【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第四章【神の御子と月の聖女ディアーナの旅】

62#身を焦がす程の嫉妬と後悔。

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「もう、今さらサイモンのニセ前世の記憶消すとか彼の存在そのもの消すとか、出来ないのよね。
だから、ディアーナを忘れる為にはもう完全に失恋して貰うしかないんだ!」


ミァちゃん、心無しか楽しげに見えるのは気のせいだよね?


「失恋…あいつの性分ての?ほぼ俺なんだろ?
目茶苦茶諦め悪そう…俺のライバル、俺って最悪じゃねーか。
……もう、泣きそう。」


大きな溜息と共に両手で顔を覆うレオンハルトに、イラっとしたディアーナが背中を叩く。


「レオンが、しっかり私を捕まえていてくれないとヤバイのよ!
私の中にも乙女ゲームの設定らしきモノがあるっぽいんだから!
引っ張られんのよ!そのニセ記憶の前世とやらに!」


「マジで?……親父、なんつーいらん事を………」


目が据わった状態でミァを見るレオンハルトに、悪びれる様子も無くミァが、言う。


「乙女の気持ちでゲーム作っていたら、楽しくなっちゃって…!
前世で来世を誓うとか、ステキ!って突っ込んじゃった!
こちらの世界の実在の人物にも影響与えちゃう事、忘れてたの!
ごめんね!」


「「開き直るな!バカァ!!!」」


ディアーナとレオンハルトの声が合わさる。






珍しく、人の世に用があるからと創造神界に戻らず人の波に紛れて行ったミァと別れ、ディアーナとレオンハルトはハァ~ハァ~と何度も大きな溜息をつく。


「これはもう、イライザの婚約御披露目が済んだら、さっさとラジェアベリアを離れるしかないわね。
そして、もうこの国には帰らない。
逢わなければ何とかなるでしょ?」


「そうだな……なぁ、今さらだが親父、手書きの攻略メモか何か置いてったぞ……見る?」


「……一応…」


あまり良い予感はしないが、前もって分かっていれば回避出来る状況もあるかも知れない。二人でメモを覗き込む。



━━━サイモンルート━━━



★ハッピーエンド★

サイモンがディアーナへの想いを、前世、幼い頃の過去と共に断ち切ってオフィーリアに愛を捧げ、結ばれる。



聖女として目覚めつつあるオフィーリアを護る騎士として、共に旅に出る。



ラジェアベリアに戻った後は、次期ヒールナー伯爵となるサイモンの婚約者となる。



(ちなみにディアーナはスティーヴンと婚約継続)



★バッドエンド★

サイモンが、ディアーナへの想いを断ち切れず、侯爵令嬢であるディアーナを無理矢理拐い、国外へ逃亡する。



その後の二人の行く方は誰にも分からない。



(オフィーリアは一人寂しく卒業。)





「なんだ、これ……こんな、必要ない設定作り込むなよ!
香月、ここまでやりこまないから!つか、バッドエンド!
拐われてるやん!私!しかもその後不明とか怖いわ!」


「……この、バッドエンドと同じ結果をこの先、起こさないか…
心配な所だよな…何しろ俺だし。」



スティーヴンルートでの、断罪シーンからのいきなりディアーナをお持ち帰り的な、ある意味ディアーナ誘拐前科持ちのレオンハルトが深刻な顔をしている。


「クソゲーかよ!めんどくさいわ!こんちくしょう!」


ディアーナが苛立ち過ぎて、ぎりぎりと歯ぎしりしながら拳を握り締めふるふると震えている。



レオンハルトがふ、と考える。



もし、サイモンが本当にスティーヴン王太子暗殺を目論むような輩ならば、国外逃亡も有り得ない話じゃない。

スティーヴンを殺し、その際にディアーナを拐って……?



「……いざとなったら……俺殺し…だな。」



レオンハルトの表情が、ディアーナの見えない場所でスッと凍ったように冷ややかになった。






昼を過ぎた頃

ディアーナとレオンハルトは、ディングレイ侯爵邸に向かった。


ディアーナの実家にあたるディングレイ侯爵邸はヒールナー伯爵邸より王都の中心、王城に近い場所にある。


当然、屋敷の規模もヒールナー邸より大きく、王太子の婚約者だったディアーナはこの屋敷では女帝のように我が儘の限りを尽くした。

今現在のディアーナにはその記憶が微妙に残っている。
あまり良い思い出とは言えない。


「お、お嬢様!!」


門の前で見知った顔を見つけたディアーナが、スッと手をあげ男性の様な挨拶をした。


「お久しぶり!急にごめんね!
王城に用があったから、ついでに挨拶に寄ったの!」


門の近くに居た使用人達が、驚いた顔でディアーナを見る。


彼等の知るディアーナと余りに違うディアーナの立ち居振る舞いに、どう反応して良いか分からないようで、互いの顔を見合いながらおろおろしている。

中には不安と恐怖を色濃く顔に出す侍女も。


「ディアーナ……悪役令嬢って、凄かったんだな…。」


「み、みたいね…あはは……余り覚えてないけど。」


従僕の一人が邸に呼びに行ったらしく、年老いた執事を連れてやって来た。


「おかえりなさいませ…ディアーナお嬢様。
……ですが…中へは、お通し出来ません。お引き取り下さい。」


かつて、ディアーナにかしずいてくれていた老齢の執事が頭を下げる。
アプローチへと続く、鉄の門扉は開けられなかった。


「そうね…わたくしは、もうこの家の者ではないのですものね。
入れないわね。」


ディングレイ侯爵家の役に立てなかった者は、血の繋がった娘でも必要が無いと、レオンハルトと旅に出た日に侯爵に切り捨てられた。
ディアーナも縁はとうに切れていると思っていた為に悲しい気持ちには一切ならなかった。
むしろ、そちらがその気であるならディアーナからも切り捨ててしまえる。


「じゃ、さよなら。
レオン、どこか宿でも探しに行きましょ。」


「本当にそれで、いいんだな?ディア……」



「何をしているんだ!門扉を開けろ!」



レオンハルトの声に被る様に若い男の声がした。

ディアーナには見覚えの無い、若い男が使用人達に指示をして門扉を開けさせた。



「ディアーナだね?はじめまして、俺はリジィン。君の実兄だよ。」



……………は?実兄?私ひとりっ子だぞ。誰や、お前。

お前みたいなヤツ、知らん!知らんのだけれど…



「はじめまして、お兄様。ディアーナです。
お会い出来て嬉しいですわ。」


後継ぎの居ないディングレイ侯爵家の存続が掛かっている。

この世界では、全く血縁の無い養子は貴族家の後継ぎとしては認められない。
よって、実は居たんですよね!後継ぎの長男!が必要。

で、用意したのかしら?


………母が。


「忘れていたわ…父よりも食えない、母の存在を。」


リジィンに、いい笑顔を見せながらレオンハルトだけに聞こえるように呟く。


「…ディアーナ…久々の帰省で、面倒事がてんこ盛りだな…。」


同じくいい笑顔を見せながらレオンハルトが呟いた。
二人同時に思う。

今回の帰省、ウッゼ。








リジィンは赤茶の髪に赤茶の目をした、22、23辺りの青年だ。


少し垂れ目で、だらし無い女好きに見えるが、見た目が悪い訳ではない。
だがディアーナは彼の容姿を受け入れ難いようで、リジィンの視線から外れようとレオンハルトの陰に隠れようとする。


「どうしたんだい?照れているのかな?
兄の俺に、可愛い顔をよく見せて欲しいな。」


レオンハルトの陰に隠れるディアーナの腕を、強引に掴もうとするリジィンの腕をレオンハルトが掴む。


「妹が嫌がっているのを察してやれよ。兄貴なら。」


レオンハルトはリジィンを睨み付け、掴んだ腕を解放した。


「……俺の妹にくっついてるお前こそ、誰なんだよ。
…俺の可愛い妹を解放してやってくれないか?」


リジィンの言葉に、レオンハルトの背後にブチッ!と大きな字が出た気がしたディアーナは、焦ってレオンハルトの腕を掴むと、引き摺るように屋敷から離れて行く。


「おほほほ!リジィンお兄様、ごきげんよう~!」









「ちょっとレオン!あんな所でキレかけないでよ!もお!」


レオンハルトを引き摺って、一番近い宿に入ったディアーナは案内された部屋でレオンハルトに詰め寄る。


「…サイモンといい、リジィンといい、ディアーナにはムカつくお兄様が多過ぎなんだよ…。」


苛立ちを隠さないレオンハルトは、ベッドに腰掛け脚を組み、ディアーナと視線を合わさない。


「んもー!私にとって…!
大好きなお兄ちゃんは、香月の廉お兄ちゃんだけなんだからね!
そんな所でまで嫉妬しないでよー!」


レオンハルトの背中を背もたれがわりにして、レオンハルトの後ろにディアーナが寄り掛かる。


「今日1日、疲れた…よね…色んな事があり過ぎだよ。」


ディアーナが呟く。


「リジィン…私の兄じゃないしね…母が用意したんだわ、アイツ…。父が亡くなった時に備えて。嫡男が居なくて父が亡くなったら、爵位は実弟のヒールナー伯爵のだよね?」


「ヒールナー伯爵が侯爵家をつげば、未亡人は実家に戻されるよな…だから、か。
嫡男がいれば母として屋敷に居られるよな?確か。」


二人、背中合わせのまま無言になる。

そんな準備をしているのは、ディングレイ侯爵を亡き者にしようとしてるのでは?と。


「…仮に、そうだったとしても…もう私には関係無いかな…ディングレイ家での家族の関係は薄かったし、今は新しい家族が居るしね。……どちらも親には苦労するのだけど……。」


ミァの悪びれない、てへっ!という顔が浮かぶ。

こんなナリしていても一応、父親だからなぁと。


「……それは、ディアーナの母親が、ディアーナの父親を殺してしまっても構わないという事か?」


背中越しの突然のレオンハルトの問い掛けに、レオンハルトの隣に移動したディアーナがベッドの縁に腰掛ける。


「…………構わない…とは言えない…けど……
どこか他人事のように感じている私がいるの……
実父と実母のハズなんだけど……。」


止められるならば、止めたいと思う。

でも、それは家族だからと言うよりは、ごく一般的な倫理観に基づくもので、見知らぬ他人でも助けられるならば助けたい、位のもの。

激しく感情が揺さぶられる事は、残念ながら無い。


「そうか、では……サイモンがスティーヴン暗殺計画の関係者だったとして……俺がサイモンを殺しても構わないか?」





ミァちゃん、ジャンセン師匠………。

いいえ、この世の創造主である、お父様……。

私は初めて貴方を恨みます。

レオンハルトの言葉を聞いた私がどんな顔をしたのか。

目の前に居るレオンの顔を見て知った。

この世の誰より愛する人に、こんな顔をさせてしまった。



レオンハルトの問いに、私の中の『前世で来世を約束をした設定』のディアーナが驚きと、悲しみと、すがるような表情をした。


その感情を持ったのは、私ではない。

でも、その感情を表情にして、レオンハルトに見せているのは私だ。


レオンハルトは、深い悲しみと、何処に向けて良いか分からない怒りと、憎しみを孕んだ表情をした。



「レオっ…!違う…!私ッ…!」


レオンハルトの腕が乱暴にディアーナの肩を掴み、その身体をベッドに沈める勢いで押さえ付けるように倒す。


そのまま重ねられた口付けは、噛み付くように激しく痛々しい。

獣のように荒ぶる心身を無理矢理抑え込んだレオンハルトはディアーナと重ねた唇を離し、その離した唇から短く苦しげな呼吸を繰り返す。


「……分かってる……分かってるんだ……サイモンの名を出されて、あんな表情をするのは、俺のディアーナではないのだと…
頭では分かってる…だが、ディアーナにそんな顔をさせるサイモンに…サイモンの前世だとかいう、仮想の俺に……
憎しみが止まらない…!すまない…」


ディアーナの上に身体を重ね、肩口に顔を埋めるようにしたレオンハルトは、自身の感情をディアーナにぶつけた後悔から、喉の奥から絞り出すような掠れた声で詫びた。


ディアーナはレオンハルトの背と頭に手を置いて、あやすように何度も優しく撫でていく。



「私も…自分の中に設定されたディアーナが憎いわよ…私のレオンに、そんな悲しみを与えたのだもの…。」


私達は、また父の作り上げた可笑しなシナリオの上で踊らされている。

ラジェアベリアを離れたら何とかなるなんて甘かった。

私の中に居る設定されたディアーナを殺さない限り、いつどこで今回のようにサイモンに反応してレオンを悲しませるか分からない。
私の中の偽ディアーナ。
私の愛しい人を悲しませ苦しませる偽りのディアーナ。

お父様……いいや、師匠!!
黙って流されたりしないわよ!


「……そんなディアーナなんざ、この私がプチってやらぁ……」



思わず口に出てしまったドスの効いたディアーナの低い呟きに、ディアーナを抱き締めていたレオンハルトの身体がビクッと反応した。

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