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第一章【悪役令嬢ディアーナに転生】

21#鍛練とナイフ。お兄ちゃんの記憶。

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「ただいま…あら、何かございまして?」


ジャンセンとの第一回秘密特訓を終わらせ夜営地に戻って来たディアーナが、焚き火を挟んで背を向ける二人の男に首を傾げる。

「いや、もう何でもないから大丈夫。」

大丈夫では無い顔色で言うスティーヴンに、絶対目を合わせようとしないレオンハルト。

何か知らんがめんどくさい。無視しよう。
ディアーナはそう決めた。


「何でもないのですわね。では、わたくし先に休ませていただきますわ。」


焚き火の前に布を敷いて枕がわりのバッグを置き、身体に掛ける布を用意する。


「……なぁ、ディアーナ……誰かと会っていた?」


不意に尋ねるレオンハルトに驚き、顔を上げたディアーナの視線が泳いで揺れる。

隠し事してますとばかりに。


「誰とも会ってませんわ。
こんな岩と林しかない所に誰が居るとおっしゃるの?」


「ふぅん…なら、いいんだけど。」


レオンハルトからそれ以上の追求は無かった事に安堵したディアーナは、焚き火の前に自分の寝床を作るとさっさと眠りに入った。


二人の会話を聞いていたスティーヴンは、焚き火に背を向けて眠りについたディアーナの背を悲しげに見るレオンハルトを見てしまった。


━━━…まさかジャンセン……か?━━━

岩と林しかない、この場には誰も居ない。
我々四人以外は…。







今日も林の中を歩き続ける。

もう、実のところ森なんだか林なんだか分からない。

とにかく、ずっと木が生えている。方向感覚が狂いそう。


ずっと同じ景色を見続けるのに飽きたディアーナは、気を紛らわそうとし

「レオンハルト様、次の目的地はどんな所ですの?」

珍しく、ディアーナからレオンハルトに声を掛ける。


「スマザードって半島で、三方を海に囲まれている。」

そっけなく、淡白な返事が返された。


「………それだけですの?」


「それだけ。」


━━━会話にならない…いつもの、鬱陶しい位のレオンハルト、どこへ行った!━━━


フイと、そっぽを向くようにディアーナから離れ、足早に歩を進めるレオンハルトにディアーナの苛立ちが募る。


━━━上等じゃ!変態のクセに!
何か知らんが詫びぬ!引かぬ!媚びぬ!負けぬわ!━━━


ハラハラしながら背後から二人のやり取りを見るスティーヴンを尻目に、ここに今、静かなる戦いの火蓋が切って落とされた。






商業都市シャンクを離れて一月あまり、やっと目的の海沿いの町にやってきた。


町の役場で話を聞くと最近、人が行方不明になるとの事。

また人身売買か?と考えたが、居なくなるのは年齢関係無く男性ばかりだそうだ。


身元が判明しているだけで5人、廃れた町ではないが住む場所の無い暮らしをしている者も居るには居る。


その中からも行方不明者がいるかも知れない。


「女性でないからと言って…ねぇ、ほら、世の中には、そういう趣味の方もいらっしゃるでしょう?
…うちにも、見てくれだけは抜群の二人がおりますもの。」


ディアーナが真剣に答えるが、行方不明者の中には老人もおり、さすがに爺さんは無いだろうと、役場の人とスティーヴンが同じタイミングで首を横に振った。






町に入るととりあえず、宿を取り部屋に入る。

ちょっと贅沢に一人部屋を3つとった。


「ジャンはどうするの?」

町に入る前日の鍛練中ジャンセンに聞いてみたが、必要無いと言われた。

雨さえしのげれば、何処ででも休めると。


「町に居る間は、修行は無しで。」

ジャンセンが言うと、あからさまに不満の声をあげるディアーナ。

「え~!そんなぁ、師匠!」

「師匠呼びも許してねーから!町には隠れて修行する場所も無いし、宿を一人で抜け出すとかは絶対許さないからな!
なんだったら、一人で鍛練でもしとけ!」


それで私は部屋でスクワットをしています。

そして、ブーブー文句を垂れていた私に、ジャンセンがナイフをくれたので、それを扱う練習を。




「姫さんは、剣の才能が全く無い。と、言うより剣なんて持って歩けないだろう?
レオンハルト様や殿下に何て説明するんだよ……努力がバレたくない人が。」


「うっ確かに…」


「だから、このナイフを渡しとく。
これなら袖の下とかに隠して持っておけるし、分からないだろうが、オリハルコンて貴重な鉱石から出来た品だから、こんな小ささでもやわい剣とかなら折っちまう位の強度あるし」


「ほう!これが、あの有名なオリハルコン!」


「……何で、冒険者でも、戦闘職でも無いご令嬢がオリハルコン知ってんだよ……。」

前世の知識っぽいです。ゲーム知識です。





そんな、昨夜のやり取りを思い出しつつ、クスッと微笑んでしまう。

何だろう、ジャンセンと居ると何か懐かしい気がする。

黒髪に黒目で、姿が日本人ぽいからかも知れないが、それ以外にも何か……


「お兄ちゃん…みたい…?」

無意識に呟いた自分の声に驚く。

「えっ!お兄ちゃんて、なに?」

うろたえた私は、ジャンセンのくれたオリハルコンの小さなナイフを両手で握り締めた。



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