【完結】悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。

DAKUNちょめ

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第一章【悪役令嬢ディアーナに転生】

35#瀧川廉と瀧川香月

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暗い林の中をディアーナがランタンの光を頼りにレオンハルトを探す。


スティーヴンにレオンハルトと向き合えと言われ、『今レオンハルト殿は近くの泉に水浴びに行っているから』とランタンを渡された。


水浴びしている姿を覗けと?

レオンハルトと向き合う為には私も変態の道を歩まねばならないと?


凄く嫌そうな顔をしたが、スティーヴンは許してくれなかった。

あーだこーだ理屈をこねていたディアーナはスティーヴンに、


「ヘタレ。うぜぇ。」


と怖い位の笑顔で言われたので、ディアーナはランタンを持って林の中に来るしかなかった。

怖かったのだ……。あーゆータイプは怒らせると一番怖い。



サクサクと乾いた葉の上を歩いて行く。


月を隠す程の木々の覆いがプッツリと切れ、月明かりのスポットライトが注がれる泉に辿り着いた。


泉には人影があり、少し離れた場所からでもそれがレオンハルトであると分かる。


薄いシャツを着た状態で腰から下を泉に浸からせ、いつもひとつに結ばれた髪はほどかれて金糸のように身体に纏い付く。


濡れた顔を空に向けると、月を眩しそうに見つめたレオンハルトの頬を水滴が伝う。

水滴なのか…涙なのか分からない。

それは絵画のように美しい光景だった。
しばらく魅入っていたディアーナだったが、レオンハルトのシャツの下に透ける、無数の亀裂に気が付いた。


そして、それを見たのが初めてでは無い事も思い出す。
遥か遥か遠い世界での遠い記憶。


「お…お兄ちゃん…?」


ディアーナの呟きに顔を向けたレオンハルトは、嬉しいとも悲しいともとれる柔らかい笑顔をディアーナに向けた。


「香月……。」


今まで前世に兄が居た事は何となく思い出していたが、兄の姿も名前も思い出せてなかった。


自分の名前すら思い出せてなかったのに、レオンハルトに今、名前を呼ばれただけで、自分が前世で香月だった事、レオンハルトが兄であった事を鮮明に思い出した。


「お兄ちゃん!…お兄ちゃん!!どうして…どうして!」


身体に走ったひび割れは、今にもガラスのように砕け散りそうな危うさを持っている。

痛々しい姿に涙が止まらないディアーナは、自らも泉に入る。

レオンハルトに近付き、胸にすがるようにして抱き着く。


「そんな、傷だらけの身体で…無理して…馬鹿ぁっ…!」


レオンハルトは緩くディアーナの背に手を回し、あやすようにディアーナの頭を優しく撫でる。

それは、幼い妹を守る兄の手だ。


「ごめんな……香月の事、苦しめるつもりは無かったんだ…。」


優しい優しい声。
いつものレオンハルトではない……何かを諦めた声だった。


その声に、ディアーナをディアーナと呼ばないレオンハルトに、ディアーナの中で激しく警鐘が鳴り出す。


━━━止めなきゃいけない、今の私なら止められる!

今の私ってなに?もう失えない、失わせてもいけない。

ああ、この人…私を置いて砕け散るつもりなんだわ!━━━


思考をフル回転させる。

混乱している頭を無理矢理整理してゆく。


「やめて!お兄ちゃん……」


香月と呼ばれた自分を思い出したが、香月ではレオンハルトを救えない。
兄妹では愛し合えない。
何かが、欠けている。何かが足りない。


もう一人、私が居た…。

とても美しいけど、口の悪い私。

白い世界のディアーナ。


あれこそが、本当の私自身だ。

頭の中のパズルがカチッと嵌まったような気がした。


「………レオン……」


緩く抱き合ったレオンハルトの身体がピクッと跳ねる。


「ディア…?」


少し身体を離し、互いの顔を見詰める。


━━レオン…私のレオン。私を見詰める翡翠の瞳…。

ずっと、ずっと待ってた。…思い出したわ、私達の運命を━━


レオンハルトは創造主によって生み出されてから、死ねない身体で世界の歪みを修正してゆく使命を与えられた。


肉体が死なない彼は、人間とは違い治療を施す事が出来ない。


傷と痛みを身体に蓄積させながら、神と呼ばれた創造主に与えられた修復人という名の(この世界の不具合を直す医者)をやり続ける。


そして私は、彼を長持ちさせたい創造主の気まぐれから生み出された勇者の身体を癒せる唯一の聖女となる魂。


ただし、彼と同じ器を与えられなかった私は人間となった。


私が生み出されてすぐ、創造主である父の前で精神体で出会わされた私達は互いに惹かれあい、愛を誓った。


「ディアーナ、必ず君を見つけるから…。」

「私を見つけて愛を囁いて…そうすれば私、きっと今日、この時を思い出すから…。」


身体と心が重なり合う刻、ディアーナは勇者レオンハルトと運命を共有し、聖女となりレオンハルトと同じ永遠を歩む者となる。



「だったら、なんで私に…香月に愛してるって、自分はレオンだって言わなかったの?
……思い出したかも知れないじゃない!」


「俺はレオンハルトだが、瀧川廉でもある。
……妹の瀧川香月を苦しめるような事を言える訳がない…。
……兄に抱かれてくれなんて言えない…。」


ああ、そうだ…レオンハルトという男は、私にだけは優しさを与える事を止められない。

自分が苦しんでも、世界中の人が悲しんでも、ディアーナにだけは…。


「今まで、男同士、女同士、年老いた育ての母と養子、その他にも…ディアーナが生まれた場所に俺は転移し続けた。」


「レオン…」

涙が止まらない。


「どの姿でも、どんな時でも、ずっと…君を愛し、想っていた…。」


愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる


レオンハルトは、どれだけ永い間、届かない、届けてはいけない想いを抱き続けたのだろう。

ディアーナの魂は、生まれ変わる度にレオンハルトとの邂逅を待つが、それが叶わないと今生の人生に早々に見切りをつけ、肉体を捨て無理矢理人生の幕を引かせる。

次の邂逅を求める為に、ディアーナの死をもって。

そしてレオンハルトはディアーナを追って砕け散る。



「今回は奇跡の生だと思った……二人共に神に造られたのと同じ姿に、同じ名前…そして俺達の故郷である、この世界での邂逅…。」


レオンハルトは、ディアーナの身体を少し押して離す。


「誰にも渡せないと思ったら、婚約者のスティーヴンを大嫌いになって欲しかった。
……ディアーナに会えた事が嬉しくて、愛してると口に出せる事が嬉しくて……はしゃぎすぎた…ごめんな…。」


幾多の人生の中で、口に出すのを堪えた「愛してる」は、今生では何度も言い続けた。軽く思われてしまう程に。


「…本当に…ディアーナが好きだ…。
君が苦しむ位なら、俺が苦しい方がいい。
だから、俺が砕けても…苦しまないでくれ。」


「え、な、何言ってるの…?」

ディアーナがレオンハルトの顔を覗き込む。


「ジャンセンを好いているのだろう?」


「いえ、本当に何を言ってるの!!」


「ディアーナが好きだ…だからディアーナがジャンセンと結ばれたとしても俺は…」


「黙れ!!!」


イラッとした。いつもみたいに、ぶん殴ってやろうと思った。


でも、ディアーナにはそれ以上に二人の間にある空間が許せなかった。


身体を離したレオンハルトの胸に飛び込むように身を寄せたディアーナはレオンハルトの長い髪を両耳の後ろにかきあげるようにし、伸ばした腕をそのまま首に掛ける。


レオンハルトの胸に、自分の胸を強く押し付けるように身体を密着させる。

濡れた薄い衣服越しに伝わるレオンハルトの激しい鼓動が泣きそうになるほどに愛おしい。


「私が聞きたいのは、そんな言葉ではないと分かってるくせに…ホント、レオンは性格が悪いわね…。」


「……性格が悪いのは生みの親のせいだってば…」


レオンハルトは翡翠色の瞳に涙を滲ませて、もう一度ディアーナの背に腕を回す。


「愛してる…ディア……愛してる……」


レオンハルトは震える声で呟くと、止めどなく溢れる涙を拭う事もしないまま、強く強くディアーナを抱き締める。


「私もよレオン…あなただけを誰より愛してるわ…。」


顔を傾け、鼻先でレオンハルトの唇の位置を探し、ディアーナがレオンハルトの唇に自分の唇をそっと重ねる。


堰を切ったように溢れた想いは留まる事が出来ず、レオンハルトは重ねられたディアーナの唇を舌先でこじ開け、ディアーナの咥内をまさぐるように深い口付けをする。

細い腰を引き寄せ、全身を密着させて抱き締められ、貪るような勢いで続く激しい口付けに、ディアーナの身体が逃げる。

「ふ、ぁ、ちょ…待って、待って!レオン!
ファーストキスがこれとか、ハードル高過ぎる…!」


呼吸が出来ずに口付けを逃れ訴えれば、


「ファーストキス…に、してくれるのか?…マジか…」


涙目のまま、嬉々としたレオンハルトの顔がそこにあった。

さっきまで大号泣していたくせに!


「え?」


ヒョイと横抱きでディアーナを抱き上げたレオンハルトは、泉からあがるとディアーナを抱き上げたままテントに向かう。


「ちょ!ちょ!待って!ま、まさか…だ、抱く…とか…」


「抱く。待てない、無理だ……待ち過ぎて、もう無理。
…待ったら俺の身体が砕け散る。それはもう木端微塵に。」


なに言ってやがる!と思うが何度も悲しく苦しい思いをさせた自覚はあるので無下には出来ない。


ディアーナが抱き上げられたままテントに入り、簡易ベッドの上に横たえられると、レオンハルトがディアーナの濡れた靴を脱がし、足の爪先に口付けをした。


「!!!」


足の爪先に触れた唇は、足の甲、脛へと登りながら赤い軌跡を刻んでゆく。

なんかヤバイ!!


そりゃね、身体と心が重ならないと私、聖女になれませんよ?レオンを完全回復してあげれませんよ?


でもね、キスしたし、心だけでも重なったんだから、半聖女、プチ聖女って事で今回は見逃してくれないかなぁ!


脳内でたくさんの声が同時に訴えかける。


「「「「初めてがテントの簡易ベッドとか、あり得ないから!」」」」


あー私の前世たち、すべて清い身だったようですものね…分かります分かります。

これは、みんなを代表して、わたくしディアーナが交渉するしかないでしょう!よし!やめてって言うわよ!


「ディアーナ…」


気がついたらベッドに横たわる私の上から熱い瞳で見下ろすレオンハルト。

濡れた衣服の胸元が少し乱されている。何かされた!?


はわーー!ディアーナ代表ピンチ!

だ、誰か!私の前世の誰か!タスケテー!



「…!お兄ちゃん、私こんな所じゃ嫌だよ!」


ピシッ

レオンハルトの動きが止まった。凍り付いているようだ。


さすがです!私の中の香月、グッジョブ!



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