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第一章【悪役令嬢ディアーナに転生】
20#一人になりたかった理由と師匠。
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一人、林の中に来たディアーナは木の枝を剣に見立てて素振りをしていた。
両手で枝を握り、正面に構え激しく振り下ろす。
「何か…体が動くのよね…だけど、私には実戦向きではない程度のようね…。」
前世の私は、庶民の少女だったと思えるのだが、なぜか多少の防衛手段を会得しているっぽい。
達人のような極めた技を身に付けている訳ではなく、あくまで軽い自衛手段のみのようだ。
殴るとか、蹴るとか、小指ひねるとか、ラリアットとか、はしたない場所を狙って蹴りあげるとか。
「多少、素地があるなら、もう少し強くなれないものかしら?お股を蹴りあげる以外で。」
「おっかない事言ってんじゃないよ、お姫様が」
ディアーナの背後に黒髪の青年が音も無く現れ、木の下に立っていた。
「あ、新入りの人さらいだ。」
特に驚く風も無く、青年を指差す。
「いや、人聞き悪いなーそれ……もう人さらいでないよ、俺ー。姫さん達が暴れたせいで頭もマージ先輩も死んだし、俺、今は無職なんだから。」
肩を竦め、おどけたように言う青年にディアーナが首を傾げる。
「?無職?違うでしょ?陛下が影のあなたをクビにしない限りは。」
ディアーナはキョトンとした顔で青年を見る。
「……ハハッ、言いきりますか?俺を影だと。」
ぶわっと空気が変わる。殺気にも似た威圧感を投げつけられたようだ。
「言い切るわよ、初めて地下で逢った時から、あなた私を守っていたものね」
「手枷を嵌められて地下室に放り込まれていたのに、守られていたと言うのですか?」
「すね毛が私に手を出したら、即殺ってしまっていたんじゃない?
ところで、すね毛死んだの?腕が落ちる所は見たけど。」
木の枝をブンブン振りながら首を傾げ、青年を見る。
「ええ、レオンハルト様が首をバッサリ。
……さっきから、すね毛すね毛って…マージの事ですよね?
やっぱり貴女は、おかしな姫様だ。」
圧されるような殺気が消えると青年はガックリ肩を落とし、項垂れた。
「ねえ、新入り人さらいさん。」
「やめて下さいよ、名前知らないからって。」
黒髪の青年は、疲れ果てたように膝を抱えて座り込む。
「私はジャンセンという者です…。
ジャンセンとでも、ジャンとでもお呼び下さい。
人さらい呼ばわりしなければ、もう何でもいいです。」
「何でイジケてんのよ、そもそも私の前に姿を見せた理由は何よ。」
何故だろう?彼と話していると令嬢らしい口調が出ない。
膝を抱えている青年を前に、仁王立ちで木の枝を肩に担ぐディアーナは、もはや只の苛めっ子にしか見えない。
「先日の件につきまして、私なりに謝罪をしたかったので…。」
「ふぅん、じゃあ私を鍛えてくれる?」
ディアーナの唐突な申し出に、ジャンセンが不思議そうに返す。
「私に頼らなくても、もっとお強いレオンハルト様に教えを請うた方が良いのでは?」
ディアーナの顔から血の気が引く。
青白くなった顔をジャンセンから背け、ポツリポツリと呟く。
「……寝技を教えられそうになったわよ。
……自衛どころの騒ぎじゃない、もっと危険なのよ…。
……頭突き喰らわして逃げたわ。」
「……何か…余計な事を聞いて、すみません…。」
互いに決まり悪そうに顔を背ける。そして沈黙が流れる…。
結局ジャンセンが折れて、ディアーナが身体を鍛えるのに付き合うという話でまとまった。
後は敬語で話されるとやりにくいから、普段使っている口調でと、ジャンセンにお願いした。
ジャンセンに、師匠と呼んでいいかと聞くと却下された。
人さらい以外なら何と呼んでもいいと言ったくせに。
「ちなみにさぁ、姫さんが身体を鍛えるのは殿下やレオンハルト様には内緒?」
「うん、知られたくない。
……イヤじゃん、大して強くもないのに、頑張ってるんだなぁみたいな生暖かい目で見られるの。」
「あー姫さんは、努力がバレたくないタイプな…。」
この日は、ジャンセンに木の枝を剣に見立ててのチャンバラをしてもらったのだが、剣に関しては覚えるだけ無駄だと言われた。ひどいじゃないか。
両手で枝を握り、正面に構え激しく振り下ろす。
「何か…体が動くのよね…だけど、私には実戦向きではない程度のようね…。」
前世の私は、庶民の少女だったと思えるのだが、なぜか多少の防衛手段を会得しているっぽい。
達人のような極めた技を身に付けている訳ではなく、あくまで軽い自衛手段のみのようだ。
殴るとか、蹴るとか、小指ひねるとか、ラリアットとか、はしたない場所を狙って蹴りあげるとか。
「多少、素地があるなら、もう少し強くなれないものかしら?お股を蹴りあげる以外で。」
「おっかない事言ってんじゃないよ、お姫様が」
ディアーナの背後に黒髪の青年が音も無く現れ、木の下に立っていた。
「あ、新入りの人さらいだ。」
特に驚く風も無く、青年を指差す。
「いや、人聞き悪いなーそれ……もう人さらいでないよ、俺ー。姫さん達が暴れたせいで頭もマージ先輩も死んだし、俺、今は無職なんだから。」
肩を竦め、おどけたように言う青年にディアーナが首を傾げる。
「?無職?違うでしょ?陛下が影のあなたをクビにしない限りは。」
ディアーナはキョトンとした顔で青年を見る。
「……ハハッ、言いきりますか?俺を影だと。」
ぶわっと空気が変わる。殺気にも似た威圧感を投げつけられたようだ。
「言い切るわよ、初めて地下で逢った時から、あなた私を守っていたものね」
「手枷を嵌められて地下室に放り込まれていたのに、守られていたと言うのですか?」
「すね毛が私に手を出したら、即殺ってしまっていたんじゃない?
ところで、すね毛死んだの?腕が落ちる所は見たけど。」
木の枝をブンブン振りながら首を傾げ、青年を見る。
「ええ、レオンハルト様が首をバッサリ。
……さっきから、すね毛すね毛って…マージの事ですよね?
やっぱり貴女は、おかしな姫様だ。」
圧されるような殺気が消えると青年はガックリ肩を落とし、項垂れた。
「ねえ、新入り人さらいさん。」
「やめて下さいよ、名前知らないからって。」
黒髪の青年は、疲れ果てたように膝を抱えて座り込む。
「私はジャンセンという者です…。
ジャンセンとでも、ジャンとでもお呼び下さい。
人さらい呼ばわりしなければ、もう何でもいいです。」
「何でイジケてんのよ、そもそも私の前に姿を見せた理由は何よ。」
何故だろう?彼と話していると令嬢らしい口調が出ない。
膝を抱えている青年を前に、仁王立ちで木の枝を肩に担ぐディアーナは、もはや只の苛めっ子にしか見えない。
「先日の件につきまして、私なりに謝罪をしたかったので…。」
「ふぅん、じゃあ私を鍛えてくれる?」
ディアーナの唐突な申し出に、ジャンセンが不思議そうに返す。
「私に頼らなくても、もっとお強いレオンハルト様に教えを請うた方が良いのでは?」
ディアーナの顔から血の気が引く。
青白くなった顔をジャンセンから背け、ポツリポツリと呟く。
「……寝技を教えられそうになったわよ。
……自衛どころの騒ぎじゃない、もっと危険なのよ…。
……頭突き喰らわして逃げたわ。」
「……何か…余計な事を聞いて、すみません…。」
互いに決まり悪そうに顔を背ける。そして沈黙が流れる…。
結局ジャンセンが折れて、ディアーナが身体を鍛えるのに付き合うという話でまとまった。
後は敬語で話されるとやりにくいから、普段使っている口調でと、ジャンセンにお願いした。
ジャンセンに、師匠と呼んでいいかと聞くと却下された。
人さらい以外なら何と呼んでもいいと言ったくせに。
「ちなみにさぁ、姫さんが身体を鍛えるのは殿下やレオンハルト様には内緒?」
「うん、知られたくない。
……イヤじゃん、大して強くもないのに、頑張ってるんだなぁみたいな生暖かい目で見られるの。」
「あー姫さんは、努力がバレたくないタイプな…。」
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