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第四章【神の御子と月の聖女ディアーナの旅】
61#偽りの前世と、偽りの乙女記憶。
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イライザが部屋から出て行った後、ベッドの上で溶けかかって軟体動物のようになったレオンハルトを引っ張り出し、ヒールナー伯爵邸を出る事にした。
伯爵家の豪華な朝食は名残惜しかったが、それどころではなかった。
頭がゴチャゴチャして考えが定まらない。
「いつまでスライムみたいになってんのよ!レオン!
シャンとしなさいよ!!」
「……目眩がする……いや、もう……何て言うかもう…」
ヒールナー邸を離れて街中に来たディアーナとレオンハルトは、休憩場所らしき小さな水場とベンチのある場所に来た。
レオンハルトはベンチに腰掛けると背もたれに身体を預け、真上にある太陽を見ている。
眩しくないのだろうか…。目眩がするのは、そのせいでは?
レオンハルトが自身の目の上に手の甲を当て、言いにくそうに口を開いた。
「イライザが言っていた……サイモンが呟いたって言葉…。
…あれ、俺がスティーヴンに懐いてるディアーナを初めて見た時に思ったのと同じだった……。」
「……へー……じゃ、サイモンお兄様が、自分をレオンハルトって言ってんの、ただの思い込みや間違いってワケじゃないんだ?
レオンと同じ感情持ってるんだし。……なんで?」
ディアーナは不思議そうな顔はしているが、そう深刻に捉えている様子も無く。
「ねえ、言っとくけど私にとってはサイモンお兄様はサイモンお兄様でしかないし、レオンハルトは目の前に居るレオンでしかないの。
乙女ゲームの攻略対象だろうが、レオンハルトの感情を持っていようが、それは変わらないわよ?
バグだと思って、ほっときましょうよ。」
「それは分かっているが…何しろ俺だからな。
…本当に俺と同じ感情持ってるなら、絶対に諦め悪いし!
ディアーナ溺愛してるし!
そんな俺が、ガキの頃から好きだったディアーナを簡単に忘れるハズが無い!」
だから何だ。知らんがな。
ディアーナは面倒臭くなった。
「本当にレオンは、私に関する事にはヘタレよねー。
そんなにサイモンお兄様を私に近付けたくないなら、オフィーリアになって誘惑してしまえばー?」
「そんな事して、オフィーリアに惚れたら惚れたで面倒な事になるじゃないか!」
「チッ…ヘタレめ…グダグダとウッゼエ。
一週間後の婚約パーティ終わったら、さっさとラジェアベリアから離れりゃいーだけじゃん。」
本音を呟いて、ディアーナはレオンハルトをベンチに残したまま、スタスタと商店街の方に向かう。
離れた場所からレオンハルトが声を掛ける。
「ディア?どこへ?」
「お腹空いたのよね!私!何か買って来るわよ!
おとなしくしてなさい!」
ベンチを離れたディアーナは商店街に向かい、ひと気の無い路地裏を歩いて行く。
歩いて街に出る事など滅多に無い貴族令嬢のディアーナであったが、こんな裏路地が商店街までの近道だと覚えがあった。
「……私、この道知ってるわ。
…子どもの頃……遊びに来た事あったかも…お兄様に連れ…」
キンッと金属を擦る様な音がディアーナの頭に響く。
何かが脳に…記憶の隙間を探して針を刺して来る様な嫌な感触。
「ああ、二人だけの秘密の隠れ家への道だからな…ディア。覚えていてくれた…。」
背後からフワリと腕が回る。
ディアーナは声の主に優しく包む様に抱き締められた。
━━マズイ!!
サイモンお兄様はサイモンお兄様でしかない。
自分をレオンハルトだと名乗ったところで、無視すりゃいーんだろ!そんなの!
と思っていたのに!━━
「……サイモンお兄様……いいえ、…レオンハルト……」
自分の口から漏れた僅かに熱を持った声に、頭の中の私が激しく突っ込む。
━━━おいい!待て待て!レオンハルトちゃうぞ!
レオンハルトはベンチでスライムになっとるアレだ!━━━
「ディア…思い出してくれたんだな…俺を…」
「ええ、レオンハルト…」
━━思い出してくれたんだな?それ、どこのウチのレオンハルトだ!
我が家の変態レオンハルトと絶対違う!
待て待て待て!自分を取り戻せ私!
ええい!!殴ったれ!!ワレ自身!!━━━
ディアーナは自身の意識に喝を入れた。
拳を握ると、自身の太ももを強く殴る。
「……っ違います!!
サイモンお兄様、わたくしにとって…レオンハルトは特別な人です。……それはお兄様ではな…く…貴方は……違う!!」
緩く背後から回された腕が離れ、両肩を掴まれた瞬間、今度は正面から抱きすくめられた。
「俺以外の誰だって言うんだ!!前世で、誓い合った!」
どの前世だろうか?
どこのお宅のディアーナさんとレオンハルトさんの話だろうか。
いや、私の前世で『次は結ばれましょうね』なんて誓ったものは無いはず。
私が完全に、レオンハルトの存在をド忘れしていたから、スライムレオンハルトは1000年も困っていたワケで…。
私は、この生で初めてレオンハルトを思い出したのだから。
……………パパ?…おとん?……創造神様。
えー加減、説明してください。
でないと私、サイモンお兄様をチカン扱いして殴ってしまいそうです。
あるいは今の私を見失って、ディングレイ侯爵令嬢のディアーナにもど…り……!!それは絶対イヤですから!!
私が今の私を手放すのだけは、絶対にイヤ!
前世で次の生では結ばれると誓ったと、自身をレオンハルトだと名乗るサイモンに、ディアーナの意識が身体ごと持っていかれそうになる。
それを思い留まらせようとするのは、自分が愛するのは唯一スライムレオン…ベンチでスライムのようになっている、あのレオンハルトだけだという揺るがない確実な想い。
「サイモンお兄様…!離して…!貴方はレオンじゃない…!」
二つの顔を持つディアーナがせめぎ合う中、本来のディアーナの意識がサイモンを求める自我より上位に立った。
━━離して言ってるだろーが!
いっそ、イライザみたいにブッ叩こうかしら!?
つか、ぶん殴ったろか!!もう、ぶん殴る!!━━
「えー加減にせェ…!」「良かった!人が居たー!」
サイモンに抱きしめられているディアーナは、右手に拳を握り振り上げた状態のまま、声の方に目を向ける。
同じくディアーナを抱きしめたサイモンも声の方を向く。
「裏路地に迷いこんだら表通りに出る道が分からなくなっちゃって!
迷子なんです!助けて下さい!」
一人の栗色の髪の少女が胸の前で手を合わせてお願いポーズで目を輝かせている。
「……その道を真っ直ぐ進めば表通りに出る….」
苛立ちをあからさまに表情に出したサイモンが少女に意識を向けた隙を狙うように、ディアーナはサイモンの腕を振りほどいて少女の手を取った。
「あらあら迷子は不安だったでしょう、わたくしが表通りに案内しますわ!」
「わぁ、ありがとうございます!」
「ディア!」
腕から逃れたディアーナを追うようにサイモンの手がディアーナの肩に延びる。
ディアーナはサイモンの手を強く払った。
「わたくしを、ディアと呼べるのはレオンだけです。
貴方にその名で呼ばれたくありません。……失礼致しますわ。」
ディアーナは、少女を連れてサイモンの元を離れる。
サイモンの姿が見えなくなった所で、ディアーナは少女の両手を握った。
「ミァちゃん!久しぶり!さすが親友!ありがとう、助かったよ!」
「うん!香月ちゃん久しぶり!逢えて嬉しいよ!」
うふふ…あはは…女子高生時代を思い出すね~懐かしいね~
笑顔でフワフワとした雰囲気を醸し出していたディアーナが、逃がさぬ様にとミァの肩をグワッと掴んだ。
「ミァちゃん……いいや、師匠…これは一体何の遊びなんすか?」
「…うふふ…いやぁ…すんません…。」
目を逸らしたミァは冷や汗をだらだらかいていた。
▼
▼
▼
水場のある休憩場のベンチでディアーナを待ちながら、グッタリと溶けかけたレオンハルトが身体を起こす。
「ディア、おかえり……!!!!親父っ…!!」
ディアーナが連れて来たミァの姿に、思わずベンチから立ち上がり後退るレオンハルト。
「ディア!!何でも拾って来ちゃ駄目だと言ったろう!
元いた場所に戻して来なさい!」
「私は犬や猫じゃないわよ…覚えてなさいよ、レオンハルト…。」
互いに視線を合わせずに言う二人に、ディアーナが野菜とハムを挟んだパンを押し付けるように渡す。
「師匠から話を聞かないと困るでしょう!?主に私が!」
「………ちょ、親父…ディアーナに何か…あった?…なあ…!」
不安と嫉妬が入り交じった複雑な顔でミァを睨むレオンハルトに、苦笑いを浮かべ視線を外すミァ。
「腹ごしらえしたら説明しなさいよ!師匠!」
▼
▼
▼
▼
▼
遅めの朝食をベンチで済ませた二人は、創造主であるミァに、信じられない話を聞いた。
「……つまり……………マジですかー!……師匠のバカァ……!」
レオンハルトとディアーナは休憩場のベンチで仲良くスライム化してしまった。
「地球の日本に廉の肉体を造った様に、いつものクセで、レオンハルトの転移する際の器作っちゃった!
本人そのまま、こちらに来る事すっかり抜けてたんだ!
ごめんね!」
可愛く『てへっ!』と、誤魔化す創造主にイラっとする二人。
「いや、師匠…レオンハルトの転移する姿や、時間には関与出来ないって言ってなかった?
なんかいつも、結ばれにくい関係ばっかだったじゃん。
サイモンて、実際で考えたら障害少ないし、それなりな物件じゃん。よりによって。もう意味無いのに。」
そういえば、と思い出した疑問を問うディアーナに、ミァが自慢気に語る。
「それは私が神として関われない異世界だからよ。
前世での地球の日本とか!……でもここは、私が創った世界よ!
だから、レオンハルトに相応しい転移する為の器を!
……作る必要無かったんだけど……何か……作っちゃった……」
自慢気から一気にトーンダウンしたミァに、ディアーナとレオンハルトが口を揃えて言う。
「「バカァ!!」」
数多の異世界に転生したディアーナを追わせてレオンハルトを転移させていた創造主は、いつもはレオンハルトの転移先の時間や姿を選べなかったのだが、今回はそれが出来た為に調子に乗ってしまったと。
転移の必要が無く、レオンハルトが元の姿で、そのまま帰るだけで済む世界なのにナイスな器を作っちゃったと。
イケメンな上に、前世での縁…えにしを持った、要はディアーナと結ばれ易いウソ設定ブチ込んで。
「乙女ゲームの世界とリンクさせるからとか、そんな理由で、レオンハルトとディアーナは前世で次の生では結ばれると誓った、その二人の生まれ変わりなんて、取って付けたような設定ブッこまないで下さいよ!
そんな、ありもしない前世を真実だと思い込んで、サイモンが気の毒でしょうが!
しかも、器どころか、ちゃんと自我持っちゃってるし!」
「う、うーん…確かに気の毒なんだけど…乙女ゲームの世界としては、スティーヴンルートに進んで、もう終わってるんだし。
…彼は彼で、その自我でもって報われない恋にピリオド打って新しい人生を歩むハズなんだけど…」
「それ、ヒロインのオフィーリアに対しては…だよな?
オフィーリアと恋愛感情を一切育ててないサイモンにとっては、前世で誓い合ったディアーナへの想いMAXのままじゃねーの?」
レオンハルトの言葉に、三人が無言になる。
「「バカァ!!!」」
やがてディアーナとレオンハルトが口を揃えて大声をあげた。
伯爵家の豪華な朝食は名残惜しかったが、それどころではなかった。
頭がゴチャゴチャして考えが定まらない。
「いつまでスライムみたいになってんのよ!レオン!
シャンとしなさいよ!!」
「……目眩がする……いや、もう……何て言うかもう…」
ヒールナー邸を離れて街中に来たディアーナとレオンハルトは、休憩場所らしき小さな水場とベンチのある場所に来た。
レオンハルトはベンチに腰掛けると背もたれに身体を預け、真上にある太陽を見ている。
眩しくないのだろうか…。目眩がするのは、そのせいでは?
レオンハルトが自身の目の上に手の甲を当て、言いにくそうに口を開いた。
「イライザが言っていた……サイモンが呟いたって言葉…。
…あれ、俺がスティーヴンに懐いてるディアーナを初めて見た時に思ったのと同じだった……。」
「……へー……じゃ、サイモンお兄様が、自分をレオンハルトって言ってんの、ただの思い込みや間違いってワケじゃないんだ?
レオンと同じ感情持ってるんだし。……なんで?」
ディアーナは不思議そうな顔はしているが、そう深刻に捉えている様子も無く。
「ねえ、言っとくけど私にとってはサイモンお兄様はサイモンお兄様でしかないし、レオンハルトは目の前に居るレオンでしかないの。
乙女ゲームの攻略対象だろうが、レオンハルトの感情を持っていようが、それは変わらないわよ?
バグだと思って、ほっときましょうよ。」
「それは分かっているが…何しろ俺だからな。
…本当に俺と同じ感情持ってるなら、絶対に諦め悪いし!
ディアーナ溺愛してるし!
そんな俺が、ガキの頃から好きだったディアーナを簡単に忘れるハズが無い!」
だから何だ。知らんがな。
ディアーナは面倒臭くなった。
「本当にレオンは、私に関する事にはヘタレよねー。
そんなにサイモンお兄様を私に近付けたくないなら、オフィーリアになって誘惑してしまえばー?」
「そんな事して、オフィーリアに惚れたら惚れたで面倒な事になるじゃないか!」
「チッ…ヘタレめ…グダグダとウッゼエ。
一週間後の婚約パーティ終わったら、さっさとラジェアベリアから離れりゃいーだけじゃん。」
本音を呟いて、ディアーナはレオンハルトをベンチに残したまま、スタスタと商店街の方に向かう。
離れた場所からレオンハルトが声を掛ける。
「ディア?どこへ?」
「お腹空いたのよね!私!何か買って来るわよ!
おとなしくしてなさい!」
ベンチを離れたディアーナは商店街に向かい、ひと気の無い路地裏を歩いて行く。
歩いて街に出る事など滅多に無い貴族令嬢のディアーナであったが、こんな裏路地が商店街までの近道だと覚えがあった。
「……私、この道知ってるわ。
…子どもの頃……遊びに来た事あったかも…お兄様に連れ…」
キンッと金属を擦る様な音がディアーナの頭に響く。
何かが脳に…記憶の隙間を探して針を刺して来る様な嫌な感触。
「ああ、二人だけの秘密の隠れ家への道だからな…ディア。覚えていてくれた…。」
背後からフワリと腕が回る。
ディアーナは声の主に優しく包む様に抱き締められた。
━━マズイ!!
サイモンお兄様はサイモンお兄様でしかない。
自分をレオンハルトだと名乗ったところで、無視すりゃいーんだろ!そんなの!
と思っていたのに!━━
「……サイモンお兄様……いいえ、…レオンハルト……」
自分の口から漏れた僅かに熱を持った声に、頭の中の私が激しく突っ込む。
━━━おいい!待て待て!レオンハルトちゃうぞ!
レオンハルトはベンチでスライムになっとるアレだ!━━━
「ディア…思い出してくれたんだな…俺を…」
「ええ、レオンハルト…」
━━思い出してくれたんだな?それ、どこのウチのレオンハルトだ!
我が家の変態レオンハルトと絶対違う!
待て待て待て!自分を取り戻せ私!
ええい!!殴ったれ!!ワレ自身!!━━━
ディアーナは自身の意識に喝を入れた。
拳を握ると、自身の太ももを強く殴る。
「……っ違います!!
サイモンお兄様、わたくしにとって…レオンハルトは特別な人です。……それはお兄様ではな…く…貴方は……違う!!」
緩く背後から回された腕が離れ、両肩を掴まれた瞬間、今度は正面から抱きすくめられた。
「俺以外の誰だって言うんだ!!前世で、誓い合った!」
どの前世だろうか?
どこのお宅のディアーナさんとレオンハルトさんの話だろうか。
いや、私の前世で『次は結ばれましょうね』なんて誓ったものは無いはず。
私が完全に、レオンハルトの存在をド忘れしていたから、スライムレオンハルトは1000年も困っていたワケで…。
私は、この生で初めてレオンハルトを思い出したのだから。
……………パパ?…おとん?……創造神様。
えー加減、説明してください。
でないと私、サイモンお兄様をチカン扱いして殴ってしまいそうです。
あるいは今の私を見失って、ディングレイ侯爵令嬢のディアーナにもど…り……!!それは絶対イヤですから!!
私が今の私を手放すのだけは、絶対にイヤ!
前世で次の生では結ばれると誓ったと、自身をレオンハルトだと名乗るサイモンに、ディアーナの意識が身体ごと持っていかれそうになる。
それを思い留まらせようとするのは、自分が愛するのは唯一スライムレオン…ベンチでスライムのようになっている、あのレオンハルトだけだという揺るがない確実な想い。
「サイモンお兄様…!離して…!貴方はレオンじゃない…!」
二つの顔を持つディアーナがせめぎ合う中、本来のディアーナの意識がサイモンを求める自我より上位に立った。
━━離して言ってるだろーが!
いっそ、イライザみたいにブッ叩こうかしら!?
つか、ぶん殴ったろか!!もう、ぶん殴る!!━━
「えー加減にせェ…!」「良かった!人が居たー!」
サイモンに抱きしめられているディアーナは、右手に拳を握り振り上げた状態のまま、声の方に目を向ける。
同じくディアーナを抱きしめたサイモンも声の方を向く。
「裏路地に迷いこんだら表通りに出る道が分からなくなっちゃって!
迷子なんです!助けて下さい!」
一人の栗色の髪の少女が胸の前で手を合わせてお願いポーズで目を輝かせている。
「……その道を真っ直ぐ進めば表通りに出る….」
苛立ちをあからさまに表情に出したサイモンが少女に意識を向けた隙を狙うように、ディアーナはサイモンの腕を振りほどいて少女の手を取った。
「あらあら迷子は不安だったでしょう、わたくしが表通りに案内しますわ!」
「わぁ、ありがとうございます!」
「ディア!」
腕から逃れたディアーナを追うようにサイモンの手がディアーナの肩に延びる。
ディアーナはサイモンの手を強く払った。
「わたくしを、ディアと呼べるのはレオンだけです。
貴方にその名で呼ばれたくありません。……失礼致しますわ。」
ディアーナは、少女を連れてサイモンの元を離れる。
サイモンの姿が見えなくなった所で、ディアーナは少女の両手を握った。
「ミァちゃん!久しぶり!さすが親友!ありがとう、助かったよ!」
「うん!香月ちゃん久しぶり!逢えて嬉しいよ!」
うふふ…あはは…女子高生時代を思い出すね~懐かしいね~
笑顔でフワフワとした雰囲気を醸し出していたディアーナが、逃がさぬ様にとミァの肩をグワッと掴んだ。
「ミァちゃん……いいや、師匠…これは一体何の遊びなんすか?」
「…うふふ…いやぁ…すんません…。」
目を逸らしたミァは冷や汗をだらだらかいていた。
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水場のある休憩場のベンチでディアーナを待ちながら、グッタリと溶けかけたレオンハルトが身体を起こす。
「ディア、おかえり……!!!!親父っ…!!」
ディアーナが連れて来たミァの姿に、思わずベンチから立ち上がり後退るレオンハルト。
「ディア!!何でも拾って来ちゃ駄目だと言ったろう!
元いた場所に戻して来なさい!」
「私は犬や猫じゃないわよ…覚えてなさいよ、レオンハルト…。」
互いに視線を合わせずに言う二人に、ディアーナが野菜とハムを挟んだパンを押し付けるように渡す。
「師匠から話を聞かないと困るでしょう!?主に私が!」
「………ちょ、親父…ディアーナに何か…あった?…なあ…!」
不安と嫉妬が入り交じった複雑な顔でミァを睨むレオンハルトに、苦笑いを浮かべ視線を外すミァ。
「腹ごしらえしたら説明しなさいよ!師匠!」
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遅めの朝食をベンチで済ませた二人は、創造主であるミァに、信じられない話を聞いた。
「……つまり……………マジですかー!……師匠のバカァ……!」
レオンハルトとディアーナは休憩場のベンチで仲良くスライム化してしまった。
「地球の日本に廉の肉体を造った様に、いつものクセで、レオンハルトの転移する際の器作っちゃった!
本人そのまま、こちらに来る事すっかり抜けてたんだ!
ごめんね!」
可愛く『てへっ!』と、誤魔化す創造主にイラっとする二人。
「いや、師匠…レオンハルトの転移する姿や、時間には関与出来ないって言ってなかった?
なんかいつも、結ばれにくい関係ばっかだったじゃん。
サイモンて、実際で考えたら障害少ないし、それなりな物件じゃん。よりによって。もう意味無いのに。」
そういえば、と思い出した疑問を問うディアーナに、ミァが自慢気に語る。
「それは私が神として関われない異世界だからよ。
前世での地球の日本とか!……でもここは、私が創った世界よ!
だから、レオンハルトに相応しい転移する為の器を!
……作る必要無かったんだけど……何か……作っちゃった……」
自慢気から一気にトーンダウンしたミァに、ディアーナとレオンハルトが口を揃えて言う。
「「バカァ!!」」
数多の異世界に転生したディアーナを追わせてレオンハルトを転移させていた創造主は、いつもはレオンハルトの転移先の時間や姿を選べなかったのだが、今回はそれが出来た為に調子に乗ってしまったと。
転移の必要が無く、レオンハルトが元の姿で、そのまま帰るだけで済む世界なのにナイスな器を作っちゃったと。
イケメンな上に、前世での縁…えにしを持った、要はディアーナと結ばれ易いウソ設定ブチ込んで。
「乙女ゲームの世界とリンクさせるからとか、そんな理由で、レオンハルトとディアーナは前世で次の生では結ばれると誓った、その二人の生まれ変わりなんて、取って付けたような設定ブッこまないで下さいよ!
そんな、ありもしない前世を真実だと思い込んで、サイモンが気の毒でしょうが!
しかも、器どころか、ちゃんと自我持っちゃってるし!」
「う、うーん…確かに気の毒なんだけど…乙女ゲームの世界としては、スティーヴンルートに進んで、もう終わってるんだし。
…彼は彼で、その自我でもって報われない恋にピリオド打って新しい人生を歩むハズなんだけど…」
「それ、ヒロインのオフィーリアに対しては…だよな?
オフィーリアと恋愛感情を一切育ててないサイモンにとっては、前世で誓い合ったディアーナへの想いMAXのままじゃねーの?」
レオンハルトの言葉に、三人が無言になる。
「「バカァ!!!」」
やがてディアーナとレオンハルトが口を揃えて大声をあげた。
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