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第三章【オフィーリア追憶】37#後
45#新しい生は故郷にて。
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霧のごとく細かく砕け散っていた光の粒子が集まってゆく。
暗い森の中で、ボウッと淡く光りながら集まる小さな光の粒たち。
やがて光の粒子は人一人分の形を成し、その場に一人の男を生み出した。
男は空気と自分の身体にはっきりとした境界を感じると、ゆっくりと目を開いた。
砂粒より細かな光の粒子から、人の身体になった自身を確認する。
顔に触れ髪に触れ自身の顔は見れないが、手指の爪など身体の端々や、服装を確認していく。
そして、男は場所を確認するために辺りを見回し、それから空を見上げた。
美しい夜空だった。
丸い月は煌々と輝き、散りばめられた無数の星は月を飾るように並ぶ。
その星の並びを見た瞬間、男の涙が頬を伝う。
「俺達の生まれた世界だ…。」
レオンハルトは、手の甲で涙を拭った。
異世界に転移されている時の、レオンハルトではない誰かの姿をした仮りそめの身体ではない。
間違いなく、自分自身の肉体だ。
普段は忌々しくしか思えない身体に走る亀裂でさえ、ここが自分達が居るべき世界だと肯定しているようで頼もしく感じる。
この世界に俺が居るって事は…ディアーナも、この世界に居るって事だ。
どんな姿で?どんな名前で?男なのか女なのかも分からない。
それでも俺は彼女を見付ける。
必ず見付ける…そして…今度こそ、愛していると伝えたい。
そして…香月を守れなくてごめんと…謝らなくては…。
レオンハルトは月に照らされた夜の道を歩き出した。
翌日━━━━
レオンハルトは王都に居た。
レオンハルトは導かれるように、必ずディアーナの側に現れる。
今回も、思うままに歩いたレオンハルトが辿り着いたのはディアーナの近くだった。
「お待ちになって、殿下!」
「あまり、くっつかないでくれディアーナ嬢」
王都にある貴族の子息や令嬢ばかりが通う魔法学園。
その学園の課外授業が街中で行われていた。
学年に関係なく、授業に参加している多数の生徒たち。
その中の一人。
ディアーナ嬢と呼ばれた少女の姿にレオンハルトは震えた。
緩く波打つ夜空の様な藍色の長い髪に金色の瞳。
触れる事も出来ない精神体で、千年以上前にたった一度だけ逢った、愛を誓った、魂の半身ディアーナが
その時と違わぬディアーナの姿のまま、そこに居た。
なんて事だ!ディアーナが、ディアーナのまま、そこに居る!
触れたい…抱き締めたい…!
愛していると何度も囁きたい…!
俺の全てを賭けて君を愛したい…!
魂の半身である彼女を求めてレオンハルトの足が一歩前に進む。
「お慕いしておりますもの…殿下はわたくしの婚約者ですから…。」
僅かな声も聞き漏らしたくないと、ディアーナの言葉を耳にしたレオンハルトの足が止まった。
ディアーナが、殿下と呼ぶ男に向ける視線に血の気が引く。
淡く頬を染め、好意を寄せていると語る金色の美しい瞳。
━━俺が…俺が…!俺が!俺が!俺が!!
望んで、願って、苦しんで、血を吐く思いで欲しても欲しても手に入れられなかったものを、いとも簡単に手に入れている貴様は…!!
興味無さげにディアーナを遠ざけようとする…!
何なんだ貴様は………!!
嫉妬なんて、優しい感情ではなかった。
殺意にも似た憎しみと、それとも愛し合う関係で無かった事を喜ぶべきなのかと、様々な感情が複雑に絡まり過ぎて視界がグラリと揺れる。酔いそうになる。
吐きそうだ…何だこれは…。
俺は…彼女の姿を見れただけで幸せだと思っていればいいのか?
こんな悪意の塊の様な「お預け」をして…。
俺に何をさせたい。アイツから奪えと?
時間を掛けて振り向かせろとか言うんじゃないよな?
━━そんな悠長な事、言っていていいのか?━━
俺の中で声がする。
俺が聞きたく無い、認めたく無い事を言い続ける、心の深い場所に閉じ込めた俺の本心が俺に語り掛ける。
ディアーナの魂は、半身であるレオンハルトと結ばれる為に存在する。
今のディアーナが誰を好きであろうと、それは変わらない。
だからディアーナが殿下とやらと結ばれそうになるとすれば、彼女の魂はそれを許さない。
それはディアーナの今生を絶つ死に繋がる。
「……!だ、駄目だ…!
ディアーナがディアーナの姿で死ぬなんて…そんなもの見てしまったら…!」
絶対に俺は死ぬ。
身体が死ななくても心は死ぬ…!
ディアーナ自身の死を目の当たりにして、耐えられるハズが無い!
力ずくで無理矢理にでも奪い取れば良いのか?
違う、そんな事をしても彼女の心が俺に向かなければ意味が無い。
彼女の心に住み着いた、あの男を排除しないと…!
ふと…
香月が眠りについた時に手にしていたゲームを思い出した。
そのパッケージに描かれたイラスト。
香月が苦手な少女漫画的な美麗イラストで、意地の悪い顔付きのディアーナと、あの殿下と呼ばれた男が描かれていた。
だが、一番大きく描かれていた少女は…金色の髪に翡翠の瞳の美少女。
レオンハルトは自身の顔に触れる。
創造神と呼ばれる父に創られた自身の姿を思い出した。
まばゆい金色の長い髪に翡翠色の瞳を持つ、神の御子レオンハルト。
「親父…あんたが俺をオモチャにしたいのが良く分かったよ。
ムカつくけど乗るわ。」
レオンハルトは、自身の身体に魔法をかける。
身体に光の粒子を纏わせ、そこに映像を映す事によって人の視覚を欺く魔法。
レオンハルトはゲームのパッケージに描かれたのと全く同じ、金色の髪に翡翠の瞳の美少女になっていた。
暗い森の中で、ボウッと淡く光りながら集まる小さな光の粒たち。
やがて光の粒子は人一人分の形を成し、その場に一人の男を生み出した。
男は空気と自分の身体にはっきりとした境界を感じると、ゆっくりと目を開いた。
砂粒より細かな光の粒子から、人の身体になった自身を確認する。
顔に触れ髪に触れ自身の顔は見れないが、手指の爪など身体の端々や、服装を確認していく。
そして、男は場所を確認するために辺りを見回し、それから空を見上げた。
美しい夜空だった。
丸い月は煌々と輝き、散りばめられた無数の星は月を飾るように並ぶ。
その星の並びを見た瞬間、男の涙が頬を伝う。
「俺達の生まれた世界だ…。」
レオンハルトは、手の甲で涙を拭った。
異世界に転移されている時の、レオンハルトではない誰かの姿をした仮りそめの身体ではない。
間違いなく、自分自身の肉体だ。
普段は忌々しくしか思えない身体に走る亀裂でさえ、ここが自分達が居るべき世界だと肯定しているようで頼もしく感じる。
この世界に俺が居るって事は…ディアーナも、この世界に居るって事だ。
どんな姿で?どんな名前で?男なのか女なのかも分からない。
それでも俺は彼女を見付ける。
必ず見付ける…そして…今度こそ、愛していると伝えたい。
そして…香月を守れなくてごめんと…謝らなくては…。
レオンハルトは月に照らされた夜の道を歩き出した。
翌日━━━━
レオンハルトは王都に居た。
レオンハルトは導かれるように、必ずディアーナの側に現れる。
今回も、思うままに歩いたレオンハルトが辿り着いたのはディアーナの近くだった。
「お待ちになって、殿下!」
「あまり、くっつかないでくれディアーナ嬢」
王都にある貴族の子息や令嬢ばかりが通う魔法学園。
その学園の課外授業が街中で行われていた。
学年に関係なく、授業に参加している多数の生徒たち。
その中の一人。
ディアーナ嬢と呼ばれた少女の姿にレオンハルトは震えた。
緩く波打つ夜空の様な藍色の長い髪に金色の瞳。
触れる事も出来ない精神体で、千年以上前にたった一度だけ逢った、愛を誓った、魂の半身ディアーナが
その時と違わぬディアーナの姿のまま、そこに居た。
なんて事だ!ディアーナが、ディアーナのまま、そこに居る!
触れたい…抱き締めたい…!
愛していると何度も囁きたい…!
俺の全てを賭けて君を愛したい…!
魂の半身である彼女を求めてレオンハルトの足が一歩前に進む。
「お慕いしておりますもの…殿下はわたくしの婚約者ですから…。」
僅かな声も聞き漏らしたくないと、ディアーナの言葉を耳にしたレオンハルトの足が止まった。
ディアーナが、殿下と呼ぶ男に向ける視線に血の気が引く。
淡く頬を染め、好意を寄せていると語る金色の美しい瞳。
━━俺が…俺が…!俺が!俺が!俺が!!
望んで、願って、苦しんで、血を吐く思いで欲しても欲しても手に入れられなかったものを、いとも簡単に手に入れている貴様は…!!
興味無さげにディアーナを遠ざけようとする…!
何なんだ貴様は………!!
嫉妬なんて、優しい感情ではなかった。
殺意にも似た憎しみと、それとも愛し合う関係で無かった事を喜ぶべきなのかと、様々な感情が複雑に絡まり過ぎて視界がグラリと揺れる。酔いそうになる。
吐きそうだ…何だこれは…。
俺は…彼女の姿を見れただけで幸せだと思っていればいいのか?
こんな悪意の塊の様な「お預け」をして…。
俺に何をさせたい。アイツから奪えと?
時間を掛けて振り向かせろとか言うんじゃないよな?
━━そんな悠長な事、言っていていいのか?━━
俺の中で声がする。
俺が聞きたく無い、認めたく無い事を言い続ける、心の深い場所に閉じ込めた俺の本心が俺に語り掛ける。
ディアーナの魂は、半身であるレオンハルトと結ばれる為に存在する。
今のディアーナが誰を好きであろうと、それは変わらない。
だからディアーナが殿下とやらと結ばれそうになるとすれば、彼女の魂はそれを許さない。
それはディアーナの今生を絶つ死に繋がる。
「……!だ、駄目だ…!
ディアーナがディアーナの姿で死ぬなんて…そんなもの見てしまったら…!」
絶対に俺は死ぬ。
身体が死ななくても心は死ぬ…!
ディアーナ自身の死を目の当たりにして、耐えられるハズが無い!
力ずくで無理矢理にでも奪い取れば良いのか?
違う、そんな事をしても彼女の心が俺に向かなければ意味が無い。
彼女の心に住み着いた、あの男を排除しないと…!
ふと…
香月が眠りについた時に手にしていたゲームを思い出した。
そのパッケージに描かれたイラスト。
香月が苦手な少女漫画的な美麗イラストで、意地の悪い顔付きのディアーナと、あの殿下と呼ばれた男が描かれていた。
だが、一番大きく描かれていた少女は…金色の髪に翡翠の瞳の美少女。
レオンハルトは自身の顔に触れる。
創造神と呼ばれる父に創られた自身の姿を思い出した。
まばゆい金色の長い髪に翡翠色の瞳を持つ、神の御子レオンハルト。
「親父…あんたが俺をオモチャにしたいのが良く分かったよ。
ムカつくけど乗るわ。」
レオンハルトは、自身の身体に魔法をかける。
身体に光の粒子を纏わせ、そこに映像を映す事によって人の視覚を欺く魔法。
レオンハルトはゲームのパッケージに描かれたのと全く同じ、金色の髪に翡翠の瞳の美少女になっていた。
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