25 / 140
第一章【悪役令嬢ディアーナに転生】
25#氷室に赴くレオンハルト
しおりを挟む
ディアーナとスティーヴンを町に残し、一人入江に来たレオンハルトは感覚を鋭利に研ぎ澄まし、空気の澱みを探る。
足場の悪い海岸線の岩場では、足を滑らさないようにと一歩一歩と慎重に歩を進める。
「思っていた以上に重症だな…歩けるだけマシなのか?」
思うように動かない足を撫で足元に目をやった時、視界の端に下方に降りる階段を見つけた。
小さく狭い階段から冷たい空気が流れ出てくる。
どうやら、ここが氷室らしい。
「はぁ…ディアーナ怒ってるだろうな…いきなりチューしちゃったもんな、チュー。」
腰に携えた剣を抜き、刃に雷を纏わせていく。
「でも、お陰で剣を握る事が出来る。」
パチパチと静電気のような光を弾かせた剣を持つレオンハルトの手の平から、小さな光の欠片が落ちて行く。
動けなくなる前に、勝負を決めないと!!
階段を降りると鍾乳洞のような広い空間に出た。
ボロボロになった祭壇が中央にあり、そこに一際大きな氷塊がある。
その氷塊を抱き締めるようにとぐろを巻く蛇のような肢体。
濡れて黒光りする身体は海蛇のよう。
長い蛇の身体、その先には美しい女の上半身が付いていた。
「まいったね、ウィリアそっくりだ!娘が泣くぜ、お母さん!」
助走をつけ飛び上がり大きく剣を振りかぶると、女の頭に向け叩き込むように振り下ろす。
女は頭上に振り下ろされたレオンハルトの剣を、氷を纏わせた左手で受けた。
「うふふ、貴方、娘を知っているの?
私にそっくりって事は、さぞ美しく成長したのでしょうねぇ…会いたいわぁ」
女の手から、剣を伝うようにパキパキと冷気がレオンハルトの腕に上がってくる。
「ああ、少なくとも娘の方が母さんよりは、ずっと美人だな!」
女の手から剣を離し、強く振って腕に張り付いた氷を払い落とす。
払い落とした氷がキラリと光り地面を照らすと、レオンハルトの足下には無数の人骨が散乱していた。
「男はメシか、そんな偏食の母さんに会うのなんか娘はゴメンだと思うぞ。」
再び剣を構え、次は剣に炎を纏わせる。
「大丈夫よぉ、私になれば、そんな悩み無くなるわぁ…
若い身体が…肉体が…欲しいのよ!!」
女は口を大きく開く。
唇の両端から耳に向けてプチプチと頬の肉が裂け、二又に別れた赤い舌先が延びて来る。
「連れて来て!私の娘!ううん、あなたを食べてから迎えに行くわ!」
長い舌先と、長い身体を鞭のように使い、前後からレオンハルトを捕らえようと激しく打ち据えて来る。
壁や地面が抉れ、石がつぶての様に飛んできた。
「っと!あぶねーなぁ!ババァ!」
紙一重で何とかかわしながら、目を凝らし女の身体を探っていく。
弱点でもある瘴気の濃い部分、黒ずむ魂が見える場所を探すが、石つぶてや蛇の尻尾、舌から身をかわすのに意識を取られ、中々見つけ出す事が出来ない。
━━━まずい、俺の身体が万全じゃない…!
この程度の魔物に手こずるなんて……━━━━
「あら…」
女の動きが止まった。
「あらぁあ!素敵な器が側に居るのねぇ!」
裂けた頬は元に戻り、ウィリア似の美しい女に戻った魔物はレオンハルトの顔をジイイっと眺めた。
「藍色の髪に、金の瞳…神秘的で美しいわぁ…欲しいわぁ…。」
レオンハルトの心臓がギュウッと鷲掴まれる。
━━━記憶を読まれた?何の抵抗も出来ずに俺が!?
ディアーナの事を知られた!?━━━━
冷や汗が頬を伝う。記憶を読まれ動揺し、その隙をつかれ身体が硬直させられる。
「しまっ……!」
ストンっ…
レオンハルトの足元に、切り落とされた女の片腕が 転がった。
「さすがは、元海の巫女、予言者といった所でしょうか?
弱っている者の記憶を僅かに覗けるようですね。
油断しましたね、レオンハルト様。」
暗闇から滲むように現れたジャンセンは細身の剣━━刀を持って立っていた。
「その藍色の髪に金の瞳は、私にとっても大切なのでね。
貴女のような醜悪な………レオンハルト様風に言うならババァ?…に渡す訳にはいかないんですよ。」
ジャンセンは刀を構え、一歩踏み出した足に重心をかける。
腕を斬り落とされた女はフルフル震えると、自身の身体を抱き締め頬を紅潮させた。
「ステキ!ステキ!こんないい男達に大事にされてるなんて!絶対なるわ!私、絶対に彼女になる!」
シュルルルと地面を大きく這いずる音が鍾乳洞に響く。
「うふふ、彼女になったら二人とも食べてあげる…
嬉しいでしょう?ねぇ?」
女の身体が大きくしなり、地面を激しく叩くいた。
突如、鍾乳洞の中央にあった大きな氷塊が破裂し、鋭い氷の刃となり四方に飛散する。
「レオンハルト様!」
氷塊の破裂に伴って鍾乳洞が崩落してゆく。
ジャンセンは、動けなくなったレオンハルトの腕を無理矢理引っ張り階段を目指した。
「うふふ、私はエイリシア、忘れないでね…
あなた達を美味しく食べてあげるから…また遊びましょう?」
女は高笑いと共に消えていた。
足場の悪い海岸線の岩場では、足を滑らさないようにと一歩一歩と慎重に歩を進める。
「思っていた以上に重症だな…歩けるだけマシなのか?」
思うように動かない足を撫で足元に目をやった時、視界の端に下方に降りる階段を見つけた。
小さく狭い階段から冷たい空気が流れ出てくる。
どうやら、ここが氷室らしい。
「はぁ…ディアーナ怒ってるだろうな…いきなりチューしちゃったもんな、チュー。」
腰に携えた剣を抜き、刃に雷を纏わせていく。
「でも、お陰で剣を握る事が出来る。」
パチパチと静電気のような光を弾かせた剣を持つレオンハルトの手の平から、小さな光の欠片が落ちて行く。
動けなくなる前に、勝負を決めないと!!
階段を降りると鍾乳洞のような広い空間に出た。
ボロボロになった祭壇が中央にあり、そこに一際大きな氷塊がある。
その氷塊を抱き締めるようにとぐろを巻く蛇のような肢体。
濡れて黒光りする身体は海蛇のよう。
長い蛇の身体、その先には美しい女の上半身が付いていた。
「まいったね、ウィリアそっくりだ!娘が泣くぜ、お母さん!」
助走をつけ飛び上がり大きく剣を振りかぶると、女の頭に向け叩き込むように振り下ろす。
女は頭上に振り下ろされたレオンハルトの剣を、氷を纏わせた左手で受けた。
「うふふ、貴方、娘を知っているの?
私にそっくりって事は、さぞ美しく成長したのでしょうねぇ…会いたいわぁ」
女の手から、剣を伝うようにパキパキと冷気がレオンハルトの腕に上がってくる。
「ああ、少なくとも娘の方が母さんよりは、ずっと美人だな!」
女の手から剣を離し、強く振って腕に張り付いた氷を払い落とす。
払い落とした氷がキラリと光り地面を照らすと、レオンハルトの足下には無数の人骨が散乱していた。
「男はメシか、そんな偏食の母さんに会うのなんか娘はゴメンだと思うぞ。」
再び剣を構え、次は剣に炎を纏わせる。
「大丈夫よぉ、私になれば、そんな悩み無くなるわぁ…
若い身体が…肉体が…欲しいのよ!!」
女は口を大きく開く。
唇の両端から耳に向けてプチプチと頬の肉が裂け、二又に別れた赤い舌先が延びて来る。
「連れて来て!私の娘!ううん、あなたを食べてから迎えに行くわ!」
長い舌先と、長い身体を鞭のように使い、前後からレオンハルトを捕らえようと激しく打ち据えて来る。
壁や地面が抉れ、石がつぶての様に飛んできた。
「っと!あぶねーなぁ!ババァ!」
紙一重で何とかかわしながら、目を凝らし女の身体を探っていく。
弱点でもある瘴気の濃い部分、黒ずむ魂が見える場所を探すが、石つぶてや蛇の尻尾、舌から身をかわすのに意識を取られ、中々見つけ出す事が出来ない。
━━━まずい、俺の身体が万全じゃない…!
この程度の魔物に手こずるなんて……━━━━
「あら…」
女の動きが止まった。
「あらぁあ!素敵な器が側に居るのねぇ!」
裂けた頬は元に戻り、ウィリア似の美しい女に戻った魔物はレオンハルトの顔をジイイっと眺めた。
「藍色の髪に、金の瞳…神秘的で美しいわぁ…欲しいわぁ…。」
レオンハルトの心臓がギュウッと鷲掴まれる。
━━━記憶を読まれた?何の抵抗も出来ずに俺が!?
ディアーナの事を知られた!?━━━━
冷や汗が頬を伝う。記憶を読まれ動揺し、その隙をつかれ身体が硬直させられる。
「しまっ……!」
ストンっ…
レオンハルトの足元に、切り落とされた女の片腕が 転がった。
「さすがは、元海の巫女、予言者といった所でしょうか?
弱っている者の記憶を僅かに覗けるようですね。
油断しましたね、レオンハルト様。」
暗闇から滲むように現れたジャンセンは細身の剣━━刀を持って立っていた。
「その藍色の髪に金の瞳は、私にとっても大切なのでね。
貴女のような醜悪な………レオンハルト様風に言うならババァ?…に渡す訳にはいかないんですよ。」
ジャンセンは刀を構え、一歩踏み出した足に重心をかける。
腕を斬り落とされた女はフルフル震えると、自身の身体を抱き締め頬を紅潮させた。
「ステキ!ステキ!こんないい男達に大事にされてるなんて!絶対なるわ!私、絶対に彼女になる!」
シュルルルと地面を大きく這いずる音が鍾乳洞に響く。
「うふふ、彼女になったら二人とも食べてあげる…
嬉しいでしょう?ねぇ?」
女の身体が大きくしなり、地面を激しく叩くいた。
突如、鍾乳洞の中央にあった大きな氷塊が破裂し、鋭い氷の刃となり四方に飛散する。
「レオンハルト様!」
氷塊の破裂に伴って鍾乳洞が崩落してゆく。
ジャンセンは、動けなくなったレオンハルトの腕を無理矢理引っ張り階段を目指した。
「うふふ、私はエイリシア、忘れないでね…
あなた達を美味しく食べてあげるから…また遊びましょう?」
女は高笑いと共に消えていた。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる