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断ち切るべき過去と、紡ぐべきこれから。
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王子である僕が今まで勉強してきた我が国を含む諸外国の多くの歴史。
その中で習った数ある宗教の教えの中に
人の魂が人の世に在るのは一度きりで、今生が終われば魂は天界か地界へ行くという教えと
人の魂は今生が終われば、やがて新しい肉体を得て、前の生とは全く違う次の生を与えられるといった教えがあった。
どちらが本当かなんて調べる術も無かったし、真実は別にあり、どちらも違うかも知れない。
どうであれ、一度は死を経験した者でなければ分からない話だ。
だから、そんな話に興味を持つ事もなかったが……
あれは……3年程前の事だろうか。
突然、兄上が「自分には前世の記憶がある」と言い出した。
何をきっかけに前世とやらを思い出したのかは分からないらしいが、自分の中に自分以外の者の存在を感じる様になったとの事。
その前世の記憶とやらも、いきなり全部を思い出したワケではないようだった。
日々、氷が溶けていくように、ジワジワとゆっくり記憶が流れ落ちる感覚だと言った。
それがいつか、兄上の記憶を塗り潰してしまうのじゃないだろうか。
「それは兄上が、兄上でなくなるって事?」
幼かった僕は、大好きな兄が別の誰かに変わってしまうのではないかと恐ろしかった。
「いや、僕は僕のままだよ。
別人だった時の記憶も在るってだけで。」
心配しなくて良いからと、兄上が言った。
これは僕と兄上と二人だけの秘密。
大人に話して、王太子の兄上の気が触れたのではなんて事になったら大変な事になる。
兄上が話してくれる前世の話を、僕は半信半疑で聞いていたのだけれど。
兄上の話す何処か遠い国の庶民の暮らしは聞いていて楽しくて、これが兄上の創作だとしても全然構わなかった。
「リヒャルト、僕ね……前世で好きな子が居たみたいなんだ。
僕が僕に生まれ変わったのは、その子を探して結ばれる為だと思ってる。」
「そうなんですね。」
兄上は意外と、甘美な空想家なんだなと思った。
ロマンチック……とでも言うのか。
前世というモノが本当にあったとして、その前世で結ばれなかったから次の世で結ばれる。
兄上の語る前世の自分と、今の兄上では立場が全然違うではないか。
相手も姫君にでも生まれ変わってない限りは、現実的に考えて、かなり無理がある話だと思う。
「なぜ、その方とは結ばれなかったのですか。」
「彼女は、病を患っていて……
僕に伝染す事を恐れて、1人で森の中に住む様になったんだ。」
それは……僕に、ではなくて村人全員に対してでは?
兄上の妄想は、思った以上に独りよがりな設定が見え隠れする様になった。
まぁ、そうは言っていても王太子の兄上は僕より早々に婚約者を選ぶ必要がある。
婚約者候補の姫君の中から、気に入った姫君がおられたなら、それが前世で結ばれる筈だった少女の生まれ変わりだという事になるのだろう。
ロマンチックな兄上の空想に付き合うのも面白いので、僕は兄上の言葉を否定する事は無かった。
兄上が前世の記憶を思い出し始めてから1年近く経った頃だった。
「げ!!!う、嘘だ……」
兄上が僕の部屋に来るなり、床に膝をついて崩れた。
「兄上?どうしました?」
「……私の……前世で来世を約束した、彼女を見付けた…!」
この日は、兄上が正式に立太子なさる日の前日であり、今までは第二王子である僕と同じ師について剣技や授業を受けていたのが、それが最期となる日だった。
正式に王太子となった兄上には、更に上のランクの教育係とやらがつくそうだ。
その日は、姫君達との顔合わせも特に無かったはず。
まさか、王城に勤めている貴族の女性か、侍女の中にお気に入りでも見付けたのだろうか。
「それは良かったですね。
相手の方は、兄上が前世で「彼」だった事に気付いたのですか?」
どんな運命的な、ロマンチックな出会いを描いたのだろう。
兄上の創作の結末が知りたくて兄上に尋ねてみたが、兄上の顔は赤らむどころか青ざめていき、しまいには両手で顔を覆ってしまった。
「気付いてない!!気付かなくてもいい!!
ああ……なぜだ!なぜ彼女は……!!
こんなにも側に居て……ずっと共に居て……!」
「………兄上の運命の人は……
ずっと側に居た誰かなのですか?」
となると遠方の姫君ではなく、僕も知っている城の誰かなのか…。
やはり、侍女の誰かなのだろうか。
「確かに彼女は私より早く亡くなった!
だからと言って…だからと言って!!
転生神よ!!彼女の今生が………!
オズワルドってのは無いだろう!!」
衝撃だった。
今までの兄上の創作じみた前世の話は、兄上の都合の良い設定や解釈が垣間見えており、だからこそ兄上の話す前世の話とやらは全て空想ではないかと思っていた。
明日からは王太子としての厳しい教育が始まる兄上の、今日がロマンチックな空想のクライマックスだと思っていた。
そのクライマックスがソレ!?そんなオチ!?
「ぶふっ!」
笑いが込み上げるのを堪らえた。
オズワルドによる剣技の授業が今日で最後だったために礼を言いに行き
「失礼とは思いますが、幼い頃から見てきた生徒の最後ですから」
と頭を撫でられた瞬間、兄上はオズワルドが彼女だと気付いたらしい。
オズワルドの方に前世の記憶らしきものはなく、そのまま別れたとの事。
僕は、笑い話だと思ってその話を聞いていたけど、兄上の思い通りではない前世の結果を聞いて、やっと兄上の空想話が真実味を帯びて来たと感じた。
では、オズワルドも兄上のように前世を思い出したら…
兄上を好きになるのだろうか。
あのオズワルドが?うーん………
身体の大きな騎士のオジさんが、前世の記憶を思い出したからと言って、兄上を??王太子を??
「私よ!思い出したの!!
やっと、あなたと結ばれる事が出来るわ!」
………果たして、そうなるのだろうか。
「兄上は……
オズワルドと今生でこそ、結ばれたいとお思いですか?」
「なっ…!そんな事、出来るワケ無いだろう!
私は王太子で、次期の国王だ!
国の為にも王妃となる姫君を娶らなければならない!
その私が、中年の男の騎士と結ばれるワケが無いだろう!」
あぁ……兄上の中の前世からの誓いって、そんなもんなんだ。
姫君でなくとも女性であれば、妻には出来なくとも情人にでもするつもりだったのか……。
ロマンチックどころか、随分と俗っぽい話になったもんだ。
「幸いオズワルドは、独身だし特定の誰かと付き合っている様子も無い。
このまま誰とも縁を結ばずにいてくれたら…。
来世では絶対に…。」
「兄上は、今生での彼女を見限ったのですよね。
なのに、オズワルドの人生を呪うのですか?
オズワルドだって、今から恋をするかも知れないじゃないですか。」
「駄目だ!彼女が
俺以外の誰かと結ばれるなんて許さない!」
兄上の独占欲の気持ち悪さを知った。
いや自分を俺と呼んだ、これは兄上なのだろうか。
「あの日、兄上はオズワルドが中年の男の騎士であるという事を理由に見限ったんだ。
そんな薄っぺらい、前世の誓いなんて僕がブッ壊すよ。」
▼
▼
▼
仰向けになった俺の両腕をベッドに縫い付ける様にして、俺の腰の上に乗ったエルンスト王太子殿下が俺を見下ろす。
「エルンスト殿下……それは無理です。
第一、俺はアシュリーではない。」
俺…と言うよりアシュリーを、自分のモノにすると言った殿下に対し、色んな意味で俺は困った顔をした。
「無理なもんか!アシュリーだって、俺と情を交わせば思い出すハズだ!
俺を愛していた事を!二人の為に今生がある事を!」
「いや殿下……思い出すどーこー以前に……
まず俺と殿下が情を交わす事は出来ません。
心や覚悟の問題ではありません。
何てゆーか……物理的に無理?」
エルンスト殿下に腕をベッドに押さえ込まれていた俺は、腕を掴まれたまま押し返す様に上半身を起こした。
そして力任せに腕を伸ばしてエルンスト殿下の後ろ襟をむんずと掴む。
そのまま掴んだ襟を猫の子を運ぶ様に引っ張り、グルンと半回転させベッドの外側に落とした。
襟は掴んだまま、エルンスト殿下の身体が床に叩きつけられないようタイミングを見て引き上げ、ベッド脇の床にフワリと尻がつくように下ろす。
エルンスト殿下は何が起こったか、すぐには理解出来なかったようで、床にペタンと尻をつけたまま呆然としていた。
「何度も言いますが俺はアシュリーではありません。
俺は生まれも育ちも全てがオズワルドで、アシュリーとは全くの別人です。
強いて言うなら、俺の中にアシュリーとしての記憶が少しありますが……
今の俺からすれば、その記憶だって、アシュリーという少女が主人公の物語を読んで、その主人公に少し共感した程度のモンなんです。」
俺ははぁーと溜め息をつき、頭を掻いた。
もし俺が、前世と同じくか弱い少女であったならば、そのまま奪われてしまっていたのだろうか。
とんでもない事だな。
━━アシュリーはお前を嫌ってたぞ?とでも言ってやった方が早いのかも知れんが……━━
「エルンスト王太子殿下……貴方も今は王太子殿下だ。
前世の様に、好き勝手に生きていた若者とは違う。
その記憶は封印し、本来のエルンスト王太子にお戻りになるべきです。
貴方は、生まれも育ちもエルンスト王太子殿下なのです。
次期国王となるべく生を受けたお方だ。
転生神様は、俺と貴方を巡り合わせる為に貴方を第一王子として生まれさせたのではない。」
エルンスト殿下が、フラフラと立ち上がった。
頷くでも返事をするでもなくドアに向かい、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「王子として……か。」
本当に、願った来世を叶えてくれる転生神様とやらがいるのかは分からないが
あの青年は願った通りに王子に
アシュリーは健康で頑丈な肉体を持った人間に生まれ変わった。
あとは前世の縁などは関係なく、与えられた今の人生を全うすべきなのだろう。
あの青年とアシュリーの縁は、あそこで終わっている。
これからはエルンスト殿下として、オズワルドとして、前世とは全く違う縁をそれぞれが繋いでいく。
「前世で思い描いた王子様との恋は出来たが、この先、この恋が幸せなまま続くかまでは分かんねーしな。」
一国の王子と、一介の騎士が愛し合う。
こんな先の見えないツラい恋を選んだのはアシュリーではない。
この俺自身なのだから。
その中で習った数ある宗教の教えの中に
人の魂が人の世に在るのは一度きりで、今生が終われば魂は天界か地界へ行くという教えと
人の魂は今生が終われば、やがて新しい肉体を得て、前の生とは全く違う次の生を与えられるといった教えがあった。
どちらが本当かなんて調べる術も無かったし、真実は別にあり、どちらも違うかも知れない。
どうであれ、一度は死を経験した者でなければ分からない話だ。
だから、そんな話に興味を持つ事もなかったが……
あれは……3年程前の事だろうか。
突然、兄上が「自分には前世の記憶がある」と言い出した。
何をきっかけに前世とやらを思い出したのかは分からないらしいが、自分の中に自分以外の者の存在を感じる様になったとの事。
その前世の記憶とやらも、いきなり全部を思い出したワケではないようだった。
日々、氷が溶けていくように、ジワジワとゆっくり記憶が流れ落ちる感覚だと言った。
それがいつか、兄上の記憶を塗り潰してしまうのじゃないだろうか。
「それは兄上が、兄上でなくなるって事?」
幼かった僕は、大好きな兄が別の誰かに変わってしまうのではないかと恐ろしかった。
「いや、僕は僕のままだよ。
別人だった時の記憶も在るってだけで。」
心配しなくて良いからと、兄上が言った。
これは僕と兄上と二人だけの秘密。
大人に話して、王太子の兄上の気が触れたのではなんて事になったら大変な事になる。
兄上が話してくれる前世の話を、僕は半信半疑で聞いていたのだけれど。
兄上の話す何処か遠い国の庶民の暮らしは聞いていて楽しくて、これが兄上の創作だとしても全然構わなかった。
「リヒャルト、僕ね……前世で好きな子が居たみたいなんだ。
僕が僕に生まれ変わったのは、その子を探して結ばれる為だと思ってる。」
「そうなんですね。」
兄上は意外と、甘美な空想家なんだなと思った。
ロマンチック……とでも言うのか。
前世というモノが本当にあったとして、その前世で結ばれなかったから次の世で結ばれる。
兄上の語る前世の自分と、今の兄上では立場が全然違うではないか。
相手も姫君にでも生まれ変わってない限りは、現実的に考えて、かなり無理がある話だと思う。
「なぜ、その方とは結ばれなかったのですか。」
「彼女は、病を患っていて……
僕に伝染す事を恐れて、1人で森の中に住む様になったんだ。」
それは……僕に、ではなくて村人全員に対してでは?
兄上の妄想は、思った以上に独りよがりな設定が見え隠れする様になった。
まぁ、そうは言っていても王太子の兄上は僕より早々に婚約者を選ぶ必要がある。
婚約者候補の姫君の中から、気に入った姫君がおられたなら、それが前世で結ばれる筈だった少女の生まれ変わりだという事になるのだろう。
ロマンチックな兄上の空想に付き合うのも面白いので、僕は兄上の言葉を否定する事は無かった。
兄上が前世の記憶を思い出し始めてから1年近く経った頃だった。
「げ!!!う、嘘だ……」
兄上が僕の部屋に来るなり、床に膝をついて崩れた。
「兄上?どうしました?」
「……私の……前世で来世を約束した、彼女を見付けた…!」
この日は、兄上が正式に立太子なさる日の前日であり、今までは第二王子である僕と同じ師について剣技や授業を受けていたのが、それが最期となる日だった。
正式に王太子となった兄上には、更に上のランクの教育係とやらがつくそうだ。
その日は、姫君達との顔合わせも特に無かったはず。
まさか、王城に勤めている貴族の女性か、侍女の中にお気に入りでも見付けたのだろうか。
「それは良かったですね。
相手の方は、兄上が前世で「彼」だった事に気付いたのですか?」
どんな運命的な、ロマンチックな出会いを描いたのだろう。
兄上の創作の結末が知りたくて兄上に尋ねてみたが、兄上の顔は赤らむどころか青ざめていき、しまいには両手で顔を覆ってしまった。
「気付いてない!!気付かなくてもいい!!
ああ……なぜだ!なぜ彼女は……!!
こんなにも側に居て……ずっと共に居て……!」
「………兄上の運命の人は……
ずっと側に居た誰かなのですか?」
となると遠方の姫君ではなく、僕も知っている城の誰かなのか…。
やはり、侍女の誰かなのだろうか。
「確かに彼女は私より早く亡くなった!
だからと言って…だからと言って!!
転生神よ!!彼女の今生が………!
オズワルドってのは無いだろう!!」
衝撃だった。
今までの兄上の創作じみた前世の話は、兄上の都合の良い設定や解釈が垣間見えており、だからこそ兄上の話す前世の話とやらは全て空想ではないかと思っていた。
明日からは王太子としての厳しい教育が始まる兄上の、今日がロマンチックな空想のクライマックスだと思っていた。
そのクライマックスがソレ!?そんなオチ!?
「ぶふっ!」
笑いが込み上げるのを堪らえた。
オズワルドによる剣技の授業が今日で最後だったために礼を言いに行き
「失礼とは思いますが、幼い頃から見てきた生徒の最後ですから」
と頭を撫でられた瞬間、兄上はオズワルドが彼女だと気付いたらしい。
オズワルドの方に前世の記憶らしきものはなく、そのまま別れたとの事。
僕は、笑い話だと思ってその話を聞いていたけど、兄上の思い通りではない前世の結果を聞いて、やっと兄上の空想話が真実味を帯びて来たと感じた。
では、オズワルドも兄上のように前世を思い出したら…
兄上を好きになるのだろうか。
あのオズワルドが?うーん………
身体の大きな騎士のオジさんが、前世の記憶を思い出したからと言って、兄上を??王太子を??
「私よ!思い出したの!!
やっと、あなたと結ばれる事が出来るわ!」
………果たして、そうなるのだろうか。
「兄上は……
オズワルドと今生でこそ、結ばれたいとお思いですか?」
「なっ…!そんな事、出来るワケ無いだろう!
私は王太子で、次期の国王だ!
国の為にも王妃となる姫君を娶らなければならない!
その私が、中年の男の騎士と結ばれるワケが無いだろう!」
あぁ……兄上の中の前世からの誓いって、そんなもんなんだ。
姫君でなくとも女性であれば、妻には出来なくとも情人にでもするつもりだったのか……。
ロマンチックどころか、随分と俗っぽい話になったもんだ。
「幸いオズワルドは、独身だし特定の誰かと付き合っている様子も無い。
このまま誰とも縁を結ばずにいてくれたら…。
来世では絶対に…。」
「兄上は、今生での彼女を見限ったのですよね。
なのに、オズワルドの人生を呪うのですか?
オズワルドだって、今から恋をするかも知れないじゃないですか。」
「駄目だ!彼女が
俺以外の誰かと結ばれるなんて許さない!」
兄上の独占欲の気持ち悪さを知った。
いや自分を俺と呼んだ、これは兄上なのだろうか。
「あの日、兄上はオズワルドが中年の男の騎士であるという事を理由に見限ったんだ。
そんな薄っぺらい、前世の誓いなんて僕がブッ壊すよ。」
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仰向けになった俺の両腕をベッドに縫い付ける様にして、俺の腰の上に乗ったエルンスト王太子殿下が俺を見下ろす。
「エルンスト殿下……それは無理です。
第一、俺はアシュリーではない。」
俺…と言うよりアシュリーを、自分のモノにすると言った殿下に対し、色んな意味で俺は困った顔をした。
「無理なもんか!アシュリーだって、俺と情を交わせば思い出すハズだ!
俺を愛していた事を!二人の為に今生がある事を!」
「いや殿下……思い出すどーこー以前に……
まず俺と殿下が情を交わす事は出来ません。
心や覚悟の問題ではありません。
何てゆーか……物理的に無理?」
エルンスト殿下に腕をベッドに押さえ込まれていた俺は、腕を掴まれたまま押し返す様に上半身を起こした。
そして力任せに腕を伸ばしてエルンスト殿下の後ろ襟をむんずと掴む。
そのまま掴んだ襟を猫の子を運ぶ様に引っ張り、グルンと半回転させベッドの外側に落とした。
襟は掴んだまま、エルンスト殿下の身体が床に叩きつけられないようタイミングを見て引き上げ、ベッド脇の床にフワリと尻がつくように下ろす。
エルンスト殿下は何が起こったか、すぐには理解出来なかったようで、床にペタンと尻をつけたまま呆然としていた。
「何度も言いますが俺はアシュリーではありません。
俺は生まれも育ちも全てがオズワルドで、アシュリーとは全くの別人です。
強いて言うなら、俺の中にアシュリーとしての記憶が少しありますが……
今の俺からすれば、その記憶だって、アシュリーという少女が主人公の物語を読んで、その主人公に少し共感した程度のモンなんです。」
俺ははぁーと溜め息をつき、頭を掻いた。
もし俺が、前世と同じくか弱い少女であったならば、そのまま奪われてしまっていたのだろうか。
とんでもない事だな。
━━アシュリーはお前を嫌ってたぞ?とでも言ってやった方が早いのかも知れんが……━━
「エルンスト王太子殿下……貴方も今は王太子殿下だ。
前世の様に、好き勝手に生きていた若者とは違う。
その記憶は封印し、本来のエルンスト王太子にお戻りになるべきです。
貴方は、生まれも育ちもエルンスト王太子殿下なのです。
次期国王となるべく生を受けたお方だ。
転生神様は、俺と貴方を巡り合わせる為に貴方を第一王子として生まれさせたのではない。」
エルンスト殿下が、フラフラと立ち上がった。
頷くでも返事をするでもなくドアに向かい、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「王子として……か。」
本当に、願った来世を叶えてくれる転生神様とやらがいるのかは分からないが
あの青年は願った通りに王子に
アシュリーは健康で頑丈な肉体を持った人間に生まれ変わった。
あとは前世の縁などは関係なく、与えられた今の人生を全うすべきなのだろう。
あの青年とアシュリーの縁は、あそこで終わっている。
これからはエルンスト殿下として、オズワルドとして、前世とは全く違う縁をそれぞれが繋いでいく。
「前世で思い描いた王子様との恋は出来たが、この先、この恋が幸せなまま続くかまでは分かんねーしな。」
一国の王子と、一介の騎士が愛し合う。
こんな先の見えないツラい恋を選んだのはアシュリーではない。
この俺自身なのだから。
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