【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第二章【王太子と海の巫女】

42#拐われた海の巫女。

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ここ最近、人里を離れた場所ばかり旅をしていたのだが、今回久しぶりに少し大きめの町に入った。

小さな村では手に入りにくい物で、いくつか調達したい物もあったし、都合が良い。


「わざわざ町で買わなくても、城に転移してクスねて来いよ。」

神の御子の言葉とは思えない事を言うレオンハルト殿。

「王室御用達の火打ち石とか…?
んなモンあるか。馬鹿じゃないですか?」

少しばかり、レオンハルト殿を小馬鹿にして見下した言い方をする。
レオンハルト殿は楽しそうに、不敵な笑みを浮かべた。


「言うようになったな、お前!俺に溺れていた素直なスティーヴン殿下、どこ行った?!」


「私が溺れていたのはオフィーリアで、しかも、そのオフィーリアは私の妄想による理想の性格ですよね?
幻覚魔法使っていただけのレオンハルト殿要素ひっとつも無いですから!」


笑顔でにらみ合う私とレオンハルト殿。


「ウィリア、変態とおかんはほっといて、二人でショッピングしながら女子トークに花を咲かせましょうか!」


ディアーナ嬢はウィリアとカップルのように腕を組んで町に消えて行った。







「この町って、ウィリアの居た海の町スマザードと同じ位の規模かしらね。
海に面してないから雰囲気は違うけど。」

ディアーナは露店に並ぶ商品を手にして眺めながら、アクセサリーはウィリアに合わせてみたりする。

「…そうですわね…スマザード…。もう数ヶ月経ちますけれど、あれから、どうなったのでしょう…。」


ウィリアは少し遠い目をする。
スティーヴンからは、あの町の者達の処分について何も聞かされていない。


「何よ、殿下は何も教えてくれないの?」


「ええ、スティーヴ……いえ、殿下からは何も…。」


「わざわざ言い直さなくていいわよ。
私がスティーヴンを殿下と呼ぶのは婚約者だった時のクセみたいなものだから。
ウィリアは殿下にスティーヴンと呼ぶ事を許されたんでしょう?」


「そうですが、わたくしのような者が王太子殿下を……はっ!!」


ディアーナが何か言いたげにウィリアを見ている。睨んでいる。

何かと言うか、あの顔はもう「うぜぇわ!」としか言わない。


「き、気にしない事にしますわ!旅は楽しく!買い物も楽しく!ですわね!ディアーナ様!」

ウィリアは不自然に元気さをアピールする。
悩みなんて、ありません!的に。

「ウィリア……無理しないで…ね?」


━━ええぃ!無理をさせてんのは貴女でしょうが!!━━

そう思ってしまう自分に苦笑いしてしまうウィリア。

旅をする前の、あの町に、自分の罪の重さに、囚われたままの自分だったら、絶対に思わなかっただろう。
ディアーナ嬢いわく、いわゆる「ツッコミ。」


「あ…そういえば、わたくし町に着いたらスティーヴンと一緒に探したい物がありましたの!」


「へぇ、なあに?お揃いのナニか?」


キラキラな目で恋をする女子的な答えを待つディアーナ嬢。


「お揃い…と言えばお揃いなのでしょうか?
四人ぶんのナイフ、フォーク、スプーンあたりですわ。
……この間、誰かさんが握って折ったので…。」

「………その節は、まことに申し訳なく……レオンに腹が立ってつい…。」


その誰かさんのせいで、暫くは木の枝を刺して食事をしていた。食べにくいったらない。

「わたくし、スティーヴンを呼びに戻りますわ。」

「一人で大丈夫?なんかフラグ立ってない?」

「?フラグ?」


意味が分からないウィリアは、ディアーナから離れて人混みをかき分けながら、町の入り口付近に戻った。


町の入り口に辿り着いたウィリアは辺りを見渡すが、移動したのかレオンハルトとスティーヴンの姿は無かった。


「いつまでも、ここに居るわけありませんわね…困りましたわ…。」


はぐれたとしても、ディアーナ嬢とウィリアの髪色は珍しく、目立つから、すぐ見付かるだろうと、ウィリアは入り口付近にある噴水の縁に腰を下ろした。


そう、目立つ。


「見付けたぞ、ウィリア…!この裏切り者め…!」


ウィリアは男に腕を掴まれた。
男の顔を見てウィリアがヒュッと息を飲む。


スマザードに居た町の長達の一人、その男の息子でウィリアを口説き続けていた男がそこに居た。


腕を掴まれたウィリアは眉間にシワを寄せ、男を蔑むような目で見る。


「その手を離しなさい…クーパー…。
巫女である、わたくしに男が触れるのは禁じられている筈です。」


「インチキ巫女が、偉そうな口をきくんじゃねぇよ!
テメエのせいでな、オヤジや町の長達はラジェアベリアの牢獄行きになった!」


クーパーと呼ばれた三十路半ば程の男は、不精ひげをはやし腰に剣を携えている、ガラが悪い、という表現がピッタリ当て嵌まる見た目をしている。


噴水の前で、そんな男に腕を掴まれているウィリアは、はたから見たら悪い男に絡まれている、キレイなお姉さんだ。
当然、人の目が集まる。


「チッ…人目につくな…来い!」


「…!クーパー!離しなさい!」


クーパーはウィリアの腕を掴んで無理矢理引っ張り、路地裏に連れて行った。


ウィリアは、掴まれた腕を振り払って逃げるつもりだった。

ディアーナによって多少の自衛手段を教えられたウィリアなら、それも可能だったのだが…ウィリアは、クーパーの呟いた一言で抵抗をやめた。


「エイリシアを俺の女にするハズだったのによぉ…この際、そっくりな娘でも…」


嫌悪感が憎悪に変わる。逃げたい相手が、殺したい相手に変わる。


━━母を俺の女ですって!?…母が、お前なんかの女になるものか!

俺の女…何て下卑た言い方!何て汚い言い方!

……あら?この言葉、どこかで聞いたわ…。━━


クーパーはウィリアを連れたまま、半地下の物置のような場所に降りて来た。

少し高い位置に明かり取りらしき窓があるが、そこに時々見えるのは道を行き交う人の足。

助けを求めても恐らく聞こえない。
足元にある小さい窓など誰にも気にもされないだろう。


狭く薄暗い部屋で二人きりになるとクーパーはウィリアを窓の下に追い詰めるようにし、自身は出入口を背に立つ。


「今までみたいに、オヤジ達の言う通り巫女のふりして占ってりゃ良かったのによ、最後の最後で、あんなくだらねぇインチキ占いなんかしやがって!」


「インチキですって!?幼い頃から、ずっとそうだったわよ!
あなた達の都合の良い、占い結果とやらを言わされていたわ!
人の土地や財産、果ては命まで取り上げるような嘘をね!
でも…最後のは違う…違うのよ!」







時、同じくして町の入り口付近、噴水の前。


頭を抱えて噴水の縁に座るスティーヴンと、ヘラヘラしているディアーナ、そんなディアーナを背後から抱き締めているレオンハルトの3人が、ウィリアの所在について話し合っていた。


「フラグ立ってんなぁって、思ったのよね!実は!
でも、折るより回収かなって思ったわけで…。」


「ディアーナ嬢…意味が分からない…。
今、分かるのは…ウィリアが危険な目にあってるかも知れない事。
…怯えて…不安で…泣いてるかも知れない…。」


「はぁ!?あのねぇ!殿下!」


スティーヴンの言い方にカチンと来たディアーナが口を出そうとするのを遮るように、レオンハルトが背後からディアーナの口を押さえる。


「お前、そういう所は学生の時と変わってないのな。
女の子は弱くて守らなきゃいけないモノだと思い込み過ぎだ。
ウィリアは、強い女だぞ?……お前の隣に立てる位にはな……。」


スティーヴンは意味が分からず、青白い顔のまま目の前に居る三人を見つめる。


三人………?


「師匠!いや、おとん!」

「なんでテメエが居やがる……ジャンセン。」

いきなり現れ、シレッと隣に立つジャンセンから隠すように、レオンハルトがディアーナを抱き込む。


何か、餌を盗られたくなくて隠す猿のように見えるのは…なぜだろう。スティーヴンがそんな表情をする。


「私、スティーヴンに1つ言い忘れてまして。転移魔法について補足を。」


「私に……?…転移魔法…今さら…ですか?」


もう数ヶ月前に使えるようにして貰った転移魔法、今さら何を?


「あの転移魔法は私がスティーヴンに馬鹿兄妹の世話と、ウィリアの世話を頼んで、その為に与えたものでしょう?」


━━あ、やっぱり私に三人の世話をさせる気だったんだ。
ジャンセンこの野郎。━━


「……今、私の事をこの野郎と思ったかも知れませんがね。
その転移魔法は、そこに居る馬鹿兄妹の居る場所と、ラジェアベリアの城の玉座の前と、ウィリアの近く、の三ヶ所に転移出来るのです。」


━━ちょ、怖い!この野郎と思ったのバレてる…。
けど、ウィリアの近くに転移…?近く?━━

スティーヴンが噴水に腰掛けたまま不思議そうな顔でジャンセンを見上げる。


「いきなり本人の前に転移して、入浴中や着替え中だったらどうするんです?
あなたが紳士であるための私の配慮ですよ。」


「なあ親父、俺達の場合は王子サマ、ど真ん前に転移してくるんだが…。」


「お前らに羞恥心なんかあるか。
入浴中でも、着替え中でも、やらしい事の真っ最中でも目の前に転移されてしまえ。」


兄妹喧嘩だけでなく、親子喧嘩も見せられるのか?
そんな、うんざりした顔でジャンセンとレオンハルトの言い争う姿を見ていたスティーヴンが拳を握り、強く頷いた。


「私は、ウィリアの所に行きたいです!」

固い決意を胸に、スティーヴンが噴水から立ち上がる。


「行けばいいじゃないですか。勝手に。」

ジャンセンはスティーヴンの隣、噴水の縁に腰掛け、めんどくさそうに気だるく呟く。


━━ああ、あなた……そうか!頑張れ!って後押ししてくれるタイプじゃないのでしたね…。━━



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