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第一章【悪役令嬢ディアーナに転生】

#24先代の巫女。そして初めてのキス

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「お待ち下さい、剣士殿!」

円卓に着いていた一人が立ち上がる。

「何だよ。巫女の占いだか予言だかで、何とか出来そうな俺達が呼ばれて来た、後は厄介ごとを片付けたら終わる話なんだろ?」

「そ、そうなんですが……行方不明は…もう一人居るのです。」

町の長らしき老人が怯えるように言った。
テーブルの上で組んだ手が、カタカタと震えている。

「は?
その様子だと、被害者が増えたかも知れないって意味ではないようだな…。」


ドアを開いた状態で立ち止まり、真剣な顔で町の長の話を聞くレオンハルト。

…………の、片腕の中に私は捕らわれていた。


━━━ちょっと!待って!何ですの!この状況~!
ウィリア様に見せ付けてますの?町長さんの話が頭に入って来ませんわ!静かなる戦い何処へ!?━━━

プチパニック状態。

「…あーいつものレオンハルト殿に戻ってくれた様で何よりだが……。
町の男性が分かっているだけで五名、行方不明だと言ってたな、もう一人というのは?」


ディアーナを片腕で抱き締め、つむじに鼻先を埋めるレオンハルトの通常運転姿に、やれやれとばかりにフゥと息を吐きつつスティーヴンが尋ねる。


レオンハルトに冷たくあしらわれ、ショックを隠せないで黙りこくっていたウィリアが口を開いた。


「母ですわ……わたくしの母の、遺体です。
母は先代海の巫女で、十年前に他界しております。」


「十年前に亡くなったご母堂が行方不明とは?」

スティーヴンが説明を求めると、言い澱むウィリアに代わり別の初老の男が話し出した。


「先代巫女様は、ウィリア様に似て美しい方でした。
なので…若くして亡くなった先代様を入江の先にある氷室に…御神体として安置したのです。」

「死んだ女を氷漬けにしたって事か?見世物みたいに。
ハッ!いい趣味だな、それは。」

吐き捨てるように言ったレオンハルトが、少し考える素振りを見せ、重い口を開く。


「行方不明になった奴等は…もう諦めろ。それとウィリア、お前の母親の遺体もな。」





教会から出ると、レオンハルトは急いで氷室があるという入江に向かうと言った。だが……

「やはり、ディアーナは宿に置いて行く。スティーヴンもな。」


レオンハルトが抱き締めていたディアーナを腕から解放し、正面から見詰めた。


「イカやカニが巨大化した魔獣の仕業かなぁと思っていたが…今回は魔物の可能性が高くてな…。
普通の人間である二人には、ちょっと危険なんだよ。」


冗談を交えながら、何なら軽く笑んで見せながら言うレオンハルトだが、翡翠の瞳の奥に怯えが見える。


「……お強いレオンハルト様が…そんな風におっしゃるなんて。
そんなに手強いんですの?魔物というのは……。」

「俺は……死なないんだ……死ねないと言うか……。」

「え?……そうなんですの…?」

質問に答えずに、いきなり何の告白だろうか。

でも、人間ではないと言ってるから、そうなのかしら?

ディアーナはレオンハルトの告白の意味を考える。


「死ねないけど、痛いし、傷付くし…とにかく大変なんだ。」

「それは…どんな苦痛を受けても、死で解放されないと言う意味ですの?」

永久的に苦痛が続くと?
言いたい事は何となく分かるが、やはり意図が分からない。

大変だけで終わる話でもないと思うが。

確かに、不老不死だからって無敵ではないと思うけど…。


「……ごめん、ディアーナ、少し力をちょうだい。」


レオンハルトは右腕で、向かい合ったディアーナの細い腰を抱き寄せると左手でディアーナの顎先を上向かせ、唇を重ねた。


突然の事に抵抗も忘れ、ディアーナが立ち尽くす。

側に居たスティーヴンも同じように立ち尽くしていた。


「ありがとー!これで頑張れるー!」

唇が浅く重なるだけの短いキスを終えると、レオンハルトは満足げに、腕を振って入江の方に向かっていった。


残されたディアーナとスティーヴンは呆然と道の真ん中に立ち尽くしていたが、ディアーナが先に我に返って慌て出す。


「戦う為のパワーが出るおまじないとかじゃない、すごいまずい!ヤバイ!」

「そうか…初めてのキスは不味かったのか…レオンハルト殿が気の毒だな…」

「ちがーーーう!!」

ディアーナがスティーヴンに抗議の為に大声を出した。

「上手く言えないのですけど…唇が触れた瞬間、わたくしの中からレオンハルト様の方に何か流れたんですの!」

ほんの一瞬にも近い、短いキスだった。

それなのに大量の水を流し与えたように、ディアーナの身からゴッソリと何かがレオンハルトに向け流れ出た。


私…大事な何かを見落としてる…!


「私も行くわ!氷室!」

「えっ!それは、危ないだろう!」

ディアーナの唐突な決意を聞いたスティーヴンが慌て出す。

剣を扱えるスティーヴンでさえ危険だから連れて行けないと判断したレオンハルトの元に、戦う術を持たないディアーナが行くなど有り得ない。

「レオンハルト殿が止めたのに、行かせられる訳ないだろう!」

「知らなかった事にして下さい!」

「そういう問題じゃない!」


往来の真ん中で押し問答が始まる。人目も憚らず大声を出す二人の前に、黒髪の青年が綿毛が落ちてきたかのように、フワリと不意に姿を現した。


「師匠!」

「師匠!?師匠って!?…え、ジャンセン…?」


ジャンセンは、こめかみを指先で掻きながら少し「うーん」と唸る。

「師匠呼びは駄目って言いましたよね、ディアーナ様…。」

スティーヴンの前だからか、普段の口調ではないので違和感がある。やがてジャンセンはパンと手を叩いた。


「私がレオンハルト様の所に行きましょう。多少の魔法も使えますし、戦闘に関してはお二人様よりは役に立てるかと。」


スティーヴンとディアーナは顔を見合せ頷いた。

「すまん、ジャンセン…頼んだ…。」

「師匠…お願いします…。」


「……ディアーナ様、帰ったら覚えてなさい。」


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