい!」


「自分の方から、あいつに会いに行くってのか!?
ディアーナがあいつに何も感じてなくても、あいつにとってディアーナは…!」


着替えを済ませたディアーナは笑って言う。


「だからフってやるって言ってんのよ!!
サイモンにとってディアーナは昔、片想いをしていた従姉妹よ。
そして実らなかった恋の相手で、その従姉妹は今はもう人妻だわ。
人妻ですって。あらやだ、何かやらしい響きね!ウフフ…」



ディアーナは部屋を出ると、宿の階下に続く手摺りに横向きに座り、そのまま滑るように下へと降りて行く。

遊びを始めてしまったテンションの高い妻の姿にレオンハルトは額に手を当て空を仰ぐ。



「あー……親父、せっかく来てくれたのにな。
あんたが消した、サイモンを好きだったディアーナの偽の記憶、うやむやにして誤魔化せなかったみたいな…」


穴が開いた様にいきなり不自然に消えた記憶を、ディアーナは無理矢理思い出した。
パズルの中のひとつのピースを失くしても、そのピースに描かれた小さな絵が何か分からなくても、少し離れてパズル全体を見れば、パズルに描かれた絵が何かは分かる。

所々消されてはいるが、今までのサイモンの言動、昨日のレオンハルトの行動、それらから導き出した不必要な過去は、消されて無かった事にするのでは無く、自らで切り捨てるべきだ。
そして、サイモンにも断ち切らせるべきだ。


「俺も行くとするか…」


レオンハルトも着替えを始め、ディアーナの後を追う事にした。




▼ 


一時間後、ディアーナはヒールナー伯爵邸前に仁王立ちで立っていた。


「サイモンお兄様!あっそびーましょー!!」


前世である香月の記憶から、遊びに来た時はこう呼び出す!的な言い方をしてみたディアーナだったが、少し考える。


「……いや、ある意味ケリをつけに来たワケで…それは戦いを挑みに来たと言っても過言ではない…
そうか、ならばこうね!?サイモンお兄様!!たのもー!!!むぐ…」


「やめときなさい、ディア…道場破りじゃないんだから。」


ディアーナに追い付いたレオンハルトが後ろから左手で腰を抱き、右手でディアーナの口を塞ぐ。


「ディア!!」



邸の前が騒がしいと、門扉の前まで駆け付けたサイモンがディアーナと、ディアーナを背後から抱き締めるように口を塞ぐレオンハルトの姿を目にした。


「…ディアを離せ…!ディアの夫だと言っていたが、お前は何者なんだ!
なぜ…なぜ俺のディアーナを妻だと言う!」


ディアーナはレオンハルトと顔を見合わせた。

サイモンはレオンハルトの姿を見ても、自身の中のレオンハルトと同じとは認識していない。

サイモンの中のレオンハルト像は、どのような人物なのだろう?
まさか、神の御子ではあるまい。
姿形も、どんな人物であるかも分からないまま、ただ漠然と「前世はレオンハルトだった」を受け入れていた様だ。

創造主は、なんていい加減な仕事をしているのだろう。
こんな意味の無い過去に囚われさせて…


「…えーと、サイモンお兄様…申し上げますが、わたくし、お兄様のモノになった事、一度もありません。
俺のディアーナ、は訂正して戴きたい。」


ディアーナは挙手し、サイモンに意見する。


「ディアは…覚えてないかも知れないが…俺達は前世で結ばれる約束をした…今、再び巡り合い、俺達は回りの目から隠れながら二人の時間を紡いでいった……ディアーナとレオンハルトとして…。」


ディアーナが少し考える素振りを見せる。

首を傾げたり、空を仰いだり、眉間にシワを寄せこみかみを指先で叩き。


「………あ、マジで?……でも、すんません!
私、お兄様を一人の男性として見た事、一度もない!
お兄様の思い出の中の私は、お兄様を想うステキな女性かも知れないけど、それ私じゃないから!
私には全く覚えが無いです。
で、お兄様の中のレオンハルトも私の知らない人です。」


「ディア…?」


「うん、お兄様の言うディアーナは、ディングレイ侯爵令嬢のディアーナよね?
お兄様を慕いながら、スティーヴン王子の婚約者やっていた。
…って、ひでー女だな!ディアーナ!
なんで、惚れたかな!そんなのに!」


自身をけなすディアーナに、サイモンは理解が及ばないのか、立ち尽くしたまま言葉を発せずにいる。


「私は、ここに居るレオンハルトの妻で、もうディングレイの名は無いの。
そして私の前世の名は香月。
その前も、もっと前でも、サイモンお兄様の言うレオンハルトさんと愛を誓った前世は無いの!
そんなディアーナは、過去にも、この先も、この世に存在しないから!すてなさい!!」


深く傷付け、心を抉る。

レオンハルトはジャンセンの言った、サイモンを恨まないでやって…の言葉を初めて正しく理解した。



サイモンは、創造主に間違えて造られたのではなく…。


「あんたは…本当に…頑張りすぎて空振りとか…。残酷だろ。」


レオンハルトが父であるジャンセンに対して呟く。


レオンハルトは、サイモンがもう一人のレオンハルトとして造られたのだと理解した。


この世界にディアーナとレオンハルトが来ても

もう限界まで劣化の進んだレオンハルトの身体は、いつ完全に砕け散ってもおかしくなかった。

完全に砕け散って霧散してしまえば、例えディアーナが本来の自分を取り戻していたとしても、もうレオンハルトの身体を戻す事は出来ない。

肉体の無いレオンハルトの魂だけが残る。

レオンハルトが身体を失えば、やがてディアーナも死を迎える。

そうなればもう御子と聖女として結ばれる事は出来ない。
そうなった時に、せめて人として短い間だけでもディアーナの側に居させてあげれないかと造られた器。



だが、ディアーナが本来の魂や記憶を取り戻し、二人が御子と聖女となり結ばれた為に用無しとなり、やがて自我が生まれ育った器。



「だから、ごめんなさいお兄様。
わたくし、お兄様の愛したディアーナではありませんので。
…それでもお兄様が、わたくしを諦められないと…そうおっしゃるのであれば……わたくし、お兄様を叩き潰しますわよ。物理的に。」


「…ディア……」


「その名で呼ぶのも、金輪際やめてください。」


膝から崩れ落ちたサイモンに背を向け、ディアーナは歩き出す。

黙って事の成り行きを見ていたレオンハルトには、ディアーナのその姿が何だか男前過ぎて、地面に膝をついて項垂れたサイモンが、さめざめと泣き崩れる女性に見えてしまう。


例え前世での誓いが本当だったとしても、今生で結ばれるなんて限らない。
気の毒には思うが、失恋なんてそんなもんだろう。

次こそは次の生こそはと思い続けながら、愛しい人の死を何度も見て来た自分と比べたら、どれだけ救いのある事か。

今のレオンハルトには、サイモンに対する憎しみも怒りも同情も無い。





「お取り込み中、すまないが…ディアーナ、兄夫婦はどうしている?邸に行ったのだろう?」





颯爽と門から出ようとしたディアーナとレオンハルトの前に、サイモンの父であるヒールナー伯爵が立ち尋ねて来た。


「は?兄夫婦!?チチハハ?そんなもん知らんがな!!」


一仕事終えた感いっぱいで興奮気味のディアーナが、勢い余って叔父の前で思い切り素を出してしまった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】薔薇の花と君と

ここ
恋愛
公爵令嬢フィランヌは、誤解されやすい女の子。甘やかし放題の家族には何もさせてもらえない。この世のものとは思えぬ美貌とあり余る魔力。 なのに引っ込み思案で大人しい。 家族以外からは誤解されて、ワガママ令嬢だと思われている。 そんな彼女の学園生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...