【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第二章【王太子と海の巫女】

41#ウィリアとスティーヴン。

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令嬢であるディアーナ嬢の砕け過ぎた言葉遣いに驚き、凍り付いたウィリア嬢は涙も止まり、信じられないものを見るようにディアーナ嬢を凝視している。


「あんまりウダウダ言っていると、レオンが町をプチりたがるからやめなさい!」


そのレオンハルト殿に目をやると、彼はまだ空気椅子を続けていた。


「あの…ちなみにディアーナ嬢、なぜレオンハルト殿はあのような事を…何かの罰ですか?」


私は尋ねながらディアーナ嬢が膝から降りた後も空気椅子を続けているレオンハルト殿を目線で指した。


「え?殿下が居なくなって二人きりだって気付いた途端、愛してる!とか言って襲い掛かって来たので。あの変態が。」


ディアーナ嬢の答えに、ああ、と小さく頷く。

そして私は冷ややかな目でレオンハルト殿を見る。

ある意味、期待を裏切らない人だと尊敬もするが…。


こんな少女の尻に敷かれる男が、気分次第で町を破壊するだけの力を持っているのだから…世も末だ。

まあ、あの面倒臭い親の御子だからな…。
二人揃って本当に面倒臭い人だ。いや、神なんだけど。


「あの…ディアーナ嬢さえ良ければ、しばらくウィリア嬢を旅に同行させたいのだが…どうだろう?」


決定権はディアーナ嬢にあるだろうから、レオンハルト殿は無視する事にした。
私の申し出に、ウィリア嬢が慌て出す。


「わ、わたくしがレオンハルト様達の旅に同行ですか?!
そんな…お役に立てませんし、足を引っ張るだけですわ!」


「役に立てなくて落ち込んだなら、背後から抱き締めて貰えばいいのよ、殿下に。」


慌て出したウィリア嬢の肩をポンと叩いたディアーナ嬢が、ニヤリと意味深な笑みを浮かべて答えた。

ブフォ!!ナニ言ってんだ!?私は思い切り噴き出した。


役立たずだと落ち込む所を背後から抱き締められ慰められる。
その流れ、ディアーナ嬢がレオンハルト殿にアッパーとやらをお見舞いした時の流れだよな!?

しかも、そのあとディアーナ嬢、拐われてるし。


いやいや、それより…私がウィリア嬢を抱き締めるのか?

私!?

私の反応を見ていたディアーナ嬢がポツリと呟く。


「抱き締めるの、私でもいいけど…。
そんなおっきいの、きっと揉んじゃうわ…レオンは論外でしょう?」


「……では、殿下にお願いしたいです……。」


何かに怯えたウィリア嬢が、消去法で残った私の名を挙げた。

そもそもなぜ、背後から抱き締めるのが前提?
しかも揉んじゃうの!?ディアーナ嬢が?









「ウィリア、レオンハルト殿とディアーナ嬢は…?」


「レオンハルト様なら、あちらでディアーナ様に新しい技をかけられておいででしたわ…。」


「そうか、なら暫くは静かだな。…今の内に食事の仕度をしようか…ウィリア、あれ取って。」


「はい、火打石ですね。」


ウィリアと二人で夜営の準備を始める。

ウィリアは食材を切り調理を始め、私はその間に石を組んで火を起こす準備をする。

私とウィリアは、あれ、それ、で会話が成り立つ様になった。
何か…熟年の夫婦みたいになってないか…?

ときめく暇もなく。




ウィリアを旅に同行させて、もう二ヶ月が経つ。

城から連れ出したばかりの頃とは違い、ウィリアは暗く思い詰める事が無くなった。
と言うか、思い詰める暇が無い。


神の御子夫婦の、あの二人のドタバタに巻き込まれると、悩んでいる事が馬鹿馬鹿しくなる。


夫婦喧嘩や兄妹喧嘩を止め、魔物や、魔獣を退治し、たまに寄る町や村で見知らぬ人との交流。


幼い頃から巫女として、あの町に囚われていた彼女には何もかもが新鮮で刺激的だったろう。


「ねぇ、ウィリアはジャンセンが何者か知ってるの?
あれねー、一応私達の父親なのよ。」


食事をしながら、ディアーナ嬢が楽しそうに話す。


「え?…あの、黒髪の若い男性がディアーナ様の…え?私達?」


意味が分からないと混乱した様子のウィリアを他所に、レオンハルト殿とディアーナ嬢が私を見てほくそ笑む。


「親父から許しが出ているって事は…まぁ、そうなんだろうな。」


親父?ジャンセンの事だな。何の許しだろう。
レオンハルト殿はニヤニヤしながら私を見る。
ウザいぞ、神の御子。


「あの黒髪のジャンセンって若者はね、創造主なのよ。
この世界を造った神様みたいなもので、私とレオンの父親でもあるの!
でも、これは本来、代々国王しか知ってはいけない事なのよ。」


「!!なぜ、そんな事をわたくしに教えてしまうんですの!?」


焦るウィリアを見て大はしゃぎのディアーナ嬢。
そして私を指さして、ウェーイと言っているバカ…いや、レオンハルト殿。

何なんだ、このバカ夫婦。イラッとするんだけど。




ちなみに

戦闘時において、ウィリアは役立たずでは無かった。

元々が巫女という立場ゆえか、魔力もそこそこある。

攻撃魔法は使えないが補助的な魔法が使え、主に私をサポートしてくれる。


レオンハルト殿とディアーナ嬢に関してはサポート必要無し。


いや、レオンハルト殿は身体の劣化さえ無ければ、ほぼ無敵の強い人だってのは分かる。


ディアーナ嬢、いつの間にそんな強くなったの?

ジャンセンから渡されたらしい短剣と、蹴りと拳でザコ魔獣位ならサクサク倒していく。満面の笑顔で。

全身凶器になってるじゃないか。
……ちょっと、おっかない……。



だからですね、ウィリアを背後から抱き締めて「君は役立たずじゃないよ」なんて慰める機会は無いんです。


そんな顔で睨まないで下さいよ、ディアーナ嬢…


戦闘が終わったばかりの貴女、ギラギラに興奮していて怖いんですから。


「………チッ…ヘタレが……」


なんだ、その呟き!ディアーナ嬢!

自分がヘタレ卒業出来たの、誰のおかげだと思ってんだ!


「よく頑張ったな!さすがディアーナ!愛してるよ!」


ディアーナ嬢に唇を突き出してハグしようとして、足払いをかけられているレオンハルト殿。


そんな無意味なお手本も必要ありません。


第一、私がウィリアにいきなりハグして「愛してる!」とか、おかしいでしょう?変態呼ばわりされますよ。


……ああ、そういえば貴方、変態でしたね……。






目まぐるしく過ぎる日々。疲れる…だが、楽しくもある。

夜営の準備をする時だけ、私はウィリアと二人きりになる。

ウィリア嬢は美しい人だ。

そんな彼女の事を見ていてしまう私が居る。


初めて逢った時のように、レオンハルト殿いわく「豊満我が儘ボディ」を全面に押し出して女らしさをアピールする事はなくなった。


短い旅の間に色んな事を学び、吸収して、精神的に脆くなっていた部分も見られなくなった。

よく笑い、喜び、驚き、色んな表情を見せてくれるようになった彼女は……振り回されているよね、私同様あの二人に。


「殿下が、お城でおっしゃっていた、レオンハルト様と付き合っていたら身が持たない…今ならすごく分かりますわ…。
あの方のお相手は、ディアーナ様以外には無理です。」


「だろう?だが、ディアーナ嬢の相手も彼以外には無理だと思うよ。
……実は、あのディアーナ嬢は元々が私の婚約者だったんだ。」


ウィリアが驚きの表情を見せる。

私は彼女の、この表情がとても好きだ。

水色の長い髪に同じく水色の瞳、その目が大きく開かれる。


「フラれたんだけどね、私はレオンハルト殿に。」


「はぁあ?」


いかん、話す順序を間違えた。



それから私は、順を追ってウィリアに今に至るまでの旅について話した。


「ああ、それで…殿下はおかんと呼ばれているのですわね。」


食い付く所、そこ?


私、あの二人がどんなに永い時を経て結ばれたのか、千年を越える時を経て想いが繋がったのか、ドラマチックに語ったつもりだったんだけど。


「世話焼きなのですわね、スティーヴンは。
…だからわたくしの事も、ほっておけなかったのですわね…。」


あ…ウィリアが私を呼び捨てにしている…。


「だから、あのジャンセンとか言う…神様も、スティーヴンに世話を頼んじゃうのですわ。」


気付いてる?ウィリア。君、私を呼び捨てにしている…。


距離が詰まった気がして、私は…嬉しくて…顔が熱くなっている…。


「ねぇ、殿下…わたくし、おかんツーと呼ばれてますのよ?
これ、殿下のせいですわよね?」


殿下に戻った…。たまたまだったのか…?


「ムカついたから、わたくし、これからは殿下の事をスティーヴンって呼び捨てにしますわ!」


腰に手を当て、ふんぞり返るように大きな胸を張る。

誰に教えられたか、言うまでもない言葉に態度。

不敬?そんなもの、今さら何だ。

ウィリアと私の距離が縮まったのに、それを責める理由など何も無い。


「ああ、ウィリア!それで構わない!」

私はウィリアの手を握った。まぁ、握手だな。

背後から姿は見えないが声がする。


「…そこは抱き締めてだろうが……このヘタレ王子が。」


ディアーナ嬢……おそらくレオンハルト殿も居るな……。

この変態夫婦め、覗くのヤメロ!!



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