【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第四章【神の御子と月の聖女ディアーナの旅】

63#暗殺者ジャンセン。

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薄暗い部屋の中に、ぼんやりとした灯りが点る。
その灯りは頼りげなく、部屋に集う者達の素性を隠す様に、部屋の至る所に陰を作る。


「あの賢しいスティーヴン王太子が王となると、何かと不都合な事が多い。」


「貴族でもない、あんな田舎町の下賎の生まれの女が王妃になるなど認められん。」


「見聞を広めるだのと、国から離れて遊び歩いている内に夫婦共々何らかの不幸が起こる可能性も…無くは無いからな…。」


「第二王子はスティーヴン王太子と違って魔力も無く、剣で遊んでばかりいるような頭を使うのが苦手な男だ。
あの馬鹿が王になれば、容易く使えるだろう。」


「あーしろ、こーしろ、言うだけのアンタらは気楽でいいよな。
……あの王太子、思った以上に遣り手だ。
アンタらの雇った暗殺者の誰一人、王太子暗殺に成功していないじゃないか。
魔力も強いようだし、剣の腕もそこそこなんだろう?
……そんな、危なっかしい仕事、今、言われている報酬だけじゃモチベーション上がらないな。」


「………天才魔導師と呼ばれたお前は、暗殺報酬として他に何を望むと?」


「あの、ディアーナって女を俺の物にしたい。」


「おいおい、待ってくれよ!あの女は俺のだぞ!
天才魔導師だか何だか知らんが、雇い主のモノを奪い取ろうとするんじゃねーよ!ジャンセン!!」


「……互いの素性を隠すのがルールの、この場で名前を呼ぶのはマナー違反では?リジィン。」


街中にある貴族向けの社交場、と呼ばれるサロンの地下にある特別な会員のみが利用出来る暗い部屋。

それぞれの椅子の位置が離れておりカーテンのような物で遮蔽され、会話は出来るが互いの顔が見えないようになっている。



「うるさい、お前も俺の名を呼んだからいいだろ?
ディアーナ…色々と噂には聞いていたが昨日実物を見た。
想像以上にいい女だったからな、俺の妹とやらは。
もと王太子の婚約者ってのも頷ける。だから、今回の件が上手くいったなら、ディングレイ侯爵家は俺のになるんだろ?
ババアはいらないから、妹を俺にくれよ!」


「…フフッ……」

ジャンセンは笑って席を立つと、席の前にあるカーテンを開いて自身の姿が皆に見える様にした。

黒髪に漆黒の瞳、黒いローブを纏ったジャンセンと呼ばれた魔導師が自身の姿を晒すように部屋の中央に立ち、呟いた。


「欲深い事だ……好きにすればいい。
その欲の深さが己の首を締めない事を祈るよ。」」


ジャンセンは口元に含んだ笑みを浮かべ、部屋を出て行った。


「………ジャンセンと呼んだか……リジィン、あの男は何者だ…?…どこで見つけて来た?」


部屋の一番奥の重いカーテンの奥から、低くくぐもった声がリジィンに問い掛ける。



「……?いや…父さんからの紹介で来たと聞いたが…?
この国の出ではなく、かつての亡国で魔導師をしていたと…」


「卿…どこで誰が聞いているか分かりませぬ…ご子息のお名前を出されませぬよう…」







ラジェアベリア王太子スティーヴン。

彼を疎んじて亡き者にしたいと考える者たち。



彼等の知っているスティーヴンは、学園の卒業間近にして国が決めた婚約者のある身でありながら、一人の少女にうつつを抜かすような浅慮で幼稚な王子でしかなかった。


自らが選んだ女を得る為に、侯爵令嬢である婚約者を国外追放とし、自らは選んだ女と国を出て遊び回る為に旅に出た。


レオンハルトの現れた王城での卒業パーティーに参加していない者には、そのような認識となっているスティーヴン。


その遊び呆けていると思っていた王子が、一年ばかり経った頃に妻にしたいと平民の女を連れて来た。


その上に、幼稚なガキだと思っていた王子は魔力も剣の腕も群を抜いて上がっており、王の側近達にも次代の王として認められている。


そんな彼をまだ子供だと侮り、今の内に上手く取り入ろうとした者達に向けられたスティーヴンの目は冷たかった。


「私が何も知らないとでも?
商業都市シャンクの人身売買組織に関わっていなかったから自分は大丈夫だなんて…思われても困りますよ?
まだ、膿を出し切っていませんからね、この国は。

上手く逃げ切れるなんて、思わないで頂きたい。」






「あんな小僧になめられたままで、おられるか!
誰でも良いわ、早く…早くあの小僧を殺してしまえ!!
王太子を殺せ!!!」


自分に向けられたスティーヴンの視線、言葉を思い出した卿と呼ばれた男の怒号が部屋に響いた。







「貴方、養子として貰われて来たんですってね。
そんな貴方がジロジロとわたくしを見るのをやめて下さいません?」


「ディアーナ…俺を覚えてないのか…?俺だ…レオンハルトだ!
俺達は前世で…」


「…レオンハルト……?…レオンハルト…って誰よ!
わたくし、知らないわ!」


「ディアーナ!」


「気安く名前を呼ばないでちょうだい!
わたくしは、王太子の婚約者なんですからね!」








……ん?………んん?……設定ディアーナ…どこ?



ディアーナは宿のベッドの上で呆けていた。

今しがた見ていた夢は、恐らく過去のもの。
私が記憶していない、完全悪役令嬢ディアーナが動いていた部分。

…ディアーナ、サイモンお兄様に冷たっ。



サイモンがディアーナを想うのと、ディアーナのサイモンに対する熱量が違い過ぎて何だかサイモンが気の毒だ。
私、ハナからサイモンに良い態度取ってないんじゃない?


「前世設定のディアーナ……私の中に…居ない?
いやいや、なら昨日のあれは……レオンを悲しませた…。」


寝起きな上に、頭が混乱して来たディアーナはベッドで天井を見たまま考えを巡らす。


「姫さん達は、相変わらず馬鹿だよな。」


宿のベッド、隣に寝ているハズのレオンハルトと自分の間からジャンセンの声がする。
焦ったディアーナが身を起こすと、レオンハルトと自分の間にジャンセンが詰まっている。


寝ていると言うよりはぎゅうぎゅうに詰まっていた。


親子三人川の字どころか、くっつきすぎてぶっとい1だわ。



「師匠!!!!な、なんで挟まってるんですか!せまっ!」



「姫さんが、昨日レオンを悲しませた事で俺を恨んだから切なくて。」


だから化けて出ましたみたいな言い方をするジャンセンに、ベッドの向こう側で背を向けて寝ていたレオンハルトが、振り向きざまに、ジャンセン目掛けて拳を振りかざす。


「おーこわ。いきなり親を殴るなんて、そんなに怒る事ですか?」


レオンハルトの拳を手の平で優しく受け止めたジャンセンはにこやかに笑う。


「親父、あんたがしたくだらん遊びのせいで俺はディアーナを傷付けた…!
あんたが植え付けた偽の記憶とは言え、サイモンを想うディアーナが…許せなかった…!」


「え?あはは、ヤダなぁ!!
サイモンを想うディアーナなんて、居ませんよ?
あえて言うならば、サイモンの記憶の中には「自分を愛するハズのディアーナ」は居ますけど。」


「はぁ?だ、だって昨日!私!」


「本当に馬鹿だな、姫さん……。
姫さんが悲しんだのは、レオンハルトの死を想像したからですよ。
自身をレオンハルトだと言ったサイモンの死に、レオンハルトの死を連想した。
それが仮想のレオンハルトだとしても、辛いと思ったんじゃないのかな。」


「え…?え?…そう…?え?」

言いくるめられた感はあるものの、そうだっけ?と不思議そうに首を傾げるディアーナから離れたジャンセンは、レオンハルトの肩に手を置いた。


「サイモンの中にある記憶だけは消せない。どこまで誤魔化せるかも分からない。
…ごめんね…余計な事をして息子を苦しめてしまって…。」


ジャンセンがディアーナに聞こえないよう、レオンハルトに小声で呟く。


ディアーナの中の、来世を約束した偽の記憶だけは消せたけど…と。


「……あんたは、昔から俺を苦しめてるよ……
だが、それがディアーナと俺を結びつけようとして、よく空振りに終わってたってのも分かってはいる……下手くそかよ…ってな。」


「………やっと結ばれた二人なんだから、もっと俺に見せ付けてくれていいんだよ?
俺も、いい仕事したって気になる。」



珍しく、申し訳無さげな顔を見せたジャンセンは、レオンハルトの耳元で小さく呟いた。



━━━サイモンを恨まないでやって━━━



「師匠!師匠!やっぱ何か納得いかないつか!
私、サイモンに、うっふんお兄様的な呼び方したりしちまった記憶が!何かが、急に抜けてるんですよ!」


「相変わらず馬鹿な上に言葉きたねーな姫さんは。
何だよ、うっふんお兄様って。
そんなもんは、大好きな廉相手にだけ言っとけ。」



からかうように言うジャンセンに、真っ赤になったディアーナが声をあげる。


「お、お兄ちゃんに!?言えるワケないじゃん!
師匠のバカー!!!」


真っ赤になったディアーナを見ながらジャンセンは笑って姿を消した。

レオンハルトはディアーナに腕をのばし、背後から抱き締める。



「すまなかった。もう、二度とディアーナの想いを疑ったりしない。
あんな風に乱暴に…ディアーナを傷付けたりしない……」



「え…?乱暴……?傷付けた?……強引なレオンも、ワイルドでイケると思ったけど?」



「……マジで?ぷっ…あははは!」


「どんなレオンハルトも私には萌える自信あるから!」





ディアーナを抱き締めたままレオンハルトが笑う。

俺のディアーナは、ここに居る彼女だけだ。

サイモンが、どんな彼女を語ろうと耳を貸さない。



こんなにも俺を愛してくれている彼女を、もう疑ったりしない。
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