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第一章【悪役令嬢ディアーナに転生】
38#【1章完結】愛する世界に祝福を
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ラジェアベリア王国では、今、先代国王が死の淵に居た。
スティーヴン・マルムス・ラジェアベリア。齢88歳。
若い頃は神の御子や、その妻である月の聖女と共に旅をしていた冒険者でもあった。
人に優しく、人の話を良く聞き、時たまユーモアのある言動をしたりする。
とても国民に愛された王であった。
旅の途中で出会った海の巫女を妻に迎え、夫婦仲は睦まじく、二人の王子と二人の王女をもうけた。
66歳の時に妻に先立たれ、愛する妻を亡くした辛さから第一王子に王位を譲り、王都の端にある林の近くの城で隠居生活を送っていたのだ。
「……私は…もう、死ぬの…だな…。」
最期は誰にも看取られたくないと、人払いをしてある。
大きな大きな満月の夜。
開け放たれた窓からは月の明かりが射し込む。
王は昔を懐かしむ。
人はこれを走馬灯と呼ぶのか…。
スゥ……呼吸が途切れようとした時、懐かしい声がした。
「殿下!殿下!お久しぶりですわ!」
突然、聞こえた声に驚き、最早ベッドから起き上がれない身体で窓の方に目を向ける。
大きな満月を背に、若いままの姿のレオンハルトとディアーナが抱き合うようにして浮いている。
レオンハルトの金の髪と、ディアーナの藍色の髪が、月の明かりを受けキラキラと輝く。
「…ディアーナ…嬢…レオン…ハルト殿…」
声を出すのもままならない。
二人の姿を見るのは、60年ぶり位だろうか?
「ディアがな、またお前と旅がしたいってな。」
「だって、楽しかったんだもの!殿下がおかんで、師匠がおとん!」
懐かしい会話のやり取りに、声は出ないが笑う。
ああ、楽しい…。
「殿下、私たちと一緒に旅をしませんか?
殿下が望むなら、殿下が亡くなった後に新しい身体を用意します。魂をその身体に入れて…また、一緒に行きましょう?」
ディアーナは部屋の中に降り立ち、スティーヴンのか細いシワだらけの手を優しく握った。
「ディアーナ…嬢…すごく…嬉しい申し出だが…私は、行けないよ…」
レオンハルトはディアーナに続き部屋の中に降り立ち、スティーヴンの傍らに立つ。
「何で?」
答えは分かっていて、あえて聞く。
「私は…ウィリアを…愛している…だから、待ってくれている彼女を…一人にさせたくないんだ…。
レオンハルト…殿なら…分かるでしょう…?」
「…ああ、分かるよ…。」
レオンハルトの笑顔は優しく、優しく、スティーヴンに向けられている。
そして、そんな二人のやり取りを見ているディアーナもまた、優しい笑みを零す。
「お父様にお願いしておきますわ。殿下とウィリアさんの魂が、また巡り合うようにと。」
「…ジャンセンに…?それは…怖いな…はは…」
苦笑するスティーヴンにディアーナは近付き、頬に親愛の口付けをする。
「殿下…おやすみなさい…また逢う日まで…」
返事は無かった。
幸せそうに眠りについた、年老いた男の遺体だけがそこにあった。
ラジェアベリア王国では先代国王の死を悼み、国葬が行われた。
歳は五十代半ば程だが、どこかスティーヴンに似た王の隣にレオンハルトとディアーナが立っている。
「父と母から、お二人様の事は聞いておりました。」
深く頭を下げる王に、頭を掻いて空を見るレオンハルト。
「どんな話だか…なぁ?」
「そうですね…父を誘惑したオフィーリア嬢だった話だとか、ディアーナ様に殴られて喜んでいた話ですとか…あと、御子様はかなりヘタレで変態だとか……プッ。」
ちょっと噴き出した王。
父親の葬儀の最中に噴き出すって。
「ろくな話じゃないな!つか、あんた、まんまスティーヴンの子供だ!」
ディアーナは二人を見て笑う。
懐かしい…。
━━殿下、ウィリアさん、あなた方の御子息は素晴らしい王だわ…だって、スティーヴン殿下そっくりで…
レオンが、あんな楽しそうにしてるんだもの…あの私以外には、まったく興味の無いレオンがよ!?━━━
「レオン、そろそろ行きましょうか!」
クスクスと笑いながらディアーナはレオンハルトに手を差しのべる。
「ああ、行こうか」
差し出されたディアーナの手を取り、レオンハルトはディアーナを抱いたまま宙に舞った。
「この国、この世界は俺達の愛する場所だ。
ずっと、守り続けるからな!」
「愛し続けるわ!この国も、この世界も、そこに住まう、たくさんの人たちを!何十年、何百年でも!」
二人の身体は、多くの人々の見ている前で光のシャワーになって、街に、人々に、祝福をもたらすように降り注いだ。
この世界は
神の御子と月の聖女が守護する平和な世界。
時々、悪さをする人間や、ラジェアベリアに戦争を仕掛けようとする国があっても……
天から声がする。
「プチ決定する?」「やめなさいよ!馬鹿旦那!」
━━━━おわり━━━━
後書き
これにて、一旦完結と致します。
お付き合い頂き、ありがとうございました!
二人が馬鹿過ぎて楽しいので、その後の二人として、そんな話を時々出していけたらと思います。
スティーヴン・マルムス・ラジェアベリア。齢88歳。
若い頃は神の御子や、その妻である月の聖女と共に旅をしていた冒険者でもあった。
人に優しく、人の話を良く聞き、時たまユーモアのある言動をしたりする。
とても国民に愛された王であった。
旅の途中で出会った海の巫女を妻に迎え、夫婦仲は睦まじく、二人の王子と二人の王女をもうけた。
66歳の時に妻に先立たれ、愛する妻を亡くした辛さから第一王子に王位を譲り、王都の端にある林の近くの城で隠居生活を送っていたのだ。
「……私は…もう、死ぬの…だな…。」
最期は誰にも看取られたくないと、人払いをしてある。
大きな大きな満月の夜。
開け放たれた窓からは月の明かりが射し込む。
王は昔を懐かしむ。
人はこれを走馬灯と呼ぶのか…。
スゥ……呼吸が途切れようとした時、懐かしい声がした。
「殿下!殿下!お久しぶりですわ!」
突然、聞こえた声に驚き、最早ベッドから起き上がれない身体で窓の方に目を向ける。
大きな満月を背に、若いままの姿のレオンハルトとディアーナが抱き合うようにして浮いている。
レオンハルトの金の髪と、ディアーナの藍色の髪が、月の明かりを受けキラキラと輝く。
「…ディアーナ…嬢…レオン…ハルト殿…」
声を出すのもままならない。
二人の姿を見るのは、60年ぶり位だろうか?
「ディアがな、またお前と旅がしたいってな。」
「だって、楽しかったんだもの!殿下がおかんで、師匠がおとん!」
懐かしい会話のやり取りに、声は出ないが笑う。
ああ、楽しい…。
「殿下、私たちと一緒に旅をしませんか?
殿下が望むなら、殿下が亡くなった後に新しい身体を用意します。魂をその身体に入れて…また、一緒に行きましょう?」
ディアーナは部屋の中に降り立ち、スティーヴンのか細いシワだらけの手を優しく握った。
「ディアーナ…嬢…すごく…嬉しい申し出だが…私は、行けないよ…」
レオンハルトはディアーナに続き部屋の中に降り立ち、スティーヴンの傍らに立つ。
「何で?」
答えは分かっていて、あえて聞く。
「私は…ウィリアを…愛している…だから、待ってくれている彼女を…一人にさせたくないんだ…。
レオンハルト…殿なら…分かるでしょう…?」
「…ああ、分かるよ…。」
レオンハルトの笑顔は優しく、優しく、スティーヴンに向けられている。
そして、そんな二人のやり取りを見ているディアーナもまた、優しい笑みを零す。
「お父様にお願いしておきますわ。殿下とウィリアさんの魂が、また巡り合うようにと。」
「…ジャンセンに…?それは…怖いな…はは…」
苦笑するスティーヴンにディアーナは近付き、頬に親愛の口付けをする。
「殿下…おやすみなさい…また逢う日まで…」
返事は無かった。
幸せそうに眠りについた、年老いた男の遺体だけがそこにあった。
ラジェアベリア王国では先代国王の死を悼み、国葬が行われた。
歳は五十代半ば程だが、どこかスティーヴンに似た王の隣にレオンハルトとディアーナが立っている。
「父と母から、お二人様の事は聞いておりました。」
深く頭を下げる王に、頭を掻いて空を見るレオンハルト。
「どんな話だか…なぁ?」
「そうですね…父を誘惑したオフィーリア嬢だった話だとか、ディアーナ様に殴られて喜んでいた話ですとか…あと、御子様はかなりヘタレで変態だとか……プッ。」
ちょっと噴き出した王。
父親の葬儀の最中に噴き出すって。
「ろくな話じゃないな!つか、あんた、まんまスティーヴンの子供だ!」
ディアーナは二人を見て笑う。
懐かしい…。
━━殿下、ウィリアさん、あなた方の御子息は素晴らしい王だわ…だって、スティーヴン殿下そっくりで…
レオンが、あんな楽しそうにしてるんだもの…あの私以外には、まったく興味の無いレオンがよ!?━━━
「レオン、そろそろ行きましょうか!」
クスクスと笑いながらディアーナはレオンハルトに手を差しのべる。
「ああ、行こうか」
差し出されたディアーナの手を取り、レオンハルトはディアーナを抱いたまま宙に舞った。
「この国、この世界は俺達の愛する場所だ。
ずっと、守り続けるからな!」
「愛し続けるわ!この国も、この世界も、そこに住まう、たくさんの人たちを!何十年、何百年でも!」
二人の身体は、多くの人々の見ている前で光のシャワーになって、街に、人々に、祝福をもたらすように降り注いだ。
この世界は
神の御子と月の聖女が守護する平和な世界。
時々、悪さをする人間や、ラジェアベリアに戦争を仕掛けようとする国があっても……
天から声がする。
「プチ決定する?」「やめなさいよ!馬鹿旦那!」
━━━━おわり━━━━
後書き
これにて、一旦完結と致します。
お付き合い頂き、ありがとうございました!
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