60 / 140
第四章【神の御子と月の聖女ディアーナの旅】
60#自称レオンハルト。
しおりを挟む
「朝早くから、申し訳ございません…お姉様に聞いて戴きたいお話しが…。」
入室を許され、ドアを開けたイライザが目にしたのは、ベッドの上でレオンハルトの胸ぐらを掴むディアーナの姿であった。
「はぁあん!ステキ!!私もお姉様に胸ぐら掴まれたい!」
「…いや、朝っぱらから、そんな話ししに来たんじゃないよね?イライザ。」
興奮のあまり足元がふらつき、ドアに寄り掛かるように倒れ掛けるイライザに、ディアーナが冷めた口調で尋ねる。
「す、すみません…つい………コホン……先ずは昨夜の食堂での非礼をお詫び致しますわ。…いきなり席を立ち驚かれたでしょう。
申し訳ございませんでした…。」
レオンハルトの胸ぐらを解放し、ガウンを羽織って椅子に腰掛けたディアーナは、もうひとつの椅子にイライザを座るよう促した。
レオンハルトは無言で部屋に結界を張る。
他の侵入や会話を聞かれるのを警戒した。
「あの…お姉様は、サイモンお兄様がお姉様の事を…想ってたのを知ってらっしゃいます?」
気を取り直したイライザに、いきなり驚きの報告をされ、ディアーナは焦る。
「はいぃ!?知るワケ無いわよ!
好かれる要素なんか無いもの!
わたくし、お兄様には冷たくした記憶しかないのに!」
ゲーム設定上でのディアーナは、イライザ同様にサイモンに冷たく辛く当たっていた。
養子だとか、不義の子だとか蔑んでいた記憶設定が頭にある。
実際のディアーナには、無視をしていた位の記憶しか無いのだが。
サイモンのディアーナに対する恋慕の視線に気付いていたレオンハルトは、あからさまに不機嫌な顔になりディアーナの顔を窺う。
「お兄様は…お姉様の事を幼い頃から好いておりました。
わたくしとしては、よくまぁ、こんな根性悪な女に惚れたわねと思っておりましてよ。」
なんじゃそりゃ!人の事を言えるのか!?と思いつつも、そりゃそうだ!とも思うディアーナは益々深く悩み出す。
「…いや、わたくし本当に…サイモンお兄様を馬鹿にしたり…決してかわいい女ではなかったハズ。
なんで、そんな女に惚れる?
イライザの罵詈雑言を受け止めている位だから、メンタル強いのかもだけど…むしろ冷たくしたのはご褒美だったのか?」
やはり、血は繋がってなくともイライザと兄妹だからM気質なんだろうか?貶められ興奮するタイプ?
乙女ゲームの攻略対象者二人目がマゾの変態とか、全年齢適応ゲームとして、いかがなものか。
「お兄様は勘のいい方で…幼い頃にお姉様に初めてお会いした時から、何かを感じていたようですわ。
……極端に言ってしまえば、今のお姉様の姿を予見していたような。」
「今の私?」
「スティーヴン殿下に婚約破棄され、旅に出た今のお姉様です。
お姉様、人が変わりましたわよね?
性格が丸くなったのではなく、人格まるごと別人のようになられましたわ。」
「いや!私からしたら、あんたの方が!」
意外に鋭いイライザの指摘にディアーナが焦った。
確かに、悪役令嬢設定のディアーナと、今現在のディアーナは同じ記憶を有していても別人に近い。
魂の根源である今現在のディアーナの自分は、確実に以前の令嬢ディアーナとは違う。
「わたくしは、本当の自分に気付いてなかっただけですわ。
わたくし自身は何も変わってませんもの。
お姉様は昔の自分を、あれもわたくしです!と言いきれますか?」
ディアーナは困惑し、助けを求めるようにレオンハルトに視線を送るが、レオンハルトもまた困惑しているようで、眉間にシワを寄せて何かを考えている。
「お兄様は…ディアーナお姉様がスティーヴン殿下をお慕いしている姿を…いつも怒りと悲しみを込めた瞳で見ておりましたわ…。一度…無意識の内に呟いたのでしょう…。
『俺が望んで、願って、苦しんで、手に入れられなかったものを、いとも簡単に手に入れている貴様は…!興味無さげにディアーナを遠ざけようとする!』と…呟くのを聞いてしまいましたの。」
「ブフォッ!!」
レオンハルトがベッドの上で思い切り噴き出した。
そのあと、四つん這いになってゲホゲホと思い切り咳込んでいる。
どうした、レオン。我が夫。
私もパニクってるが、なぜ夫もパニクっている。
「お兄様は…時々……自らを
『俺はサイモンではない…俺の本当の名はレオンハルトなんだ…』と、よくおっしゃってました。」
ブフォっ!!
椅子に座ったディアーナと、ベッドで四つん這いのレオンハルトが二人同時に噴き出した。
えーと…パパ?パパ?創造神様?
今すぐ応答願いまーす。
てゆーか師匠!おめぇ、キリキリ説明しろや!!
どーゆー事じゃこれは!
なんでサイモンがレオンハルトだと名乗る!
「お兄様は時々、自身を見失いそうになります。
…それに…スティーヴン殿下を今も憎んでるかも知れない…。
わたくしは…そんなお兄様を…家族とは認めようとしない、卑しい身分の兄を嫌いな妹であり続けなければならないのです。
この家を…守る為に…。」
もし、サイモンがスティーヴンに何かをしようとした時に、最初からヒールナー家の者と認めては無かったと、切り捨てるつもりだと…
イライザは、サイモンがスティーヴン暗殺に関わっているかも知れない事を知らないハズ。
なのに、そんな危険な可能性を感じていると…?
「それ…逆にサイモンが悪い人でなければ、この家に縛りつけないで解放してあげたいって意味もあり?
引き止めたくないから、嫌われていようとか…。」
イライザは、スッと姿勢を伸ばし、美しく頬笑む。
「ええ…わたくし、お兄様の事を好きですもの…だから半分は、そうです。
もっとワガママに、もっと自由になって欲しい………。
あと、半分は……いつか、わたくしを憎み…溜まった鬱憤を晴らしてくれる日が来るのではないかと、実は期待して…はぁん…」
そこも譲れないポイントか。このドMが!
「もぉ~バカァ!あんた、中身は割りとイイ女ね!」
パチーン
ディアーナは笑顔でイライザの頬をはたいてやった。
「ああぁん!ありがとうございますぅ!」
はたき、はたかれ、キラキラ笑顔な二人を尻目に、フォークを入れられた半熟目玉焼きの黄身のようにデロリと溶けかけたレオンハルトがベッドの上に居た。
口からヨダレと魂が出かかっている。
「おお、まるで…ぐでた………」
あえて名前は出さないでおこう。
先程の案件について、おトン師匠からの連絡はない。
忙しいのだろうか?
入室を許され、ドアを開けたイライザが目にしたのは、ベッドの上でレオンハルトの胸ぐらを掴むディアーナの姿であった。
「はぁあん!ステキ!!私もお姉様に胸ぐら掴まれたい!」
「…いや、朝っぱらから、そんな話ししに来たんじゃないよね?イライザ。」
興奮のあまり足元がふらつき、ドアに寄り掛かるように倒れ掛けるイライザに、ディアーナが冷めた口調で尋ねる。
「す、すみません…つい………コホン……先ずは昨夜の食堂での非礼をお詫び致しますわ。…いきなり席を立ち驚かれたでしょう。
申し訳ございませんでした…。」
レオンハルトの胸ぐらを解放し、ガウンを羽織って椅子に腰掛けたディアーナは、もうひとつの椅子にイライザを座るよう促した。
レオンハルトは無言で部屋に結界を張る。
他の侵入や会話を聞かれるのを警戒した。
「あの…お姉様は、サイモンお兄様がお姉様の事を…想ってたのを知ってらっしゃいます?」
気を取り直したイライザに、いきなり驚きの報告をされ、ディアーナは焦る。
「はいぃ!?知るワケ無いわよ!
好かれる要素なんか無いもの!
わたくし、お兄様には冷たくした記憶しかないのに!」
ゲーム設定上でのディアーナは、イライザ同様にサイモンに冷たく辛く当たっていた。
養子だとか、不義の子だとか蔑んでいた記憶設定が頭にある。
実際のディアーナには、無視をしていた位の記憶しか無いのだが。
サイモンのディアーナに対する恋慕の視線に気付いていたレオンハルトは、あからさまに不機嫌な顔になりディアーナの顔を窺う。
「お兄様は…お姉様の事を幼い頃から好いておりました。
わたくしとしては、よくまぁ、こんな根性悪な女に惚れたわねと思っておりましてよ。」
なんじゃそりゃ!人の事を言えるのか!?と思いつつも、そりゃそうだ!とも思うディアーナは益々深く悩み出す。
「…いや、わたくし本当に…サイモンお兄様を馬鹿にしたり…決してかわいい女ではなかったハズ。
なんで、そんな女に惚れる?
イライザの罵詈雑言を受け止めている位だから、メンタル強いのかもだけど…むしろ冷たくしたのはご褒美だったのか?」
やはり、血は繋がってなくともイライザと兄妹だからM気質なんだろうか?貶められ興奮するタイプ?
乙女ゲームの攻略対象者二人目がマゾの変態とか、全年齢適応ゲームとして、いかがなものか。
「お兄様は勘のいい方で…幼い頃にお姉様に初めてお会いした時から、何かを感じていたようですわ。
……極端に言ってしまえば、今のお姉様の姿を予見していたような。」
「今の私?」
「スティーヴン殿下に婚約破棄され、旅に出た今のお姉様です。
お姉様、人が変わりましたわよね?
性格が丸くなったのではなく、人格まるごと別人のようになられましたわ。」
「いや!私からしたら、あんたの方が!」
意外に鋭いイライザの指摘にディアーナが焦った。
確かに、悪役令嬢設定のディアーナと、今現在のディアーナは同じ記憶を有していても別人に近い。
魂の根源である今現在のディアーナの自分は、確実に以前の令嬢ディアーナとは違う。
「わたくしは、本当の自分に気付いてなかっただけですわ。
わたくし自身は何も変わってませんもの。
お姉様は昔の自分を、あれもわたくしです!と言いきれますか?」
ディアーナは困惑し、助けを求めるようにレオンハルトに視線を送るが、レオンハルトもまた困惑しているようで、眉間にシワを寄せて何かを考えている。
「お兄様は…ディアーナお姉様がスティーヴン殿下をお慕いしている姿を…いつも怒りと悲しみを込めた瞳で見ておりましたわ…。一度…無意識の内に呟いたのでしょう…。
『俺が望んで、願って、苦しんで、手に入れられなかったものを、いとも簡単に手に入れている貴様は…!興味無さげにディアーナを遠ざけようとする!』と…呟くのを聞いてしまいましたの。」
「ブフォッ!!」
レオンハルトがベッドの上で思い切り噴き出した。
そのあと、四つん這いになってゲホゲホと思い切り咳込んでいる。
どうした、レオン。我が夫。
私もパニクってるが、なぜ夫もパニクっている。
「お兄様は…時々……自らを
『俺はサイモンではない…俺の本当の名はレオンハルトなんだ…』と、よくおっしゃってました。」
ブフォっ!!
椅子に座ったディアーナと、ベッドで四つん這いのレオンハルトが二人同時に噴き出した。
えーと…パパ?パパ?創造神様?
今すぐ応答願いまーす。
てゆーか師匠!おめぇ、キリキリ説明しろや!!
どーゆー事じゃこれは!
なんでサイモンがレオンハルトだと名乗る!
「お兄様は時々、自身を見失いそうになります。
…それに…スティーヴン殿下を今も憎んでるかも知れない…。
わたくしは…そんなお兄様を…家族とは認めようとしない、卑しい身分の兄を嫌いな妹であり続けなければならないのです。
この家を…守る為に…。」
もし、サイモンがスティーヴンに何かをしようとした時に、最初からヒールナー家の者と認めては無かったと、切り捨てるつもりだと…
イライザは、サイモンがスティーヴン暗殺に関わっているかも知れない事を知らないハズ。
なのに、そんな危険な可能性を感じていると…?
「それ…逆にサイモンが悪い人でなければ、この家に縛りつけないで解放してあげたいって意味もあり?
引き止めたくないから、嫌われていようとか…。」
イライザは、スッと姿勢を伸ばし、美しく頬笑む。
「ええ…わたくし、お兄様の事を好きですもの…だから半分は、そうです。
もっとワガママに、もっと自由になって欲しい………。
あと、半分は……いつか、わたくしを憎み…溜まった鬱憤を晴らしてくれる日が来るのではないかと、実は期待して…はぁん…」
そこも譲れないポイントか。このドMが!
「もぉ~バカァ!あんた、中身は割りとイイ女ね!」
パチーン
ディアーナは笑顔でイライザの頬をはたいてやった。
「ああぁん!ありがとうございますぅ!」
はたき、はたかれ、キラキラ笑顔な二人を尻目に、フォークを入れられた半熟目玉焼きの黄身のようにデロリと溶けかけたレオンハルトがベッドの上に居た。
口からヨダレと魂が出かかっている。
「おお、まるで…ぐでた………」
あえて名前は出さないでおこう。
先程の案件について、おトン師匠からの連絡はない。
忙しいのだろうか?
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!
菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】薔薇の花と君と
ここ
恋愛
公爵令嬢フィランヌは、誤解されやすい女の子。甘やかし放題の家族には何もさせてもらえない。この世のものとは思えぬ美貌とあり余る魔力。
なのに引っ込み思案で大人しい。
家族以外からは誤解されて、ワガママ令嬢だと思われている。
そんな彼女の学園生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる