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険しかったであろう皇帝への道。
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キリアンの部屋に着いたガインは扉をノックしつつ、辺りに目を配る。
守るべき近衛兵の姿が見えないが、陛下は部屋に居るのだろうか。
「入るが良い。」
広い室内の奥の方、扉から離れた場所から返事をされたようで声が遠い。
「失礼致します。」
許可がおりたので扉を開き、ガインが皇帝陛下の私室へと入る。
部屋に入ったガインはキリアンの姿を見るなり、大きな溜息をついた。
━━マジか━━
皇帝陛下の寝室も兼ねている広いこの部屋には大きなベッドがあり、「待ちかねたぞ」と言わんばかりに、キリアンがそこに足を組んで腰掛けていた。
まるで自分を捕らえる為の罠の様で、ガインはキリアンに近付く事が出来ない。
ドアから離れたガインは、キリアンからも距離を取った場に膝をつき、胸に手を当て頭を下げた。
「陛下、先ほどは大変無礼な態度を取ってしまいました事、お詫びのしようも御座いません…。」
ベッドに腰掛けたキリアンは両手を後ろについて首を傾け、微笑んだ。
「もう、気にしてないから大丈夫。疲れてるんだろ?
ジジイとババァに言い寄られて大変だったのは聞いたから。」
━━もう気にしてないから大丈夫って事は、さっきまでは気にしていて、大丈夫じゃなかったって事か。どれほど腹を立てていたのだろう。恐ろしい……。━━
「それに…師匠、寝てないのだろう?」
キリアンがベッドから降り、ガインの側に歩み寄る。
頭を下げたまま薄く目を開いたガインの視界にキリアンのブーツの先が入った。
ガインは動く事が出来ず、逃げる事も出来ない。冷や汗が出る。
やがて膝をついたキリアンの足がガインの視界に入り、焦る様にガインが顔を上げた。
「いけません!!陛下が床に膝をつくなど!!」
顔を上げたガインのすぐ前に、キリアンの微笑む顔があった。
あまりにも間近にあるキリアンの顔に、ガインが言葉を失う。
見慣れたこの青年の顔が美しいのは周知の事実で、ガインにとっては幼い頃から見慣れた顔ではあるのだが…
皇帝になってからのキリアンは生来の美しさに加え威厳も加わり、神に愛されたその身には人が触れてはならないと思える程の神々しささえある。
「…ガイン…髪、濡れてる…。雫が垂れて……。美味しそうだ。」
「へ、陛下…か、顔がちかっ…近く…!」
キリアンの顔が更にガインに近付くと、髪から垂れて顔を濡らす水滴を、キリアンが舌先で拭い始めた。
「大人しくしておいで、ガイン…。」
床に片膝をついたままキリアンのなすがままになっているガインは、顔を赤くして気恥ずかしさと擽ったさに耐える。
「へ、陛下…あ…の……!!な、何で!陛下の部屋の前に近衛兵が居なかったんですかね!!」
恥ずかしさに居たたまれなくなったガインが誤魔化す様にキリアンの両肩を掴んで押し返し、強引に身体を離した。
ガインに両肩を掴まれ、ガインから離されたキリアンはクスクスと楽しそうに笑う。
「ガインの代理で配属された近衛兵はクビにした。
新兵として最初から頑張って貰う。だってな…フフ…
この俺をお姫様扱いして手を出そうとしやがったんだぞ?」
━━何だ、この小悪魔みたいなの!!
触れがたい程に神聖な女神のようかと思ったら、小悪魔みたいに蠱惑的な笑みを浮かべて誘惑するみてぇな…!
そりゃ、免疫力無いと簡単に魅了されちまうわな…━━
ガインが頬を染めたままで、複雑な顔をする。
クビになった兵士も、陛下から無意識にダダ漏れしているフェロモン的な何かによる、魅了の被害者な気がしなくもない。
「そ、そうですか…それは……陛下の魅力のせいでも……。」
「無理矢理、抱かれそうになったりな。」
ビクッ
キリアンの肩を掴んだガインの手に一瞬力がこもった。
その際にガインの見せた一瞬の表情をキリアンは見逃さなかった。それは、部下の不敬に腹立たしく思ったと言うよりは……
「もしかして、嫉妬してくれたのか?…フフフ。眉間にシワが寄ったぞ?安心しろ。
俺がガイン以外に肌を許すワケが無いじゃないか…。」
「ち、違う!部下が陛下に無礼を働いた事がな!俺には、ゆ、許し難く…だ…から…」
髪から滴り落ちガインの唇を濡らした水滴を吸い取る様に、キリアンが唇を押し付ける。
言葉を紡いでいた口は開いたままで、キリアンの舌先がヌルリとガインの唇の隙間に入り込んで来た。
「…き、キリ…あ…ぁ…ン…む…」
ヌルリ、クチュリとゆっくりとした音が鳴る。
疲れが蓄積され眠りを欲する身体に、唇と口内へのこの優しい愛撫は心地良く、先程の自覚の無い嫉妬もほどかれてゆく。
「ガイン…お疲れ様…このまま、この部屋で眠るが良い…。」
「そっ、そんな事は出来ん!出来ません!
いくら何でも俺が陛下の寝所を占領しちまうなど!
一旦、自分の部屋に戻る!!」
心地良さにトロトロと微睡みかけていたガインが、キリアンの言葉に我に返るようカッと目を見開き、焦った様に立ち上がった。
キリアンも立ち上がるやいなや正面からガインの腰に両腕を回してその大きな身体を持ち上げ、不安定なままベッドの方に運んで行く。
「ちょっ、ちょっ…!あぶ、アブねぇ!倒れる!あぶっっ!!うお!」
「駄目、部屋には帰さない。」
キリアンの大きなベッドに横たえられたガインの隣に、キリアンが添い寝する様に身体を寄せ、ガインの耳の縁や耳たぶ、こめかみや頬に唇を触れさせ、擽る様な優しい愛撫を与えて来る。
「あっ…んんっ…あ………ぁ………くすぐってぇ……あ…」
「寝てしまっていいよ…ガイン…。
…俺の為にババァをフッてくれたんだろ?…ふふふ…嬉しいよ…」
「そ、そんなつもりじゃ……ンあ…くふ……」
優しく、甘く、柔らかく、温かく、幾つも降ってくるキリアンのキスにが心地良く、うつらうつらと舟を漕ぎ始めたガインはやがて、キリアンの大きなベッドでイビキをかいて大の字になって寝てしまった。
「ふふふ、意地を張ったりして…可愛いなぁガイン。
ガインが俺の為にババァを振ってくれて嬉しいよ……まぁ、振らなくても絶対渡さないし、縛り付けてでも、逃さないんだけどね。」
▼
▼
▼
「ミーシャ嬢、私が留守にしている間に隊長が戻って来られたと聞きましたが、今、隊長にお会い出来ますか?」
ホウキを持ってガインの部屋の前の廊下に立っていたミーシャに、ノーザンが声を掛けて来た。
「父なら、陛下に謁見した後に食堂に行ったと聞きましたよ。
部屋には戻っておりません。」
ぬぼーんと無気力に返事をして、ミーシャは再びホウキを動かす。
動かすだけでゴミを集めている様子は無く、掃除をしているとは言い難い。
「食堂で軽く腹を満たして浴場に向かったと聞いたので、私も浴場に向かったのだが……もう出たとの事で浴場には居なかったのだ。
だから部屋で休んでるものかと。
……この忙しい時に、行方知れずとは……あ。」
ノーザンのぼやきを聞いていたミーシャも、「あ。」と心の中で呟いた。
表情は無表情なままで、さりげにノーザンを見る。
二人同時にガインの居場所を思い付いた。
「陛下の所しかないな……はぁ……
隊長から、その陛下に一言言っといて貰いたかったのだが……。」
「義父から陛下にですか?何を進言して欲しいのか分かりかねますが、いくら義父の進言であっても陛下が聞いて下さいますでしょうか?」
「大事な人の言葉なら聞き入れて貰いたいもんだが…まぁ、仕方がない。
隊長が陛下と共に居るのであれば、ここ最近荒んでいた陛下のお気持ちも少し和らぐだろう。
その時を狙って、隊長にお願いする事にする。」
「荒んでいた……確かに機嫌悪かったですねぇ。陛下。」
ミーシャはガイン不在の間に何度かキリアンの部屋を訪ねた。
『物足りない!』と言いながら独り遊びにふけった話も聞いた。
キリアンに対しては気の毒だなぁと思いつつ、ネタとしては面白かったので部屋に取材に通っていたのだが…。
「そう言えばミーシャ君、今、城内には君が陛下の伽の相手をしていたと噂も流れてるよ。」
「…………………はぁ!?んなワケ無いじゃないですか!!!
何ですかそのくっだらない噂は!!」
いつもぬぼーんとした無気力な態度しか見せなかったミーシャの激しい口調に、ノーザンが目を丸くした。
「君はそんな顔もするんだな。ははは。
……まぁ、ミーシャ君も気をつけた方がいい。」
軽く会釈をして、その場を離れたノーザンの後ろ姿を見送りながら、気をつけた方がいい、の意味を考える。
いや、それより先に……そんなくだらない噂を流しやがったクソは誰だ!!
▼
▼
▼
ガインが目を覚ますと既に日は落ちており部屋の中は暗く、広い部屋の中、ベッドから一番離れた場所にある机の上にランプを灯し、多くの書類に目を通しながら書き物をしているキリアンが居た。
ガインは離れた場所から暫くキリアンの働く姿を見続ける。
ガインにとってのキリアンは剣の弟子であった時の姿が一番印象深い。
剣の腕は一流だし他の武芸にも秀でていた為に、キリアンが騎士や戦士として申し分ない力を持つ事は把握していたのだが。
「そっか…皇帝は、強いだけでなれるモンじゃないわな…。
ちゃんと頭も良くねぇと…。」
少年時代のキリアンが、クタクタになるまで剣の鍛錬をした後に、皇帝となるべく多くの知識を学んでいたのだと、今さらではあるが気付いた。
剣に、勉学に、他にも処世術や何だと学ぶ事は多かったろう。
それらを身につけたからこそ、キリアンは今、皇帝としてこの国の頂点に君臨している。
考える事の苦手な勉強嫌いのガインとしては、弟子とは言え、そんなキリアンに頭が上がらない気がする。
「随分と立派な大人になっちまって…。そういやガキの頃から皇帝になりたいって言ってたもんな。」
子供の成長を喜ぶ父親にでもなった様な気がして、今さらではあるが何だか妙に擽ったく感じる。
エライな、よく頑張ったな、お前は父親のグレアムに負けない位に立派な皇帝だ!
「……キリアン……」
そんな褒めてやりたい言葉が頭に浮かび、ガインが声を掛けようとベッドから身体を起こした。
そして気付いた。
ベッドの上の自分が、既に真っ裸にされていた事を。
「はぁぁぁ!!??」
守るべき近衛兵の姿が見えないが、陛下は部屋に居るのだろうか。
「入るが良い。」
広い室内の奥の方、扉から離れた場所から返事をされたようで声が遠い。
「失礼致します。」
許可がおりたので扉を開き、ガインが皇帝陛下の私室へと入る。
部屋に入ったガインはキリアンの姿を見るなり、大きな溜息をついた。
━━マジか━━
皇帝陛下の寝室も兼ねている広いこの部屋には大きなベッドがあり、「待ちかねたぞ」と言わんばかりに、キリアンがそこに足を組んで腰掛けていた。
まるで自分を捕らえる為の罠の様で、ガインはキリアンに近付く事が出来ない。
ドアから離れたガインは、キリアンからも距離を取った場に膝をつき、胸に手を当て頭を下げた。
「陛下、先ほどは大変無礼な態度を取ってしまいました事、お詫びのしようも御座いません…。」
ベッドに腰掛けたキリアンは両手を後ろについて首を傾け、微笑んだ。
「もう、気にしてないから大丈夫。疲れてるんだろ?
ジジイとババァに言い寄られて大変だったのは聞いたから。」
━━もう気にしてないから大丈夫って事は、さっきまでは気にしていて、大丈夫じゃなかったって事か。どれほど腹を立てていたのだろう。恐ろしい……。━━
「それに…師匠、寝てないのだろう?」
キリアンがベッドから降り、ガインの側に歩み寄る。
頭を下げたまま薄く目を開いたガインの視界にキリアンのブーツの先が入った。
ガインは動く事が出来ず、逃げる事も出来ない。冷や汗が出る。
やがて膝をついたキリアンの足がガインの視界に入り、焦る様にガインが顔を上げた。
「いけません!!陛下が床に膝をつくなど!!」
顔を上げたガインのすぐ前に、キリアンの微笑む顔があった。
あまりにも間近にあるキリアンの顔に、ガインが言葉を失う。
見慣れたこの青年の顔が美しいのは周知の事実で、ガインにとっては幼い頃から見慣れた顔ではあるのだが…
皇帝になってからのキリアンは生来の美しさに加え威厳も加わり、神に愛されたその身には人が触れてはならないと思える程の神々しささえある。
「…ガイン…髪、濡れてる…。雫が垂れて……。美味しそうだ。」
「へ、陛下…か、顔がちかっ…近く…!」
キリアンの顔が更にガインに近付くと、髪から垂れて顔を濡らす水滴を、キリアンが舌先で拭い始めた。
「大人しくしておいで、ガイン…。」
床に片膝をついたままキリアンのなすがままになっているガインは、顔を赤くして気恥ずかしさと擽ったさに耐える。
「へ、陛下…あ…の……!!な、何で!陛下の部屋の前に近衛兵が居なかったんですかね!!」
恥ずかしさに居たたまれなくなったガインが誤魔化す様にキリアンの両肩を掴んで押し返し、強引に身体を離した。
ガインに両肩を掴まれ、ガインから離されたキリアンはクスクスと楽しそうに笑う。
「ガインの代理で配属された近衛兵はクビにした。
新兵として最初から頑張って貰う。だってな…フフ…
この俺をお姫様扱いして手を出そうとしやがったんだぞ?」
━━何だ、この小悪魔みたいなの!!
触れがたい程に神聖な女神のようかと思ったら、小悪魔みたいに蠱惑的な笑みを浮かべて誘惑するみてぇな…!
そりゃ、免疫力無いと簡単に魅了されちまうわな…━━
ガインが頬を染めたままで、複雑な顔をする。
クビになった兵士も、陛下から無意識にダダ漏れしているフェロモン的な何かによる、魅了の被害者な気がしなくもない。
「そ、そうですか…それは……陛下の魅力のせいでも……。」
「無理矢理、抱かれそうになったりな。」
ビクッ
キリアンの肩を掴んだガインの手に一瞬力がこもった。
その際にガインの見せた一瞬の表情をキリアンは見逃さなかった。それは、部下の不敬に腹立たしく思ったと言うよりは……
「もしかして、嫉妬してくれたのか?…フフフ。眉間にシワが寄ったぞ?安心しろ。
俺がガイン以外に肌を許すワケが無いじゃないか…。」
「ち、違う!部下が陛下に無礼を働いた事がな!俺には、ゆ、許し難く…だ…から…」
髪から滴り落ちガインの唇を濡らした水滴を吸い取る様に、キリアンが唇を押し付ける。
言葉を紡いでいた口は開いたままで、キリアンの舌先がヌルリとガインの唇の隙間に入り込んで来た。
「…き、キリ…あ…ぁ…ン…む…」
ヌルリ、クチュリとゆっくりとした音が鳴る。
疲れが蓄積され眠りを欲する身体に、唇と口内へのこの優しい愛撫は心地良く、先程の自覚の無い嫉妬もほどかれてゆく。
「ガイン…お疲れ様…このまま、この部屋で眠るが良い…。」
「そっ、そんな事は出来ん!出来ません!
いくら何でも俺が陛下の寝所を占領しちまうなど!
一旦、自分の部屋に戻る!!」
心地良さにトロトロと微睡みかけていたガインが、キリアンの言葉に我に返るようカッと目を見開き、焦った様に立ち上がった。
キリアンも立ち上がるやいなや正面からガインの腰に両腕を回してその大きな身体を持ち上げ、不安定なままベッドの方に運んで行く。
「ちょっ、ちょっ…!あぶ、アブねぇ!倒れる!あぶっっ!!うお!」
「駄目、部屋には帰さない。」
キリアンの大きなベッドに横たえられたガインの隣に、キリアンが添い寝する様に身体を寄せ、ガインの耳の縁や耳たぶ、こめかみや頬に唇を触れさせ、擽る様な優しい愛撫を与えて来る。
「あっ…んんっ…あ………ぁ………くすぐってぇ……あ…」
「寝てしまっていいよ…ガイン…。
…俺の為にババァをフッてくれたんだろ?…ふふふ…嬉しいよ…」
「そ、そんなつもりじゃ……ンあ…くふ……」
優しく、甘く、柔らかく、温かく、幾つも降ってくるキリアンのキスにが心地良く、うつらうつらと舟を漕ぎ始めたガインはやがて、キリアンの大きなベッドでイビキをかいて大の字になって寝てしまった。
「ふふふ、意地を張ったりして…可愛いなぁガイン。
ガインが俺の為にババァを振ってくれて嬉しいよ……まぁ、振らなくても絶対渡さないし、縛り付けてでも、逃さないんだけどね。」
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「ミーシャ嬢、私が留守にしている間に隊長が戻って来られたと聞きましたが、今、隊長にお会い出来ますか?」
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「父なら、陛下に謁見した後に食堂に行ったと聞きましたよ。
部屋には戻っておりません。」
ぬぼーんと無気力に返事をして、ミーシャは再びホウキを動かす。
動かすだけでゴミを集めている様子は無く、掃除をしているとは言い難い。
「食堂で軽く腹を満たして浴場に向かったと聞いたので、私も浴場に向かったのだが……もう出たとの事で浴場には居なかったのだ。
だから部屋で休んでるものかと。
……この忙しい時に、行方知れずとは……あ。」
ノーザンのぼやきを聞いていたミーシャも、「あ。」と心の中で呟いた。
表情は無表情なままで、さりげにノーザンを見る。
二人同時にガインの居場所を思い付いた。
「陛下の所しかないな……はぁ……
隊長から、その陛下に一言言っといて貰いたかったのだが……。」
「義父から陛下にですか?何を進言して欲しいのか分かりかねますが、いくら義父の進言であっても陛下が聞いて下さいますでしょうか?」
「大事な人の言葉なら聞き入れて貰いたいもんだが…まぁ、仕方がない。
隊長が陛下と共に居るのであれば、ここ最近荒んでいた陛下のお気持ちも少し和らぐだろう。
その時を狙って、隊長にお願いする事にする。」
「荒んでいた……確かに機嫌悪かったですねぇ。陛下。」
ミーシャはガイン不在の間に何度かキリアンの部屋を訪ねた。
『物足りない!』と言いながら独り遊びにふけった話も聞いた。
キリアンに対しては気の毒だなぁと思いつつ、ネタとしては面白かったので部屋に取材に通っていたのだが…。
「そう言えばミーシャ君、今、城内には君が陛下の伽の相手をしていたと噂も流れてるよ。」
「…………………はぁ!?んなワケ無いじゃないですか!!!
何ですかそのくっだらない噂は!!」
いつもぬぼーんとした無気力な態度しか見せなかったミーシャの激しい口調に、ノーザンが目を丸くした。
「君はそんな顔もするんだな。ははは。
……まぁ、ミーシャ君も気をつけた方がいい。」
軽く会釈をして、その場を離れたノーザンの後ろ姿を見送りながら、気をつけた方がいい、の意味を考える。
いや、それより先に……そんなくだらない噂を流しやがったクソは誰だ!!
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ガインが目を覚ますと既に日は落ちており部屋の中は暗く、広い部屋の中、ベッドから一番離れた場所にある机の上にランプを灯し、多くの書類に目を通しながら書き物をしているキリアンが居た。
ガインは離れた場所から暫くキリアンの働く姿を見続ける。
ガインにとってのキリアンは剣の弟子であった時の姿が一番印象深い。
剣の腕は一流だし他の武芸にも秀でていた為に、キリアンが騎士や戦士として申し分ない力を持つ事は把握していたのだが。
「そっか…皇帝は、強いだけでなれるモンじゃないわな…。
ちゃんと頭も良くねぇと…。」
少年時代のキリアンが、クタクタになるまで剣の鍛錬をした後に、皇帝となるべく多くの知識を学んでいたのだと、今さらではあるが気付いた。
剣に、勉学に、他にも処世術や何だと学ぶ事は多かったろう。
それらを身につけたからこそ、キリアンは今、皇帝としてこの国の頂点に君臨している。
考える事の苦手な勉強嫌いのガインとしては、弟子とは言え、そんなキリアンに頭が上がらない気がする。
「随分と立派な大人になっちまって…。そういやガキの頃から皇帝になりたいって言ってたもんな。」
子供の成長を喜ぶ父親にでもなった様な気がして、今さらではあるが何だか妙に擽ったく感じる。
エライな、よく頑張ったな、お前は父親のグレアムに負けない位に立派な皇帝だ!
「……キリアン……」
そんな褒めてやりたい言葉が頭に浮かび、ガインが声を掛けようとベッドから身体を起こした。
そして気付いた。
ベッドの上の自分が、既に真っ裸にされていた事を。
「はぁぁぁ!!??」
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