【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第三章【オフィーリア追憶】37#後

51#瀧川香月という少女1 #37香月からの目線

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「瀧川さんの、お兄さんってカッコいいってホント?紹介して!」


高校二年生の瀧川香月は校舎の屋上で見知らぬ同級生に声を掛けられ、持参した弁当を食べながら嫌そうな顔をする。


「お兄ちゃん、確かにいい男だけど紹介は出来ないなぁ…つか、私、あんたの友達でも何でもないんだけど?」


ショートボブにスラリとした体格の香月は、顔つきは美人だがボーイッシュで可愛い女の子といった雰囲気は無い。

言葉遣いもずけずけと思った事を口に出し、人と衝突する事もしばしばある。


「そこを何とか!会ってみるだけでも!」

「やだって言ってるじゃない。私のお兄ちゃんをあんたみたいなのに会わせるワケ無いじゃん。」


「…香月ちゃん、昼休み終わるよ?早くお昼、食べないと」


互いに引く様子の無い二人の不毛なやり取りに、隣で昼食を食べていた香月の親友のミァが口を挟む。


「何だよ!いい年こいて、お兄ちゃん呼びとか!バッカじゃね?」


「黙れ!今さら変えれねぇんだよ!余計なお世話だ!」


最終的にはいつも、女同士の汚い言葉のやり取りに終わる。

そんな光景を見慣れたミァは食べ終わった昼食の後片付けをし出した。


「相変わらず香月ちゃん、口悪いね。…特に、お兄ちゃん絡むとノンストップ状態だよね。」


昼休みが終わる前にと、弁当を急いで食べながら香月が頷く。


「どこで、どうやって知ったのか、お兄ちゃんに会わせろだの紹介しろだの、うぜぇ!確かにカッコいいからね!お兄ちゃん!」


「…香月ちゃん、お兄ちゃんの事、好きだもんねーあはは、ブラコンかぁ」


ミァは笑いながら立ち上がり、鳴り響くチャイムを指差しながらスカートの埃を叩いて払うと屋上の扉を開く。


「そうねーとりあえず、私が勝つまでは誰とも付き合って欲しくないわ。恋愛にうつつを抜かしたら弱くなりそうじゃない。はい!ごちそうさま!食べ終わった!」


「お兄ちゃんを倒すのが夢な妹って、どうなのよ。」


ミァは笑いながら香月と教室に向かった。




放課後の授業が終わり、ミァと帰路につく。


「そう言えば、ミァちゃんはお兄ちゃんに会わせろって言わないね。」


「んー?香月ちゃんの話を聞いてるだけで、お腹いっぱいだよ。ファンだけどね。」


香月は楽しそうに笑いながら、頭を掻く。


「ファンかー、仕事もしてないし学校も行ってないし、家に籠りきりな駄目兄貴だけどー」


ミァは香月の言葉に、ピクリと反応する。


創造神であるミァは知っている。


香月の逝く日が近い事を。

そして、レオンハルトである香月の兄も、それに気付いている事を。

死に逝く彼女と、一時でも離れたくないと想う、その気持ちも。


「香月ちゃん、このゲーム!絶対絶対やってみて!」


ミァはカバンからゲームを取り出し、香月に押し付けるように渡す。


「えー、だからぁ私そういうの苦手なんだってばぁ…乙女ゲームだっけ?」


「絶対にやって!ハマるから!面白いから!やってくれなきゃ絶交!今夜!すぐ!」


「…ミァちゃんが、そこまで言うなら…ちょっとだけ…」


香月は渡されたゲームのパッケージを嫌々見る。


少女漫画のようなキレイめ、可愛らしいイラストで主人公であろう大きめに描かれた金髪の美少女、その下に描かれた藍色の髪の意地悪そうな美少女と銀髪の少年。


「うわ、分かりやすい位に意地悪そうな女がいる。」


香月がディアーナのイラストを指差して笑う。


それを見たミァは物悲しい目を向ける。


「きっと…これが最後のチャンスなの…私が出来る精一杯なの…だから、お願い…絶対にやってみて…?」


「おあぁ…ミァちゃんが、そこまでドハマりしてるなら…話し相手になる位には…やっとく…?」


香月は約束を破らない。それを理解しているミァは安堵の表情を浮かべる。


「週末、何の映画見に行くか決めなきゃね!明日、決めよう?このゲームの感想も、明日話すよ!」


分かれ道で香月はミァに手を振る。

明日も今日と同じ日常があると信じて。


「うん、またね。」


ミァは明日の約束をしなかった。

香月に明日が来ない事を知っていた。


「またね…私の大切な子達…。」


この世での役割を終えたミァは、そのまま姿を消した。




「ただいまぁ、ゲーム…ゲームかぁ…めんど~…」


靴を脱ぎながら、家に入ると手を洗って自室に向かう。


ゲームの本体を引っ張り出し、コントローラーを繋げようと探すが、見当たらない。


「お兄ちゃん、持ってるかなぁ…」


香月は自室の向かい側にある、兄の部屋のドアをいきなり開いて部屋に入る。


兄は部屋の中に佇んでいた。


香月の自慢の兄は、頭も良く、運動神経抜群で、スポーツも万能だ。

時々、何でそんな事を知ってんの?という知識を持っていたり、どこで覚えたの?という外国語を流暢に話したりする。


「そりゃまぁ…千年以上生きてれば…」


たまに、こういう変な妄想を口にする以外は完璧な男だと思う。


そんな兄が、香月は大好きだ。


もしかしたら、兄として以上に好きなのかも知れない。


でも、恋愛というものに疎い香月は恋心を分かっていない。

ただ、漠然と、兄を何にも誰にも代えがたい人だと思っている。


香月は、兄がやがて誰かと結ばれ家庭を持ち、自分も同じように兄以外の誰かと…と考える事に、とてつもない違和感を感じる。


自分が隣に居る想像なら、こんなにしっくりくるのに。


だが、それを誰にも話さない。

そんな考えを持つ自分を、普通じゃないと思っているから。


「プッ…!お兄ちゃん、すごく悪い顔してる。」


部屋の中に佇んでいる兄は、何を悩んでいるのか、すごく怖い顔をしていた。


そんな怖い表情の兄でさえ、香月は怖がりもせずに面白がる。


兄を怖いと思った事など、一度も無い。

喧嘩をしても、叱られても、兄の瀧川廉の言動には常に優しさがつきまとう。


うんざりする程、それは優しく、香月にだけ与えられる。


自分だけの特権だ。

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