【R18】熊の様な45歳の近衛隊長は、22歳の美貌の皇帝に欲しがられています。

DAKUNちょめ

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様々な選択肢。

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キリアンとミーシャの二人に同時に指をさされたノーザンは、指先から距離を取る様に上体を少しのけ反らせつつ、改めて自分が今おかれている不可思議な状況を考えてみた。



二人が自分に対し、キリアンとガインの関係を正しく把握しているかの確認をすると言っていたので、それはまぁ、その通りであろうが…。



その確認をした後に、この二人によって自分の身に起こる事に全く見当がつかない。

正しく把握している者は、口をつぐませる為に遠方に追いやるとか…?

皇帝陛下の私生活に関する事を誰かにペラペラ話すつもりなど毛頭無いのだが。





「ノーザン様、珍しく不安そうな顔をしてらっしゃいますが、キリお兄ちゃんはノーザン様を罰するつもりは有りませんよ。」



「……キリお兄ちゃん……皇帝陛下をキリお兄ちゃん…」



「ミーちゃん、ノーザン固まったぞ。」



皇帝陛下と侍女が、お兄ちゃん、ミーちゃんと呼び合っている。

改めて、またひとつ知ってはならない事を知らされてしまった気がしたノーザンはガクっと項垂れた。



ノーザンには、この二人の関係が今ひとつ分からない。

以前ガインから、二人は幼馴染でもあると聞いた事があるので、二人が兄妹の様に仲が良いのは頷けるが、その二人に拉致監禁されて吊し上げられそうな自分の状況が理解出来ない。



仲が良い兄妹と言うよりは、良からぬ事を企む悪の組織の様だ。





━━私は今から、どんな目に遭うのだろうか…━━





知ってはいけない色んな事を知った気がする。

どんな口封じがなされるのか……ノーザンは不安が拭えない。





「固まったまま聞くが良いノーザン。

この城で、俺とガインの本当の関係を知っている者は少数だ。

有り難い事にガインの覚悟が決まったので、俺達の関係を箝口令を敷くまでもひた隠しにする必要は無いのだが、公にするつもりもないので今まで通り一応は隠しておこうかと考えている。」





「そうですか…。

それで、隠しておくべき真実を知っている私の口を封じようと……。」





ノーザンはテーブルの上に両肘をつき、両手で頭を抱えた。

次から次へとノーザンの理解を越える事が起き過ぎて、平凡な毎日を堅実に過ごすノーザンには今日の出来事が全て、正直しんどい。





「悪い方向に考え過ぎて、心折れちゃってますわよ。ノーザン様。

大丈夫ですか?」





頭を抱えるノーザンの隣に腰を落とし、顔を右側の斜め下から覗き込むミーシャは、椅子に座るノーザンの膝にポンと手を置いた。

ノーザンは慌てたように顔を上げ、自身の右足をミーシャの手から引く。





「みっ…!ミーシャ嬢!!

婚姻前の若い女性が、男の身体に触れるなど、いけません!!」





「お堅いですわね、ノーザン様は。

衣服の上から少し触れる位なら、構わないんじゃないですか?

だってノーザン様と私は夫婦になるんですから。」







━━な ん で す と ?━━





ノーザンはミーシャの手から右足を引き、椅子の上で内股になった状態で動きが止まった。

身を屈めたままの低い位置からノーザンを見上げるミーシャのぬぼーんとした顔を凝視したままノーザンが言葉を失う。





「ノーザン、話を途中で遮るな。ミーちゃんも。」





鳩が豆鉄砲を食らった様な、驚いた顔で無言のままミーシャと見つめ合う状態のノーザンに向け、キリアンが改めて声を掛けた。





「だからな、ガインが妻であれ側近であれ、俺の弱味であると外部に知れてしまうと面倒でな。

ガインを懐柔しようとするなら、狙われるのはガインよりミーちゃんの方が可能性が高い。

城の中ではまだ、ミーちゃんが俺の愛妾候補だと思ってる者もいる位だしな。」





キリアンを脅す為にガインを利用するにしても、軍神と呼ばれたあのガイン本人を簡単にどうこう出来るもんじゃない。

だったらガイン本人ではなく、その身内を人質にした方が確実で早い。





「それで…ミーシャ嬢を守るという名目で、私と夫婦に…?ですか…。」





「ミーちゃんと夫婦となれば、煩わしい女どもから逃げ隠れする必要も無くなるから、お前にも利はあるだろう?

ガインの娘であるミーシャも未婚の子息を持つ貴族どもからガインとの縁を狙って婚姻関係を結ばないかとせっつかれている。

二人とも、煩わしい求婚から逃れる事が出来るんだ。」



ノーザンは改めてミーシャの顔を見た。

ミーシャは相変わらず、ぬぼーんとした表情のままで、夫婦になるとの話に恥じらう事も照れる事も無く。

いつもどおりのミーシャなままだった。





「…ミーシャ嬢とて、若い乙女です。

この先、恋をする事だってあるでしょう…。

その時に、その…夫のいる身だと…困りませんか?

いや、そうなれば私はすぐ身を引きますが…!」





おずおずと訊ねるノーザンに、キリアンが「それはお前にも言える事だろ?」と表情だけで訊ねる。

それに気付いてノーザンが「いいえ、私は…」と言いたげに眼鏡の奥で目を伏せた。

ノーザンの頬の辺りが僅かに赤く染まったのをキリアンは見逃さなかった。





「……ほぅ……。

この偽装のような婚姻が成立したとして、この先ノーザンは自分からミーシャに別れを切り出す気は無いのだな?

ミーシャに偽りの夫として自分の人生を捧げても良いと。」





「私ごときの人生なぞ、そんな大層なものではありません。

偽りであろうと夫として、ミーシャ嬢のお役に立てるならば本望ですが…」





キリアンは、ノーザンの本心を垣間見た気がした。

ノーザンは本人すらハッキリと気付いて無いかも知れない淡い恋心を、ミーシャに対していだいている様だと。





「あら、私だって自らノーザン様に別れを告げるつもりは御座いませんわよ。

こんな都合の良い相手は、そうそう居ませんもの。」





ノーザンの本心を知ってか知らずか、ミーシャは相変わらずブレないミーシャのまま、悪気無く本音を口にした。





「都合の良い……ですか。」





都合が良いから夫役に選ばれた。

自ら、偽りの夫でもお役に立てるならばとも言った。



ミーシャの夫役に自分が選ばれた嬉しさも無くはないものの、都合が良いという言葉はやはり心にチクリと何か引っ掛かる。





「ええ。ノーザン様はパパからも、キリお兄ちゃんからも信頼されてるし、人柄が良いのも知ってますし、私の人生を捧げても良いと思える人ですわよ。

一緒に居ても私を縛り付けたりせずに楽そうですし…

他の殿方とは違って、何だか気を張らないで済むし…

ノーザン様は私に女らしさを求めたりなさらないでしょう?」





「確かに…私のエゴによって誰かを束縛したり、その人らしさを奪うのは本意では有りませんが…。」





エゴの塊を自認しており、ガチガチにガインを縛り付けて、武人である普段のガインらしさを破り捨てさせてでも数多の表情を見たい、知りたい、奪い尽くしたいキリアンは、組んだ脚の上に肘をついて顎を支え、ノーザンを鼻で笑った。



ノーザンと自分。これは互いに理解出来ない感情だろうなと。





「ノーザンよ、ミーちゃんの言う『都合の良い』は彼女なりの褒め言葉だ。

それだけ心を開ける相手だという意味のな。

今、返事をせずとも良い。

だが早めにお前の答えを聞かせて貰いたい。」





キリアンは椅子から立ち上がり、ノーザンとミーシャに向けて手をヒラヒラと振る。





「ゆっくりと話し合うがいい。

私から見れば、中々に似合いの夫婦だと思うぞ。」





━━二人とも眼鏡だし。━━





そんな本音は口に出さずに、キリアンはミーシャの部屋を出て廊下に立った。





ミーシャの部屋を出たキリアンは、すぐ隣にあるガインの部屋の扉をノックする。

ガインは仕事の為に部屋には居らず、留守の様だ。



無頓着なガインが部屋の鍵を掛けない事があるのを知っているキリアンはドアノブを回してみたりした。



カチャリ………ドアが開いた。





「ふぁ、ねむ……少し仮眠を取るかな……。」





キリアンは主の居ないガインの部屋に入り、ガインのベッドにボフッと横たわった。

昨夜のガインはキリアンの部屋で寝て……いや……気絶していた為に自室のベッドは使っておらず、ガインのベッドにガインの残り香は少ない。





「面倒事の解決のためにノーザンと結婚したいとミーちゃんに言われた時は驚いたけど…案外悪く無いかも知れないな。

好きな人は居ないと言っていたノーザンだけど、ミーちゃんに対して満更でもない感じだったし……

後は、子煩悩なガインパパを説得しなきゃいけないか。」



━━ガインに二人の結婚の許しを得るには、貴族のボンボンからの求婚がウザいだとか、秘密を共有するのに巻き込んでノーザンに色々協力させようだとか、そんなミーシャの打算的な本心は伝えられない。

かと言って、ミーシャのナイトとしてノーザンを側に置きたいとも言えない。

言ったらガインが「だったら俺がずっと側に居て守ってやる!」って言い出すに決まっているし、そうなったら俺が放置されるじゃないか。



それとも何か。四六時中ミーちゃんから離れないって言うならば、ミーちゃんの見ている前でハメまくって良いと言うのか?

それならそれで、俺は遠慮しないけどな。━━



妄想が独り歩きし過ぎて、ミーシャの前で無理矢理ナニを致す映像が頭に浮かび掛かった。

妄想の中のミーシャに物凄く睨まれた気がして、キリアンは思わず妄想映像を遮断した。



「ごめん…ミーちゃん。こっわ…。」











キリアンがミーシャの私室を出た後、ミーシャの部屋にはミーシャとノーザンの二人きりとなった。

さすがに今のノーザンに、部屋に入る瞬間のドキドキ感は残っておらす、ただ、非現実的な出来事が目の前を通り過ぎたかの様にボンヤリとキリアンの出て行ったドアを見ていた。

そんなノーザンを見たミーシャが小首を傾げつつノーザンに声を掛けた。





「申し訳ございませんでしたわノーザン様。

いきなり、このような不躾なお願いを致しまして。

さぞ、お困りになられたでしょう?」





「困ったと言うよりは…困惑しております。

ただ、ミーシャ嬢が身柄を狙われる可能性があるとなれば、私も傍観者ではいられません。

ただ…私もその……男ですので、女性に心を奪われる事も……。」





少し言いにくそうに言葉を途切れさせながら答えたノーザンに、ミーシャが頷いた。





「私、ノーザン様を縛るつもりはありませんよ?

好きな方が出来たら、いつでも身を引きますし……あ、でも協力者は続けて欲しいかな。

私一人でパパ達の後始末やフォロー大変なんですもの。

こればかりは、信用の置けるヒトでないと頼めないし。」





「そうじゃありません……ミーシャ嬢。

私が言いたいのは……

私が本気で貴女を好きになったらどうするのですか?

貴女を…その……女性として……。」





後始末やフォローって何だろうとの疑問を上塗りして、ノーザンは自分が抱える最大の疑問を口にせずにはいられなかった。



偽りの夫役の自分が、偽りの妻の役のミーシャの身体も心も求めてしまった時、自分はその役から降ろされてしまい、新しい夫役を探すのだろうかと。





「今の環境をやめないで済むのなら、好きになってくれても一向に構いませんけど。

お城に住んで、適当に侍女の仕事をするフリをして、大好きなパパとキリお兄ちゃんを側で見てられるのなら。」





「それは、私が!貴女を抱きたくなっても、そう言えるのですか?」





顔を真っ赤にしたノーザンが、両手に拳を握って自身の太ももの上に置き、生まれて初めて女性に対し自身の好意を告げる、意を決した告白にも似た言葉を吐いた。





「はい。約束を守ってくれるノーザン様になら構いません。

私はノーザン様とならば、そんな関係も有りだと思ってます。」





あっさりと、ケロリと、ミーシャはたじろぐ事も無く、飾り気の無い本音だけを口にする。

自身の吐いた言葉と、返事を待つ僅かな間にバクバクと心臓を跳ね上がらせたノーザンとは対照的に、ミーシャはミーシャのままだった。

ノーザンにとって一世一代の告白も、ミーシャには普通の言葉だ。

訊ねられたから、正直に答えを返すだけの。

だからこそ、その返答に嘘をついて濁したり誤魔化したりもしない。





「………貴女って人は……本当に真っ直ぐで…何も偽らず…

清々しい程、気持ちの良い方ですね。」



そうなの?嘘くらい私だってつくわよ?私を美化し過ぎて無い?

ノーザンが言う自分像には自覚の無いミーシャが、無表情に無言でコテンと首を傾げた。



ノーザンは上気した顔に曇った眼鏡を外して、目元を指先で擦りながら苦笑して頷く。

見た目も言葉も態度も飾らないミーシャを好きな自分が居る。

まだ愛してるなんて言える程、その言葉の意味を理解していない自分だが、この気持ちがそこに辿り着く日が来る事を疑わない。

そう考えたノーザンはミーシャに微笑んだ。



眼鏡を外したノーザンの顔を見たミーシャは、指先を鼻の上に当て、眼鏡をクイと持ち上げた。

眼鏡の奥でミーシャの眼がキラリと光る。





「改めて見たら、ノーザン様って中々の美青年ですわね…創作意欲がくすぐられますわ……もうひと押し…。」





インテリ眼鏡の美形キャラはまだ作中に出した事が無い。

ミーシャはノーザン自体を気に入っているが、間近で観察出来るネタとしても、この結婚は是非とも成立させたい。ミーシャは思わず呟いた。





「そうですわ!ノーザン様!

ノーザン様が私を妻にした場合、貴方にひとつ特典が付きます。



それは、ガルバンゾー先生の作品が誰よりも先に読めるという特典です。」





「…そ、それは確かに素晴らしい特典だが…なぜミーシャ嬢にそれが可能なんだ?



そう言えば、ガルバンゾー先生のサイン入り新刊を私に下さりましたが…貴女は一体どうやってそれを手に入れたのですか。」





まさか、謎の青年小説家と言われているガルバンゾーと、ワガママを聞いて貰えるような良い仲ではないだろうなと、少なからず不満な表情が出てしまった。





「あら、ガルバンゾー先生のサイン入り新刊を手に入れる位、簡単な事ですわよ。

だって私が、ガルバンゾー本人なんですから。」





「はいぃ!?唐突に、何を言い出すんですか!!貴女は!!」













「はぁあ!?唐突に、何を言い出しやがるんだ!!お前は!!」





ノーザンがミーシャの告白に驚きの声を上げていた頃、夕方近くになり自室に戻ったガインもまた、キリアンから告げられた言葉に驚きの声を上げていた。





「何を驚く事がある?

ミーシャとノーザンが、結婚するかも知れない…二人とも、伴侶が居てもおかしくは無い年齢だし、そんな驚く様な話じゃないだろ?」





「その話自体は、思いもよらぬで、そりゃ驚いたがな!!

それより、そんな話の途中で、なんでいきなり唐突に意味不明な選択肢を出しやがるんだよ!!

そっちの方が驚きだわ!!



なんなんだよ!!

今から、しゃぶるのと、しゃぶられるの、どっちがいい?って!」





「………え?なんなんだって、言葉通りだけど?

で、どっちがいい?」





「そこに、やらねーよって俺が答える選択肢は無いんだな!!

ホント、ブレねーよな!お前は!!」





ミーシャ同様にキリアンもまた、ガインに対しては何処までも真っ直ぐで自分を偽らず━━



特に性衝動には真っ直ぐで、誤魔化したり偽ったりせず、真っ向から宣言し、躊躇なく求めてくる。





「で、どっちがいい?」





「アホか!!それより、ミーシャとノーザンの話のが先だろうが!

二人が結婚!?何でだ!!」





キリアンは、チラッとガインの部屋の壁に目を向けた。

ガインは知らないが、壁の向こう側にはノーザンとミーシャが居る。





「どちらかを、ちゃんと済ませたら教えるよ。

で、どっち?」





ガインは、ぐぬぬぬゥ!と歯を食いしばる様に唸ってから、キリアンの前に片膝をついた。



「お前にしゃぶらせたら、そのまま色んなトコ嬲り出して、結局最後までヤるだろうが!

だから俺が、する!!」



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