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第一章【悪役令嬢ディアーナに転生】
30#お昼寝中、夢の中の兄妹。
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「師匠。暇です。」
ディアーナは宿の自室のベッドに寝転がりながら、うだうだと言う。
ベッドの端に腰掛けたジャンセンは頭を抱えていた。
「師匠呼びはやめなさいと…いや、そうなるとあなた、お父さん呼びするんですよね。」
「多分。」
「いや、多分じゃなく絶対だよな!
て、ゆーか年頃の娘が、よくまぁ男の前で無防備にベッドに転がるよな!襲うぞ!」
「そうなると、師匠の師匠に悶死してもらいますが。」
「……何で、聖女こんなのになったんだろうな。」
ディアーナに聞こえない位小さい声でジャンセンが呟く。
「でも師匠、部屋では修行出来ませんしー!
自己鍛練の腕立て、スクワットは終わったので、暇です!
寝ていいですか!お父さんの膝まくらで!」
「悶死させると言った相手に、膝まくらしろとか!
姫さん馬鹿だな!しかも、お父さんって呼びやがった!」
ディアーナはベッドの上をズリズリ這ってくる。
猫のように可愛く四つ足で来るのではなく、トカゲみたいに伏せた状態で這ってくる。
気持ち悪い。
そして、ディアーナは無理矢理ジャンセンの膝に頭を乗せた。
諦め顔のジャンセンは、膝に乗ったディアーナを見下ろすと、フッと小さく笑う。
「レオンハルト様達が帰ってきたら起こしますよ。
皆で昼ごはんを食べましょう。」
ジャンセンはディアーナの頭をそっと撫でる。
ヘラリと笑ってディアーナは眠りについた。
ディアーナは夢を見ている。
見た事の無い風景、聞いた事の無い喧騒。
でも、どこか懐かしい。
そして、見た事も聞いた事も無い筈の物を知っている自分が居る。
ランドセルを背負った少年が走って来る。
その後ろを、同じくランドセルを背負った少女が追い掛けて来る。全速力で。
「待って、お兄ちゃん!」
「着いてくるなよ!」
微笑ましく思いながら、ディアーナは幼い兄妹のやり取りを、第三者の目線で見ていた。
「一人で修行、ズルい!あたしも連れてって!」
妹は兄に跳び蹴りを食らわす。
「修行じゃねーし!連れて行けないから!」
兄はランドセルを腕にはめ、盾のようにして妹の蹴りをガードする。
ズザザザッ…
砂埃をあげ、対峙する二人。
「ふふっやるわね!お兄ちゃん!
どうしても連れていかないとゆーなら、あたしにも考えがあるわ!」
いや、そんな考え多分何も無かったな。
あれは私だ。何となくだが覚えている。
何か、どこかで覚えたソレっぽいセリフを言って見たかっただけだ。
とりあえず、微笑ましいと感じたのは大きな間違いだった。
「ど、どーしても行きたいって言うなら、※※※※が、将来、俺のお嫁さんになってくれるなら、その内連れてってやるよ。」
立ち止まって照れたように顔を赤らめ、どさくさに紛れて、言ってやったぞみたいな表情の兄に対し、妹の表情が無になる。
「いや、兄妹だから嫁はムリ。」
「だよな!!お前、急に冷静になんなよ!」
心なしか涙目の兄に、思わず同情するディアーナ。
━━━━何て不憫!━━━━
「あたし、将来は仮◯ライダーになるので!」
「何だソレ!」
「あはは!お兄ちゃんがあたしにナイショで行ってるトコ、あたしも行けるようになったらお嫁さんになってもいーかも」
「……本当に?」
少年の顔が、大人びた憂いを帯びた男の顔になる。
「ほんと~だよー」
幼い妹は、その表情の違いに気付いてない。
第三者の目線でいるディアーナは気付いてしまった。
━━━何て、切ない顔をしていたのよ…お兄ちゃん━━━
「師匠!!」
身体を揺らされ、目を覚ましたディアーナはジュリっと口元のよだれを拭う。
ジャンセンの「うわぁ」と言う声と、何とも言えない嫌そうな顔を見てしまった。
「…いい夢、見れた?」
「…どうも私は亀のライダーになりたかったようです。」
「亀に…乗る人…?うん、いつも通りだ…ブレないな、姫さんの変人っぷりは。」
ジャンセンはディアーナの頭を膝に乗せた状態で、強引にベッドから立ち上がる。
ディアーナの頭はジャンセンの足を滑り落ち、ディアーナ自身がベッドの下にドスッと落ちた。
「師匠!痛い!」
「その乱れた髪と、口元のよだれを何とかしてくれ。
下に降りて食事に行きますよ。」
ジャンセンは部屋から出て行った。ドアの前に気配があるので、すぐ近くに居る。呼べばすぐに来てくれる。
それは分かっているのだが…
「助けを求められないのは、ツラいですわね…」
ディアーナは窓の外に目をやる。
窓の向こう側、先日ジャンセンがぶら下がっていたそこに
気を失ったウィリアを抱き締めた、ウィリアと同じ顔の美女が居た。
「理解が早くて助かるわぁ、姿を隠す魔法が切れる前に一緒に来てちょうだいねぇ?」
女は気配を察知されるのを恐れてか、部屋の中には入って来ない。
だからウィリアを人質にしてディアーナに来いと合図をする。
ディアーナは窓を開き、部屋の外に出た。
三階の窓の少し下に屋根があり、魔法陣のような物がうっすら見える。
女にそこに乗るように促され、片足を乗せるとフワリとした浮遊感があり。
姿が掻き消される寸前にディアーナは声を上げる。
「レオン!迎えに来て!」
「姫さん!!」
ドアの前に居たジャンセンが、部屋から漏れる僅かな気配を察知し、ドアを破るように急ぎ中に入って来る。
「…しくじった!窓の外か!」
窓から頭を出し、辺りを窺う。
ディアーナの姿は既に部屋には無く、窓の外に転移魔法の魔力の残滓だけがあった。
ディアーナは宿の自室のベッドに寝転がりながら、うだうだと言う。
ベッドの端に腰掛けたジャンセンは頭を抱えていた。
「師匠呼びはやめなさいと…いや、そうなるとあなた、お父さん呼びするんですよね。」
「多分。」
「いや、多分じゃなく絶対だよな!
て、ゆーか年頃の娘が、よくまぁ男の前で無防備にベッドに転がるよな!襲うぞ!」
「そうなると、師匠の師匠に悶死してもらいますが。」
「……何で、聖女こんなのになったんだろうな。」
ディアーナに聞こえない位小さい声でジャンセンが呟く。
「でも師匠、部屋では修行出来ませんしー!
自己鍛練の腕立て、スクワットは終わったので、暇です!
寝ていいですか!お父さんの膝まくらで!」
「悶死させると言った相手に、膝まくらしろとか!
姫さん馬鹿だな!しかも、お父さんって呼びやがった!」
ディアーナはベッドの上をズリズリ這ってくる。
猫のように可愛く四つ足で来るのではなく、トカゲみたいに伏せた状態で這ってくる。
気持ち悪い。
そして、ディアーナは無理矢理ジャンセンの膝に頭を乗せた。
諦め顔のジャンセンは、膝に乗ったディアーナを見下ろすと、フッと小さく笑う。
「レオンハルト様達が帰ってきたら起こしますよ。
皆で昼ごはんを食べましょう。」
ジャンセンはディアーナの頭をそっと撫でる。
ヘラリと笑ってディアーナは眠りについた。
ディアーナは夢を見ている。
見た事の無い風景、聞いた事の無い喧騒。
でも、どこか懐かしい。
そして、見た事も聞いた事も無い筈の物を知っている自分が居る。
ランドセルを背負った少年が走って来る。
その後ろを、同じくランドセルを背負った少女が追い掛けて来る。全速力で。
「待って、お兄ちゃん!」
「着いてくるなよ!」
微笑ましく思いながら、ディアーナは幼い兄妹のやり取りを、第三者の目線で見ていた。
「一人で修行、ズルい!あたしも連れてって!」
妹は兄に跳び蹴りを食らわす。
「修行じゃねーし!連れて行けないから!」
兄はランドセルを腕にはめ、盾のようにして妹の蹴りをガードする。
ズザザザッ…
砂埃をあげ、対峙する二人。
「ふふっやるわね!お兄ちゃん!
どうしても連れていかないとゆーなら、あたしにも考えがあるわ!」
いや、そんな考え多分何も無かったな。
あれは私だ。何となくだが覚えている。
何か、どこかで覚えたソレっぽいセリフを言って見たかっただけだ。
とりあえず、微笑ましいと感じたのは大きな間違いだった。
「ど、どーしても行きたいって言うなら、※※※※が、将来、俺のお嫁さんになってくれるなら、その内連れてってやるよ。」
立ち止まって照れたように顔を赤らめ、どさくさに紛れて、言ってやったぞみたいな表情の兄に対し、妹の表情が無になる。
「いや、兄妹だから嫁はムリ。」
「だよな!!お前、急に冷静になんなよ!」
心なしか涙目の兄に、思わず同情するディアーナ。
━━━━何て不憫!━━━━
「あたし、将来は仮◯ライダーになるので!」
「何だソレ!」
「あはは!お兄ちゃんがあたしにナイショで行ってるトコ、あたしも行けるようになったらお嫁さんになってもいーかも」
「……本当に?」
少年の顔が、大人びた憂いを帯びた男の顔になる。
「ほんと~だよー」
幼い妹は、その表情の違いに気付いてない。
第三者の目線でいるディアーナは気付いてしまった。
━━━何て、切ない顔をしていたのよ…お兄ちゃん━━━
「師匠!!」
身体を揺らされ、目を覚ましたディアーナはジュリっと口元のよだれを拭う。
ジャンセンの「うわぁ」と言う声と、何とも言えない嫌そうな顔を見てしまった。
「…いい夢、見れた?」
「…どうも私は亀のライダーになりたかったようです。」
「亀に…乗る人…?うん、いつも通りだ…ブレないな、姫さんの変人っぷりは。」
ジャンセンはディアーナの頭を膝に乗せた状態で、強引にベッドから立ち上がる。
ディアーナの頭はジャンセンの足を滑り落ち、ディアーナ自身がベッドの下にドスッと落ちた。
「師匠!痛い!」
「その乱れた髪と、口元のよだれを何とかしてくれ。
下に降りて食事に行きますよ。」
ジャンセンは部屋から出て行った。ドアの前に気配があるので、すぐ近くに居る。呼べばすぐに来てくれる。
それは分かっているのだが…
「助けを求められないのは、ツラいですわね…」
ディアーナは窓の外に目をやる。
窓の向こう側、先日ジャンセンがぶら下がっていたそこに
気を失ったウィリアを抱き締めた、ウィリアと同じ顔の美女が居た。
「理解が早くて助かるわぁ、姿を隠す魔法が切れる前に一緒に来てちょうだいねぇ?」
女は気配を察知されるのを恐れてか、部屋の中には入って来ない。
だからウィリアを人質にしてディアーナに来いと合図をする。
ディアーナは窓を開き、部屋の外に出た。
三階の窓の少し下に屋根があり、魔法陣のような物がうっすら見える。
女にそこに乗るように促され、片足を乗せるとフワリとした浮遊感があり。
姿が掻き消される寸前にディアーナは声を上げる。
「レオン!迎えに来て!」
「姫さん!!」
ドアの前に居たジャンセンが、部屋から漏れる僅かな気配を察知し、ドアを破るように急ぎ中に入って来る。
「…しくじった!窓の外か!」
窓から頭を出し、辺りを窺う。
ディアーナの姿は既に部屋には無く、窓の外に転移魔法の魔力の残滓だけがあった。
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