【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第二章【王太子と海の巫女】

39#王太子殿下に相談。巫女は混乱。

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神の御子レオンハルト殿と、令嬢ディアーナが結ばれたと聞いた私は、心の底から二人を祝福した。


かつての婚約者と、かつて恋をしていた相手が夫婦となったと…。
言葉に出すと何だか複雑な気がしないでもないが、レオンハルト殿のディアーナ嬢に続く永く苦しい旅路を垣間見た事もあって、私は二人が心を通わせた事を涙を流して喜んだ。

「「おかんか!」」

よく分からないが、レオンハルト殿とディアーナ嬢が口を揃えて言っていた。


「二人が結ばれたと言う事は…旅は終わるという事ですね?
ああ、お二人の婚儀も行わないと…。」


「なんで?」


ディアーナ嬢がキョトンとした顔で言う。


「な、なんでって…ディアーナ嬢は、ディングレイ家の令嬢なんですよ?…て言うか、女性はそういうのに憧れるものでは?」


女性とは、結婚式に憧れを持つものだと、それが当たり前だと思っていたのだが…。


「私はディングレイ家とは関係無いわよ?それに婚儀とかめんどくさいし。」


「なぁ王子サマ、ディアーナの父親はジャンセンだぞ?分かってるか?」


「はぇ!?ジャンセンが父親!?」


おかしな声が出た。

レオンハルト殿の衝撃的な報告に頭痛がしてくる。


「…神の御子よ、我々凡人には、神の御心など解る訳も無く…」


「いや難しく考えなくていーから。とりあえずこのまま旅は続けるつもりだ。
スティーヴンはどうしたい?
一緒に旅を続けるならそれでいいしな。」


少し意外に思った。

長い刻を越えて二人が心を通わせたならば、私は邪魔なのじゃないかと…。

愛し合う二人が寄り添いながら愛を育んでいくような…二人きりでそんな旅をするのかと思っていたのだが。




「レオンは愛している愛している言い過ぎなのよ!大安売りか!」

「言わずにいられるか!どれだけ我慢したと思ってんだ!
だって本当に愛しているんだ!ディアーナ!」

「うるッさいわ!黙れ!」


何も変わってなかった。


むしろオープンになり過ぎて遠慮が無くなり、イチャイチャどころかバトルになりかねない時もある。

私にはよく分からないが、ディアーナの前世にいた香月という女性が、好戦的であるらしい。

まぁ…それで二人が幸せなら…まぁ…それでいいか…。




旅は続けたまま、ディアーナ嬢に対して以外にはほぼ無敵になったレオンハルト殿が魔物も魔獣もサクサク倒して行く。

あんなに辛そうだった浄化も、本人いわくバーンと終わらせているらしい。


出来の悪かった息子の成長を喜んでいるような気分になるのは何故だろう。


「「おかんか!」」


二人の声が聞こえそうだ。



食料の調達に出た二人と離れ、一人夜営の準備を進める。
調理は私が担当する事が多い。
あの二人に任せると、火に放り込んで焼くか、ナベに湯を沸かして茹でるかしかしないからだ。

暗くなりかけた森の入り口付近、木の陰から怪しい男が私に向かって手招きをする。
思わず目を逸らしてしまった。見なかった事にしたい。
無理だ。一瞬だが目が合ってしまった。


見たくなかった…。会いたくなかった…。

怖いから!


「殿下、ちょっと相談。」


黒い髪に黒い瞳、黒い旅装束で腰に刀とかいう剣を携えた青年
ジャンセンが居る。木の陰から手招きしている。


二人が結ばれた時に、安心しましたとか言って昇天しなかった!?


いや、死んだわけではないか。


「そ、創造主様…お久しぶりです…10日ぶり…」

無視する事が出来なかった私は、木の陰に近付く。
ジャンセンは満面の笑顔を見せた刹那、間合いを詰めた。


「その名で呼ぶのは厳禁です。プチっといきますよ?殿下。」


感情の見えない怖い笑顔のジャンセンが、私の首筋に刀の刃を当てた。

それにしても神の御子、嫌な言葉を身内に流行らせたな!


「で、ではジャンセン…私に相談とは?」


レオンハルト殿にではなく、私に相談?
名を呼び直した事に納得したのか、刀を鞘に納めたジャンセンが小さく頷く。


「たいした事ではないのです。
あのウィリアとかいう女の話し相手になってくれたら。」


「ウィリアさんの…?」

海の巫女であるウィリア嬢は、先日ジャンセンに頼んでラジェアベリアの王城に送って貰ったが…。


「ええ。預かった殿下の書簡と一緒に王の前に放り出して来たのですが。」


ほ、放り出して!?それ、例えだよね?


「玉座の前に転移して、王の前にウィリアを放り出して…書簡を王の近くにいた誰かに投げつけて…帰りましたよ?テントに。」


はああ!?


「あの日は、私の子供たち二人が結ばれるかどうかが決まる大事な日だったんですよ。
それ以外の事は知らん!」


最悪だ!この創造主!この世界の唯一神って、こんなん!?

    





ジャンセンがスティーヴンの前に現れた10日前。

この後、泉にて運命の邂逅を果たすディアーナが鍾乳洞での落石によりテントで眠りこけていた頃。


生まれて初めて目にした豪華絢爛な場所に唐突に投げ出されたウィリアは困惑していた。


ウィリアは自身を落ち着かせる為に、頭の中で事の成り行きを整理していく。


━━わたくしは、いきなり目の前に現れた母の姿をした魔物に拐われてしまいました。

わたくしを人質にしてディアーナ様をも拐った魔物、はわたくし達を鍾乳洞に…。

そこへ現れたレオンハルト様達が母を…いえ、母を操っていた魔物を倒しましたわ。

魔物に操られていた母の亡き骸が魔物の消滅に伴い消えて無くなった時、わたくしは悲しみにうちひしがれ…る暇もなく、目の前のおかしな状況に翻弄されました。


ディアーナ様が落石のせいでお倒れになると、レオンハルト様が鬼のような形相になり、呪いの文句のようにプチプチ言い出しました。

レオンハルト様を抱いて鍾乳洞に現れた黒髪の神秘的な容姿の青年は、レオンハルト様が町を破壊しようとするのを「すれば?」と賛成。

わたくしは二人が恐ろしくなり「お慈悲を!」と泣いて縋りました。



すると、黒髪の神秘的な青年はわたくしを……



まるで荷物を扱うかのように脇にかかえ込み、転移魔法とやらでこの場に連れて来たのです。
この場所、どう見てもお城ですわよね!?


それにしてもこの人、男性であるレオンハルト様は横向きで抱きかかえていたのに、なぜ女のわたくしを荷物扱いするのかしら…。



しかもお城に着いた途端、わたくしはドサリと国王陛下の前に放り出され、その黒髪の青年はよく分からない巻物を誰かの顔面に向かってベシッと投げつけて姿を消したのです。



「「「………………」」」



その場にいた国王陛下をはじめ、側近の方々や近衛の方々…国の重鎮の方々とわたくしは、何が起こったか分からずに互いの顔を見て硬直したまま、誰も言葉を発せずにおりました。


顔面に巻物を投げつけられた方がその中を見て、初めてわたくしが誰か、わたくしを連れて来た男性が誰か、この事態の発案者が誰か分かったようで。

陛下に耳打ちする様にして何やらお伝えしたようでした。
国王陛下は、大きなため息をつきながら胸の辺りを撫でさすり、わたくしにお尋ねになりました。


「その方、ウィリアといったか…私が誰か分かるか…?」


「は、はい…ラジェアベリア国王陛下。
…スティーヴン王太子殿下のお父君にあらせられる……」

わたくしは、ぎくしゃくと立ち上がり、汚れたドレスの端を摘んで慣れないカーテシーを致しました。


「書簡は間違いなくスティーヴンの字で、そなたの町で起こった事の報告や、それによりウィリア嬢を保護して欲しい旨書かれておるのだが…。
最後にな、スティーヴンではない字で、スティーヴンを語って追伸がしたためてあってな…。」


「追伸…ですか?一体どのような…?」


「…うむ…では読むぞ、『コイツ、俺の女だから』」


「なんですって!?」


わたくしが王太子殿下の女!?はぁ!?

誰よ!そんな事を書いたのは!
そんな言葉を国王陛下に読ませたのは!

余りの驚きに、ドレスの端を摘んだまま棒立ちになってしまいました。


「…うむ…悪いがウィリアよ。
そなたを此処に連れて来た青年、我々はあの者の意向を無視するわけにはいかんのだ…よって…!」


「はい…?」


「皆の者!この者、ウィリア嬢は!スティーヴンの女である!」


「はいー!?」



陛下が大々的に公言してしまいました。

小さな港町の海の巫女の私が…王太子殿下の………!



……ちょっと待って、女ってナニ?

想い人とか、婚約者とか…そんな、高望みしなかったとしても!
「女」って何なの!?結局のところ!

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